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~医師と鍼灸師の会話~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 医師と鍼灸師の会話 ガラス作品

 

 

昨日、面識ができた医師が主催した飲み会に参加してきました。鍼灸に興味があるので鍼灸師達の話を聞きたい、鍼灸の事を知りたいという希望でした。SNSや個人的に呼んだ人も含めて鍼灸師が集まり、医師を囲んで居酒屋で飲み会となりました。

 

まず職種における関係性について説明します。

 

現在の日本における医療制度においては、医師が最上位にいてその下に鍼灸師がいます。異論反論はあるでしょうが、法的にも社会的にも能力的にもそうだと私は考えています。鍼灸師の中には鍼灸は医業であり、医業は医師免許を持つ者にしか許されていない行為であるが、鍼灸は医業の限定解除であるから、鍼灸は医業なのだ、と主張する人がいます。私はそう考えてはいないのですが、どちらにせよ医師よりも鍼灸師の方が上という考えはなく、我々は“医師が苦手にしている部分を補う存在”というスタンスです。なお医師も鍼灸師も厚生労働省が管轄する免許でそれぞれ『医師法』、『あはき法(通称)』という法律によってその身分が規定されています。大学で6年間勉強して国家試験合格・インターンを経てなる医師と専門学校や大学で最低3年間勉強して国家試験合格でなる鍼灸師では社会的に差があります。医師の方が遥かに社会的責任は重く、医師には応招義務がありますが鍼灸師にはありません。

※応招義務:医師法19条1項に「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」という内容が定められていて、一般的に医師が診察治療を拒んではいけない。これを通称「応招義務」といいます。

 

そして法律ではり師、きゅう師免許が無くても医師は鍼灸治療を行うことができます。医師は医学的知識も能力も一般的な鍼灸師より遥かに上であります。それは医師免許試験の内容や育成カリキュラムで担保されています。

何よりここ数年猛威を振るって世界的な問題となっている新型コロナウィルスですが、その最前線の現場に我が国では鍼灸師はいません。

 

このような背景がある上で、医師が鍼灸師の話が聞きたいという理由は何か。それはまず鍼灸の奥深さでしょう。好意的なイメージで表現すると奥深さとなりますが、実際にはよく分からないということ。現代医療とは別の東洋思想に立脚した東洋医学を今に残し、かつ厚生労働省が管轄する国家資格であること。古代、医術はシャーマンのものでまじない、祈祷から始まったといいます。その頃の名残を今も残しているのが鍼灸師ではないでしょうか。医療に携わる者で真剣に、気の流れ、を語る職種は(正式に東洋医学を学ぶという意味でも)鍼灸師くらいでしょう。正直なところ医師から鍼灸師という存在をみると得たいが知れないのではないでしょうか。これは私の偏見ではなく、理学療法士でもある鍼灸師が病院で働くコメディカルの職種(理学療法士や作業療法士、看護師など)にアンケート調査をした論文にあった内容です。鍼灸という存在は知っているが実際にどういうものかはよく分からず、得体の知れない存在である、という意見が述べられたといいます。

 

また状況を複雑にしていることが、鍼灸師が学ぶ勉強の大半は現代医学ということ。国家試験の出題ではその多くが解剖学、生理学、病理学といった現代医学の知識。医師はじめコメディカルと同じ知識を持っています。そこに特有の東洋医学が加味されているのです。そのため鍼灸師は他の医療職種と共通知識を持ちながら、鍼灸師特有の知識も持っているということ。医師が語る内容は(精度の差があれ)鍼灸師は理解できますが、鍼灸師が語る内容は医師には理解できるところとできない部分が出てくるのです。いいように解釈すると鍼灸師は2か国語を操るというか。現代医学と東洋医学の2つを使いこなす。そのため医師からすると、よく分かっている・馴染みのある言葉(内容)から突然聞いたこともない言葉や概念が飛び出てくる、という感覚になると思います。

 

更に困ることが、全鍼灸師が東洋医学に根付いて鍼灸術を使っているわけではないということ。現代医学的な考えで行う人もいれば、経絡治療や中医学といった伝統的な考えに基づいた鍼灸をする人もいる。加えて経絡治療や中医学が一から十まで伝統医療かというとまたそれも違う。母校の教員が行った調査では臨床に出ている鍼灸師の多くは現代医学的な鍼灸と東洋医学的な鍼灸を併用しているケースが一番多いのだとか。それは養成機関で両方を教えるから自然な結果であり、私もそのようにしています。詳しく言うと疾患や症状によって現代医学的な鍼灸が得意な場合と東洋医学的なものの方が良い場合とあるので使い分けます。そのため医師からするとどういう考え方で鍼灸をするのか訳が分からなくなることでしょう。人(鍼灸師)によって言う事やる事がみんなバラバラじゃないかと。それがいい意味でいうと奥深さと表現できるでしょう。

 

この会合が始まる前からそういうことを私は想定していて、事前にその医師へ軽く事情を説明していました。

実際に話が始めるとその懸念は的中することになります。

 

例えばある鍼灸師が「キケツ」を使うと発言しました。話の内容から鍼灸師にはそれが「奇穴」、経穴すなわちツボの種類だと判断できます。しかし東洋医学には気・血・水(“き・けつ・すい”と読みます)という概念があり、状況によっては「気血」のことになり得るのです。実際に“気血が~”という会話はあり得ます。字で判断できず音だけの会話ではそれを判別するのは東洋医学の知識が必要です。

更に言うとたとえ「奇穴」のことだと分かったとしても、一般的な医師には「奇穴」が何のことだか分かりません。恐らくどういう漢字を当てるのすらも。経穴(けいけつ)というツボがあって、ホールの意味で穴(けつ)はツボ・あるいはポイントを意味していて、その中に正穴(せいけつ)や奇穴(きけつ)、井穴(せいけつ)、阿是穴(あぜけつ)、新穴(しんけつ)といった種類があるわけです。それを説明しないと医師には何を話しているかさっぱり見当もつかないでしょう。

 

またある鍼灸師が「骨(ほね)をよくする」という発言をして、別の聞いた別の鍼灸師が「それは脈で判断するのですか?」と自分の手首を押さえてみせました。そのやり取りを目の当たりにした医師は、一体どういうことでしょうか、という質問をしたのです。まずなぜ手首を押さえたのか、と。これは脈診という鍼灸師が使う技法の一つです。手首の橈骨動脈を指先で触診して体の状態を判断するのです。では骨の状態を判断するのにどうして脈診をするのか。医師にも脈診はあるのでその行為自体はわかるわけです。鍼灸師の脈診には六部定位脈診という左右6本の指先で六臓(心・肝・腎・肺・脾・心包)の状態を判断する技術があります。かつ骨は腎と関係が深いと東洋医学では考えるので脈診(六部定位脈診)で腎の状態を判断しているのではないかと別の鍼灸師が質問したということ。このやり取りを解説するためにまた別の鍼灸師が六部定位脈診を説明し、更に別の鍼灸師が五臓六腑について説明します。東洋医学の五臓では腎が(解剖学としての)腎臓と完全にイコールではありませんよと。

このように注釈だらけで医師からすると困惑したと思います。疾患について当然知っている。骨のことも分かっている。脈診も分かる。にもかかわらず、知らない共通認識で鍼灸師同士が会話しているという状況だったのではないでしょうか。

さらにダメ押しで私が最初に骨について話した鍼灸師に「先生のいう脈診は六部定位ですかそれとも脈状診ですか」と質問し、脈状診ですと答えたのです。そこで私は医師に(鍼灸師がする)脈診にも種類があって、先ほど説明された六部定位脈診と脈状診はちょっと違うのですと話しました。医師は、それにも違いがあるの、という反応でした。

 

このような感じで飲み会は続きました。参加した鍼灸師は臨床歴が短くなく、一家言持つ者ばかり。ある程度自分の型を確立されています。そのため同じ“鍼灸師”というカテゴリーのはずがなかなかいう事が違います。私達鍼灸師はそれが楽しくもあり、新情報であり、勉強になるのですが、鍼灸の話を聞きにきた医師にはかなり困惑したのではないでしょうか。私の母校である東京医療専門学校現校長である斎藤先生は『鍼灸師はバイリンガルたれ』といいました。複数の言語を使いこなし翻訳する。これは比喩ですが現代医学と東洋医学の知識、両方を有し他の医療職種と会話できるように東洋医学を翻訳せよ(あるいは現代医学で説明できるようにする)という狙い。更には同じ鍼灸師の会話でも考え方が異なることで主張が真逆になることもあるのです。業界内のことでもバイリンガルでないといけないと思います。

 

鍼灸師が医師と連携する。その難しさが端的に現れたように思いました。私は鍼灸師だけでなくあん摩マッサージ指圧師、柔道整復師でもあります。これらの立場で医師と話しをする場合はここまで複雑にはならないでしょう。主催した医師は刺激になり勉強になったと感想を述べていました。反面想像以上に面倒くさいと感じたのではないかと私は予想しました。

 

甲野 功

 

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