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~葛藤~

西洋医学は疾患(病気、外傷)をみる、東洋医学は人をみる。そのように対比させて言われることがあります。


私はどちらかと言えば東洋医学寄りの立場です(鍼灸師であり、東洋医学を活用していますし)。時に人をみることで悩むことが臨床経験上あるのですが、毎年この時期、違う場面違う意味で似たような葛藤をすることがあります。人をみる、ダンスをみる、ということで。

 

先週末のALL東京理科大学舞踏研究部夏合宿にて、今年もシャドウコンペティション(通称:シャドコン)の審査委員長をさせていただきました。

毎年、お盆の時期に長野県スキー場にある合宿場に訪れる理由の一つが、シャドコンの審査です。


シャドコンは1年生と2年生の、身内での個人競技会。本来の学連における競技は他大学の選手を相手に、男女ペアで踊り、競うものですが、夏合宿では個人での能力向上を図るために、シャドウ(影の相手と踊る=一人で相手がいると仮定した踊り)で勝負を行います。
20年以上前に、1年生部員だった私も経験しました。その当時は1年生のみの参加で、2年生はシャドウ発表会という形式でした。
現在は、まず1年生だけで競技を行い、勝ち残った上位何割かがシニア上がりとして(便宜上1年生をジュニア、2年生をシニアと呼んでいる)2年生と同じ立場で競技します。言うなれば2年生はシード選手にあたります。

 

1年生は5月の理工戦という大会で競技会デビューを果たしている部員がほとんどですが、ダンスを始めて間もない状態で、何が何だかよくわかっていないまま競技会に出たという感じでしょう。これがシャドコンでは組む相手のせいにも、他大学の選手が強かったからという言い訳も、通用しないシビアな戦い。本当の意味で競技ダンサーになるための儀式と言える経験となります。
強化練習会からずっと厳しい練習を経て、同期同士の戦いに挑むわけです。プレッシャーはとても大きい。そして同期の1年生の中から必ず誰かが優勝するという現実を体験します。

 

毎年のことですが、実際に成績が出ると呆然と立ち尽くす部員が多々見受けられます。大会前はもしかしたらあの子に負けちゃうかも、と内心びくびくしていますが、どこかで、これだけ練習したしいけるだろう、とタカをくくっている。それが自分は落とされて、同期が上に勝ち上がり、優勝者が決まる。


このことが受け止めることができない人間が結構います。


リーダー(社交ダンス界では男性を指す)は呆然とフロアー横で座っている、パートナー(同じく女性を指す)では泣き崩れてしまう、このような光景が、毎年審査をしながら目に入ってくるのです。

 

正直、私の頃は合宿最後のお祭りイベントという意味合いで、雰囲気も緩かったです。本番はTシャツの練習着でよく、発表会程度だったと思います。
それから時代が流れ、服装は正式な競技会と同様、髪は綺麗にセット、パートナーはフルメイクで行う。審査は卒部したOB、OGが厳正に行う。競技志向がどんどん上がっていき、シビアなものに変わっていきました。今では、1年生の夏現在までの実力を客観的に審査し、強制的に序列を作る。そういったものになりました。

 

毎年のことながら、苦しい練習を乗り越えた1年生部員で、誰かが最初に落とされて、誰かが上に進む。
私自分の判断(審査)でそれが決まる一因になることに、心苦しい気持ちがあります。前日の深夜まで練習をみていた子も、相対的に劣ると思えばチェックを入れません(予選は複数名の審査員が良いと思う選手にチェックを入れて、チェック数が多い人が勝ちあがるシステム)。教える側と審査する側が同じ人間というのも辛いもの。リーダー、パートナー各1人だけが優勝し歓喜に浸り、残りは全員敗者となるのです。

 

2年生は、1年生以上にシビアな競技会となります。


もしも1年生に負けたらどうしよう、と不安になります。

才能がある1年生が2年生よりも上に行くことは珍しくありません。そうなると、抜かされた2年生にとっては1年あまりの努力が否定されるようなものです。間違いなく、2年生参加、シニア上がり、の制度が出来てからシャドコンの雰囲気が変わったと思います。


また裏専攻の選手に負ける怖さもあります。
学連では2年生になるときにスタンダード(モダン)かラテンかのどちらか一方を選択し、集中して練習するシステムです。競技種目も片方しか基本的に出ません。それがシャドコンでは両方の種目を踊るため、専門ではない裏種目もしなければなりません。強豪選手はどちらも踊れますから、同期の裏専攻選手に自分の専門分野で負ける可能性があります。負けた場合は屈辱的な気持ちに。専攻分けが終わった2年生も参加するシステムが生んだ結果です。

 

私は2年生を1年生の頃からしてきた努力も知っていますし、成長も見ています。審査する立場でだけならばフロアーのダンスを見て客観的に評価するだけですが、先輩として選手個人の状況を知っているので、審査するのが本当に辛くなります。頑張っている、努力をしているのは知っているが、どうしても落とさないといけない。評価基準に嘘はつけない。
葛藤しながらチェックを入れるのです。

 

ここまでは毎年のこと。競技の世界であるから仕方のないこととして割り切って行います。ところが、去年からまた状況が変わってきました。

 

パートナーが大量に増えて、レベルが急上昇しました。


ALL東京理科大学舞踏研究部は伝統的にリーダーが余る大学で、パートナー部員が足りないことが常でした。リーダーは大学内で組むために、少ないパートナーを争い切磋琢磨して上達してきました。反対にパートナーは優遇されて、実力が伴わなくとも、部にいてくれるだけで助かる、という状況になります。もちろん努力して実力を磨くパートナーも多数いますが、相対的に人数が少ないので、待遇が良いことに慣れて、平均的に見れば、他の強豪校に比べるとそこまで強くないです。

 

それが去年からパートナーが入部する数が大幅に増えました。しかも素質のある部員が、退部せず。優秀なパートナーが多数在籍するようになりました。理由としては、去年から新しく東京音楽大学が共同加盟校に加わり、芸術系の部員が入ってきたこと。テレビ番組の影響か社交ダンスの知名度が上がってきてやる気のある部員が増えたこと。


数年前には考えられないくらい、パートナー部員の人数と質になりました。

 

バレエ、新体操、フラメンコと大学入学以前から社交ダンスに近い運動をしてきた部員が多数います。その子たちは、大学で初めて運動部に入った子とは基礎体力・基礎能力が違います。ダンスを始めて数カ月とは思えない素晴らしいパフォーマンスをする1年生パートナーが多数いました。例年、1名いるかいないかという高い素質を持ったスーパー1年生が今年は2名おり、2年生を抑えて決勝まで進みました。他にも例年ならば1年生(ジュニア)の部で優勝できる実力を持った選手が2,3名います。
少し時代が違ったならば優勝していたであろう上手な子。ここで落としては勿体ないと内心悩みながら審査をしました。

 

2年生は2年生で、パートナーが大勢在籍し、部内で切磋琢磨してきましたから、とてもレベルが高い。入部当時から知っていますし、去年のシャドコンも審査しているから、どれだけ実力を上げてきたたかを知っています。それでも素晴らしい素質を持った1年生と比べると、チェックを入れられませんでした。


これがリーダーですと、実力がない奴は落ちるしかない、と割り切れます。それは同じリーダー(男性)です。そして社交ダンスは全体的にリーダーが少なく、同大学内で組む相手がいなくとも他大学で余ったパートナーとほぼ確実に組むことができます。リーダーの方が優遇されている世界。だからこそリーダーには情け容赦なく審査できます。

 

努力や苦労を知っていてもフロアー上のパフォーマンスを公平に審査すればどちらを残すのかは結論を出さないといけません。ダンスだけを見ていればよいのですが、その選手の背景を知っている分苦しかったです。今年ほどパートナーのエントリー数が多いシャドコンはありませんでした。そしてこれほど高いレベルであったものも。

 

予選落ちして泣き崩れる、呆然とする。優勝が分かり歓喜の涙を流す。そんな部員を目の当たりにして、残酷だなと思いながら審査を終えました。今年は本当に葛藤して審査した年でした。後輩たちには、ただただこの夏の経験を9月からの大会に活かしてもらいたいと切に願います。

 

甲野 功