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~高校野球の脱臼整復を美談にしてはいけない~

YouTubeより
YouTubeより

 

 

現在、甲子園で高校野球が開催されております。

 

高校野球甲子園大会というのは特別な大会で、同じスポーツの全国大会でも国体とは別の、世間的な価値があると思います。単なる高校野球全国大会という意味合いを越えているでしょう。熱烈なファンがいてプロ野球は見ないけれど甲子園は見るという人もいるようです。

急激に新型コロナ感染が拡大し全国に緊急事態宣言発令が下されている状況でも甲子園を中止にしろという声はほとんど聞かれません。東京オリンピックはあれだけ開催を批判し中止を求めたメディアや世間の声も、甲子園に関しては別のよう。屋外での大規模音楽フェスティバルであるフジロックには批判の声が多数上がっているのに。

 

どこか甲子園は神聖なものという雰囲気を感じています。

 

さて甲子園の時期になると出回る動画があります。確か3年前に見て、今年もTwitter上に出てきました。それは2017年の高校野球高知大会準決勝戦。明徳義塾高校対中村高校の試合映像の一コマを切り取ったもの。

 

https://www.youtube.com/watch?v=GnYumS7wWl4

 

 

明徳義塾のランナーが盗塁をしてスライディングします。その際に左肩を脱臼したようです。それを明徳義塾の監督が選手の脱臼した左肩をその場で入れます。選手は激痛で悶絶していたのですがその後何事もなかったかのように試合に戻っていきます。チームメイトも笑っています。テレビ解説者も笑っています。脱臼した選手はもう大丈夫とばかりに左腕を挙げて笑顔を見せています。

 

この映像に神技だ、さすが監督だ、と称賛するコメントがあり甲子園球児の素晴らしさを称えるような紹介のされ方をしています。しかし反対の意見も多数あります。医療従事者、特に整形外科医からみると非常に危険で絶対に推奨してはいけないことです。この動画の監督の行為について問題視する記事がいくつか出ていますし、Twitter上でも注意喚起をしているものが散見されます。

 

私も柔道整復師の立場から絶対に高校球児の美談にしてはいけないと考えています

 

まず動画の状況から左肩関節の脱臼をしたのは間違いないでしょう。統計的に最も多い前方脱臼でしょうか。スライディングをして左手をついた状態で受傷しています。比較的軽い外力によって起きているため過去に脱臼した経験があり、いわゆる癖になっているものと推測されます。そして監督が脱臼した腕を戻す操作(専門用語で整復といいます)をして左肩を入れた。チームメイトの表情や監督の落ち着きからも日常茶飯事になっているのかと思われます。少なくとも監督は初めて出くわしたようには見えません。これまでの経験で脱臼した選手を見てきたことでしょう。

 

ハッキリ言って非常に危険なことです

 

まず整復方法。整形外科医を名乗るアカウントも指摘していましたが愛護的ではありません。愛護的というのは医療面の表現で、いかに他の損傷を起こさず患者の負担を減らすようにするか、といった意味合いです。下がった腕を強引に入れており選手の負担がとても大きいです。肩関節脱臼の整復方法は複数ありますが、まずあのようなやり方をすることはありません。誰か医療関係者に習ったとは到底考えられず素人の方法です。

また脱臼は整復してしまうと劇的に治ったようにみえるものですが実際にそうではありません。脱臼は関節が外れて外見からも異様な状態になっているのが元の場所に戻るので、見た目から回復したことが分かりやすい。そして痛みも劇的に消失し機能性も戻ります。ただし、それはそれまで激痛があり全く腕が動かせなかったからです。一見元に戻ったように見えても関節包、関節唇、上腕骨など傷ついていることが多く、整復後もきちんと処置しないと後々問題が起きます。

 

ここでは詳しくは触れませんが肩関節脱臼には以下のような障害が併発することがあります。

骨性バンカート病変

肩甲骨の関節窩(受け皿になる部分)を骨折してしまう。

ヒルサックス損傷

上腕骨頭が関節窩の角でこすれることで陥没ができること。

 

肩関節は人体で最も可動域のある関節であり同時に脱臼しやすい関節です。整復後もしっかりと固定して関節を構成する部分の回復を待たないと繰り返し脱臼しやすくなる反復性肩関節脱臼が起きることがままあります。脱臼した既に選手はそのような状況になっているかもしれません。ただでさえ野球選手は投球動作の繰り返しによりSLAP損傷という障害が起きやすいのです(SLAPとは関節唇上部のことでここが損傷します)。甲子園を目指す高校球児、特に強豪校であれば高校から野球を始めたということはほぼ考えられず幼少期から野球に真剣に取り組んできたことでしょう。肩への負担は蓄積しやすいのです。

 

監督の整復動作が正しくないとか、医師でも柔道整復師でもないのに医療行為(脱臼の整復はマットな医療行為になります)をしている、という点はまだ仕方ないかと思います。素人に技術を要求するのも見当違いですし監督と選手の関係性も分かりません。本人同士が同意のもと信頼関係の上で成り立っていることでしょう。

 

ただこのことを美談にするのは絶対に違うと思います。

 

監督は医療に関しては素人かもしれませんが高校生を育てることに関してはプロであるはず。高校卒業後の選手の体を考えたら、その場で試合に復帰させるというはどうなのでしょう。あれでは反復性脱臼になるでしょうし、そのあとより軽微な外力で肩が外れるようになり、手術が必要になる可能性も高くなります。今後の野球生活はおろか日常生活も関わること。それを名将だゴッドハンドだと称えるのは非常に危険です。

 

高校球児の負担についてはずっと議論されています。肩や肘を壊して大学やプロでは成績が伸びない、選手生命が短くなった、あまつさえ日常生活に支障をきたすというケースもありました。特にピッチャーの負担は大きく現在は対策として球数制限を設けています。過去の甲子園大会で敢えてエースピッチャーを登板させず批判された監督がいましたが「故障を防ぐため」と説明しました。

 

今回紹介している動画は2017年のもの。4年経過しても肩関節を整復して監督の姿をいまだ美談にするというのはどういうことでしょう。傍目からみれば魔法のように治してしまった。選手もすぐに競技に戻れてうれしそう。チームメイトも笑っている。一見幸せそうに見えますが、その後の選手の体はどうなっているのでしょう。選手の将来を考えたら美談ではないのです。体ができあがっていない高校生です。なおプロ野球の選手ならこのようなことは絶対にありません。

 

4年経ってスポーツ医療の現場が進化していることを願っています。そして観る側も。

 

甲野 功

 

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コメント: 3
  • #1

    通りすがり (日曜日, 03 3月 2024 23:43)

    馬淵監督は有資格者ですよ

  • #2

    あじさい鍼灸マッサージ治療院 (水曜日, 06 3月 2024 16:21)

    コメントの意味が分からないのですが馬淵監督が有資格者というのは医師免許あるいは柔道整復師免許を取得しているということでしょうか?その根拠はありますか?検索をしましたがそのような事実は見つかりませんでした。
    また仮に医師あるいは柔道整復師だったとしても同業者から見る限りあのやり方、その後の対応は理解に苦しみます。それはスポーツドクターも指摘しております。

    https://sports-doctor93.com/dislocation-reduction-player-first/

    有資格者の資格が何を指しているのか不明瞭ですが、医師・柔道整復師の所作には見えませんし、もしそうだとしたらより問題です。

  • #3

    (土曜日, 30 3月 2024 11:56)

    まあ、仰りたいことは分かるのですが
    それでも外したまま激痛を維持して病院に行って治すよりも、その場で応急処置で入れて痛みをなくしてから、そのまま安静にして病院に行くのが一番いいと思いますよ。
    その時に素人がやれば何か傷つくとかそれはゼロとは言い切れないけど、それは玄人でも完全にゼロにできるかといえば、それは言い切れないでしょう?
    なら外したままいるより、入れてあげたほうが全体的に見て良いと思います。
    そのままプレー続けさせるのは良くないけどね。