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~栃木県糖尿病男児殺人事件~

朝日新聞デジタル記事 糖尿病男児にインスリン投与させず 最高裁が殺人と認定
朝日新聞デジタル記事 糖尿病男児にインスリン投与させず 最高裁が殺人と認定

 

 

先日当院で鍼灸マッサージ学生さん向けに行った法律に関する講義。そこで紹介したのが、「栃木県糖尿病男児殺人事件」あるいは「栃木県祈禱師事件」と言われるものです。この事件には我々の業界が注意しないといけないことがあります。

 

朝日新聞デジタル記事 糖尿病男児にインスリン投与させず 最高裁が殺人と認定

 

どのような事件だったのか判決文から読み取っていきます。

一審 宇都宮地方裁判所判決

二審 東京高等裁判所 判決文

三審 最高裁判決

 

この事件は栃木県で2015年4月、1型糖尿病を患う男児(当時7歳)が糖尿病性ケトアシドーシスから衰弱死したものです。1型糖尿病というのはインスリン(ホルモンの一種)を分泌する機能が低下している病気です。なお生活習慣病(旧、成人病)に分類される、食生活の不摂生から発症するいわゆる糖尿病は2型糖尿病になります。1型糖尿病は身体の機能不全が原因であるため幼い頃から発症します。死亡した男児は2014年に1型糖尿病を発症しました。

 

現代の医療では1型糖尿病を完治させることはできず、血糖値を測りながらインスリン注射を続けることになります。しかしインスリン投与をして血糖値をコントロールできれば一般的な日常生活を送ることができるとされています。私の学生時代の同級生も1型糖尿病でしたが一見何の問題もなく学生生活を送っていました。

しかし男児の母親は息子が1型糖尿病になったことに失神するほど(主治医の証言より)の衝撃を受けます。そこで難病を治せると標榜する被告人(建築業)を頼り、その治療を受ける契約を結びます。ところが被告人には医師免許はおろか満足な医学的知識はありませんでした。「インスリンは毒だ」、「インスリンは打たなくていい」、「医師の指導に従うな」等と母親に言い、インスリン摂取を止めるように指示します。その指示通りに男児の両親がインスリン投与を中止すると、男児の症状が悪化し入院することになります。その際も、男児の症状が悪化したのは「指導に従わないために起こった事」、「インスリン投与をやめて約40日間、緑のインスリンは出ていた」、「龍神の指導を無視してきた」などの医学的根拠に乏しい話を母親にします。報酬として数百万円を支払わせておきながらああ~,時間の問題だ・・・親が心配しても霊は嘲笑うだけだ」、「慌てず,灯明と線香切らすな」、「灯明を足の先一メートル以内に移動せよ」、「龍神の書き物を足の甲に乗せろ」、「死に神、龍神の処に連れてきた、回収した、安心しろ」など(医学常識的に考えて)具体的な処置を行いませんでした。さらに被告人は男児の母親に脅迫ととれるメールや口頭指示を行い、再度男児へのインスリン投与を中止させます。そのことについて父親は葛藤するも母親の判断に従います。

 

入院治療し一度回復した男児はインスリン不投与により再び症状が悪化します。ケトアシドーシスを発症し衰弱したところ、駆け付けた母親の妹によって救急搬送されるも、死亡してしまいます。検死の結果、外傷は認められず糖尿病性ケトアシドーシスからの衰弱死と結論づけられました。

 

被告人は逮捕起訴されることになり、一審(宇都宮地方裁判所)で懲役14年6カ月を求刑。上告するも二審(東京高等裁判所)は覆らず(控訴棄却)。被告人は更に控訴し三審(最高裁判所)でも棄却され刑が確定します。なお被告人は一審公判において、裁判長の発言禁止命令を無視し大声で不規則発言を繰り返したことにより退廷を命じられ、別の公判でも不規則発言を繰り返した挙句、弁護人が事件関係者に対して性犯罪を行ったという誹謗中傷発言をして再び裁判長から退廷を命ぜられています

 

被告人のやり口は、龍神なるものを利用した、典型的な霊感商法にあたると思われます。不治の病にかかってしまい絶望を覚えた人間の心の隙に取り入る。常識的に法外な金額(数百万円)を手に入れてまじないのようなことをする。一部メディアが被告人を祈禱師と称したことも無理がありません。

被告人は医学知識が乏しい、あるいは知識があっても現代医学の行動を無視する人間であることが拍車をかけます。判決文によれば、被告人の知人から1型糖尿病ではインスリン投与を続けなければ症状が悪化し死に至ることがあると知らされています。その上で、男児の母親にインスリンは毒だと主張して、行動を制限させたのです。更に男児が衰弱していることを知りながら具体的な処置は一切行わなかった。有罪判決になるのは妥当でしょう。

 

ここで注目したいのが、被告人の罪が殺人罪であること。詐欺罪ではないのです。殺人罪です。

 

被告人は死亡した男児に直接的な危害を与えていません。しかし男児は死亡しました。司法はこれを被告人が男児を殺害したと判断しているのです。男児に対して殺意を持ってインスリン投与を間接的に止めて殺害したものと。細かい点は一審の判決文に詳しく書かれていますが、被告人人は「未必の殺意」があったと認定しています。未必の殺意(みひつのさつい)とは“確実に殺そうという意思はないが、死んでしまうならそれは仕方ないという意思”をいいます。確実に殺そうとする意志、「確実的殺意」の対になる用語です。一般的に考えて、被告人がそれまで面識がなかった7歳の男児に殺意を抱くことは適当ではありません。そして治療を依頼された当事者そのものですから被告人とっても患者にあたります。それでも被告人は(未必の)殺意を持って(間接的であれ)殺害したと最高裁は判決を出したのです。場合によっては偽証罪や医師法違反(医師免許無しに医行為を行った)と考えることができると私は思いましたが。殺人罪という重い量刑である事は重要なことではないでしょうか。

 

次に注目したいの点が、栃木県警は死亡した男児の両親も書類送検していたということ。宇都宮地検は不起訴としていますが、被害者である男児の実の両親も本事件の加害者であるとしたのです。一審の判決文を読むと母親には「間接正犯」が、父親には「共謀共同正犯」が成立するとしています。

 

間接正犯(かんせつせいはん)とは”他人の行為を利用して自己の犯罪を実現する正犯”のことをいいます。正犯とは共犯ではないという意味を含めて自ら犯罪の基本的構成要件に該当する行為を行う者のこと。判決文では、母親が被告人の「道具」として男児にインスリン投与を止めるという行為をしたとあります。被害者の母親として息子を助けたいがために藁をもすがる気持ちで、被告人に治療(と期待されること)を依頼し、結果的に息子を失った母親が。これはとても悲しいことです。確かに何度も現代医療に戻す機会があったにもかかわらず、インスリン投与をさせないという行動をしたのは母親です。一度は入院するほど体調不良になり、かつ病院の治療で回復しているのに。男児が退院後、通院予定日に来院しなかったため主治医は母親に連絡をしています。そこでも母親は虚偽の報告を主治医にしました。衰弱して動けなくなった男児を病院に連れていくため救急車を呼んだのは母親の妹だといいます。そのような一連の行動から間接正犯が成立すると判断されました。

 

共謀共同正犯(きょうぼうきょうどうせいはん)とは、”共同実行の意思の形成過程にのみ参加し共同実行には参加しなかった形態の共同正犯(二人以上が共同して犯罪を実行すること)”を意味します。男児の父親は母親がインスリン投与を止めるという行為を、健康被害が生じることを知った上で容認した。実際に行動はしていないが、母親と被告人による男児の健康を損なう行動を止めなかったことは共謀になるとしたのです。判決文には、保護責任者遺棄致死の限度で共謀が成立する、としています。

 

両親は不起訴になりましたがもし起訴されて罪が確定したらどうでしょうか。医師免許も持たない医学的根拠もない自称医療行為に数百万も支払った上に息子を失った被害者家族のはずが、罰を課せられる。とても悲惨な状況ではないでしょうか。

 

ここまでこの“殺人”事件についてみてきましたが、私にとっては他人事ではありません。状況によっては起きうる事態なのです。

 

積極被害消極被害という考え方があります。

 

積極被害は直接的な被害を与えること。例えば私が患者におこなった刺鍼で外傷性気胸が起きて死に至った場合。直接、鍼で患者の肺に穴をあけられた被害になります。これが積極被害になります。あるいは、すぐに病院で医療を受けなければならない患者を私が治せるからと説き伏せて通院・受診を妨げて、その結果重篤な状態に陥る。私は直接患者に被害を起こしていませんが、改善するはずの行動を阻害し間接的に悪化させた。このようなことを消極被害と言います。この栃木県糖尿病男児殺人事件はまさに消極被害であります。被告人も両親も、1型糖尿病の男児にインスリン投与をしなければ症状が悪化することを知った上で、それをしませんでした(させませんでした)。

 

あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が厚生労働省が管轄する国家資格免許であるのは積極被害、消極被害ともに未然に防ぐためにあります。特に人体への刺鍼は死亡事故が過去に起きており積極被害のおそれが高いのです。たかだかマッサージだろと思うかもしれませんが、肋骨骨折は珍しくありませんし、脊髄損傷という重症被害例もあるのです。積極被害を防ぐためにも、一般の人には禁止し免許を得た者が特別に行う行為として規制する必要があるのです。それと同時に、助かるべく症状や人を適切な医療機関に送ることも免許制度が担う面です。東洋医学だけでなく西洋医学(現代医学)もきちんと、むしろ東洋医学以上にきちんと、勉強するのは消極被害を防ぐためなのです。重篤な症状を見抜いて自分のところで抱え込まない。これができるように3年間もの勉強と国家試験があるとも言えます。

 

栃木県糖尿病男児殺人事件は多くのことを考えさせられます。

例えば被告人が龍神の力を使って自称難病を治せると標榜する祈祷師ではなく、鍼灸師だったとしたら。病院など行くな、薬は毒である。そのような主張をする鍼灸師がいないわけではありません。耳にしたことはあります。新型コロナウィルスが流行してから現代医学を否定する(例えばワクチンは毒であり接種すると磁石が身体に付くようになる、5Gに繋がるといった医学知識からすれば意味不明な主張など)話が山のように出てきています。ワクチン接種を拒否して新型コロナウィルスに罹患し死亡した比較的若い年齢の人もいました。これこそ消極被害です。

鍼灸師でも視野の狭い言動により、仮に抱えていた(医療機関の受診を妨げていた)患者が死亡したとしたら、それは殺人罪に問われることにもなる。そのような事態を示唆する判決例になります。

 

更に被害者であるはずの両親すらも起訴されて裁判になっていたら罪になっていかもしれない。標準治療(現代医療)を否定して医師の言うことを守らず、盲信した結果。もしも盲信する対象が鍼灸だったとしたら。荒唐無稽な話ではありません。

 

積極被害も消極被害も防ぐためにもきちんとした施術技術と最先端の医学知識。これを兼ね備える必要があん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師らの免許を持つ者の責務だと思いました。

 

甲野 功

 

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