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~あはき免許取消処分に異議申し立てをした事例~

令和5年度諮問第84号(令和6年3月14日諮問) あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師免許取消処分に関する件 より
令和5年度諮問第84号 あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師免許取消処分に関する件 より

 

 

私は厚生労働省が管轄する国家資格として

あん摩マッサージ指圧師

はり師

きゅう師

柔道整復師

の4つを取得しています。これらは免許であり4つの免許があることで業務を行うことができています。あじさい鍼灸マッサージ治療院は最初の3つ(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師)の免許による施術所(法律上の用語)です。所轄の保健所への届け出(開設届)が必要で<あん摩、はり、きゅう>の区分で所在地である東京都新宿区に登録されています。柔道整復師の免許では届け出はしていません。よって柔道整復師の施術所である接骨院ではありません。柔道整復師免許はありますが<柔整>の施術所は行っていません。新宿区施術所情報は新宿区ホームページで公開されており、区分も公表されております。

 

さて私はよく業界の情報を紹介しております。逮捕、裁判といった事件も。私のもつ国家資格としては柔道整復師の逮捕が非常に多いです。報道されているものだけを紹介しているので、実際にはあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の逮捕例があるのかもしれませんが分かりません。柔道整復師の逮捕例は療養費の不正請求が圧倒的に多く、窃盗や薬事法違反、ストーカー行為など本業と関係のない犯罪もあります。はり師は外傷性気胸という肺に鍼を刺してしまって肺に穴を開けてしまう過誤が大きな問題になります。あとは折鍼といって体内に刺入した鍼が折れてしまい体内に留置してしまうもの。これらは医療過誤の分野となり故意の犯罪とは状況が異なります。鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師で逮捕事例が一番多いのはわいせつ行為だと言われています。これはある損害保険会社の情報なのですが、20年業界にいてそれは正しいと経験上思います。

 

今回紹介する事例はわいせつ行為によりあはき免許(あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師免許)を取消処分になった者が異議申し立てを起こしたものです。以下の答申書にその内容が記載されています。

 

あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師免許取消処分に関する件

 

諮問番号が「令和5年度諮問第84号(令和6年3月14日諮問)」で令和6年4月18日付け。去年のものです。事件名が「あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師免許取消処分に関する件」で、審査庁は「厚生労働大臣」となっています。あはき免許取消処分を受けた審査請求人が厚生労働省大臣に対して審査請求を求めました。その答申です。

 

本答申書から事件のあらましを説明します。審査請求をした者は昭和52年に地方自治体知事から、あはき免許を受けました。現在は厚生労働省大臣が認定する国家資格ですが昭和52年(1977年)当時は地方自治体が認定する免許でした。現行の法律では国が認めた養成施設(専門学校、視覚支援学校、大学など)で3年以上の勉強をした上で年に一度の国家試験に合格し、厚生労働省の名簿登録されることであはき免許が効力を発揮します。法律用語で業務独占という国家資格であり、医師を除き、あはき免許を持たない者があん摩マッサージ指圧、鍼灸を業として行ってはいけません。普通自動車運転免許が持たない者が公道で自動車を運転できないのと一緒です。業とするというのは「反復継続の意志をもって行うこと」と解釈され、業務として行ってはいけないということです。行為自体は禁止されておらず、自動車の運転も教習所内なら自動車を運転しても違法行為になりません。あはき免許も同じです。

あはき免許を所得するための要件が法律で決まっているのですが、反対に取ることができない要件(欠格事由といいます)も法律で規定されています。また免許を取得したあとも欠格事由に抵触した場合は厚生労働省大臣の判断で免許取消や業務停止の命令を出すことができます。判断するのは厚生労働省大臣(厚生労働省)です。

 

本件の審査請求人は自身が経営する施術所に来院した女性患者4名に対してわいせつ行為を行い、令和4年地方裁判所で判決により懲役2年6月、執行猶予4年の有罪判決を受け、同年刑が確定します。当時の容疑は準強制わいせつです。関連法律であるあはき法(あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律)では罰金刑以上の刑を受けた者は厚生労働省大臣の判断で免許取消処分になることがあると規定されており、厚生労働省(厚生労働省大臣)は被告(=本件審査請求人)のあはき免許取消処分を令和5年にします。免許取消処分を不服とした被告が厚生労働省大臣に対して免許取消処分を取り消す審査請求をしたのでした。

 

審査請求人の状況を詳しく説明します。免許取消処分を受けた被告、本件審査請求人は両目視力0の視覚障害者です。弱視や視野欠損ではない全盲という状態。身体障害者障害程度等級表1級の身体障害者であります。日本では江戸時代以前から視覚障害者(当時は盲人といった)の生業としてあん摩、鍼、灸、楽器演奏がありました。特にあん摩は視覚障害者にとって数少ない仕事であり、楽器や鍼よりも習得が容易でした。そのため昭和中期くらいまでは視覚障害者の人を“アンマ”と呼ぶ風習がありました。審査請求人も視覚障害者として視覚支援学校(当時は盲学校と呼ばれていたと思われます)で習得しあはき免許を取得したものかと想像できます。審査請求人は約45年以上にわたり主に鍼灸師の業務に従事していました。視力0で鍼灸をすることは簡単なことではありません。相応の技量があったと、同業者の私には感じます。また約40年以上、自身で施術所を経営していました。大ベテランといえます。そして審査請求人はこのとき68歳という高齢でした。

視力0の視覚障害者であり、68歳という高齢。あはき免許が無ければ鍼灸を仕事にすることはできません。状況として他の仕事に就くことは不可能でしょう。この事件は報道されていたといいます。計画的な周到な犯行ではなく単純なもの。鍼灸はそもそも素肌に触れる施術であること。被害者3名とは示談している。反省し二度と再犯をしないと誓約している。このままでは生活が困窮する。これらの理由から免許取消処分を取り消すよう情状酌量を求めます。また身体障害者に関わる「障害者基本法」や「障害者の権利に関する条約」からも免許取消処分は妥当ではないと主張しました。そして処分の根拠の一つして出された、医師に対する処分事例となる最高裁判所昭和63年7月1日第二小法廷判決(裁判集民事第154号261頁)が、医師ではない審査請求人には当てはまらないと反論しました。

 

この審査請求人の主張に対して厚生労働省は準強制わいせつによる有罪判決を受けていること、あはき法に処罰の項目が規定されていること、医道審議会令に基づいて設置された「医道審議会医道分科会」による「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」において、わいせつ行為について記載されている内容を示した上で、免許取消処分は妥当であるとしています。

 

結果、審査請求人の主張は通らず、あはき免許取消処分は覆りませんでした。

 

この事例を知り同じ術者として考えることがあります。

 

まず審査請求人側に立つと。視力がない視覚障害者であり1級身体障害者。おそらくあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師以外に職業の選択肢が昭和50年代当時では無かったと思われます。本人がそれを希望して資格を取ったのかも分かりません。それから40年上自分の院を継続させてきました。視力が全くない方が鍼灸をすることはあん摩マッサージ指圧に比べて困難です。それは私が過去に4名の視覚障害者と一緒に働いた経験からの意見。本人の努力があり、社会のシステムで保護されたわけではないと考えられます。68歳という年齢で免許取消では社会的ダメージは尋常ではありません。生活ができないでしょう。文書には年収も記載されていましたが潤沢な額ではありませんでした。やったことは悪いですが処分は非常に重いものだと思います。だからこそ異議申し立てをしたわけですし。

 

一方で国家資格を持つ者の責任は、身体障害や年齢を考慮しないという厚生労働省の厳格な意志を感じるものがあります。文書には『あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師としての社会的信用を失墜させた程度も大きいといわざるを得ないこと、そして、あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師については、施術の際その施術を受ける者の身体に触れる機会が多いことなども併せ勘案すると、審査請求人が主張する様々な事情を考慮しても、なお、本件処分は、社会通念上著しく妥当性を欠くものとまでは認められず、処分庁に委ねられた裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したものということはできない。』と職業上の特性(施術の際に患者の身体に触れることが多い)を踏まえて鍼灸師の社会的信用を失墜させたと述べていることが印象的です。例え身体的なハンデがあったとしても国家資格を持つ術者としての責任からは逃れられない。40年以上の臨床経験はそれだけで社会的信頼を構築しています。同業者への社会的信用を落としたことは看破できないという判断を感じます。ある意味で忖度なく、差別をせず。

 

免許とは本来やってはいけないことを特別に免じて許可するもの。厚生労働省という国が認定した特例。それを肝に銘じて日々業務をしていかないといけないと考えさせられた事例でした。

 

甲野 功

 

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