開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
商売の基本というか原則は独自性があることです。誰でもできること、簡単に手に入るものは売れません。売れたとしても高く売れません。その人、そのもの、その場所、色々とありますが独自のものでないといけません。需要と供給で値段は決まりますから万人が求めていて(需要があって)、希少性が高いもの(供給量が少ない)がいいわけです。私の仕事は主に健康に関わること。誰でも体の不調を抱えているより、健康な方がいいです。疾病利得という言葉がありますが体調不良による何かしらのメリットがない限り、人は健康な状態を求めるものです。その健康を与えるという項目に対してどのような方法を持つのか。私は職業(国家資格)としてあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師がありそれらの職域でのことを行います。健康という大枠で言えば、サプリメント、スポーツジム、ヨガ、瞑想、食事、旅行、病院、薬など候補は多岐に渡ります。その中で私独自のものがないと売れません。売れるというのは患者さんが来てくれて私の技術・知識(施術など諸々を含めて)に対価を支払ってくれるということです。そこに独自性がないといけません。
独自性には広義と狭義があります。広義というのは他の職種やアイテムに真似できないという独自性。医者や病院にはないもの。マッサージ機器に代用されない技術。リラクゼーションサロンにはない知識など。他業種、他職種に対して独自であること。狭義というのは同業者から自分が選ばれるという独自性。当院のある東京都新宿区は現在保健所に登録されている施術所(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師が開設できる店舗、あるいは個人開業のこと)は900軒を優に超えて1000弱あります。これにリラクゼーションや保健所に届出を出していないモグリの同業を含めるとその数は膨大になります。当然新宿区以外も競合になりますから選ばれるのは大変なことです。都会はチャンスがある一方、ライバルの数も多いわけです。同業他者から選ばれる狭義の業界内での独自性が要るのです。この場合の同業というのはいわゆる医業類似行為全般で、医師を除いた健康に関することを提供する行為全てと言えます。
さて。改めて私が取得している国家資格が
あん摩マッサージ指圧師
はり師
きゅう師
柔道整復師
の4つです。この4資格の中で最も使えない(無くても影響がない)と考えらえていたのがきゅう師です。考えられていたと一般論にするのは失礼で、かつて私もそう考えていました。はり師、きゅう師と資格は分かれていますが一般的には鍼灸師として両方の免許を同時に取得して組み合わせて施術をします。灸に対して鍼の方が圧倒的に使用頻度は高く効果も即効性があると考えてきました。実際に免許を取ってから灸をする頻度は鍼やあん摩マッサージ指圧に比べると非常に少ないものでした。また江戸時代以前から我が国では養生といって自分で体調を整える考えが浸透しており、自ら灸を据えるという文化がありました。家庭で祖父母や両親が子にお灸を据える。お寺でお坊さんが檀家さんにお灸を据える。こういったことが行われてきました。昭和の中頃になり医療系国家資格としてきゅう師免許ができ、業務独占と言って免許を持たない者が業として(※反復継続の意志をもって行うことと法律で解釈されること)行ってはいけないことになりました。ところが灸は民間療法をとして根付き、言わば誰でも行ってきた風潮がありました。私はプロとして患者さんにセルフでお灸をしてくださいと指示するのは好みません。やり方を間違えると火傷や灸あたり、自宅のものが焦げるといった弊害が予想されます。何よりプロである技術を安売りしていないか?という考えがあります。医師が自分の患者に手術の仕方を教えて自分でやりなさいというでしょうか。糖尿病があり自らインスリン注射をしなければ命の危険があるというようなことなら別ですが。そして(敢えてこう表現しますが)素人ができるくらいなら他職種の医業類似行為者は俺でもできるよと勝手にやりだすでしょう。素人より医学知識があると自負している人なら。巷には家庭で行えるお灸グッズがたくさんあり、薬局で売っています。毫鍼(体に刺す鍼のこと)と違って誰でも簡単に買えます。そうなるときゅう師免許がなければお灸ができないという法律の制限(業務独占)は意味をなさず、4つの国家資格のうち最も価値のない免許になってしまいます。
このように考えていたのですが、近年考えを改めるようになりました。それは艾を捻って行う直接灸の技術を高めてきたからです。蓬(よもぎ)の葉を乾燥させて生成した艾(もぐさ)。それを捻って成形し艾炷(がいしゅ)という状態にして皮膚の上に置きます。そこに線香で火を点けて艾炷を燃焼させます。刺激量に合わせて加減します。これが直接灸というもの。間接灸という艾炷を直接皮膚に置かないやり方も存在します。直接灸には透熱灸や知熱灸、焦灼灸など刺激量に合わせた区別があります。そこは火傷と隣り合わせ。患者さんだけでなく術者であるきゅう師側も。燃えている艾炷を指で潰したり取り除いたりします。正直なところ熱いです。また火の点いた線香を扱います。相手の皮膚に付けることは問題外ですが、自身の体についてしまう危険性もあります。怖いです。
この直接灸。鍼灸専門学校で必ず練習します。入学して最初に苦しむのは艾を捻って艾炷を作ることではないでしょうか。初心者には体に鍼を刺すことよりも難しいと思います。学校で習いますが臨床に出て直接灸を使いこなせるきゅう師は多くありません。最初に書いたようにそもそも鍼ばかりで灸自体をあまりしない。灸をするにしても、製品化された灸(台座灸、棒灸、達磨灸など)を用いた間接灸や機械の温灸器、刺した鍼の柄に艾をつける灸頭鍼でするなど。きちんと艾を捻り線香で火を点けてそれを操作して刺激量を調整するというきゅう師は少ないです。
技術的に難しいだけでなく、臭いと煙という弊害もあります。線香は読んで字のごとく香がでます。艾そのものに匂いがありますし燃えるとその匂いが強く広がります。また煙も。線香とは煙が出るものですし、元々蓬の葉である艾を燃やせば当然煙が出ます。艾の等級にもよりますがたくさん煙がでます。煙が目に染みて涙が出る。息苦しい。臭くて匂いが取れない。そのような弊害が生じるのです。それも直接灸が敬遠される理由の一つ。棒灸や温灸でも煙が大量に出るものもありますが、スモークレスの煙がほとんど出ない製品もあります。少なくとも現時点でスモークレス艾というものは存在しません。直接灸をするなら臭いと煙はついてまわります。
技術面でいうと鍼灸も元々中国大陸から日本にもたらされたもの。現在も日本、中国、韓国が鍼灸3大先進国とされています。ところが中国、韓国では直接灸は廃れてきており、棒灸や灸頭鍼が灸術の主流となっていて艾を捻る直接灸はやらなくなっています。一説によればもう日本でしか艾を捻るお灸は残っていないとか。
このようにあん摩マッサージ指圧、鍼、灸でもやる機会が少ない灸において、さらに頻度がない直接灸。私も何年もやらずに済ませていました。しかし何年も臨床でできるレベルではないことにコンプレックスを抱えていて数年前からまた練習を始めて、他のきゅう師による直接灸を体験し、臨床で用いるようにしてきました。
そうなると、直接灸をする人が少ないので強い独自性がある、競合が少ない、そのように考えるようになりました。
まず技術的に高度であるから他職種の人が真似できません。残念ながらきゅう師免許を持っていない人が平気で他人に灸をしたり、セルフケアで灸をさせたりしている場合があります。それが行き過ぎて、灸は誰でもやっていい、鍼灸師だって素人に進めているじゃないか、という思考になっていきます。柔道整復師や理学療法士がしたり顔でお灸を語っている姿を目にするとあれあれという気持ちになります。更には鍼だって刺さない鍉鍼なら誰でもできますという風潮になり、女性雑誌の付録に鍉鍼が入っていることもありました。酷い例ですとはり師免許なしに毫鍼を刺していることも。毫鍼は管理医療機器なので医師、はり師以外には売ってはいけないのですが。医療廃棄物としてきちんと処理しないといけませんし。あん摩マッサージ指圧に関しては言わずもがな。このような状況を考えると直接灸ができるきゅう師は真似されません。簡単に真似できません。相手だけでなくやる方も火傷の恐怖を伴います。
そして広い目でみると中国、韓国の鍼灸師とも差別化ができます。もちろん直接灸ができる方もたくさんいるのでしょうが、トータルでは少ない。世界で日本の技術を売るという観点を持つと直接灸は効果的。日本人の技術があるからできるという打ち出し方ができるでしょう。需要がないだろうという考えもあるでしょうが、世界規模で考えると日本独自(日本人しかできない)という部分に価値を見出す人の数はある程度いるのではないでしょうか。
多くのことが器械で代用できるようになり、生成AIの発展によりパソコン上のコンテンツは素人でもそれなりのものが作れるようになり。独自性が急速に消えていくように感じます。この場合の独自性とは商売として役立つという意味で。アナログで原始的な手を使った対人サービスは商売(職業)としてかなり残ると思います。そのときに直接灸の技術があるきゅう師というのは有利になるのではないかと考えるようになりました。
甲野 功
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