開院時間
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今月初めに行われた『AMASHI FES 2025 in WOODLAND BOTHY』(以下、あましフェス)。”あまし”とはあん摩・マッサージ・指圧の頭文字です。厚生労働省管轄国家資格であるあん摩マッサージ指圧師のイベントでした。ここにはこれまであまり交流の無かった各学校、各流派のあん摩マッサージ指圧師達が集い交流をしました。そのときに出会った縁で、昨日あましセミナーを開催することになりました。
参加者は一般のエンジニアさんとあん摩マッサージ指圧専門学校学生の2名。非常に稀な組み合わせです。エンジニアさんは東洋医学に興味があり、これまでにもこの業界の人と交流をしてきてあましフェスにも参加しました。術者ではない人の意見は貴重で勉強になっています。あましフェスで色々なあん摩マッサージ指圧師と交流したエンジニアさんがもっとあん摩マッサージ指圧師のことを知りたいというので今年春に学生さん向けに作成した資料『あましセミナー 総論編』がありますよとお伝えしました。そこに同じくあましフェスに参加していたあん摩マッサージ指圧専門学生さんも参加したいという申し出があり実現したのでした。
あましセミナーとは当院で不定期に開催しているあん摩マッサージ指圧に関する講義です。座学、実技両方行います。始まりは割と前のことで新型コロナが流行する前の2019年8月でした。学校外の外部セミナーで鍼灸はあるけれどあん摩マッサージ指圧はないのはどうしてだろう、受けてみたいというある学生さんの要望を受けて実施しました。そこから何度か行ってきました。直近では今年の5月に4度。最初に総論、続いて指圧、按摩、マッサージと。総論編ではあん摩マッサージ指圧の全体像を紹介するものでした。そのときの資料を、今回のあましセミナーでも流用しようと当初は考えていました。しかしあん摩マッサージ指圧学生さんが来るということで事情が変わります。一般のエンジニアさん向けであればあん摩マッサージ指圧師とは何ぞや、按摩とマッサージと指圧は何が違うのかなどを話せばいいと考えていました。ここに将来あん摩マッサージ指圧師、すなわちプロになる学生さんが加わるとなると技術的なことや業界の現状をいれていかないといけないと考えなおします。ありきたりのことは学校で習うわけなので。そう思い立った私は資料に大幅追加をすることにします。
そして完成したものが『あましセミナー マッサージ総論編vol.2』でした。「あん摩マッサージ指圧理論」の教科書に掲載されている事項に臨床で私が培ってきたノウハウ、各技術の歴史・時代背景、全国の専門学校、各流派などを網羅したものにしました。以前も書きましたが鍼灸師に比べてあん摩マッサージ指圧師は横の連携に乏しく、他を知りません。他にどのような学校があり、どんなことを教えているのかあまり知らないですし興味がありません。学生さんにとっても学校で学ぶことが今後の重要な武器になるわけですが、それをより深く理解するために他を知ってもらいたいという願いがあります。またせっかく興味を持ってくださるエンジニアさんに、あん摩マッサージ指圧の世界は実は多様性に富みどれでも一緒というわけではないことを伝えたい。このような願いを込めました。
製作には想像以上に時間がかかり、またいつものように資料の量は増えていきました。最初のものよりも2倍以上のスライド数に。ただ、これくらいでいいだろうと妥協するのは自分自身にも相手にも嫌なので詰め込みました。調べること資料にすることは面倒です。しかしこれは学ぶ機会だととらえて調査をします。元々セミナーをするのは自ら勉強する場を強制的に作るため。この機会に面倒だけれど全部調べておこうという気持ちで行います。また一般の人だからこれくらいにしておこう、まだ学生だから細かく話しても分からないだろう、といった決めつけることしないように。理解できるかどうかは聞く方の問題で出し惜しみをこちらがすることは失礼です。あましフェスを含めて最近分かったことまで全て入れることにしました。
当日。互いにあましフェスで面識があるのでさっさと講義を勧めます。まずしたのは私の経歴を紹介すること。何となく知っているかもしれませんが学歴、職歴、取得資格などを改めて述べます。私はあん摩マッサージ指圧師ですが当時に鍼灸師、柔道整復師でもあります。その前は民間資格のリラクゼーションをしていました。鍼灸マッサージ専門学校の教員免許があるので学校側の事情も分かります。あん摩マッサージ指圧師だけではありません。このパーソナリティ(立場)を踏まえて話を聞いてほしいのです。鍼灸師から見た、柔道整復師から見た、あん摩マッサージ指圧師はどうなのかということ。また一般企業で働いた経験からあん摩マッサージ指圧師の仕事はどうなのか。話す人の事情を踏まえてもらって聞いてもらうために行いました。
続いて、あん摩マッサージ指圧師とはという部分。「あん摩マッサージ指圧理論」教科書に記載されていることを中心に、按摩・マッサージ・指圧の各特徴と差異、歴史と基本手技を紹介します。学生さんにとっては辺り前の情報ですが一般の人にはこんなに違うものなのかと感じることでしょう。普通は按摩と指圧とマッサージを区別して理解していないでしょう。技術も違うことなど。少し細かく資料を追加したのが歴史について。我が国は諸外国と大きく異なるのが視覚障害者の生業として按摩があったということ。1300年以上前から按摩がありますが長らく視覚障害者(当時は盲人と称した)が生きるための術でした。現在はテクノロジーの発展で視覚障害者の仕事は按摩しかないという状況は減りつつあります。そこに明治時代にヨーロッパからマッサージが伝来してくる。明治維新後におきた西洋化の波は按摩、鍼灸、漢方といった伝統医療、東洋医学の否定を生みます。明治7年に発令した医制により医者は西洋医学を学んだ者に限ることになります。ここで鍼灸や漢方が危機を迎えます。按摩は視覚障害者の救済という一面があったため影響を受けませんでした。一方で視覚障害のない晴眼者の術者は按摩を禁じられることになり、当時まだ浸透していなかったマッサージも知らず、按摩ではないものとして独自の手技を行うようになります。ここから令和の現在も続くあん摩マッサージ指圧業界の問題につながっていきます。かなり細かいことですが当事者となる学生さんもマーケティングも行うエンジニアの方も興味深く聞いていました。質問が出て答えます。私の想定では小難しいところなので興味が薄くさっと終わると予想していたので意外です。やはり出し惜しみしないことは良いことだと感じました。
技術的な話をします。ここは完全に学生さんに向けたものでした。これまでの私の経験から培った技術論なので有効なのかは計り知れないのですが。理数系の私は技術を次元で解釈するところがあります。経穴、経絡、反射区をそれぞれ0次元(点)、1次元(線)、2次元(面)であると。人体は3次元(物体)であり3次元の体に作用させるために0~2次元でのアプローチを行う。投薬や手術といった直接的な方法が医師ではないのでできないために。そして体重と重心も次元で考え、重心と支持基底面の関係や体重移動と重心移動の違いを物理的な視点で説明します。按摩、マッサージ、指圧の技術がそれぞれ体重移動・重心移動が変わることを言いました。
手についても持論を展開します。刺激を与えるために手指を使うのがあん摩マッサージ指圧ですが、それ以外の手もあり、それらが臨床では重要になるという話。便宜上、寄り添う手(安心させる手)、触診の手、感じ取る手、支え手と区別しています。
更に欧米人と日本人の機能面や骨格、文化の違いを説明し、それがあん摩マッサージ指圧技術にどのように関係しているのかを説明しました。東洋医学と西洋医学の根っこの違い。
持論の展開から客観的な事実について。全国のあん摩マッサージ指圧専門学校を紹介します。あん摩マッサージ指圧師を養成する施設は専門学校、視覚支援学校、大学・短大の3種類があります。大学は一つしかなく入学者は視覚障害者に限られる筑波技術大学。研究は別ですが晴眼者が学生として学ぶことは今のところありません。短期大学(短大)については今年4月に日本初のあん摩マッサージ指圧の短期大学が誕生しました。こちらは晴眼者向けです。視覚支援学校は視覚障害者の福祉が強く社会での自立を促すためにあります。その過程であん摩マッサージ指圧師になるという。我々に大きく関係するのは全国に21校あるあん摩マッサージ指圧専門学校でその紹介です。業界内では「福岡裁判」と呼ばれる柔道整復師養成施設新設を求める裁判がありました。これにより伝統校と新設校という概念が生まれます。福岡裁判判決後に柔道整復師、鍼灸師を養成する学校は爆発的に増加します。そのためあん摩マッサージ指圧専門学校は例外を除いて全て伝統校であること。また平成末期にあん摩マッサージ指圧専門学校の新設を求める裁判が4か所で起きたこと。そこで争点となったあはき法第19条とはどのようなものなのかを説明しました。この2つの判例もとっつきにくいと思われましたが非常に興味をもって聞かれました。あん摩マッサージ指圧師になるための学校が増やせない。その理由とそれによる弊害。意見交換がありました。
全国の各専門学校を1つずつ紹介していきます。資料はここを一番追加したところでしらみつぶしに調べるのが大変でした。その調査過程で分かったことは母校東京呉竹医療専門学校のように鍼灸から始まった学校とマッサージから始まった学校が鍼灸マッサージ専門学校にはあるということ。マッサージを教えるために創設されてのちに鍼灸科や他の科が増えた学校と、そうでないところ。専門学校の成り立ちに注目して物事を考えていなかったので私自身の勉強になりました。創始者は誰なのか。どのような経緯で始まったのか。それを知ることで見えてくることがたくさんありました。
専門学校の次はあん摩マッサージ指圧の各流派・技術を紹介します。全てを知っているわけではないので現時点で私が認識しているもの。技術者にとっては看板となっています。多くは学校毎に教える内容が流派になっています。ここが私の真骨頂でして、これまでたくさんの人に会って調査してきました。特に今月のあましフェスで関西伝統指圧を少し体験することができたことが大きいです。本職のあん摩マッサージ指圧師でも自分以外のやっていることはほとんど知らないので資料として価値のあるものだと自負しています。ただ学生さんにもエンジニアさんにも多すぎて混乱したことでしょう。
あん摩マッサージ指圧師が置かれている現状について私が考えていることを述べました。これは他の資格を持つ者として外から見た考えと当事者としての立場からの考えを踏まえています。マーケティングも行うエンジニアさんには納得できること、腑に落ちたことがあったようです。そして業界外部から見た鍼灸師、柔道整復師も含めたあん摩マッサージ指圧師業界に対する意見・感想をいただきました。学生さんからも卒業後の将来を見据えた感想が述べられました。
最後に私から参加者お二方にそれぞれ伝えたいことを入れました。これからの学生さんと業界外からこちらに興味があるエンジニアさんへ。そこから意見交換、情報交換、議論となりました。地域のお店で買ったプリンを食べながら。
結局セミナーとディスカッションが数時間に渡り続きました。施術体験の予定は無くなり。立場の違う3名であん摩マッサージ指圧師業界について学んだ時間でした。
甲野 功
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