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~鍼灸業界のポジショニングとケイパビリティ~

マンガ経営戦略全史 三谷宏治著
マンガ経営戦略全史(三谷宏治著) 経営戦略の歴史を知ることで多くの発見があります

 

マンガ経営戦略全史(三谷宏治著)という本を読むと経営戦略がどのような発展を経てきたのか大まかに分かります。

経営戦略の歴史において、ポジショニング派ケイパビリティ派の戦いがあったと言います。

 

Positioning:ポジショニング
経営戦略では、『狙う顧客の頭の中に自社製品について独自のポジションを築き、ユニークな差別化イメージを植えつけるための活動』と説明されます。

 

Capability:ケイパビリティ
対してケイパビリティは、『企業としての能力や、その組織が持つ独特の強みを指す』と言われます。

 

この2つの項目を重視した経営戦略を担う派閥があり、長きに渡り論争をしていたと経営戦略全史では説明しています。


経営戦略においてポジショニングを重要視する、ポジショニング派が80年代までは圧倒的で、それ以降は、ケイパビリティを重要視するケイパビリティ派が優勢となったと。

 

ポジショニング派は外部環境が大事とします。企業そのものよりも置かれている環境に注目。儲かる立場を占めれば勝てる。いうなれば「登れる山を目指して登ろう」という思考。


ケイパビリティ派は内部環境こそが大事。自社の強みがあるところで戦えば勝てる。「登坂力を上げて、それに適した山を登ろう」という主張。

 

このような対立する考え方で争いがあり、当初はポジショニング派が圧倒し、その後ケイパビリティ派が優勢になった。
ではどちらが正しいのでしょうか?
その答えは『どちらも大切で場合による』というものでした。


まあ、落ち着いて考えると当たり前ですよね。自社の実力が無ければいけませんし、勝ち目の無い市場で勝負してもいけません。臨機応変に成長過程で変えていくことが妥当であるというわけです。ポジショニング派とケイパビリティ派を統合して考えないといけないという。

 

この話を知ったときに、鍼灸業界に置き換えると色々なことが見えてきました。

 

現在、鍼灸とそれ以外の何かを掛け合わせていく考えがあります。鍼灸×○○という形です。
今の流行りは鍼灸×美容、鍼灸×スポーツ、といったところでしょう。美容鍼はヒット企画と言えるもので急速に広がりました。スポーツ鍼灸もドーピング検査が厳しいスポーツ界に薬物を使用しないケアとして注目を浴びています。東京オリンピックを控え、更に伸びるものと思われます。

 

このような鍼灸に何かを掛け合わせるやり方を批判する声もあります。
鍼灸技術が乏しいから苦肉の策で行っているのだ。鍼灸に自信が無いからそうなるのだ。などと。


このやり取りをみたときに、ポジショニング派とケイパビリティ派の論争のようだと思ったのです。

 

前者の鍼灸×○○というのはポジショニング派の立ち位置だと考えています
鍼灸という技術を最も活かせる環境を探しそこで勝負をする。特化型鍼灸院はこのタイプでしょうし、他人が真似できないニッチな分野ならば特に生き残りやすいでしょう。

後者の鍼灸そのもので勝負しろというのはケイパビリティ派ではないでしょうか。鍼灸師の実力があれば勝手に患者さんがついて繁盛するという。

 

どちらのやり方・考え方が正しいのか?その答えは経営戦略全史同様、『どちらも必要で臨機応変に考えるべき』だと思うわけです。

 

ここでユニバーサルスタジオジャパンをV字回復させた立役者、森岡毅氏は著書の中で、日本人は(特に年配者は)ケイパビリティ派を好む、といった意図する内容を書いています(ニュアンスではっきりと書いているわけではありません)。

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 森岡毅著
森岡毅氏はマーケティング、経営戦略の重要性を訴える


経営戦略がガタガタなのに経営戦術が優れているので成功を収めてしまうことの弊害。企業の方針を決める経営戦略部隊がいまいちでも、現場の能力がずば抜けて高いため(戦術に長けている)何とかなってきた。具体的にはバルチック艦隊を破った東郷平八郎の例を出していました。
これは経営ではなく戦争の戦略の話です。

 

現実の企業戦争においても日本は戦略そっちのけで大勝利を収めたケースがあります。経営戦略全史で紹介しています。


キャノンは、ゼロックスの600件に及ぶ特許を乗り越えて普通紙複写機を発売。20年は崩せないと言われたゼロックスのビジネスモデルを技術力で正面突破したのでした


またホンダは、1959年にアメリカ市場にバイクで攻め入ります。そのとき「5年以内に排気ガスの有害成分を10分の1にせよ」というマスキー法がアメリカで可決されるのですが、当時不可能ともいわれた難題を技術力でクリアーし製品化に成功。1964年にはアメリカで売れるバイクの2台に1台はホンダのものとなりました


この2つの日本企業の躍進を、戦略よりも気合と根性という無鉄砲な行為と解説しています。
実際にアメリカの経営学者はあまりに無謀な挑戦と成功に頭を抱えてしまったそうで、まさにカミカゼアタックだったとか。

 

このような成功体験を知っている世代は能力重視のケイパビリティ派が好きでしょう。そうでなくとも日本人は卓越した技術力で逆境を乗り越える話が好きです。企業ドラマでも優れた商品力で大企業に勝つ町工場の話があります。これが大企業は相手にしないニッチな分野で成功する話では盛り上がらないことでしょう。

 

対して現実社会でも、高機能に進んだ携帯電話分野がスマートフォンの登場で時代遅れ、ガラパゴス化と称され、トップ争いから消えたことは事実です。先に挙げた森岡毅氏もかつてのユニバーサルスタジオジャパンでは、技術力が素晴らしいのに注力する方向が間違っていて不振に陥っていたと語っています。

 

 

鍼灸に話を戻しましょう。


実力があれば成功する、成功しないのは努力が足りないだけ、とするのは危険です

状況が時代とともに変わってきています。20年以上前は規制があり鍼灸養成学校は限定されていました。鍼灸師になること自体が狭き門。人数も少なかったです。更にインターネットが無い時代であれば、おらが町で一番の鍼灸院、と謳ってもまかり通ったわけです。比較する競合も少ないうえに情報がありません。鍼灸師の人数が大幅に増えて、口コミサイトやSNSで評判が全国レベルで広がる現在と違うのです。

そして前提として、鍼灸一本で生き残れた人だけが、実力があれば何とかなるというのであり、人知れず廃業した鍼灸師はこのような声を挙げません。

 

もう一つ言えることは、専門学校はケイパビリティしか教えないということ。

当たり前ですし、仕方がないことですが、鍼灸の技術は教えてくれますが、それをどのように(どの分野、どの立ち位置、アピールの仕方といった)活かせばいいのかは原則教えてくれません。指導要領にありませんので。授業時間外の特別講座や外部講師を呼んだセミナーなどで伝えることはあるでしょうが、鍼灸技術の実力をつけることだけ。


今は「ただ鍼灸できます」という人はたくさんいますから、「鍼灸を用いて何をするのか」まで考えていかないといけません。そこを学生時代に詰めていないと卒業後に苦労すると思うのです。鍼灸免許を取っても業界を去る人は少なくありません。

 

ただし最低限の実力は絶対に必要だと念を押しておきます


ケイパビリティ派もポジショニング派もどちらも大事

しっかりとした鍼灸技術がなければ話にならないことは当然のこと。経営戦略であったようにどちらも臨機応変にしなければいけません。実力さえあれば勝手に食えるようになる、というのは甘い話です。ライバルがいない場所で上手く立ち回ったとしても実力がなければ患者さんは増えません。
どちらも考えるべきです。

 

私のことを例に挙げます。


私は鍼灸×社交ダンスというポジショニングを取っています。

大学から続けている社交ダンス(競技ダンス)の分野で自分を活かそうと、鍼灸専門学校を卒業した後は社交ダンスが盛んな土地、東京都北区十条を職場にすることにしました。世間一般には知られていませんが十条は社交ダンス選手、愛好家がたくさんいる場所。そこで働くことで有利になると踏んだのです。

目論見通り、約4年間の勤務で多くの社交ダンス関係者と出会い成長できました。それなり職場に売上的な貢献もできたと思っています。

 

これだけ見るとポジショニング派の思考なのですが、そもそも社交ダンスというのは私個人の強みであるのです。つまり個人のケイパビリティに入ります。鍼灸専門学校に入る前から社交ダンサーのためにできることを勉強、研究してきたわけで、自己の強みを強化してきました。これはケイパビリティ派のやり方。
つまりケイパビリティ派→ポジショニング派という順番。

 

もっと言えば十条という場所に鍼灸師でいることで、より社交ダンス関係者への鍼灸技術、ノウハウが蓄積されて個人能力が上がっていきました。これはポジショニング派→ケイパビリティ派という流れになります。

相互関係があるのです

 

鍼灸師としての実力を磨くこと(内部環境を向上させる)と、

活躍できる場所を探す・創り出すこと(外部環境を考慮する)の

どちらも重要であり、片方だけやっていれば生き残れるという時代ではない。

特に前者は鍼灸養成機関(専門学校など)が最低限のレベルにまでしてくれるので、個人的には、後者をしっかり見据えた方が成功する確率が高くなる。

これが私の考えです。

 

甲野 功

 

 

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