開院時間
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最近、NETFLIX映画『10DANCE』が社交ダンス界隈で話題です。それはもちろんそうでしょう。競技ダンス界を舞台にした作品です。製作には多くの社交ダンサー、関連企業が関わっています。私の知り合い、馴染みの会社、出版社などがエンドロールに名を連ねています。フィクションなのでこんなことは現実にはないというストーリーもありますが、それは原作のマンガにそったもの。俳優達は吹き替えなしにダンスを踊り、社交ダンスの聖地、英国ブラックプールで撮影を敢行するという力の入れようです。
話が変わって、最近SNSの投稿で“社交ダンス界の人はすぐに動画をネットにアップするから、お客が観に来なくなる”といった趣旨のものを目にしました。恐らく、本来なら有料で会場に入ったお客がみるプロのダンスをすぐにネットに動画投稿するから会場に人が来なくなってしまう、という批判のようです。短い文字だけなので曲解しているかもしれませんが、文章を読む限り、このような印象を受けました。そして私は強く思います。本当にそうなのか?と。
著作権という権利が厳然としてあります。肖像権というものも。プロとして商業ベースで踊っているプロダンサーのダンス。デモンストレーション、競技会など。その動画をネットに投稿して誰でも無料で観られるようにしてしまったら、果たして会場にお客さんは来なくなるのでしょうか。私はそうは考えませんし、むしろ逆だと思います。ふと目にした動画で興味が出て実際に見てもらいたいと考えて人が集まるようになるのではないでしょうか。例え競技会なり、デモンストレーションなりを最初から最後まで全編、動画で流したとしてもそれに満足して生で観なくていいやと思う人は少ないと考えます。
これについて私はプロレスから学びました。突然プロレスに話が飛びますが。私は中学校の頃からプロレスが好きでよく見ていました。プロレスには興行論があり、中高生の頃から興行とは何かを自然と学んでいました。昭和の末期。アントニオ猪木が旗揚げした新日本プロレスにはテレビ朝日が、ジャイアント馬場が旗揚げした全日本プロレスには日本テレビがついていました。ゴールデンタイムでプロレスが生中継されていた時代があります。初代タイガーマスクの人気が凄くて敢えて奇をてらったドラマをぶつけようと始まったのが『金八先生』と言われています。金曜8時だから金八先生。それくらい金曜8時の時間帯は『ワールドプロレスリング』(新日本プロレス中継)が強かったのです。話が脱線していますが、師匠の力道山亡き後、古巣の日本プロレスから独立したアントニオ猪木はテレビ中継の大切さを理解していました。安定した放送料が入るのもありますが、テレビで見るから生で見たいと会場に足を運んでくるというお客の心理を理解していました。テレビ放送されたら生観戦に来なくなるという考えとは真逆です。
意図せず目に入ってきて気になったから生で見たくなる。それが客心理です。今やお笑い芸人というよりも実業家といえるキングコング西野亮廣は言います。人は確認でしかお金を払わない、と。モナリザの絵をなぜ人は見たいのか。それは有名だから。教科書に載っているから。その存在を知っていて、よく見かける、評価が高いらしい。どれだけ本物は凄いのか、とルーブル美術館に足を運ぶというのです。知ってもらわないと、認知されないとスタートラインにも立てません。コンテンツ内容を事前に知っていたら(ネタバレしたら)それは売れない、そのような概念を破壊したのもキングコング西野亮廣です。来年続編が公開される『えんとつ町のプペル』。元々は絵本です。その内容を彼は全編ネットに公開しました。そんなことをしたら絵本が売れるはずがない、と多くの人は言いました。作家が何をしてくれたんのだ、とクリエーターから批判されました。しかし蓋をあけると異例の大ヒット。世界でも販売されていて、映画、ミュージカル、バレエと展開されています。絵本を買う親は冒険できない、する暇がないのです。子育てで忙しいため。だから自分が読んで面白かった絵本をまた買う。それならば事前に内容が分かった方が安心して手に取れるということです。特に子どもに読み聞かせをするならばスマートフォンでは小さくてダメ。大きな手に取れる(めくれる)絵本という現物が必要。そういう計算がキングコング西野亮廣にありました。
今やこの手法はスタンダードとなりました。ネタバレして構わない、むしろする。小説の冒頭を無料公開、マンガの最初数巻を無料公開。フリーミアム戦略。今やあのM-1グランプリですら誰が優勝したか知った上で見たいという人がいるそうです。誰が優勝するのかドキドキする感情はいらない。確認のためにじっくりと楽しみたいからと。動画の切り抜きが著作権侵害であるのに無くならない(見過ごされている)のは宣伝効果があるからでしょう。テレビ番組の一部をネット記事にするいわゆるこたつ記事があるのも。オチを知ってもらって興味を持ってもらった方が配信で見てもらえるという実情があります。
最初に挙げたNETFLIX映画『10DANCE』。長めの予告編をCMやネットに出します。ハイライトシーンを入れて。すると、視聴者の一部にこれは凄いと期待をもたせます。12月18日に公開されましたが、日を追うごとに公開するシーンを増やしています。見どころのダンスシーンや主人公二人の掛け合いを。これで満足したから本編は見なくていいやと思う人もいるでしょうが、気になるから全編見たいと思う人も多いでしょう。特に『10DANCE』に限った話ではなくどんなコンテンツでも同様のことをしています。
社交ダンスの話に戻って。確かにコロナ前は肖像権が、プロのダンスなのだから、と大会やショーの動画はネット上がっていませんでした。違法にアップロードされた動画はありましたが。その頃はそれでもお客さんが競技会会場に足を運び、パーティーに人が集まっていました。この頃、社交ダンス界で最も動画や画像が出ていたのは学連(学生競技ダンス連盟)でした。大学生は競技会の動画をどんどんYouTubeにアップしていました。それは選手は自分のダンスを見返すため、またライバルや上級者の研究をするために。要は公共の記録です。そして競技会で学生たちが一眼レフカメラで撮影してSNSに投稿します。スマートフォン全盛なのに大きな一眼レフカメラを構えて写真撮影をするのです。自身がダンサーですから動きを予測できるため写真が上手。中には競技会に出場し、ドレス姿でカメラを構える選手もいました。競技会での学連選手の画像がたくさんネットに登場します。そうなると下手なプロよりも露出します。肖像権ということで大会の動画や画像が制限されているプロ。トップ選手で専門誌に取材される人はいいですが、そうでもないレベルではなかなかその姿を見てもらえません。その間に学連の競技会動画は大量にYouTubeにアップされドレス姿がSNSに多数投稿されます。最もよく見ることができる社交ダンスはプロではなく学連でした。よく見ることができるというのは、無料で簡単にいつでも見ることができる環境にあるという意味です。学連はコロナ前の2019年の段階で競技会をインスタグラムでライブ配信していました。
コロナ禍が社交ダンス界を襲い、大ダメージを受けます。初期の豪華客船クラスターで社交ダンスが流行させる原因だと言われ。ダンス教室への休業要請、イベントの中止。甚大な被害でした。自粛生活から社交ダンスをする習慣が途絶える人が増えます。当院も社交ダンス関連の患者さんが0になりました。そんなときにダンスの動画投稿、配信が発達します。プロ選手が練習動画をアップする。動画審査での競技会開催。無観客の競技会を動画配信する。社交ダンス界は制限することから広く発信する方向に転換しました。生き残るための必然です。
SNS時代となった今、個人がメディアを持っているようなものです。自ら露出していかないと情報の波に埋もれて認知されません。知られなければ、スタートラインにも立てません。NETFLIX映画『10DANCE』が大ヒットすれば実際の競技会はどういうものだろうと興味を持つ人が増えるはずです。その見込み客から入場料を払って競技会、ダンスイベント、ダンスパーティーに足を運ぶ、レッスンを受けるとお客が生まれます。露出を制限してプレミアム感を出す前に、広く認知させる方が得策でしょう。
甲野 功
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