開院時間
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住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
10月5日(日)から2日間行われた『AMASHI FES 2025 in WOODLAND BOTHY』。以下、あましフェス。これは国家資格、「あん摩マッサージ指圧師」(以下、あまし師)があきる野市の里山にある「WOODLAND BOTHY」という施設を貸し切って過ごすあまし師の集いでした。合計21名が参加しました。2名非あまし師で医療系の仕事に就いていない方、そしてあん摩マッサージ指圧専門学校に通う学生さんが3名いました。大多数があん摩マッサージ指圧師免許を持つプロです。このあましフェスが画期的なイベントであり、個人的に時代が変わるきっかけになったのではないかと考えます。その理由はこれまであまし師は横の繋がりが希薄だったからです。
このあましフェスを主催したのが足達晃大先生(日本指圧専門学校卒)、神田浩士先生(日本指圧専門学校卒)、黒澤一弘先生(日本指圧専門学校卒)、鈴木恭平先生(長生学園卒)の4名。日本指圧専門学校と長生学園を卒業したあまし師です。日本指圧専門学校と長生学園はあまし師のみの専門学校です。この形式の専門学校は日本にこの2校しかありません。あまし専門学校の2大巨頭です。それ以外の専門学校は鍼灸師を養成する学校でもあります。通称本科と呼ばれる鍼灸マッサージ科は3年間勉強することであまし師、はり師、きゅう師の3つの国家試験の受験資格が得られます。あまし師だけでも、はり師・きゅう師だけでも3年間。3つの資格を取る際に時間を考えると本科に入学すると効率が良いわけです。私もそうで東京呉竹医療専門学校本科を卒業し、同じ年にあまし師、はり師、きゅう師の資格を取得しました。後が詳しく説明しますがあまし師を養成する専門学校の大多数は鍼灸も教える学校です。その中で日本指圧専門学校と長生学園は稀有な存在です。
だからなのか、しかしながらなのか。私の経験上、両校が交流している、連携しているという様子はあまり見かけませんでした。おそらくあまり互いのことを知らない。浪越指圧と長生術という技術があることを互いに知ってはいるでしょうがどのような技術なのか深く理解していない。これは2校だけのことではなく。あまし師には固有の技術、流派があります。吉田流按摩、後藤流按腹術、経絡按摩、関西伝統指圧、呉竹指圧、結合織マッサージ、ディープティシューマッサージ、マッサージ療法など。これらは主に教える専門学校の特色なのですが、互いのことを知っているあまし師は多くないと思います。むしろこのような技術があること自体を知らないのではないでしょうか。かく言う私も能動的に調べてみて確認できたことです。意図しなければ知ることがなかった。これが鍼灸になると中医学、経絡治療、パルス、良導絡、長野式、澤田流太極療法、刺絡、紫雲膏灸など技法や流派がたくさんありますがその区別が認知されています。単純に鍼灸師の方があまし師より多いからかもしれませんが、多くのあまし師は鍼灸も一緒に取っているあはき師(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の3つを取得している者。私はあはき師に該当します。)であります。鍼灸は知っているのにあん摩マッサージ指圧は知らない。そして重要なことですが、あまし師は他を知らないことに疑問を持たないところがあります。
私は呉竹学園の鍼灸マッサージ教員養成科を卒業しています。そこでは全国の専門学校から生徒が集まります。私の代では同級生は、北は北海道から南は鹿児島まで、各地から来ていました。そこで関東近辺以外の学校の存在を認識します。また授業で現代鍼灸、中医学、経絡治療の3本柱を学び、その違いも知ることになります。鍼灸は、東洋医学は、とても広く複雑だとあはき師になってから5年して理解しました。それからあじさい鍼灸マッサージ治療院を開業して数年。あまし師の違いを考えたことのなかった自分に気付きます。鍼灸の違いは勉強してきたのに。そのきっかけは専門学校進学を検討しているいわゆるプレ学生さんから進路相談をされたとき。その方は、鍼灸は必要ない、あん摩マッサージ指圧師だけいいです、という意志でした。本科にして鍼灸も資格を取っておいた方がいいのではないでしょうか、と私は提案しました。私自身がそのパターンであまし師になりたくて本科に入学し、鍼灸はついでに取ったのでした。しかしプレ学生さんはあまし師一本ということでしたので日本指圧専門学校と長生学園のどちらかという話をしました。その時に日本指圧専門学校(浪越指圧)はある程度知っていますが長生学園のことを知らないことに気付きます。長生学園の所在地も知りません。そこで長生学園卒の先生を招いて話をする機会を設けました。そのとき私も長生卒の先生と初対面。話を横で聞いていたら仏教の学校なのでお経を読む時間があるとかプラーナという概念があるとか、想像していなかった言葉がたくさん出てきました。鍼灸マッサージ専門学校の教員免許を持つ身で、プレ学生の相談に乗っているのに、このあまし業界のことを知らない自分に驚きました。鍼灸よりあましの方が好きで人より勉強していると思っていたのですから。なおその時が長生学園卒の先生自体が初対面でした。聞くと長生学園は情報を外に出さないというのです。そうなのかと思いました。
改めて思い返すと我が呉竹学園東京呉竹医療専門学校もあましの特徴を打ち出すことはしません。私が珍しい方で呉竹指圧とかMP揉みといった用語を発している。他者がアピールしているところを見たことがありません。それは東京呉竹医療専門学校が鍼灸から始まった学校だからでしょう。始まりは約100年前の1926年に「東洋温灸医学院」から。その3年後に「東京高等鍼灸医学校」として私立学校としての認可を受けます。あましも教えますが鍼灸の学校であるという文化です。学校ごとに特色があることは教員養成科でよく分かりました。あましに関しても専門学校毎の特色があるのだと理解するようになっていきます。
それでは全国にあまし専門学校はいくつあるでしょうか。専門学校は21校。大学、短期大学が各1校。視覚支援学校が何十校とあります。まず専門学校が以下の通り。()内は所在地です。
・東京呉竹医療専門学校(東京都四ツ谷)
・東洋鍼灸専門学校(東京都大久保)
・名古屋鍼灸学校(愛知県名古屋市)
・京都仏眼鍼灸理療専門学校(京都府京都市)
・大阪行岡医療専門学校長柄校(大阪府大阪市)
・日本指圧専門学校(東京都小石川)
・仙台赤門医療専門学校(宮城県仙台市)→仙台赤門短期大学
・東京医療福祉専門学校(東京都八丁堀)
・東京衛生学園専門学校(東京都大森)
・横浜呉竹医療専門学校(神奈川県新横浜)
・日本鍼灸理療専門学校(東京都渋谷)
・長生学園(東京都雑色)
・四国医療専門学校(香川県綾歌郡)
・国際鍼灸専門学校(東京都青砥)
・東海医療学園専門学校(静岡県熱海)
・関西医療学園専門学校(大阪府大阪市)
・中和医療専門学校(愛知県稲沢市)
・湘南医療福祉専門学校(神奈川県戸塚)
・神奈川衛生学園専門学校(神奈川県横須賀)
・鹿児島鍼灸専門学校(鹿児島県鹿児島市)
・大宮呉竹医療専門学校(埼玉県大宮)
仙台赤門医療専門学校は今年春に仙台赤門短期大学ができてそこに移行していきます。仙台赤門医療専門学校は現時点でありますが生徒募集は停止しており在校生が卒業した段階で閉校。仙台赤門短期大学に変わるのです。そして国立の筑波技術大学もあまし師を養成していますが入学対象は視覚障害者となっており健常者は入学できません。よって全国21校が視覚障害のないあまし師のルーツとなります。このうちあまし師だけなのは最初に述べた通り日本指圧専門学校と長生学園だけ。あとは鍼灸もあります。
このうち鍼灸から始まった専門学校と按摩やマッサージから始まったものとあります。関東でいうと東京呉竹医療専門学校、日本鍼灸理療専門学校、東洋鍼灸専門学校は鍼灸から始まり、東京医療福祉専門学校、国際鍼灸専門学校、東京衛生専門学校は按摩、マッサージから始まっています。そのせいか鍼灸色が強い学校とマッサージ色が強い学校があります。また各学校で教えている流派・技法があり、私が認識しているだけで
東京呉竹医療専門学校→呉竹指圧、スウェーデンマッサージ、ディープティシューマッサージ
東洋鍼灸専門学校→経絡按摩
京都仏眼鍼灸理療専門学校→関西伝統指圧
日本指圧専門学校→浪越指圧
東京医療福祉専門学校→吉田流按摩
横浜呉竹医療専門学校→呉竹指圧
長生学園→長生術
神奈川衛生学園専門学校→後藤流按腹術、結合織マッサージ
筑波技術大学→マッサージ療法
といった具合です。実は学校ごとにかなり違いがあります。国家資格ですので最低限修得する知識、技術は統一されていますが。
さらにあまし師とは按摩、マッサージ、指圧の3種類を行います。これらは似て非なるもの。違うのです。そして按摩から始まった、マッサージから始まった、指圧から始まった、と学校毎に変わります。例えば浪越指圧の日本指圧専門学校は実技の9割が指圧、それも浪越指圧だといいます。按摩、マッサージの授業は最低限だとか。長生学園も長生術修得がメイン。なお長生術は3つの中では指圧に分類されますが、浪越指圧とは全然違います。東京医療福祉専門学校は吉田流按摩を正統に継承している学校で按摩の授業が3年までみっちりあるそう。東京呉竹医療専門学校では廣橋先生がスウェーデンマッサージ、ディープティシューマッサージを教えますがそれ以外のマッサージも別の教員が教えます。結合織マッサージは神奈川衛生専門学校と東京衛生学園専門でしか習えないでしょう。創業家の後藤家がドイツからも持ち帰り継承してきましたから。
このように元々異なった技術である按摩、マッサージ、指圧をひとまとめにした資格があまし師。3種類全てを臨床で使っている(使える)あまし師は多くないでしょう。日本指圧専門学校卒の先生は指圧ばかりですし、長生学園卒の先生は長生術を用います。広い意味でどれもあましとなりますが。つまり入学した学校によって学び技術体系が大きく影響するのがあまし師なのです。それは鍼灸でも同じで、むしろ鍼灸専門学校の方が特色は濃くなります。それなのにあまし師は他を知らないのは何故なのでしょうか。答えは横の連携がないからでしょう。各流派で勉強会をしますが他流派や他校を調べることが少ないのがあまし師。特に鍼灸からの始まった学校だと鍼灸重視の文化になるのであましよりも鍼灸を研究しようという風潮がでます。先の母校で行われた呉竹医学会でもあましの研究・症例発表は1演題で他は鍼灸ばかりでした。
また鍼灸に比べて講習会やセミナーが極端に少なく、技術を広めることがありません。数年前にあましのセミナーが無いという学生の声を受けてセミナーを自ら開催したほどでした。学生でも新卒者でもあましを学ぶオープンなセミナーはとても少なく、他校のものだと皆無に近いと思います。これが経絡治療でも中医学でも学校に関係なく受講できるものがたくさんあります。先日の呉竹医学会で日本指圧専門学校卒の黒澤一弘先生が実技セッションで指圧の実技講義を行いました。内容は浪越指圧に基づくもの。東京呉竹医療専門学校内で実施されることは異例です。黒澤一弘先生が本校教員養成科を卒業していることが大きいのですが、このような連携は本当に珍しいことなのです。
このように連携というか他を知ること自体ないような状況です。最初にふれたあましフェスではパネルディスカッションとして各流派を知ろうというものがありました。登壇したのが発表した順に
・露木美那先生(神奈川衛生専門学校卒。後藤流按腹術、結合織マッサージ。)
・甲野功(東京呉竹医療専門学校卒。呉竹指圧。)
・岡本菜己先生(京都佛眼鍼灸理療専門学校卒。関西伝統指圧。)
・浅香哲平先生(長生学園卒。長生術。)
・黒澤一弘先生(日本指圧専門学校卒。浪越指圧。)
の5名でした。5校の学校卒業者が集まることが異例ですし、各自の特徴を話すことも。参加者には更に多くの学校卒業生がいて、おそらく初耳のことばかりだったでしょう。私自身、関西伝統指圧の押し方を見たことが初めてでした。他を知らない。それが大きいです。
反対に軋轢がありません。悲しいことですが鍼灸では各流派で衝突が多々あります。技術にしろ、考え方にしろ。私の場合は鍼灸に元々興味・憧れがなかったのでどのような技術でもすんなり受け入れます。危険である、衛生面で難がある、といったデメリットが強くなければ。一方であまし師は互いの技術にあれこれ言うことがありません。一つは単に他を知らないということがありますが、自分のやることに自信があり他に興味がないことが大きいと思います。だからあましフェスのパネルディスカッションができたのでしょう。他流派を批判しない。あとこれは鍼灸師、柔道整復師である私の実感ですがあまし師は自分の本分を全うできるので不満がないからだと。その分、非あまし師の無資格・無免許マッサージ行為が横行しているのでそれに対する怒り・不満が凄いのですが。
これまであまし師は横の繋がりが乏しく他流派の連携が皆無でした。母校の卒業生とは一緒にいるが他を知らない、知ろうとしない、知る必要性も感じていない。それが近年変わってきていると感じます。一つの契機が先のあましフェスだと思います。私も東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科の卒業論文発表会で指圧の研究があった際には日本指圧専門学校、長生学園卒の先生を特別に会場にお呼びしました。学生競技ダンスつながりで浪越指圧、長生術、呉竹でマッサージブースを社交ダンスイベントで出店したことがありました。今年1月には浪越指圧者で占められている神奈川指圧師会で後藤流按腹術の講座が行われました。これらのように外部とのあまし師同士の繋がりが生まれ連携が少しずつ出てきています。今後、全国のあまし師に横の繋がりができてきて、技術交流が進み各流派の発展になるのではないかと期待しています。
甲野 功
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