開院時間
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住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
最近「血液クレンジング」が悪い意味で話題になっています。
「血液クレンジング」とは自分の血液を抜いて血液に何かしらの操作を加えて再び体の中に戻す医療方法です。当然クリニックで医師が行うものですが、医学的に効果が乏しいと別の医師からも反発を受けています。
この方法は自由診療といって保険証が効かない完全実費で行うもの。保険が適応される<標準治療>と呼ばれるものとは違います。
<標準治療>とはその名前の通り、医療において基本となり最適とされる治療方法のこと。これに対して、俗語ですが<トンデモ医療>と言われる標準治療とかけ離れた医学的根拠がはたしてあるのか疑わしいものがあります。
話題となっている「血液クレンジング」もこの<トンデモ医療>に入ると多くの医師は考えているようです。
<トンデモ医療>は特に悪性新生物(いわゆるガン)を対象にしたものでよくあります。抗がん剤や放射線治療、外科手術といった<標準治療>を否定している民間療法や時には医師が提唱するものにあるようです。
科学は否定によって発展してきたもの。特に医学は常識とされてきたものを全否定することでパラダイムシフトが起きてきました。
太古には病気は悪魔の仕業と言われ医師と呪術師は地続きでした。かつては産褥熱を予防するために消毒するということ気付かず血や体液がついたままの衣服で出産を行っていました。日本でも脚気の原因が何かで対立を起きて論争になり、結果的に陸軍と海軍が実験台になったことも。
医学の進歩に新しい観点と挑戦は大切ですが、しっかりと効果を検証しないで行うことはいけません。医学が積み重ねた歴史の上で最新・最善とされる<標準治療>を第一選択にすることが大切です。
さて、この<標準治療>にあたるものが鍼灸にはないでしょう。つまり<標準鍼灸>の概念が希薄だと思います。
学校協会が認定する鍼灸技術に関する水準はあるかもしれませんが、例えば『慢性腰痛(特定の原因がはっきりしないもの)にはこのように行います』といったものはありません。
脈を診る、お腹を診る。徒手検査や理学検査を行う。圧痛部分に鍼を刺す。手足に鍼を刺す。鍼は刺さないであてるだけ。太い鍼を深く刺す。細い鍼を浅く刺す。たくさんの本数の鍼を刺す。1本しか鍼を刺しません。
やり方は千差万別で<各鍼灸師による>ことは間違いありません。
私の母校では、四大疾患といって臨床上よくみられる4つの症状について検査方法から使う経穴(ツボ)まで一通りマニュアル化していました(15年くらい前のことなので今もしているかどうかは定かではありません)。そのことを知った他校の卒業生は「マニュアル化したら実力がつかないじゃん」と呆れていました。鍼灸師の世界では結構この反応が普通だったりします。
標準的な鍼灸がない。各々の鍼灸師が自ら信じる流派を行うという感じです。それは構わないのですが、標準的な鍼灸術はこれですよ、というものがありません。少なくとも臨床歴10年以上経過して鍼灸専門学校教員免許を持っている私はあるとは思えません。
不特定多数の鍼灸師に「一般的な鍼灸とは何ですか?」という質問に、みんなが統一した答えを持っているとは思えません。そもそも今の鍼灸専門学校では解剖学や生理学を基盤とした西洋医学(現代医学)と、古典に立脚した東洋医学(伝統医学)の両方を教えます。その時点で、経穴(ツボ)で考えるのか筋肉・神経・骨で考えるかが分かれます。何を基本として症状に取り組むのかは学校及び個人にゆだねられています。
私は柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師の免許も持っていますがそれらの資格免許では考えられません。
反対に<トンデモ鍼灸>というものも聞いたことがありません。それはダメだろ!という鍼灸というのはまずありません。
テレパシーのように相手に触れないで念を送って治療するだとか、患者に見立てた人形に鍼を当て治療するといったものも実際にあります。重ねますが、例えば相手に触れないで脱臼を整復するなど柔道整復師は考えることはありません。鍼灸師特有の幅広さでしょう。
鍼灸師は東洋医学を扱うため、気の概念があります。また鍼灸という道具を使うため、道具の発展が思考や適応症を広がせる遠因になっていると推測できます。
かつてWELQという医療系キュレーションサイトが閉鎖に追い込まれる騒動がありました。発端は「肩こりの原因は幽霊、除霊をすれば改善する」といった内容の記事が出て批判されたことです。このような<トンデモ医療>を掲載するサイトはどうなっているのか、という声が多数寄せらせて炎上しました。
鍼灸師の場合、「邪気によって病気になる」、という表現を使うことは珍しくありません。「気の流れを整えれば治ります」、という言い方もします。東洋医学には出てくる用語で東洋医学の概念にあります。医師からすれば鍼灸そのものが<トンデモ>に映るかもしれません。
また鍼灸師は大宝律令にも記載されるくらい昔からある職業です。しかし当時の鍼灸師からすれば美容やスポーツに鍼灸を活用するなど考えもつかないことでしょう。その当時からみれば今の鍼灸師は<トンデモ鍼灸>にみえてしまうかもしれません。
鍼に電気を通すとか、電気で温める火を使わないお灸なども江戸時代前半には考えられないことでしょう。その頃、杉山和一により(違うという説もありますが)管鍼法が開発されただけでも大きな変換点でした。杉山和一とは盲目の鍼灸師で検校まで上り詰めた実在した鍼灸師・按摩師です。当時からすればここまで器材が多様化するなど想像もできなかったはずです。
このように何でも受け入れる向きのある鍼灸。標準もなければトンデモもない。個人の力量にゆだねられている。あれも鍼灸、これも鍼灸。あれもできます、これも対応します。そういう状況だと思っています。
だから打ち出し方が難しく、「鍼灸の良さを知ってもらいたい!」とよく鍼灸師は言うのですが標準となるものは定まっていないため世間の人には届かないのではないかと思います。
例えば「指圧をします」と言われたら「親指で体を押されるのね」とだいたいは思うわけです。踵で押す指圧師は多分いません。そうだとしたら指圧をしますとは言わないでしょう。これが「鍼をします」と言っても、鍼を刺さないであてるだけとか棒みたいなもので押す・擦るだけ、という鍼師は少なからずいます。え?これも鍼というの?、という疑問を世間の人に持たれるのではないでしょうか。
鍼灸がいまいちメジャーにならない理由はこのようなところにあるのでないでしょうか。
開業して実感しますが鍼灸を広報するときに標準が無いから差別化しづらいという。
『一般的な鍼灸はこうですが、うちはここが違うんです!』と打ち出せない。ここが違うという差別化ポイントが通用しない。
そういったことを鍼灸師だと見えにくくなってしまう気がしています。
甲野 功
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