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昨日NHKのニュースで和歌山県の整骨院元経営者が療養費詐欺の疑いで起訴されたというニュースがありました。
和歌山 NEWS WEB 和歌山整骨院元経営者が療養費詐取か 被害額2810万円余 07月10日 18時23分
私も柔道整復師ですので不正請求の知識があります。15年前柔道整復専門学校の学生だった頃から横行していました。その後、摘発や制度改定により療養費を不正に請求する、いわゆる不正請求はかなり減ってきていると思っています。不正請求ができないシステムになってきているので。今回のニュースを知ってまだこのようなことがあるのかということに驚きました。被害総額2810万円という金額も。昔は個人で億単位の不正請求被害があったこともありますが、ここ数年は被害額は数万から数十万くらいのものが報道されていました。数千万単位の金額が被害であることに目を見張りました。また報道内容をしっかりとみると私が知っているものとやや事件内容が異なると感じました。
まず重要なことは逮捕、起訴されたのが元整骨院経営者。おそらく柔道整復師ではないでしょう。非柔道整復師が逮捕されたということ。柔道整復師でないと考えられるのは、70代の柔道整復師と共謀した、と報道にあること。柔道整復師法は身分法ですので元整骨院経営者も柔道整復師免許を持っているなら報道に出ると思われます。わざわざ、柔道整復師と共謀して、とあるのは本人が柔道整復師ではないことがうかがえます。そして共謀した70代の柔道整復師は書類送検とあり、すなわち逮捕されていないことが分かります(今後、逮捕になるかもしれませんが)。柔道整復師ではなく経営者が逮捕されるというのは珍しい。というより私はこれまで聞いたことがありません。
事件のあらましは報道内容を読むとこのようになっています。和歌山県で整骨院を経営していた被告。その整骨院で実際に施術していないのに推定2020年4月から2023年10月までの3年半の期間に和歌山県岩出市に対して44回の虚偽申請(不正請求)を行い、96万円をだまし取ったとして詐欺罪で起訴されました。このとき柔道整復師の男と共謀したとあるので療養費請求業務はこの男が行ったのでしょう。状況を説明すると、整骨院(接骨院)は柔道整復師が開設する施術所です。保健所に申請(開設届)を出して、保健所職員が現場の調査(臨検)を行った上で認められる施設です。柔道整復師免許を持っていない者が経営者(オーナー)になることはできますが、開設者は柔道整復師でないといけません。そして整骨院(接骨院)で柔道整復師が施術する際に、急性外傷(具体的には打撲、捻挫、挫傷、骨折、脱臼)の処置に関しては健康保険から療養費を患者さんの代わりに請求することができます。これを受領委任払いと言います。保険証が3割負担であれば3割の実費を整骨院に支払い、残りの7割を柔道整復師が保険者(地方自治体や健康保険組合など)に請求して後で入金されるのです。患者さんがまず全額(10割)を整骨院に支払い、その後患者さん自らが保険者に請求して7割分を返金されるやり方を償還払いといいます。報道内容から受領委任払いを用いたはずです。そうでないと被告が請求することができませんので。このときレセプトと言われる療養費申請書類を作成するのは柔道整復師になります。柔道整復師でないと作成できません。しかも現行のルールでは施術管理者である柔道整復師でないとできません。単に柔道整復師だけではできなくて施術管理者の資格を持っていないといけません。共謀した70代の柔道整復師は施術管理者であったはずです。年齢から推測してもベテランだったのではないでしょうか。今は施術管理者になるには数年かかります。制度ができる前から保険請求業務をしていた柔道整復師は、条件によりますが、簡単な申請で施術管理者になれました。
被告は療養費を虚偽の申請でだまし取ったという詐欺の罪で起訴された。だまし取った、すなわち詐欺。これが柔道整復師であると柔道整復師法違反があります。被告は柔道整復師ではないので柔道整復師法違反が入っていないのではないかと思われます。一方、共謀した柔道整復師の方は柔道整復師法違反疑いがつくのではないかと予想されます。書類送検ということですが違反内容が掲載されていないので分かりませんが。柔道整復師は書類送検で経営者が起訴ということは確実に経営者の方が悪質だと判断されていることでしょう(報道の時点では)。そうなると経営者が実質保険請求を行い、共謀した柔道整復師は名義貸しをしていただけなのではないでしょうか。施術管理者として登録してその者の印鑑を押してしまえば誰が内容を作成したのかは分かりません。印鑑を押しているということは施術管理者の責任で作成したと示しているわけですが、本当のところは経営者の方だったのでは。
そして岩出市に対してとあるので国民健康保険での請求だったことが分かります。企業だったら協会けんぽや健康保険組合などが申請先になります。まず岩出市が不正請求でないかと疑い調査をして発覚したのでしょう。起訴まで行っているので証拠が出ている。更に捜査を進めたところ和歌山市や全国健康保険協会などにも不正請求をしており、被害総額は96万円から2810万円に膨れ上がった。そこで検察に追送検したというわけです。岩出市以外の地方自治体(市町村)や企業にも不正請求をしていたということ。よく発覚せずにできたと思います。
ここで考察するのは誰が不正請求の仕方を指南したのかということ。業界のシステムに詳しくないとできるはずがありません。現場にいた私も制度を理解するのに非常に苦労しました。素人にはできません。だからこそこの手の事件で逮捕されるのは柔道整復師ばかりでした。非柔道整復師が逮捕されるケースは柔道整復師にそそのかされて不正請求に加担した場合です。共謀したのが非柔道整復師で主犯は柔道整復師。このパターンばかり。ところが本件は非柔道整復師の元整骨院経営者が主犯で柔道整復師が共犯という図式です。起訴された被告の名前を調べると和歌山市で居酒屋を経営していたようです。ローカルニュースが出てきました。おそらく本当に経営だけで施術者ではなかったのでしょう。そうなるとなおさらどうやって療養費をだまし取るという発想になったのか。制度を分かっている者が教えないとできないはずなのです。そして共謀した柔道整復師もおかしなレセプトだったら止めるはずです。自分の名前で書類が書かれているのですから逮捕されるリスクがあるわけです。分かった上で申請していたら、相当な無知かどうせばれないだろうと楽観視していたかのどちらかでしょう。経営者側が起訴までされて、柔道整復師は書類送検ならばやはり内容を知らなかったのだと私は推測します。
これまで何件も整骨院の不正請求に関する報道を取り上げてきましたが、ちょっと様子が違う感じです。マイナ保険証が進み不正請求が発覚するリスクは非常に高くなっていて、もうやる人はいなくなるだろうと思っていたので。柔道整復師の出来心からではなく、一般人に指南してやらせたのではないか。そのような疑念を抱いてしまいます。過去には反社会的勢力が柔道整復師に不正請求をさせて資金源にしていた事件があったので。
甲野 功
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