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~NETFLIX映画「10DANCE」の衝撃~

NETFLIX 10DANCE より
NETFLIX 10DANCE より

 

 

12月18日にNETFLIXで『10DANCE』が全世界で配信開始となりました。

 

NETFLIX 10DNACE

 

10DANCEは井上佐藤先生による日本の漫画作品です。ボーイズラブ(BL)ジャンルの作品で競技ダンスが題材になっています。社交ダンス経験者の私は早い段階からチェックをしていました。社交ダンスを競技として行う競技ダンスの世界。オリンピック正式種目を目指すほど世界的に広まっています。令和の東京オリンピックでは審査段階に残りました。そのような世界大会がある競技ダンスの世界。ボールルームラテンの2種類、各5種目、計10種があります。

なおボールルームについて昔はモダン、現在はスタンダードと呼んできたのですが、今回の映画ではボールルームという呼称なのでボールルームに統一して書きます。また原作の漫画ではスタンダード表記になっています。

通常の競技会はボールルーム部門、ラテン部門に分かれて行い、クラス(級)によって種目数が変わります。最高レベルのクラスでは5種目総合で競います。現実の競技会では世界大会も国内選手権も5種目総合。それをボールルーム、ラテン両方できるのが10ダンサーといいます。10種目踊れるよということ。ただ踊れるだけでなく、競技レベルまで練習している者を10ダンサーといます。そしてボールルーム・ラテン両方の10種目総合で競われるのが10ダンス戦。タイトルの10DANCEはここからきています。

 

私は大学で学生競技ダンスと出会い、約30年間社交ダンス・競技ダンスを続けています。ボールルーム専攻の選手でした。ボールルームはワルツタンゴスローフォックストロットクイックステップヴィニーズワルツの5種。ラテンはチャチャチャサンバルンバパソドブレジャイブの5種。私が学生当時は4種目までしか競技で採用されませんでした(※現在の学生全日本選抜戦は5種目戦)。学生競技ダンスでは1年生のうちはボールルーム、ラテンの両方を練習し(競技として踊るのはワルツ、クイックステップ、チャチャチャ、ルンバの4種目が基本)、2年生以降にボールルームかラテンか専攻分けがされます。そこからは専攻の種目を練習し競技していきます。特別なケースでない限りボールルーム選手とラテン選手が公式戦で戦うことはありません。これは他のアマチュア部門でもプロフェッショナル部門でも同じです。

 

10DANCEのストーリーは日本国内のボールルームチャンプとラテンチャンプが互いを教え合い、10ダンス戦に挑戦しようというもの。そこで男性同士のロマンスに発展するという内容です。原作の最初を読みましたが非常に細かく社交ダンス界が描かれていて、分かっている人が監修に入っていることは明白でした。ダンスの描写が驚くほど正確です。後に監修していたのがプロの西尾下田組だと知りますが。ボーイズラブ作品としても社交ダンスを知らない患者さんや知人にも10DANCEを知っている、読んでいるという声が聞かれました。そのマンガ10DANCEを(配信)実写映画化したのがNETFLIX映画「10DANCE」です。以前からその噂は当然のように耳にしていて、12月18日の配信を楽しみにしていました。解禁された事前情報から相当ダンスの練習をしていることがうかがえました。

 

映画「10DANCE」の前に『リアル10DANCE舞踏会』というイベントがありました。最初の開催は2017年9月。東京オリンピックどころか新型コロナすら想像できない時期。マンガ10DANCEの描写を実際に競技ダンスのプロダンサーがやってみるという。このとき中心となって表現したのが本池淳先生と西尾浩一先生。どちらも学生競技ダンス出身で特に本池淳先生は武蔵野美術大学で1大学上のよく知る先輩でした。西尾浩一先生も世代が近いので直接の面識はありませんでしたが名前は当然知っていました。既存の社交ダンスイベントと一線を画す画期的なもので、普段社交ダンスと関りのない層が多数来場したという情報を得ていました。その後もリアル10DANCE舞踏会は不定期で続きvol.4まで開催されています。このイベントが映画10DANCEの前段階になっていたのではないでしょうか。原作者の井上佐藤先生もご覧になっていたそうです。

 

 

そして本題の映画10DANCE。

全編を観て私は唖然としました。素直な感想として、怖い。経験者だからこそそのダンスシーンに唖然として、ダンス素人の俳優さんが頑張ったとか、凄い素敵とかいう感情を通り越して、怖いと感じました。それほどのものでした。

 

メインキャストは竹内涼真さん、町田啓太さん、土居志央梨さん、石井杏奈さん。国内ラテンチャンピオンで南米にルーツを持つ鈴木信也役を竹内涼真さん、そのパートナー役を土居志央梨さん。世界2位の実力で帝王の異名を誇る国内ボールルームチャンピオン杉木信也役を町田啓太さん、そのパートナー役を石井杏奈さんが演じます。映画は竹内涼真さんと町田啓太さんが中心に進みます。どちらも日本一の競技ダンサーという設定。社交ダンスにおいて男性をリーダー、女性をパートナーといいます。リーダーというくらいで男性の役割が非常に重要で、リーダーはパートナーの3倍練習しないといけないとよく言われます。更にストーリーの関係で互いに教え合い、そしてリーダー同士で踊るためパートナーのステップも覚えないといけません。そして作中のクライマックスで二人は文字通り10種目踊るのです。10種目のダンスを男女どちらも覚える。種目ごとにレベルの濃淡がありますが20種類覚える必要があり、それを社交ダンス未経験者の俳優陣がしているのです。それだけでも凄いです。

 

特に注目は町田啓太さん。作中でボールルーム部門の国内チャンピオンで世界第2位。それも政治的背景から優勝できない実力者。このような役柄を俳優の町田啓太さんが演じます。そのダンスが恐ろしく上手。素人とは思えません。元々日本体育大学出身でプロダンサーを目指すほどの人ですからそれくらいできて当然でしょう?と世間の人は思うかもしれません。とんでもないです。ボールルーム専攻の元選手から言わせてもらえば大間違いです。他ジャンルのダンスが踊れるから社交ダンス(特にボールルーム)ができるとは限りません。ホールドといってボールルームの基本の型がありますが、これが非常に綺麗。このラインを出すのは相当な訓練が必要なのです。そしてボールルームはホールドを文字通り保ったまま動きます。多くのダンスは腕を動かして表現します。上半身を固定し続けるのは簡単ではありません。私の経験上、有利なのは弓道経験者。力を入れて弓をゆっくりとコントロールし体勢を保持する。そして上半身を固定しながら下半身を使って滑らかに動く。この矛盾を成立させるのは運動神経がいいだけでは乗り越えられません。

私は大学で大勢の入部したての後輩を見てきましたが社交ダンス未経験者でボールルームがすんなりと様になった者はほとんどいません。ダンス以外でもスポーツ経験者で運動神経抜群の人でもラテンはまだしもボールルームは違います。言い換えるとボールルームはまず積み重ねで地道に練習した者が上達します。ラテンの方がセンス、運動神経、ノリといったものが出せます。これまで数多あった芸能人が社交ダンスに挑戦するテレビ企画。そのほぼ全てがラテンでした。ボールルームは難しくて上手に見せるのが困難なのです。ラテンの方が表現力でカバーできます。

 

更に。町田啓太さんの凄さは組んで踊れるということ。ラテンを含めて他のダンスで相手と密着し続けて踊るダンスはボールルーム以外ほとんどありません。アルゼンチンタンゴでも二人の間に若干空間があります。近距離に相手が常にいるということは稀。ホールドを崩さず二人で踊れるというのは本当に凄いことなのです。ただし相手がプロの場合は体の接点(コネクション)が多いので上手く踊らせてもらえます。高齢者の社交ダンス愛好家はボールルームの方が多いのはプロの先生が上手くリードしてあげることができるからです。それを町田啓太さんは未経験者の俳優同士でもボールルームダンスをしているのです

パートナー役の石井杏奈さんも元E-girlsのメンバーでプロダンサーなのだから上手なのは当たり前、という意見が筋違いなのは述べた通り。そしてあの身長差でボールルームを踊るのはかなりしんどいのです。プロフィールでは石井杏奈さんが身長162cmに対して町田啓太さんが183cm。20cmの差はボールルームでは相当踊りづらいのです。それをホールドを組んでスピンして進行方向に進むのです。1996年公開の大ヒット映画『Shall we ダンス?』では草刈民代さんが見事なボールルームを披露しましたがあの時のリーダー役は田中英和先生という日本のトッププロでした。超一流バレリーナの草刈民代さんのポテンシャルが凄いのは確かですがリードする田中英和先生の力量が大きいです。ダンサーとは言えボールルーム未経験者の俳優同士であのルーティーン(ステップ構成)ができるのかと唖然としました。

 

何よりダンスシーンで足元をきちんと映していることに感心します。映像作品ですから実際よりも上手に見せる方法はいくつもあるでしょう。上半身のみを写しておけば端正な顔とその表情に目がいきます。画面にエフェクトをかければ印象が変わります。素敵なBGMをつける。スローにしたり倍速にしたり。足元を映すことで踊りのレベルが分かります。足先の使い方。正確にヒール(踵)、トー(つま先)で着いています。ヒールで着くのかトーで着くのかは、ステップに意味があって、それによります。きちんとしている。特に町田啓太さんがシャドー(相手と組まないで一人で踊ること)をするシーンでは、ホイスク→シャッセ→ナチュラルターンというワルツの基本中の基本で最初に習うステップを正確に踊っていました。それもロアー、ライズ、足のクローズ、カウントの取り方、ヘッドの位置、重心移動など技術的に驚くほど高度。ごまかしが一切きかないダンスシーンで、思わず嘘だろと声が出てしまいました。ボールルーム選手だった私はこの域まで達するのにどれだけ練習しなければいけないかが身を持って知っているので。俳優業をしながらどれだけ練習したのか。

 

パートナーの石井杏奈さんもそうです。あの身長差で町田啓太さんとボールルームを踊ると足を相当使わないと動けません。ボールルームパートナーのホールドを保つには体幹が強くないといけなく、そのホールドを保った上で動き回るのです。単純にきつかったはずです。仮にあまり身長差がないプロと踊ったらもっと楽に美しく魅せられたはずです。またリーダー役をこなしていることに意味が分かりません。リーダーとして土居志央梨さんとボールルームを踊るのですが、そのときはきちんとリーダーになっているのです。リードするダンスをしている。社交ダンスはリーダーが前進するステップが多く、パートナーは後退が多いのです。女性が履くダンスシューズのヒールは前進しにくいのです。それを当たり前のようにリーダー役で組んで踊っています。もちろん相手はプロではなく俳優の土居志央梨さん。カメラがフォーカスしていませんでしたがヴィニーズワルツを土居志央梨さんと踊るシーンではきちんとLODというルールを守って踊っていました。ヴィニーズワルツはステップが単純な分、正しい進行方向に進んでいくのが難しいのです。それをリーダー役でやってのけている。ステップの理解度が高い上にそれを実現できる能力があります。

 

町田啓太さんのダンスシーンで違った面で凄いこと。それは練習時のラテンがボールルームダンサーのそれでそこはかとなくダサいのです。経験者なら身に染みて分かる、社交ダンスあるある。ボールルーム専攻の選手がラテンをやると動きが固くてピシッとしすぎ。セリフ通り、色気のない。これを表現できていることの驚き。ダンスを指導した先生方はここまで教えたのか。監督はそれを理解して演出したのか。更に俳優陣は忠実にダンスとして表現したのか。町田啓太さんの経歴を考えると、素でボールルームちっくなラテンになっているのではなく意図的にそう踊っているのではないかと予想しています。ラテンの方が踊りやすいでしょうし、ラストのラテンは違いました。こんなところまでボールルームダンサーになっているのですここまでくるともう怖いと思いました。指導する方も、ダンサーの機微を理解している制作陣も、それを表現してしまう俳優陣も。どこまでこだわっているのかと。

 

ラテンに目を移すとラテンチャンピオンを演じた竹内涼真さん。今放送されている地上波ドラマの役とは印象が違いすぎます。体格も人相も変わっています。圧倒的な肉体美を作り上げ、身体をシャープにしていました。町田啓太さんもそうですが、実在する選手を役作りのモチーフにしているのではないかと予想していて、竹内涼真さんはあの選手に寄せているのではないかと考えます。表情、立ち振る舞いがラテンダンサーになっています。特にクカラチャというラテンの基礎動作を見せるシーン。上半身裸でズボンもかなり下げて行う。クカラチャが様になっていることが凄いことです。野球で言えば素振りのようなもので経験者がみればすぐに技量がわかります。一見すると腰をくねくね動かしているだけに見えるのですが、ダンス経験者からすれば基本をしっかり練習していることがこのクカラチャからうかがえます。まして上半身を脱いで筋肉の動きがわかる状態。それらしく誤魔化すことができません。竹内涼真さんはサッカーでプロを目指したということですから運動神経抜群なのでしょう。しかしダンスは未経験らしいので相当練習をしたのだと分かります。ラテンを踊るシーンが多いのですが目の使い方がラテンのそれです。焦点を近くにして目力を強くする。ボールルームでは焦点を遠くにして優雅にみせます。町田啓太さんはボールルームを踊るときはもちろんそうしていました。その表情の違いを比較するだけでも面白いです。

 

また町田啓太さん同様、ボールルームがラテン選手のそれでした。練習当初はホールドを組みながら、目の前に人がいて邪魔、息苦しい、というラテン選手あるあるの表情をしています。ネックはホールドの枠に入り気味でポジションが窮屈。既視感がありすぎる光景を見事に表現していました。そしてストーリーが進むにつれてボールルームが上手になっていき表情も変わっていきます。非常にマニアックな視点ですが町田啓太さんとホールドで手を繋ぐグリップ部分、最初はラテンのそれですが、その後ボールルームのそれに変わります。演出としてやっているのか、自然とそうなったのか、こちらの勘違いなのか、分かりませんが非常に印象的です。

ラテンの方がボールルームよりも自由度が高いので上手く見せやすいです。その一方でパートナーとのリードは難しくなります。アレマーナ、ホッケースティックといったラテンのベーシックでリードがはっきりと見えてしまいます。芸能人のダンス企画ですと単に二人が手を繋いでいるだけでリード・フォローという駆け引きがみえないダンスが多かったのですが、竹内涼真さんと土居志央梨さんのラテンにはそれがきちんとありました。

 

土居志央梨さんは15年ものバレエ経験があるそうです。社交ダンスを始める際にもっとも効果的なのはバレエでしょう。バレエ経験者は社交ダンスをしても上達が非常に早いです。反対に社交ダンスを上達させるためにバレエを習う競技選手も多いのです。土居志央梨さんは持っているポテンシャルがラテン向きでプロでもきついポーズを決めていました。ラテンダンサーの表情をしていて驚きました。動きはそれなりにできても表情はなかなか出せないものです。学生では表情練というラテンの顔を作る練習があるほど。リーダーとは異なるラテンパートナー特有な挑発するような妖艶な魅せ方をしていました。フロアーに入ると人が変わるのがラテンの特徴ですがあれほど再現しているとは。予告映像ではもっとできていないと思っていたのですが本編をみたら印象が変わりました。ステップもとても正確です。

 

俳優以外にもスタッフのこだわりがよく分かりました。フロアー(床)が映ったシーンでは本当のダンス教室で撮影したのだと思ったほどリアルな傷みがありました。メイキングをみるとセットを組み、鎖で叩いてエイジングさせたのでした。取材してそれを再現しようとする技術さんの情熱があります。

またイギリスのブラックプールで撮影。社交ダンスの殿堂、英国ブラックプール。本当の会場で撮影してしまうとは。どれくらい凄いかというとアメリカで相撲映画を撮影するので両国国技館の土俵で撮影するようなもの。周囲の選手役を含めて大勢のエキストラが参加しています。画面の背景に溶け込む選手が上級者多数でした。これほどの予算を割いて作品を作り上げてくれたNETFLIXに感謝ですし、陣頭指揮をした大友啓史監督らの尽力に敬意を表します。

エンドロールにあったダンス指導、ダンス技術サポートの一覧を見ると面識のある人、一方的にこちらが知っている人など多くのダンサーが名を連ねています。全力で社交ダンスに向き合った作品であることがここからも分かります。

 

私は邦画好きなので映画作品としても注目した点が多数ありましたが、社交ダンス部分だけを書きました。原作との違い、俳優の表現、ストーリー構成など語りたいところがたくさんあります。もうすでにとても長いのでやめておきます。製作スタッフ、ダンス指導、演じた俳優とどれも異常ともいえるこだわりと完成度。突き詰めると、怖いという感情に至りました。ここまでやったのか、怖え~、という。映画『国宝』も凄いものを観たと思いましたが、この『10DANCE』は私が経験者であるからこそ感じる怖さ。とてつもない作品ができました。

 

甲野 功

 

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コメント: 2
  • #1

    netflix10DANCEファン (金曜日, 13 3月 2026 12:37)

    Xでこちらの記事を紹介するポストから辿り着きました。素晴らしい記事に感動しました。ありがとうございます。

  • #2

    あじさい鍼灸マッサージ治療院 (金曜日, 13 3月 2026 15:57)

    netflix10DANCEファン さん
    コメントありがとうございます。一般の方にあのダンスがどれだけ凄いのかを伝えたくて書きました。また指導した先生方や関係した選手も知り合いが多く、指導者側のことを考えてもどれだけ素晴らしいことをしたかと。本当はトップ選手にダンスに顔だけ合成する予定ができなくなり、俳優自らやるしかないと決まったそうですね。俳優さん達はもちろん、監督も指導陣も腹をくくったことでしょう。映像を通してみた中でですが、その偉業を少しでも伝わるといいなと願っています。