開院時間

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~2024年第39回教員養成科卒論発表会~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 会場の様子
会場の様子

 

 

今年も母校である東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科卒業論文発表会に参加してきました。今年の発表は40期生。私が30期ですからちょうど10年違います。すなわち鍼灸マッサージ教員養成科(以下、教員養成科と表記)を卒業して10年経ちます。今年の夏あたりに教員養成科がある代々木校舎から四ツ谷校舎へ移転するので代々木校舎で行う最後の卒業論文発表会となります。もしかすると代々木校舎に行くのも最後かもしれません。柔道整復科で3年、教員養成科で2年。合計5年毎日通った校舎。教員養成科卒業後も縁があってよく来校していました。もうこの校舎に入ることはないのかもしれないと思いました。

 

今年度から新しい校長となった村上哲二先生による開会の挨拶から発表会が始まりました。各演題を紹介しつつ、発表を聴いた感想などを書いていきます。発表や論文には著作権が発生するのでキモとなることは極力紹介しないで実験手法を中心に記載します。その上で私個人の考えや補足を加えていきます。

 

1.タイ、マレーシア、ベトナムの鍼灸の法制度と教育について ―日本人鍼灸師の進出の可能性―

 

このテーマは調査研究に分類されます。文献検索と現地の事情に詳しい人3名のインタビューから研究をしています。東南アジアのタイマレーシアベトナム鍼灸事情を調査。発表者は現地にも訪れており、フィールドワークをしっかりと行っています。身近に東南アジアの国について研究をしている者がいるので何となくその大変さが分かります。文献を調べるだけならそこまでではないでしょうがインタビューや現地に行くのは並大抵のことではありません。各国の鍼灸に関する法整備を調べていて、海外の鍼灸事情を知ることができました。ただ情報を羅列するだけでなく、華人、つまり現地にいる中国人の人口割合から鍼灸との関係をみているところが興味深かったです。海外でいえばメジャーは中国の鍼灸。中医学と言われる鍼灸技法が主流です。中国人が海外に移住することで中国の鍼灸も需要が生まれると予想できます。現在日本人鍼灸師が海外に活躍しているケースを見受けられます。貴重な生の情報でした。

 

 

2.施灸による熱刺激が褐色脂肪組織に及ぼす影響 ―刺激温度の高低が褐色脂肪組織の活性化に及ぼす影響について―

 

灸に関する実験研究です。今年は灸術を高めることを個人的なテーマにしています。昨年受講した講座熱刺激受容体TRPチャネルについて学びました。その中のTRPV2褐色脂肪組織との関係を研究しています。TRPV2という言葉を初めて知りました。52℃以上の温度で活性化します。褐色脂肪組織は主に褐色脂肪細胞によって構成されて非ふるえ熱生産に関与します。TRPV2が活性化しない51℃と活性化する60℃の熱刺激を「足三里」に与えて左鎖骨上窩の場所で組織酸素計にて総ヘモグロビン量を計測します。褐色脂肪組織は左鎖骨上窩にあります。「足三里」は経穴名でふくらはぎの前にあります。熱刺激は電子温灸器を用いるので具体的な細かい温度を安定して出すことが可能です。鍼灸マッサージの実験研究では刺激量を定量化できるかどうかが大きな課題です。毎回同じ鍼や灸、指圧などが果たしてできるのか?という問題。人が行うのはその都度刺激量が変わってしまう懸念があります。お灸の場合も同様で艾を捻る直接灸は相当熟練しないと同じ熱量を出すことが困難で電子温灸器を実験に用いることで温度管理が容易にできます。よく考えられていると思いました。また左鎖骨上窩は経絡の足陽明胃経が通っているということで「足三里」を刺激場所に選定。お灸といえば足三里といえるくらいよく用いられるところです。被験者のBMIを調べて体形(肥満気味、やせ気味など)との関係を調べています。褐色脂肪組織の活性化、TRPチャネルといった生理学を想定しながら灸刺激、経穴経絡という東洋医学(伝統医学)を絡めて研究しています。研究デザインが秀逸でそのような計測項目を選んだのかと感心します。

 

 

3.足の少陽胆経への円皮鍼による胸腰椎・股関節可動域の変化について

 

実験研究になります。脊柱運動と股関節の可動性がスポーツにおいて重要であります。例えば野球やゴルフのスイングなど。その可動域を足少陽胆経の経穴に鍼刺激をして変化をみています。足少陽胆経という経絡は体の側部を流れていて胸腰椎と股関節を通ります。胴体の回運動や側屈に関係すると言われています。その足少陽胆経上の経穴から「陽陵泉」と「丘墟」を選んで円皮鍼刺激をして胸腰椎回旋と左右股関節内外旋の関節可動域を計測します。「陽陵泉」はふくらはぎの外側にあり、とても有名です。筋会という別名があり筋肉に関係すると言われています。「丘墟」は外くるぶしの下側にあり、足少陽胆経における原穴です。原穴とは重要な経穴と思ってください。円皮鍼は細くて短い棘のような鍼が付いていてシールで貼ります。ほとんど鍼が入っている自覚がありません。そして円皮鍼で鍼のついていない偽鍼を用意します。これは外側からは鍼の有無を確認できません。ですから被験者は円皮鍼を貼られても実際に鍼が付いているのかどうか分かりません。思い込みによるプラセボ効果を省くための実験手法で盲検といいます。更に被験者に円皮鍼を貼る実験者もそれが偽鍼かどうかを認識しないで介入する二重盲検(ダブルブラインド)方式を採用しています。実験者も被験者も双方が分からないので実験の質が高まります。この方式は円皮鍼ならではで、毫鍼という一般的な刺す鍼だとできません。加えてどちらも貼らない無刺激群もありました。こうすることで鍼(円皮鍼)、偽鍼(鍼のついていない円皮鍼)、何もされていない、という3パターンを比較することになります。各パターンで自動的に胸腰椎を回旋させた角度と股関節を他動的に内外旋させた結果を数学的統計処理した上で比較検討します。一部意外な結果が出て研究者も考察を重ねていました。私もどういうことだろうと悩むものでした。

 

 

4.鍼刺激が肩関節角度、筋出力に及ぼす影響 ―刺鍼深度の違いによる検討―

 

実験研究となります。事前に抄録集を頂いて最も興味をもった発表です。棘下筋という肩甲骨下部についている筋肉を対象に、鍼が刺さる深度によって変化があるのか検証をしています。棘下筋は肩関節に関わる重要な筋肉。インナーマッスルと称される筋肉として挙げられます。この実験のポイントは鍼を刺す深さを超音波検査装置(エコー)で確認して浅刺群と深刺群に分けていることです。刺す場所を棘下筋のみである場所を選択し真皮層までに留める浅刺と筋層まで達している深刺に分けました。どれくらい刺入されているかはエコーで画像判断しています。前のテーマでも触れた介入条件を一定にできるのかという命題にエコーを用いることで克服したと言えます。もう10年以上この卒業論文発表会に出席していますがエコーを用いた実験研究は初めてです。通常は直刺といって体表面に真っすぐ鍼(毫鍼)を刺すのですが横、あるいは斜めに刺して浅刺群も深刺群も2cm刺入としています。真皮層の下に筋層があるので真皮層までで2cm刺入している浅刺と真皮層を貫いて筋層まで到達している深刺。どちらも2cm鍼を入れています。この2群に加えて刺鍼しない無刺激群を加えた3群で、肩関節内旋の関節可動域(ROM)と肩関節外旋での筋力を計測しています。棘下筋は肩関節外旋に働く筋肉です。棘下筋が緩めば内旋のROMが上がり、棘下筋の筋力が上がれば外旋力が上がると予想できます。私も研究したテーマですが鍼刺激で筋力は上がるのか?という問いも含まれています。肩関節ROMが変化するかに着目した研究が29期でも行われており、私は被験者として参加しました。あの頃とはエコーを用いることで新しい実験デザインになっております。結果はとても意外なものでした。統計処理をして有意に差が出た項目について、また有意差が出なかった項目もまた、どう考察するのか。研究者の考察内容がよくなされていてなるほどと思いました。研究を次の学年で引き継いで検証してもらいたいです。

 

 

5.膝陽関(寒府)の温鍼が足趾皮膚温に及ぼす影響 ―膝陽関と大腿部の非経穴との比較―

 

実験研究です。このテーマは古典、伝統鍼灸を扱っています。「膝陽関」という膝関節周囲にある経穴。古典に寒府と表記されています。この事実を私は知りませんでした。あまり古典や伝統系の鍼灸に詳しくないので初耳でした。鍼灸師は好みの経穴があるものですが、私はまず「膝陽関」という経穴を臨床で用いません。この演題で「膝陽関」の存在を再認識しました。事前に調べてみると1990年に大阪医科大学麻酔科ペインクリニックでも「膝陽関」を用いた研究が報告されており、冷えに対して重要な経穴であるようでした。そして“温鍼”という言葉。こちらも初耳でした。やり方は銀製の毫鍼の先に艾をつけて火をつける灸頭鍼という方法をするのですが、皮膚とお灸の間に遮蔽物をかませて灸の輻射熱を遮断します。銀鍼にお灸の熱を伝導させて鍼自体を温かくさせるのが温鍼です。鍼灸国家試験をパスした鍼灸師ならば頭に疑問符が浮かぶでしょう。“はりきゅう理論”では灸頭鍼における熱は輻射熱のみで伝導熱はないと習います。輻射熱というのは皮膚上にあるお灸が燃える熱が空気を介して感じるもの。鍼自体に熱が伝わるものを伝統熱といいます。現在の毫鍼はほぼ熱伝導率が低いステンレス製なのですが、熱伝導率が高い(熱を伝えやすい)銀製のものを用い、かつ輻射熱の影響を阻害するようにして伝導熱のみを与えるように工夫された実験です。恥ずかしながら温鍼なるものを知らなかったのですが傷寒論という古典には温鍼の記載があり登場は灸頭鍼より早いそうです。勉強になりました。その温鍼で寒府といわれる「膝陽関」に鍼と熱刺激を与え鼓膜温と両足の親指の皮膚音を計測します。鼓膜温は外界の影響を受けにくく、足の親指は体表面で変化しやすい部分です。何より足先の冷えに対しても使用される経穴が「膝陽関」です。経穴がない太もも部分との温鍼と比較しています。経穴という指定された特定の部位とそうではないところの刺激で比較しています。無刺激群としていないところに経穴、ここでは「膝陽関」に対する気持ちが表れていると思いました。古典に記載されている記述を題材にして、現代器機を用いて定量的に計測するという実験でした

 

 

6.目の疲労に対する鍼治療の効果

 

実験研究です。局所と遠隔部の鍼刺激が目の疲れに対してそれぞれ影響するのか差があるのかを検証しています。本研究では目の疲労と眼精疲労を明確に分けており、目の疲労は一定の休息で回復する症状で眼精疲労は休息でも回復しないものとしています。目、視力、視野に関する研究は本卒業論文発表会で多数発表されてきました。そこには眼精疲労に関するテーマも。敢えて目の疲労を対象にそのような被験者を選んでおります。「太陽」、「攅竹」という目の周囲にある2穴と「合谷」、「光明」という手と足にある2穴の2つの刺激群に分けています。局所の方は目の周囲なので直接目に効果がありそうで、手足という遠隔部の2穴はどちらも目に関する効果があるとされている経穴です。この2群に無刺激群を加えて視力検査と主観的な目の疲労を計測して比較しております。鍼灸の面白さというか不思議というか、経穴という点が経絡という気が流れるルートを通じてその経穴から離れたところまで効果を及ぼすという事象があるのです。鍼灸師はそう習いますし日々の臨床経験で実感するのですが、他の医療職種からすると嘘くさいと思われる部分です。本当に経絡はあるのか、遠隔部に効果を出せるのか、は重要な研究対象になっております。今回も敢えて目の近くと、目に効果があるとされる手足の経穴でその違いを検証しています。私個人としては「光明」は普段使わない経穴でちょっと見直さないといけないと注意しました。

 

 

7.背部後正中線上への刺鍼が立位体前屈測定値に及ぼす影響

 

実験研究です。督脈という背中の正中線上にある経穴に鍼刺激を行い、その前後の立位体前屈測定値を比較しています。用いられる経穴が「身柱」・「腰陽関」と「筋縮」・「脊中」の2パターンです。この4穴は背骨のライン上にあり棘突起という骨の出っ張り部分の間です。「身柱」と「腰陽関」は下部胸椎で近くにあり、「筋縮」と「脊中」は胸椎と腰椎で上下に離れています。近接した2穴と離れた2穴をペアにしています。私が驚いたのが背骨上の督脈にある経穴に鍼を刺すという発想。棘突起の間で下は棘上靭帯でその下はすぐ関節にぶつかります。深く刺さらないです。お灸をしても毫鍼で刺すという発想がありませんでした。なぜこのような実験デザインにしたかというと筋膜、特に浅背筋膜に着目したということからでした。督脈という経絡ではなく、棘上靭帯でもなく、筋膜に対して鍼刺激をすることで脊柱の動きに変化が及ぶのかをみています。私なら考えつかない着想です。ここ数年筋膜(あるいはファッシア)に着目した研究発表がされています。新たなトレンドなのかと感じました。またこの発表を聴いて臨床でも(脊柱上の)督脈に鍼という選択肢を持ってもいいなと思いました。

 

 

8.本態性高血圧症に対する頸部施灸の効果

 

実験研究です。高血圧の被験者に対して棒灸による熱刺激により血圧及び心拍数、呼吸数が変化するのかを実験しています。棒灸というのは艾を固めたものに火をつけて、皮膚のそばに置いて熱を与えるタイプの灸です。皮膚と接触していないので輻射熱のみとなります。熱を与える部位は第2頚椎~第4頚椎棘突起の高さで外側に15mm離れたところにある硬結(固いしこりのようなもの)部分。そこに2cm距離をあけて2分間熱を与えます。週2回、合計10回熱刺激を与えて計測します。この実験では被験者をWHO(世界保健機構)の正常高血圧以上に該当し投薬コンコロールをしていない者に限定しています。誰でもいいからではなく高血圧症状が認められる被験者にしているのです。n数(実験における被験者の数という意味)は多くなりませんがより研究にそうことになります。後頚部という髪の毛がある部分なので棒灸を選択できたといえるし敢えて棒灸にしたともいえるでしょう。血圧を感じ取る個所として頚動脈脈洞という部位が人体にあります。そこに近い経穴として「人迎」があります。喉の前です。この「人迎」に刺鍼することで血圧を下げる効果があることは鍼灸師には知られています。ただここは気管が近く鍼を刺すことはかなり注意を払うのです。頚動脈が走行していますし。私が教員養成科時代に授業で刺したときは内出血を起している同級生がいました。そのため同じデルマトーム上にある後頚部を本実験では選択しました。また合計10回と結構な回数で刺激を与えていると思います。一過性ではなく繰り返し刺激を与えて時間をかけています。臨床により即した介入条件だと思います。私の感覚ですと高血圧の症状に対して、熱は上に溜まりやすいので下半身に灸をすると思います。首という体の上の方で更に熱刺激である灸を選択するという発想がありませんでした。実験結果では注目するものがあり、今後臨床における選択肢に入りそうです。今年のテーマは『灸術を高める』なので勉強になりました。

 

 

9.不眠症状に対する円皮鍼が睡眠と心拍に及ぼす影響について

 

実験研究です。不眠症状という睡眠障害に向き合った研究です。ICSD(睡眠障害国際分類)というものがあります。日本人の睡眠状況はOECD加盟国でワースト1位だそう。私は不眠症に悩まされたことはないのですが母は若い頃から、それこそ何十年という期間苦しんできました。不眠症状に対する鍼刺激の実験です。PSQI(ピッツバーグ睡眠質問票)により自覚的不眠症状を有する被験者を対象に実験を行っています。この一つ前でも消化した「人迎」、精神を落ち着かせるのに有名な「内関」、「神門」の3ヵ所に円皮鍼を貼ったまま自宅で睡眠をとってもらいます。その際に腕時計型睡眠計を装着してもらい睡眠時間、心拍数、ノンレム睡眠の割合を計測します。またアテネ不眠尺度で被験者の自覚的尺度を調査します。円皮鍼を貼って過ごすのは2日間、48時間です。円皮鍼は毫鍼の刺鍼よりも刺激量を一定に保ちやすい、偽鍼を作れるというメリットがあり実験研究に用いられやすいです。臨床面では長時間(長期間)刺激を与えることができるという強い特徴があります。運動時にも付けておくことができ、フィギュアスケートの羽生結弦選手が円皮鍼をしたまま競技をしていたことは鍼灸師の中では有名です。睡眠という数時間にわたる生活動作に適したものだと考えられます。選択した経穴においても血圧を下げる効果が期待できる「人迎」にリラックスするときによく用いられる手首近辺の「内関」、「神門」は理にかなっていると思います。また腕時計型睡眠計という計測機器のおかげで簡便に計測できることが画期的です。研究設備に泊まってもらって電極を頭につけるといった大掛かりなことをしなくて済みます。この発表で興味深いことを知りました。不眠症状は「主観-客観の不適合は、不眠の中核的特徴」であるという。どういう意味かというと不眠症状という主観的な症状があっても客観的な数値(心拍数や血圧など)が関係ないこととされているということ。それを鍼刺激は改善できるのではないかというのです。

 

 

10.腹証における心下痞・胸脇苦満と「気血水スコア表」の項目である気鬱との相関について ―筋圧痛計を用いた気鬱の確認―

 

実験研究です。東洋医学特有のものとして腹診が挙げられます。西洋医学にも腹部への触診がありますが異なります。西洋医学のものは腹部にある臓器を体表から触れて状態を診察することが主な目的。そのため腹筋を緩める目的で股関節と膝を曲げた状態で患者さんに寝てもらって行います。東洋医学の腹診は腹部から体全体の状態や五臓(肝、心、脾、肺、腎のこと。臓器としての肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓とは異なる面を持つ)の状態を読み取ろうとします。経絡という気の流れも考慮するので足を延ばしたままの状態で腹診を行います。腹診には特有の状態、腹症というものがあります。その中に「心下痞」、「胸脇苦満」というものがあります。これは気鬱という状態になると現れるといいます。また東洋医学には気・血・水の3要素で考えるやり方があります。これは特に漢方薬で用いられやすいです。それを調べる「気血水スコア表」というアンケート調査票があり、その結果で気鬱状態だと判断します。主観的意見である「気血水スコア表」と客観的指標である腹診に相関性があるのかを検証した研究です。本研究で注目したのは腹診を定量化しようとする試み。鍼灸マッサージ同様、術者が手で触って確認する腹診は画像検査や血液検査などと異なり主観や経験が大きくなります。それを数値化するために、筋圧痛計を用いて「心下痞」及び「胸脇苦満」のポイントを押していき圧痛が出た時点の数値を計測します。圧痛が出たのは何gの圧なのか。数字として残すということです。私は画期的な発想だと思いました。舌を診る舌診は写真撮影してカラー解析をかけるという手法がありました。脈診も解析する機器の開発に着手しているという話を耳にしたことがあります。腹診を定量化する試みを私は初めてみました。腹診は中国よりも日本でより発達したものです。今後も研究を継続することで大きな流れが生まれるのではないかと期待します。

 

 

11.低周波鍼通電療法が遅発性筋痛などに及ぼす影響 ―パルス幅の違いによる検討―

 

実験研究です。低周波鍼通電療法というものがあります。身体に刺入した毫鍼に電極を繋いで電流パルス波を流します。鍼に電気治療が加わったもの。パッドを皮膚にあてて表面から電気を流すものと違い、人体の中から電気を通すことが低周波鍼通電療法はできるのです。パルス波というのは瞬間的な電流です。要素として周波数(1秒間に何回パルス波を出力するか)、出力する量、対象組織(筋、神経、関節など)などが挙げられます。周波数が低い(概ね10Hzくらいまで)ものを低周波鍼通電としています。100Hzなら高周波になります。更に要素としてパルス幅というパルス波の出力時間に着目しました。パルス幅の違いが遅発性筋痛に及ぼす影響を調査しています。本実験は50μs(マイクロ秒)と250μsの2パターンをしています。μ(マイクロ)とは10のマイナス6乗を示しますから50μsも250μsも一瞬です。その違いを変えて計測できるのはピコリナという新しい機器のおかげです。私も教員養成科卒業研究は低周波鍼通電療法を扱いました。その頃にピコリナはなく、周波数と刺激する筋肉に注目したのでした。また本実験は被験者に遅発性筋痛(運動後遅れてくる筋肉痛)を生じさせるためにカーフレイズ(踵上げ運動)をさせています。私も教員養成科時代に被験者として筋肉痛を起させる実験に参加してカーフレイズをして膝が最後まで伸びないくらいひどい筋肉痛になり実験を辞退した経験があります。この実験では50μs群と250μs群に被験者を分けてカーフレイズを疲労困憊になるまで行い、腓腹筋に低周波鍼通電刺激を行い24時間、48時間、72時間の各経過後の歩行時痛と足関節伸展時痛を計測しています。研究者の先生を私は以前から知っているのと、過去に関わりのある要素が実験内容が組み込まれていることから、特に興味がひかれました。同じ先行研究の論文を読んだのだと発表を聴いて分かりました。休み時間に研究者の先生と話をして発表に載せなかった考察や実験方法の裏側を聞くことができて有意義でした。

 

 

12.教員養成科附属施術所の患者動態調査

 

調査研究です。教員養成科は附属施術所を持っており、安価でありますが料金をいただいた上で外部から患者さんを呼んで学生が施術を行っています。学生と言っても教員養成科は免許を持った者が入学するのでプロです。臨床実習という教育面が強いですが各自がいち鍼灸師、マッサージ師として患者さんと向き合います。そして施術所の運営は学生が行います。受付、物品管理、会計など学生が行うのです、私も教員養成科2年時に相談役という役職でした。1年間運営し次の学年に引き継ぎながら40年続いてきたのです。施術所運営の疑似体験をするのも学習の一つ。本研究では1998年以来行われていなかった(4回目になる)患者動態調査を行いその結果を報告しています。今年の夏ごろ教員養成科(と柔道整復科)は代々木校舎から四ツ谷校舎に引っ越します。付属施術所も同様です。代々木から四ツ谷に移転することで来院できなくなる患者さんもいるでしょう。そして四ツ谷には鍼灸科・鍼灸マッサージ科(免許を取るために勉強する科)附属施術所が既にあります。競合関係になるものと考えられます。大きな転換期を前に状況を把握し移転後の運営に役立ててほしいという願いが研究者にありました(引っ越し時の運営は発表者の下の学年が行います)。2022年10月31日から2023年10月31日までの1年間で各項目のデータを検出して集計しています。お世辞抜きで非常に貴重なデータでした。私がいたときから10年経過して上京は大きく変わっています。新型コロナウィルスという要素もあります。今開業していますから報告された数字の重みが分かります。更に素晴らしいと思ったのは出された結果から四ツ谷移転後に想定される事態を述べていること。運営者、経営者としての視点を持っています。この発表を会場で聴いている41期の生徒が当事者になります。貴重なデータを出してくれました。

 

 

13.あマ指療法における圧刺激変化による筋硬度への影響 ―フェイススケール評価による患者の感受性との関連―

 

実験研究です。“あマ指”とはあん摩、マッサージ、指圧の各頭文字です。あん摩マッサージ指圧師という国家資格免許です。わたしは平仮名で“あまし”と表記していますが正確には“あマ指”とするのが妥当でしょう。鍼灸以上に実験研究が少なく、それは刺激量を定量化するのがより困難ということ。器材を用いる鍼灸と異なり人間の手でおこなうあん摩マッサージ指圧は、毎回同じようにできますか?、という疑念が実験研究には生まれます。発表によれば2020年の受療率は鍼灸に比べてあん摩マッサージ指圧の方が数倍あるのですが論文件数は数分の一という少なさ。私も今回40年の教員養成科卒業論文テーマを調べましたがあん摩マッサージ指圧(および徒手療法)のものは数が少ないです。しかし教員養成科卒業研究ではあん摩マッサージ指圧に対する研究が少ないながらも続いてきた歴史があります。本研究では押圧の力と患者の感受性について研究しております。軽圧群(2.5kg)、強圧群(5.0kg)、無刺激の3パターンで、圧痛計を用いて被験者の首、肩を押圧し、刺激後(あるいは無刺激)の測定部を筋硬度計で計測します。また1点の刺激ごとにフェイススケールを用いて主観的評価も行っています。結果はある意味意外、ある意味妥当なものがありました。質疑応答でも活発な意見が出ました。あん摩マッサージ指圧を重要視している私は臨床に役立つ発表でした。個人的に調べてみようと思っています。

 

 

14.脛骨神経に着目した膝窩部での刺入深度の検討 ―超音波画像診断装置を用いて―

 

調査研究です。坐骨神経は太ももの下の方で脛骨神経と総腓骨神経に分岐します。脛骨神経はふくらはぎ後面に進んでいき、膝窩部(膝の裏にあるくぼみ)で体表近くを通ります。膝窩には「委中」、「委陽」、「陰谷」という重要な経穴があり膝窩動脈も触れます。鍼灸師にとって重要な位置になるのですが脛骨神経が体表からどれくらいの深さにあるのかを理解しておくことは重要です。本研究では超音波画像診断装置(エコー)を用いて坐骨神経が脛骨神経と総腓骨神経に分岐するところ(分岐部)から膝窩横紋部までの距離、分岐部と膝窩横紋部での体表から脛骨神経の深さを計測しています。被験者の数は42名。教員養成科卒業研究ではかなり多いです。n数の多さは研究の価値を上げます。性差、体格差があるのか複数の被験者情報と照らし合わせています。本研究はエコーを用いております。今年エコーを用いた研究が2例ありました。私が在学中にはできなかったやり方です。研究者はエコーの操作、画像解析能力が求められ練習を積んだのでしょう。刺激介入がない非侵襲的な調査であるので被験者の数を集められたのではないでしょうか。鍼灸、あん摩マッサージ指圧のどちらにも有効な調査だと思います。指圧ですら膝窩を強く押せば脛骨神経に響いて強い痛みを誘発する危険性があります。このデータは臨床において非常に有用で膝窩への施術をこれまで以上に気をつけようという戒めになりました。

 

 

15.アロマテラピーがハムストリングスの伸張性に及ぼす影響

 

実験研究です。アロマテラピー。精油という主に植物由来の油を用いて匂いによる効果を期待します。これまで気分や認知への影響を研究したものがあったが筋・骨格系へのそれを研究したものはなく、本研究はハムストリングス(太ももの後ろにある主に膝を曲げるときに使う筋肉群)の伸張性に及ぼす影響を研究しています。採用した精油はラベンダーローズマリー。ラベンダーは副交感神経を優位にさせて心理的な症状を緩和するとされ、ローズマリーは交感神経を優位にさせて筋緊張を緩和させるとされる。相対する効果が期待される精油を選択しました。被験者に各精油の匂いをかがせ前後の血圧、脈拍、長座体前屈を測定して検証しています。長座体前屈はハムストリングスの堅さを表す指標になります。血圧、脈拍は自律神経の状態を示します。個人的にアロマテラピーは好きで新婚旅行でエジプトに行ったときは何よりエジプトの香水をお土産に買いました。臨床でもたまにアロマテラピーを利用することがあり、複数の精油を用意しています。そのため匂いが筋骨格系にも影響を及ぼすのか注目しました。実験結果はまさかというもので自分の施術でも応用できると思いました。ただ研究者も強調していましたが匂いは嗜好性が強い、すなわち好き嫌いがあるのです。患者さんが不快だと感じる匂いはおそらく逆効果。そこの扱いの難しさを発表で述べており、私も大いに納得しました。匂いの影響は良くも悪くもかなり大きいと考えています。ただ鍼灸マッサージには機械刺激(物理的刺激、熱刺激など)だけです。匂いという新たな要素を上手に組み合わせることができれば幅が広がることでしょう。今後も研究を継続してほしいテーマです。

 

 

今年も多種多様な研究内容でした。座長の講評にもありましたがこれだけの研究が一つの学校で行われることは誇れることだと思います。その理由に幅広い先生が側にいることがあり、その大切さに感謝しましょうと仰っていました。それを私も強く感じます。私は東京医療専門学校鍼灸マッサージ科から同校柔道整復科を経て教員養成科に進学しました。東京医療専門学校以外を知りません。教員養成科は全国から集まり、多様な学校を卒業した人材が集まります。東京医療専門学校を運営する呉竹学園だけでも東京、新横浜、大宮に学校を持ちスタイルが違います。さらに都内にある別の伝統校から地方の学校まで。各学生さんが入学前から持っていた知識、特性、そして人脈も研究に寄与しているのだろうと思います。研究の最後に謝辞があり、そこに掲載されている先生方をみると分かります。教員養成科に教えに来る講師はもちろん外部の先生や施設。環境の強みを卒業して外にいるからこそ感じます。またエコーは柔道整復科から借りたという話や腕時計型睡眠計は学校側で用意してくれたなど東京医療専門学校自体の環境も大きいです。今年は四ツ谷に移転しますから鍼灸科・鍼灸マッサージ科の力も借りられるのではないでしょうか。

 

演題ごとの紹介は研究者のことを考えて結果はほとんど掲載しません。1年間かけてやってきて集大成なので私が書いてしまうのは違うと思います。各テーマでもっと掘り下げることがたくさんあるのですが。その反面、これだけの研究が世に出ないのも勿体ないと思います。原則教員養成科の卒業研究は呉竹学園の図書館でしか閲覧できません。持ち出し禁止。概要だけでも知ってもらえたらいいなと願っています。また卒業研究は流れがあり、先輩の研究から着想を得てテーマを決めることや追加研究をすることがままあります。点ではなく線でみたときにまた感じるものがあります。コロナ禍で被験者を集める研究がなかなかできなかった代もありました。今回私の他に卒業生が2名参加していたのですが、症例報告が1件もなかったことに驚いていました。また私も会場で述べたのですが実験計測機器の発達が目覚ましい。10年前では考えられなかったことが今はできる。あるいは大規模な高価な測定装置を持ちなくても簡便に非侵襲的に計測できるように。装置の進歩が研究内容を進化させていると毎年聴きながら実感しています。

 

毎年発表会を通じて得た幾つかの知識、技術から自身の臨床に落とし込むことにしています。更にもっと調べて私の武器として持てるように。事前に抄録を読み込むこと、当日発表を聴くこと、後日見直すこと。簡単ではありませんが自分の血肉になっていると思います。

 

甲野 功

 

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