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結局、医業類似行為とは何か?という問い。前回の①同様に全日本鍼灸学会雑誌に掲載された論文『医業類似行為とは何か』の内容を紹介しつつ、最新の学説として医業類似行為とは何かについて考えていきます。
全日本鍼灸学会雑誌2024年74巻2号 p. 108-115 医業類似行為とは何か
おさらいですが補足しておきます。全日本鍼灸学会とは、正式名称を公益社団法人全日本鍼灸学会といい、業界国内最大級の鍼灸系学術団体組織。鍼灸に関する様々な研究・論文発表事業などを実施しています。昭和23年(1948年)に前団体が設立、昭和55年(1980年)以降、現在の形になります。雑誌に掲載される論文は査読審査を通過したものだけで、個人の意見や感想とは異なります。全日本鍼灸学会は公益社団法人ですから公的な研究発表でありある。それに伴い社会的責任が生じるのです。本論文の著者は順天堂大学大学院医学研究科の柴田泰治氏と東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科の谷口博志氏。教育研究機関である大学の先生です。
この論文では2つのポイントがあります。
1.医業類似行為は何か
2.あはきは医業に含まれるのか
「あはき」というのはあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の頭文字で国家資格およびその技術を指します。あはき法と言われるあはきを管轄する法律が存在しています。あはき法が成立した昭和23年当時は柔道整復師も同じ法律でした。つまりあはき柔整法と言われていました。昭和20年の終戦により大日本帝国憲法から日本国憲法に切り替わるにあたり法律も新たになります。その後40年あまりの昭和時代の社会環境に影響を受けながら令和の現在に至ります。そのため制定時に想定していた法律内容が現在にそぐわないこともあります。そして令和の現在も『あはきは医業に含まれる(すなわち医業類似行為ではない)』という主張をする人間が存在します。それが「2.あはきは医業に含まれるのか」というポイントです。前回の文章①ではこのあはきは医業に含まれるかを中心に本論文を紹介しました。あはきは医業に含まれず“基本的に”医業類似行為である。それが本論文の結論です。では医業類似行為というものは何かという話。それが「1.医業類似行為は何か」という論文のタイトルと同じポイントになります。そもそも医業類似行為とは何なのか。そのことを本論文内容をピックアップして紹介していきます。
本論文では
『あはき法について整理すると、あはきを含む医業類似行為を原則的に禁止しつつ、あはきについては免許の取得により例外的に許可し、その施術の範囲について規定している。そもそも、あはき法で適法となる医業類似行為はあはきのことを指しており、それ以外の療術は一律に禁止するのがそもそもの立法意図だったと推察される。』
とあります。これはあはき法第12条のことを指しています。つまりあはき医業類似行為であり、医業類似行為は禁止行為でらあるのだが、免許取得することであはきだけは例外的にやっても良いと許可するという立法時の意図だったと推察するという。あはきは医業の限定解除だ(つまり、医業の中の一部分を医師免許が無くてもあはき免許を持てば限定的に許可するもの、という解釈)という考えと逆であはきは医業類似行為であり免許を持てば例外的に許可するという考えと言えるのではないでしょうか。
本論文ではこのように続きます。
『そして、制定当初の経過措置規定はあくまでも免許制度ができたことによって無免許・違法となる、すでに開業していたあはき師のみを対象とする救済規定であったのではないだろうか。しかし実際の法運用で、本来禁止されるべき民間療法が、届け出によって合法とされた。さらに最高裁判決で、憲法で保障されている職業選択の自由との抵触から、違法医業類似行為は人体に悪影響を及ぼすものに限定すると判示されたと考えられる。』
昭和中期の届出医業類似行為者、昭和35年のHS式無熱高周波事件における最高裁判決で違法となる医業類似行為は“人体に悪影響を及ぼすもの”に限定されることになったのではないかと述べています。
よって今現在の医業類似行為の構造は以下の3つだと述べています。
Ⅰあはき→合法
Ⅱあはき以外の施術で無害なもの→合法
Ⅲ有害なもの→違法
あはきはもちろん国家資格ですから合法。あはき以外の医業類似行為においても人体に無害なものは合法。そして人体に有害なものはあはきであるなしを問わず全て違法であるということ。
次に医業類似行為と対となる医業との対応はどうか。本論文では法律の文言から以下のように述べています。
・医業:医師のみが行える行為。
・医業類似行為:医師以外の者が行う行為。
あはき業は医業類似行為に該当しますが医師が行っても構わないことがあはき法に示されていますが、行為を行う者が医師と医師以外という区別を示しています。
さらに医業類似行為には、“法律によって認められたもの”と“禁止されているもの”に分けられると本論文で述べています。
●法律によって認められた医業類似行為:あはき施術、靭帯に悪影響を及ぼさない施術
●禁止されている医業類似行為:人体に悪影響を及ぼす施術
医業類似行為において、このような区分を示したのは、私の知識の中では初めてのことです。広義の医業類似行為と狭義の医業類似行為という区分は聞いたことがあったのですが。認められているか、禁止されているか。これまで無かった視点です。
加えて本論文では“強引に定義してみるとすれば”と断りながらも医業類似行為の定義について考えを示しています。
★医業類似行為の定義についての考え:治療目的で行われる行為のうち医行為でないもの
これは言葉の意味に近い定義だと感じます。医行為を業とすることが医業。医行為の目的は当然治療にあるわけです。そうなると医業に似て治療を目的としてはいるが医行為でないから医業類似行為。また医師以外が行うという点を加味しても(医行為はもちろん医師でしかできない)。
さらに本論文の結語において医業類似行為の定義をより細かく提案しています。その定義内容は
『医師以外が治療目的、つまり病からの回復、病の回避、また健康の増進のための施術で、かつ医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼす恐れのある行為全般』
としています。★で示した定義についての考えに条件を加味しています。安全を担保しなければならない。これが現時点での有識者が導き出し、鍼灸業界国内最大学会の査読を通った論文の、医業類似行為の定義の一案です。
これまで多数の文献や情報を見てきましたが時代とともに医業類似行為の内容は変化しています。名称そのものも変わってきたという情報もありました。ですから絶対的な答えではなく、これが正解とはならないでしょうが、個人的に納得できる定義です。
そして『医療におけるそれぞれの資格に合わせた境界を設定し、それを実施できるものを明確に規制することで、医業類似行為の安全性が担保されるものと示唆される。』と安全面について意見を述べていて、職域を守ることが重要だという考えが見受けられます。
医業類似行為とは何か。非常に困難な問いです。それは時代とともに内容が変化しているのに名称が変わっていないからなのかもしれません。戦後すぐの昭和20年代から令和現在までの約80年間で社会環境が大いに変わりました。法律の文言は簡単に変えられないので法解釈や判例によって医業類似行為の定義が変化してきたと思われます。そして行政(厚生労働省などの省庁や国会)が定義を示したとしてもそれに従わず、各時代の都合の良い解釈を採用して主張することも見受けられます。ひとまず有識者による研究によって
<医業類似行為とは、医師以外が治療目的、つまり病からの回復、病の回避、また健康の増進のための施術で、かつ医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼす恐れのある行為全般>
という考えが示されました。
甲野 功
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