開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
ある日のこと。治療院の携帯電話にヨーロッパのある国から着信がありました。普段は怪しい電話にはAIによる自動音声対応をすることがあります。ところが海外からの電話にはこの機能が使えませんでした。そもそも使用しているスマートフォンに海外からという表示が出ることが初めてです。海外の電話番号からの着信で出ると自動音声でアンケート調査をするフィッシング詐欺があります。疑ってかかり電話を取り、敢えて無言でいました。そうすると電話口でカタコトの日本語で明日の午前中に5名受けたいというのです。音が遅れている感覚があり、海外からの電話だと実感します。ヨーロッパにいて翌日の午前中に来院など時間的に不可能だと思いますし、午前中で5名というのも一人で運営しているので時間的に対応できません。午後から予約が入っています。何より英語が話せない(英検4級)私には非常に荷が重い。そもそもこんな話があるとは考えられないのでいたずらだと判断しました。当院のメールには頻繁に外国からの詐欺メールが届きます。アフガニスタンで戦った兵士だとか大富豪の遺産を想像して使い道に困っているという人から。それも英語で記載されておりGoogle翻訳で読むわけです。Googleは詐欺迷惑メールと判断しているもの。それと同じような事だと思いました。電話口でNoとはっきり言って電話を切りました。
翌日。院内で事務処理をしていたところ、突然チャイムが鳴りました。インターホンではない旧型の扉に付いたピンポンを押されたためモニターで確認ができません。扉を開けてみると2名の外国人が立っていました。スマートフォンの翻訳アプリで隣に住んでいる、マッサージを受けたい、ということが表示されていました。まさかと思いました。昨日の電話は本当?幸か不幸か時間は空いていたので院内を準備して招き入れました。雨が降る中、傘もささず立っていたことも不憫に思い。何より悪い人には見えず。ただ突然の来院と言語が通じない外国人ということに非常に焦りました。聞くと日本には旅行で来ていて京都に居てそのあと東京に来たとのこと。最近当院の数軒隣に民泊ができて外国人観光客が泊っているようなので、そこに滞在しているかと推測しました。母国を聞くとやはり昨日の電話と同じ国。携帯電話キャリアのせいか外国を経由して電話が繋がったのかもしれません。すぐそばに滞在していて看板や写真を見て来てみようと思ったのかもしれません。ほとんど推測なのはきちんとコミュニケーションが取れなかったからです。スマートフォンのGoogle翻訳を使えば良かったのですが気が動転して頭が回らず。
向こうの要望は一人がAcupuncture、もう一人がmassageでどちらもone hourということ。さすがにAcupunctureが鍼ということは私でも分かります、さすがに(繰り返しました)。一方、massageというのは当院いうオイルマッサージのことを言っているのかという確認をしました。日本ではマッサージというと衣服の上から押して揉む、あん摩マッサージ指圧師からみると按摩のことを一般的にいいます。また世間的には指で押すのは指圧という認識もあります。そういうことで当院では「按摩指圧コース」という名称にしています。対してあん摩マッサージ指圧師のいうマッサージとは世間ではオイルマッサージと認識しているものが該当します。エステの印象が強いことでしょう。そういうわけで当院では「オイルマッサージコース」と按摩、指圧と分けて設定しています。ここからは区別をはっきりするためにオイルマッサージをmassageと英語表記にします。
あん摩マッサージ指圧理論の教科書にはmassageは明治時代にフランスから軍医が日本に導入したと記載されています。大雑把にヨーロッパはmassageの本場と言えます。向こうの言うmassageは皮膚に滑剤(オイルやパウダーなどのこと)を塗って直接流すことをいうはずです。あん摩マッサージ指圧師でもmassageを本格的に行う先生はヨーロッパに渡って習いに行く人もいます。そのため私はヨーロッパの人が言うmassageは日本人が言うマッサージ(≒按摩、指圧)ではないだろうと考えました。その考えは的中してやはりmassageが希望でした。時系列が飛びますが、その日の施術後に明日の午前中もmassageを受けに友人が来るから予約をお願いねと言われました。
当院を開業して丸10年以上経ちますが、日本人で初めてでオイルマッサージ(massage)を希望する人はまずいません。元々知り合いだとか、同業者だとか、技術に興味がある人など関係性や事情がある人だけ。全く来たこともなく初めて私の手技を受けるのにmassageを選択することは非常に稀。ところがヨーロッパの方は初見でmassage希望。これはなかなかのプレッシャーです。例えていうと、日本人がアメリカに旅行して現地スタッフが握る寿司屋に入るような感覚。アメリカに行ったのにハンバーガーを選択せずに現地の人が握るお寿司を敢えて食べてみようという。私としては「本場ヨーロッパから日本に来た人が、日本人のmassageを敢えて受けるのか」という気持ちが芽生えるのです。それでも私もプロなのでやるしかない!という気合で臨みます。英語が拙い私は細かい会話ができません。先方も母国語は英語ではありません。会話がない分手の感覚と身体から発する情報を頼りにmassageをしました。
これまで外国人への施術は何度もありますがmassageをしたことがなく。鍼灸が按摩指圧では分からなかったことがありました。文化、風土、歴史などが影響します。中国を中心に韓国、日本と鍼灸が盛んになりました。アメリカでは骨格、関節の主眼を置いたカイロプラクティックらの手技が盛んに。ヨーロッパではmassage。それは何かしらの要因があるのでしょう。身体的、文化的、環境的に適していたという。鍼に注目すれば中国から日本に渡ると日本の気候や体質に合わせた技法が育まれました。中国の鍼と日本の鍼は形状も技術もかなり差異が生まれています。医聖ヒポクラテスもmassageについて言及したという記録があり、その頃から続くヨーロッパのmassageはどのような背景があったのか、思いを巡らせました。
あん摩マッサージ指圧師でも多くは按摩や指圧が主体という術者が多い中、ずっと練習と研究を重ねて来て良かったです。このような機会に巡りあい。また今年のテーマとして~按・マ・指を探求する~を掲げているのも奇遇で何か引き寄せたような気がします。貴重な体験を今後に活かしていきます。
甲野 功
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