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~確率思考の経営戦略~

確率思考の戦略論 森岡毅 今西聖貴 ダイヤモンド社
確率思考の戦略論 どうすれば売上は増えるのか 森岡毅・今西聖貴 ダイヤモンド社

 

 

数少ない、本を出せばその著書を買っている人がいます。それが森岡毅氏です。現在株式会社刀の代表取締役CEOを務めています。低迷していたUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)をV字回復させたことで知られており、沖縄に『ジャングリア沖縄』を作った立役者です。共著ですがこのような書籍を出しました。

 

確率思考の戦略論 どうすれば売上は増えるのか

森岡毅 今西聖貴

ダイヤモンド社

 

森岡毅氏は非常に数学が得意で数学的な経営戦略を立てる人物です。いただきたいのです。約10年前に同じようなタイトルの著書『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(KADOKAWA社)を執筆しています。私は東京理科大学を卒業している理数系人間なのですが確率統計が苦手です。数学全般は一般平均より得意だとは思いますが、確率統計は相対的に強くなく強い苦手意識があります。今でもエビデンスに関して医療統計が必要なのですが正直、本質は理解しきれません。大学受験でもセンター試験で確率統計を選ばなければもっと良い点数を取れたと後悔が残るほど。確率を用いた“確率思考の(経営)戦略論”というものが前書を読んでもよく分かりませんでした。今回、新しく実際に担当した事例を踏まえて書かれた本書を読み、以前よりは内容を理解できてきた気がします。本書を読むことで、細かい数学的な部分はさておき、実践的な考えを学び、選択される確率を上げていくことが経営戦略の基本となるということを学びました。

 

まず脳科学としての話。これが前提条件となります。

消費者の脳はより大きな概念から選択する。すなわち、「カテゴリーの選択」→「ブランドの選択」→「プロダクトの選択」の順序で脳は選択している。

これが日々膨大な情報を効率よく取捨選択するために人間の脳に備わっているものだそうです。最初に重要性でふるいにかけます。次にできるだけ大きなところから選択しようとします。そして最後にランダムに選択するという行程。これは理屈ではなく脳機能の問題で人がどうこうできるものではない。そうではない選択をするならば強い理由があるから。

 

続いて用語の説明です。

プレファレンス(Preference)

その候補に割り振られた確率のこと。そのブランドや選択肢がもつ相対的な好意度を意味します。

 

・エボークト・セット(Evoked Set)

カテゴリーに含まれるいくつかの候補の束のこと。消費者が何かのカテゴリーでだいたい3つのエボークト・セットがあることが多いといいます。例えば飲み物(カテゴリー)をコンビニエンスストアで買おうとしたときに、選択肢はお茶、珈琲、ジュースの中から選ぶというような。

 

・ポアソン分布

ある一定の確率に沿ってランダムな試行の結果が一定になる確率分布のこと。数学的な表現になりますが、偏りのない条件でランダムな選択をすると結果はポアソン分布になります。サイコロを延々と振り続ければ1~6までの目がそれぞれ6分の1出てきます。これがポアソン分布。

 

・ガンマ分布

ある試行結果が次の試行確率に影響を及ぼす確率分布。ある項目が選ばれることでもっと選ばれやすくなる、どんどん選ばれやすくなるのです。ある芸能人がテレビ出演して話題になると他の番組でもどんどん呼ばれるといういわゆる「成功が成功を呼ぶ」がガンマ分布。反対に「失敗が失敗を呼ぶ」も同様です。ポアソン分布と対になるものがガンマ分布です。

 

2つの確率分布が数学的にどうなのかは横に置いておき、市場は<あるブランドが選ばれる確率は、個々人ではポアソン分布、市場全体ではガンマ分布し、その両方が消費者のプレファレンスによって決定される>という構造になっているといいます。そして<この世界は、たった1つの変数プレファレンスによってブランドが選ばれる確率が決まっている>ということになるのです。ポアソン分布(個人)もガンマ分布(市場)も決定要素がプレファレンスという変数で決まるから。

 

ここで変数と定数について補足します。数式において任意の数を代入できるものが変数、数値が固定されているのが定数です。数学でy⁼ax+bという数式を習った記憶はないでしょうか。一次関数で基本的なものです。ここではxが変数でaとbが定数。比例を表していて、xに数字を入れるとyという結果が出ます。aは何倍かを示し、bは最初にある状態。例えばaが1でbが0だとすればyとxの数値が一致します。これが、aが2だとするとyはxの2倍になります。xが努力だとしてyが成果だとすると努力した数字の2倍、成果が出るということ。凄く効率がいいです。ところがaが0.01だとすると努力の1%しか成果になりません。またbが10000であれば何の努力をしなくても成果は1万もの数値があり、bが-100なら何の努力もしていない最初の段階でマイナスの成果から始まり、プラスにするのに努力(xの数値)を積み重ねないといけません。aとbの数字は定数で変えられず(定数)、変えられるのはxだけ(変数)。比喩にするとyという成果を出すためにxという努力を積み重ねるが、aという効率とbという初期条件が大きく関わるという。

 

経営において、あるブランド(商品、サービスなど)が選ばれるための確率はプレファレンスという変数(に入る数値)だけに依存するという主張です。なお定数は条件であるので変えることはできません。森岡毅氏は仕事ができない人は、自分で変えることができる変数を頑張ればいいのに、変わることがない(そう簡単に変えることができない)定数を変えようとする人が多い、という趣旨のコメントをテレビ番組で語っていました。

経営資源(リソース:人、モノ、金、時間、情報などをいいます)をどこに割くかは以下の3つだと言います。

 

認知率:そのブランドを知っている確率

配荷率:店舗などで物理的に買える状況にある確率

プレファレンス:消費者の脳内でそのブランドが選ばれる確率

 

プレファレンスという変数(確率)が最も重要なのですが、認知率と配荷率はそれを制限するものとしてあります。更に各確率の積(掛け算した値)が数値となります。例えば認知率が50%、配荷率50%だとするとプレファレンスが100%だったとしても1×0.5×0.5=0.25となり25%になるというわけです。プレファレンスは確率でありブランドが絶対に選ばれるという状態、すなわち100%選ばれるとしても認知が低くて、買える状況がなければ最終的に選ばれる確率は下がることになります。

ではプレファレンスを高めるにはどうしたらいいのか?という話が続くのですが一度止めます。これだとただ本の内容を紹介しているだけなので、AIに要約させるのと変わりません。どのような理屈でこのような計算になっているかは考えず、この話が経営戦略として完全に正しいと仮定し、私の業界に置き換えて論じてみましょう。

 

プレファレンスとは患者さん(顧客あるいは市場)があじさい鍼灸マッサージ治療院や甲野功を選択する確率です。当然100%なら私のところに依頼し来院するはずです。もちろん人によってはいるかもしれませんが市場でみたらそんなことはありません。当院を選ぶ確率は(人によるでしょうが)0%からあります。

 

その前に認知率を考えます。どれくらい当院や私のことを認知しているのか、知っているのか。芸能界では人気よりも認知が金になるといいます。認知度があれば番組に出演しお金が得られます。そうすればCMに繋がりより大きなギャラを獲得できます。まさにガンマ分布。このとき人気ではなく認知であることが重要。テレビに出ずっぱりで国民が知るタレントでもYouTubeやファンイベントをすると驚くほど人気がないことが往々にしてあります。知っているが本気で好きではない。わざわざ視聴しに行く、会いに行く存在ではない。もちろん認知も人気もある人はいますが一握りの存在です。認知率がマーケティング戦略には必要で、知ってもらわなければ人気が出ることもありません。正確にはファンが増えず、知る人ぞ知る凄い先生、となってしまいます。認知率を上げるためにSNSの投稿、人に会いに行く、イベントに参加するといった行動が必要です。それは身に染みて理解できます。

 

配荷率ではどうでしょう。私の仕事はモノを売っているわけではありません。マンツーマンの対人サービスです。一人の患者さん(顧客)にしかつけません。そうなると単純な立地になると考えられます。物理的に買える状況にある確率は、どれだけ多くの人が来ることができるかによります。極端な話、南極で開業したら来院できる人はごく少数。冬になれば世界の研究者か軍事関係者の越冬隊くらいしかいないでしょう。また吹雪などの悪天候であれば近くにあっても近寄ることもできません。人口が多いところで交通の便がよいことが配荷率に繋がります。その点でいえば東京23区にあり最寄り駅(都営大江戸線牛込柳町駅)から徒歩3分なので配荷率は悪くないでしょう。また前の私道に車や自転車を駐車・駐輪できるというのも配荷率を高める要因だと思います。ショッピングモール内、商店街、有名観光地といった立地や路面店、エレベーターがある、目立つ看板を置けるといった条件も配荷率に影響しそうです。立地が変えられないのであれば(=定数)、看板をつける、ホームページに案内図を作る、電信柱に広告をのせるといったこと(=変数)で配荷率を上げることができそうです。

 

最も重要なプレファレンスの前にエボークト・セットも考えてみましょう。エボークト・セットとはカテゴリーに含まれるいくつかの候補の束のこと。私の状況に置き換えると、ある人が例えば体が辛いときにどうしようかと考えたときに取る選択肢とは何か。病院に行く、薬を飲む、マッサージを受ける、鍼灸を受ける、など。この選択肢リストに入っていないと話になりません。最初に紹介したように人は脳内で大きなカテゴリーから選択していくからです。旅行に行く、美味しいものを食べる、運動するといった選択肢(候補の束)がエボークト・セットになっている人はそもそもあじさい鍼灸マッサージ治療院を選ぶことはないのです。病院か鍼灸か漢方か。このようなエボークト・セットになっていないと。幸い私はあん摩マッサージ指圧師・鍼灸師・柔道整復師なので、“病院や鍼灸か”とか、“マッサージか整体か”とか、“整形外科か接骨院か”といったエボークト・セットの人に当てはまる可能性があります。もちろん理想論ではありますが。突き詰めるとマッサージや鍼灸がエボークト・セットに入らないといけません。更にはあん摩マッサージ指圧師や鍼灸師が選択肢にないと。世の中には誰でも鍼灸ができる、マッサージができると認識している場合もありますので。その先にあじさい鍼灸マッサージ治療院や甲野功を選択する確率プレファレンスの話になるのです。

 

プレファレンスを高めるためには必ずWHO(誰か)から考えるといいます。そしてそれはなるべく大きなWHO。そこからWHAT(消費者価値)を定義してHOW(プロダクト開発、広告宣伝など)に繋げていく。WHO→WHAT→HOWの順番でないといけなくて、しかもWHOはなるべく大きなもの。ここについてはまた別の機会に触れます。理解がしきれていませんし。

 

確率。確率は何が出るのか結果を支配できません。できないから確率なのです。出たとこ勝負の確率をいかに有利に持っていくからが確率思考だと言えます。確率を決定している要素を分解して理解し、どこに注力するのかが基本になるようです。確率統計に関する数式の意味を理解しようとすると数学を勉強しなおさないといけなくて、それが困難で断念していました。答えをどう自分の状況に当てはめるか考えを変えました。

 

甲野 功

 

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