～京都　御髪神社～

京都の混雑を紹介するときに清水寺と並んで出てくるのが嵐山。渡月橋や天龍寺付近を中継していることをよく見ます。嵐山エリアは確かに大人気ですが、少し外れると自然豊かで興味深いところがたくさんあります。その一つが小倉池と御髪神社。御髪神社について紹介します。

御髪神社 | 日本で唯一の「髪」の神社（嵯峨嵐山）

御髪神社は（みかみじんじゃ）と読みます。その名前の通り、神ならぬ髪の神社です。場所は嵯峨観光鉄道トロッコ嵐山駅のすぐそばにあります。京福嵐山線嵐山駅からだと徒歩１５分、ＪＲ嵯峨嵐山駅からなら徒歩２０分、阪急嵐山駅では徒歩２５分。中心部から歩きます。ただ嵯峨嵐山駅から歩くと途中有名な竹林と野宮神社があるので散歩にいいルートです。竹林を超えると右側に池があります。小倉池。そのほとりに少し上がったところにあるのが御髪神社です。京都にある他の神社に比べると非常に小さく、一般的な神社の境内にある末社、摂社くらいかもしれません。単独の神社としてはかなり小規模です。中には社しかないものもあるので比較すれば小さいということです。

御祭神は藤原采女亮政之（うねめのすけまさゆき）。神社は実在した人物を死後、神様として祭ることがあります。菅原道真を祭った天神社、徳川家康を祭った東照宮など。藤原采女亮政之も実在した人物です。私は日本史に詳しい方だと思っていましたが聞いたこともありませんでした。藤原政之とはどのような人物だったのでしょうか。亀山天皇の時代（１２５９～１２７４年）に京都御所の警備役をしていたかの有名な藤原鎌足の子孫である藤原基春。彼は宝刀『九王丸』が紛失した際に責任をとり、浪人となります。基春は宝刀捜索のために諸国行脚の旅に出るのですが、彼の三男である政之が同行します。親子は宝刀の国外流出を防ぐために下関に居を構えます。このとき政之はすでに髪結職で高い収入を上げていた新羅人に技術を学び、武士らを相手にした髪結所を開くのです。店舗には床の間があり、亀山天皇を祭る祭壇と藤原家の掛け軸があったといいます。このことから「床屋」と呼ばれるようになったとか。これが現在の理髪店、床屋の発祥と言われています。そして政之が髪結業の始祖とされます。弘安１年（１２７８年）に父基春を亡くすと弘安４年（１２８１年）に政之は幕府のある鎌倉に移ります。建武２年（１３３５年）に政之は亡くなりますが、髪結いの技術が評価され亡くなるまで幕府で重宝されたといいます。その功績により従五位を天皇より賜ります。明治時代末期には長野善光寺に墓碑が建立され、昭和の初めまで全国の理・美容業者は敬髪と始祖のご冥福をお祈りするため、政之の命日の１７日を毎月の定休日としていました。

このような髪結いの祖といえる藤原政之を祭ったのが御髪神社。彼ら親子が仕えた亀山天皇の御陵に近い京都嵐山に神社が建立されました。現在でも理髪業者の信仰が篤いたといいます。決して広くない境内には髪を納祭する髪塚があります。転じて化粧品、洗髪剤、育毛剤、カツラ等毛髪にたずさわる業種にも信仰されています。

日本唯一の髪に関する神社。日本語はダジャレというか音から異なった漢字をあてることが往々にしてあります。髪は神に通じる。神社にとって神様と髪様で同音であることは大切なことでしょう。

個人的には薄毛が気になるのでご利益にあやかろうと参拝しました。祖父も父も髪の毛が無かったです。祖父は私が生まれる１３年も前に亡くなっていたので遺影でしか姿を知りません。その姿は髪がありません。今年亡くなった父親も私が物事ついたときには髪が無くなっていました。昔の髪の毛がある写真を見ると違和感を覚えるほど。遺伝的に髪の毛が無くなることは幼少期から意識していたのでずっと懸念しています。むしろこの年までこれだけ残っているのはずいぶんと遺伝に抗っていると思っています。

またこれも余談ですが御髪神社のホームページには東洋医学に関わることが記載されています。「髪は血なり」という言葉。東洋医学では髪は血（けつ）の余り、すなわち「血余（けつよ）」と称します。血の巡りが悪くなると髪に出るという考えあります。現代医学的には間違っていると言えますし、適応される部分もあるでしょう。髪を豊かにするには五臓の食べもの「五味」の調節をしましょうとホームページにあります。五臓とは東洋医学の用語で肝・心・脾・肺・腎の５つです。解剖学としての肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓とは少々違います。そして五行色体表といってそれぞれ青、赤、黄、白、黒の色が配当されています。ホームページでは黒を紫色にしていますが五色の食べ物とその養う力を掲載しています。東洋医学を扱う鍼灸師としてはとても親近感がわきます。

京都にあってほとんど知られていない神社でしょうが業界内では信仰篤い神社。嵐山散策で人混みを避けたいときにとても良い場所です。

甲野　功

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