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~富山県警巡査部長、接骨院共謀不正請求事件~

チューリップテレビホームページより 巡査部長、接骨院と共謀し通院日数 水増し約4年間…施術代不正請求で停職6か月、依願退職 富山県警より
チューリップテレビホームページより 巡査部長、接骨院と共謀し通院日数 水増し約4年間…施術代不正請求で停職6か月、依願退職 富山県警より

 

 

昨日、以下のような報道が出ました。

 

チューリップテレビ

巡査部長、接骨院と共謀し通院日数 水増し約4年間…施術代不正請求で停職6か月、依願退職 富山県警

 

専門用語が多数出てくるので業界の事情や背景を説明していきます。

 

まず厚生労働省が管轄する医療系国家資格が複数存在します。その筆頭は医師免許でしょう。いわゆる医者です。病院、クリニックらの医療機関で患者さんの治療全般を行います。他には歯科医師もあります。医師免許と歯科医師免許は別になっており、国家資格も異なります。歯医者と医者は似ているようで別物です。歯医者も歯科クリニックなどで歯の治療を行います。似たようなものに口腔外科医があります。歯だけでなく口の中全般の外科治療を行います。ちなみに私が人生で唯一救急車で搬送されたときは口腔外科にお世話になりました。話を戻して医師、歯科医師以外にも看護師薬剤師理学療法士作業療法士言語聴覚士診療放射線技師臨床検査技師臨床工学技士などがあります。これらは医療機関等で医師の指示の下、専門の医療業務を行う職種です。原則開業権はなく、独自の判断で患者さんに医療行為を行うことはできません。例えば薬の知識があっても薬剤師が処方箋(医師が指示したもの)なしに勝手に調剤して薬を渡すことはできません。看護師が点滴、注射の知識・技術を持っていても独自の判断で患者さんに投薬することはできません。

 

そして私の持つ国家資格があん摩マッサージ指圧師はり師きゅう師柔道整復師です。この4つの資格は歴史的背景もあり、特例で法的に開業権が認められています。法的には施術所と言われる、マッサージ院、鍼灸院、接骨院らを開業し、独自判断で施術を行うことが認められています。医師法には、医師免許を持たない者が診断をしてはならない、と決められているので患者さんに“診断”はできませんが、医師の指示を受けず独自の“判断”で施術をすることが認められています。医師、歯科医師を除いて施術所を開設できる(開業できる)稀有な国家資格です。私の場合、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅうの3つで施術所(すなわちあじさい鍼灸マッサージ治療院)を開設(開業)しています。柔道整復は入れていません。柔道整復は前者3つとは別の施術所区分になるので別途開設届を出して別店舗にしないといけません。例えば「あじさい接骨院」のように。

 

柔道整復師が開設する施術所を接骨院といいます。整骨院は通称で法的には屋号として認められていないのですが多くの柔道整復師が採用されているので既存のものは目をつぶるという状況です。この接骨院ですが急性外傷(具体的には脱臼、骨折、捻挫、打撲、挫傷)については療養費を利用することができます療養費とは健康保険から出されるもの。病院にかかると治療費全額の窓口負担1~3割を支払い、残りの7~9割を保険者が負担します。保険者とは保険証を出している団体で地方自治体、企業、共済などです。窓口負担の割合は様々で後期高齢者になると1割ですが高所得だと3割に。小児、児童は3割負担ですが自治体によっては窓口負担分を自治体が負担してくれるところが多いです。それにも地域差があり、私の住む東京都新宿区は中学生まで医療費の窓口分を新宿区が負担してくれますが、埼玉県だと小学校までとか。つまり柔道整復師の接骨院では保険証が使えるということです。

ただし保険証が使える(=療養費が使える)というのは急性外傷のときだけ。慢性的な疾患には使えません。また脱臼、骨折においては応急処置はできますが、その後の処置(後療といいます)を継続的に行うには医師の同意が必要です。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師も療養費を利用できますが条件がそれぞれ異なります。しかし一様に医師の同意がなければ療養費を使うことはできないのです。言い換えると接骨院の捻挫、打撲、挫傷に関しては医師の指示がなくても療養費を使えるということです。ここがまずポイントです。接骨院にかかって捻挫、打撲、挫傷の場合であれば医師の指示がなくても保険証を出せば窓口負担だけで患者さんが支払う額は済むというわけです。

 

続いて。療養費が使えると書いてきましたが、柔道整復師においては正確には療養費を請求できるということです。医師は療養費を使えますが柔道整復師は療養費の請求ができるのであって、自由に使えるわけではありません。接骨院の療養費請求には受領委任払い償還払いの2種類があります。受領委任払いは患者さん本人の代わりに柔道整復師が書類を作成して保険者に療養費を請求するやり方。償還払いは患者さんはいったん全額接骨院に料金を支払い、自ら書類を作成して保険者に請求をして一度払った療養費を返金してもらうというものです。償還払いでは患者さんが一度全額負担し、自ら申請書類を作成し保険者に保険負担分の療養費を請求します。書類が受理されて返金されるのに数か月かかることもあり、患者さんの負担が大きいのです。受領委任払いは請求業務の代行を柔道整復師が担う形で患者さんは窓口負担分を支払うだけ。後の請求業務は柔道整復師が行ってくれるので楽です。

受領委任払いは患者さんにとってメリットが大きいのですが、請求業務をする柔道整復師が不正請求をしてしまうデメリットがあります。申請書類は専門用語で書かれていて初見料、電療、温罨法、冷罨法など聞きなれない言葉がたくさんあります。医学知識が無ければ内容を理解できないし計算もできません。何よりその書類を目にすることはなかなかありません。あったとしても何が書かれているのか分からない。そこで柔道整復師が書類を不正に作成して療養費を請求するという事態が起きうるのです。これが何年も前からずっと問題になっている柔道整復師の療養費不正請求です。

 

ここから本題のニュース内容に話を戻しましょう。富山県警の警察官、男性巡査部長40代は知り合いの接骨院経営者と共謀して療養費を不正請求していました。それが発覚したというニュースになります。

まずどのような不正請求をしたのか。実際には通院していないのに書類上は当該接骨院を通院したということにしました。そうすれば接骨院側に窓口負担分の収入はありませんが保険負担分の療養費が支払われるのです。何もせずにお金が入ってくるのです。具体的なやり方は報道によると、2020年2月から2024年3月までの期間に通院日数を水増しした書類を7回作成して療養費を騙し取ったといいます。

 

富山新聞DIGITAL 富山県警巡査部長、詐欺疑い 保険金水増し請求、書類送検

2025/8/22 05:00

 

別の報道ではより正確な金額で出ており、虚偽の書類により5万3095円を接骨院院長の口座に振り込ませたとされています。最初の報道では接骨院経営者と共謀したとあり、こちらのものでは接骨院院長としています。このことから院長兼経営者(オーナー)ということでしょう。この業界、ほとんどの施術所は院長が経営者を兼ねています。私もあじさい鍼灸マッサージ治療院の院長であり経営者になります。つまり請求業務を行える柔道整復師と富山県警警察官巡査部長は共謀したわけです。7回の不正請求ですが、通常は月単位で療養費請求をするので水増しした日数は合計57日間だそう。単純に割るとひと月に7~8日間接骨院に通院していないのに通院したと嘘をついたことになります。

 

ではなぜこのような不正を働いたのでしょうか。院長側は単純にお金儲けが動機と考えられます。報道によると『院長だった男』とあり既に接骨院を閉鎖しているか院長職を辞していると思われます。この元院長は8月15日に別の詐欺罪で起訴されています。起訴ということは捜査が進み証拠が固まったとことです。また他の患者と共謀して同様の不正請求をした疑いがあり富山県警が捜査しているとの報道があり、常習者のようです。発覚したのは別件の詐欺容疑で捜査している過程で巡査部長の存在が出てきたのかもしれません。

巡査部長は元院長とは旧知の仲だったそう。「捜査協力をしてもらっていたこともあり安易に協力してしまった。」と話しています。不正請求の協力といっても、元院長が通院回数を水増しした書類を問題なしと署名(サイン)しただけだと思われます。この協力に対して巡査部長は金銭などは受け取っていないと報道されています。巡査部長は7月11日に書類送検されるも、7月31日に地検は不起訴処分とします。そして巡査部長は8月21日付けで辞職願を出してそれが受理されて依頼退職しました。停職6カ月の懲戒処分を実行されなかったわけです。

 

これが事件の顛末なのですが、いかがでしょうか。警察官が不正請求の片棒を担いだというのは問題です。違法行為を取り締まる側ですから。ただ金額にして5万3095円。これだけの金額かと思いませんか。元巡査部長は何も見返りを受けていませんし。ここで私が取り上げるのはこの事件が重要な意味があるからです。

これまでに柔道整復師による療養費不正請求時間はたくさんありました。発覚したものだけでもかなりあります。過去には個人で数億円もの療養費を騙し取った事例もありました。こういっては語弊がありますが、以前はみんな多かれ少なかれやっていたと思います。私も柔道整復師ですから業界内の情報は入ってきます。不正請求をしても警察の捜査が及ばない、相手にしていなかった現状でした。それが変わるきっかけの一つと考えられるのが平成27年(2015年)に起きたいわゆる暴力団による接骨院療養費搾取事件。警視庁が発表している「平成27年の暴力団情勢」という資料に内容が出ているのですが、接骨院での療養費を不正請求により搾取し、それが暴力団の資金源になっていたというもの。それまでの不正請求は警察生活安全課の担当でしたが、この事件は警視庁組織犯罪対策4課(当時)が捜査しています。暴力団の資金源になっていることは看破できませんから警察も療養費不正請求に対して目が厳しくなります。これ以降捜査が厳重になり、少額の不正請求でも逮捕され報道されるようになったと私は感じています。

 

更に問題は療養費の請求先が警察共済組合県支部であること。企業や地方自治体ではなく警察の共済組合です。警察官の給与から天引きされた保険料を運営する組織。そして警察官は公務員ですから元は国民の税金。警察組織から療養費を騙し取ったというのは社会的なインパクトがあります。不謹慎な話ですがよくもまあ警察共済から不正請求をしようと考えたものだと、柔道整復師の立場から思います。もちろん共謀する警察官がいたから実行したのでしょうが。報道では首席監察官が「警察官がこのような事案を起こし、誠に遺憾であり、県民の皆さまに深くおわびする」とコメントしたとありますが、大いに納得できます。

 

実際のところ柔道整復師の療養費不正請求はかなり減っています。施術管理者要件というものができて以前のように療養費を簡単に請求できなくなっています。また保険者が受領委任払いを認めず償還払いを指示することもあります。まだやっているの?という感想を持ちます。今回は警察官が関与し、警察共済組合から騙し取ったということに注目しました。この報道が周知されて、不正請求をしないことがより当たり前になっていくことを願います。

 

甲野 功

 

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