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~灸の話 直接灸~

お灸を据える


本来はまさに灸師がお灸をしてあげること(施灸)を指す言葉ですが、熱さを我慢することが転じて、きつく注意したり罰を加えたりしてこらしめる、という意味もあります。


私のような鍼灸師が、本来の意味で「では、これからお灸を据えましょう」と言えば、当然施灸するのが当然なのですが、現在ではとても悪いことをした人をこらしめるような意味に聞こえてしまうでしょう。


それだけ、今ではお灸が世間に馴染みのないものになっている証拠です。

 

現代の日本の灸事情は昔とは異なっており、皮膚の上に艾(もぐさ)を直接置いて燃やす、直接灸は数が減っています。皮膚と艾の間に空間がある温筒灸や棒灸、もしくは間に何か別の物が介在する隔物灸が主流になっています。
あじさい鍼灸マッサージ治療院でも直接灸を行うことはほとんど無いのですが、これから秋冬にかけてお灸を使う機会が増えることでしょうから、紹介していきたいと思います。

基礎知識としてお灸とは、キク科植物の蓬(よもぎ)から生成された艾を燃やして得られる温熱刺激を使った療法です。
効能や艾の成分など細かいことを紹介するとキリがないので施灸方法(灸術)の区別を説明していきます。なお、最近では艾以外の熱源を使用した温熱刺激でも灸と称することがあり、現代風お灸といえるようなものも多数生まれています。

 

教科書による灸術の分類では大きく有痕灸と無痕灸に分けられ、有痕灸には透熱灸、焦灼灸、打膿灸があり、無痕灸には知熱灸、隔物灸、温灸などがあります。
有痕灸と無痕灸の分類は字のごとく、皮膚に瘢痕を残すか残さないかの違いです。言い換えれば火傷の跡を残すか残さないかということ。現在ではお灸で火傷を起こさせることがほぼできない状況なので、有痕灸・無痕灸の分類方法は現実的ではありません。かつて農業が生業の主流だった時代、収穫期に体調を崩すと死活問題でした。お灸で敢えて火傷を作ることで免疫力を高める方法が取られていました。今の時代、肌に跡を残すことは、女性はもちろんのこと男性も避ける傾向が強いですから、お灸をする場合に皮膚に跡を残さないことが前提になります。

 

有痕灸(皮膚に瘢痕を残す)→透熱灸、焦灼灸、打膿灸:今ではまずしない
無痕灸(皮膚に瘢痕を残さない)→知熱灸、隔物灸、温灸、など:これが当然となっている

 

従って今の臨床事情から言えば、皮膚の上に艾を直接乗せて燃やす直接灸と、それ以外に分類した方が分かりやすいでしょう。

直接灸(皮膚の上に直接艾を乗せる)→透熱灸、焦灼灸、打膿灸、知熱灸
直接灸以外→隔物灸、温灸、棒灸、温筒灸、アロマ灸、貼るお灸など

 

本題は直接灸についてです。

 

直接灸は艾を手で捻って艾烓(艾柱)という円錐状の形にして、皮膚の上の経穴(ツボ)に直接置きます。そこに火のついた線香で着火して燃やします。燃やし切れば当然熱さを感じます。燃え切る前に艾烓(艾柱)を取り除いたり、周囲の皮膚を指で押さえて熱を和らげたりする手法もあります。

 

一番のポイントは燃える艾、線香と患者さんが火傷をしやすいことにあります。火傷を敢えて起こす場合もあるのですが、不慮の火傷はあってはなりません。細心の注意が必要です。
我々の世界では“つる”と表現しますが、線香で着火するさいに灰に艾が引っかかってしまうことが起きます。思わぬ火傷や衣服を焦がす原因となるので注意します。

 

次に煙がとても出ます。線香も艾も燃えるときに煙が出るので、灸師は目が染みて匂いが身体についてしまいます。患者さんも同様で、煙たい、匂いが髪や体に着くことを嫌がる方も少なくありません。

 

そして艾を捻って艾烓(艾柱)を作ることに技術が要ります。鍼灸専門学校に入学して最初の難関は、経穴を覚えることと艾捻りだと思います。艾を捻って上手く艾烓(艾柱)を作れるようになるのは結構大変です。正直、私も得意ではありません。汚いものだと綺麗に皮膚に立たないので線香が皮膚にくっつきそうになります。

 

直接灸はとても注意が必要で技術が必要になります。煙も沢山出るので治療院の備品や部屋に匂いがついて大変なのです。そのため、艾を捻って線香で火をつける直接灸をする鍼灸師は少なくなっています。むしろ、鍼灸師と言いながらほとんど鍼しかしない人もいるでしょう。私も鍼灸コースでは9割の比重で鍼がメインです。

 

そんな直接灸、使う機会があるのか?何故今でも専門学校で教えるのか?という疑問が出るかもしれません。
答えは、直接灸をした方が好ましい症例があるからです。そして技術を継承していって廃れさせないようする意味もあるでしょう。


直接灸がとても有効な例をいくつか挙げます。

 

逆子:足の小指の先、「至陰」という経穴に直接灸をすることは、ほぼ常識というくらい有名な逆子に使うお灸です。
魚の目:魚の目に直接、艾を置いて熱さを感じるまで燃やし切ることを繰り返します。
円形脱毛症:髪が抜けた部分に直接灸をして熱さを感じるくらい行います。
不眠症:足の裏にある「失眠」という経穴に熱さを感じるまで繰り返しお灸を据えます。これも常識と言えるくらい有名なやり方です。


以上がよく使う直接灸適応症状と言えます。
もちろん鍼灸師の好み、技術、状況によって変わりますが、温筒灸や棒灸、隔物灸とは違う、強い熱刺激が出せることが特長です。また普通は燃え切るときの一瞬だけが熱いので、瞬間での刺激が身体に浸透する感覚が他にないものとなります。

 

頻度はかなり少ないですが、これは直接灸がいいと判断した場合は、了承を得たうえで患者さんにしています。

 

甲野 功