開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:[email protected]
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202

あじさい鍼灸マッサージ治療院を開院して今年5月で12年目に突入することになります。個人事業主として独立してから数えると14年目。これだけの時間が経つと自身も社会も環境が変わります。しかし経営は続けていかないといけません。現在、絶賛、確定申告業務で苦労していて勤め人ならこういう業務は要らないなと、昔を羨む気持ちが一瞬現れます。ただこのような作業は一時的なもので、やらなければならないこと。面倒で気が滅入りますが、決められたことをこなして提出する。仕事ではなく作業です。経営とは仕事を生み出すことであり、自分でいかにして仕事を生み出すかに10年以上取り組んでいます。
仕事はマッサージや鍼灸をすることでしょう?と周りに言われるかもしれません。それはそうなのですが、そこまで持っていくことが大変なのです。患者さんを集める。独立開業した人なら、差はあれど、全員が苦労することのはず。患者さんが来るから臨床業務をすることができます。患者さんを集める業務は終わりがなく、廃業を決意しない限り永久に続きます。ずっと予約が埋まるということはまずありません。患者さんの離脱は必ずあります。状況が変わればまた集める業務は必要になります。反対に、もしも10年先まで毎日前時間帯が埋まっているとすれば、それはそれで問題であり、スタッフを雇うとか営業時間を延ばすとか制限を掛けるとか、何かしらの手立てを打たないといけないでしょう。10年後も同じ条件(自身の体力、テナントの状況、社会城勢など)とは限らないわけです。臨床は大人気の通信販売ではありません。対面で行いますからいつか商品が届けばいいわけではない。悪い予想をすれば何かの出来事で鍼灸に多大な悪印象がついてしまったとしたら。鍼灸に変わる画期的なものが登場したら。そのときどうやって患者さんを集めるのか。マッサージ専門に鞍替えするのか、それでも鍼灸は続けるのか。
こういうことをひっくるめて経営であり、経営戦略を練って実行しないといけません。何もしない、というのも戦略の一つになりますが。
あじさい鍼灸マッサージ治療院を始める前から書籍やテレビ番組、時にはセミナーに参加して経営、経営戦略を学んできました。今もそうです。最近は個人だけでなく業界のことも考えています。以前から考えてはいましたが。特に昨年からあん摩マッサージ指圧師のブランド向上を集団でやっていこうという動きが出てきました。業界のブランド戦略を考えます。それは前職がコンサルタントだったというあん摩マッサージ指圧学生さんと出会ったことが大きな理由。本職でやっていたので話すと感心することがありました。施術者個人がそれぞれ頑張ればいいという考えが私は強かったのですが、あん摩マッサージ指圧師業界全体のブランド戦略を構築する必要を感じました。
このようなことを学ぶ際に、10年以上前から参考にしているのが森岡毅氏。現在沖縄に作ったテーマパーク『ジャングリア沖縄』が良くも悪くも話題になっていますが、そこの生みの親といえる人物。P&Gでマーケティング担当(マーケター)をしていて、当時低迷していたUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)に移りV字回復させた立役者です。経済情報番組『カンブリア宮殿』で森岡毅氏を知ってからずっと勉強しています。
森岡毅氏の本業はマーケティング。経営戦略。自身で会社を立ち上げて経営者になりましたが。彼自身もUFJの成功から他社の経営再建を経験し、自ら計画して0から沖縄に『ジャングリア沖縄』を設営し、状況が変化しています。その間に、新型コロナウィルスのパンデミック、東京オリンピックの延期、ロシアのウクライナ侵攻、能登半島地震、米国トランプ政権などと社会環境は激変しています。その中で生き残る術の一つとして、「ブランド戦略」と「重心」という概念を提唱しています。主に森岡毅・今西聖貴著『確率思考の戦略論 どうすれば売上は増えるのか』(ダイヤモンド社)の内容から、私自身に置き換えつつ、説明します。
森岡毅氏のいう「ブランド戦略」とは、市場において、WHO(誰に)・WHAT(何を)・HOW(どうやって)を訴求していくのかを決定することとしています。言い換えると、消費者の脳内にどんなブランドを構築したいのか!?という強い意志。WHO、WHAT、HOWは経営論で必ず登場する要素ですが、この順番についても重要で、人は結構モノやサービスをHOW(どうやって)売ろうかを考えがち。もちろんWHAT(何を)がありきで。それよりもまずWHO(誰に)売るかを決めないといけません。誰に→何を→どうやっての順番が経営戦略では重要。鍼灸師は専門学校に入って国家試験に合格しないとできない仕事なのでまずWHAT=鍼灸と最初から明確になります(※実際にはそんなに単純ではありませんが)。一方でかのピーター・ドラッガー氏は顧客の創出を重要視し、つまりWHOを大切にしていました。ブランド戦略という文字をみると、方策、つまりHOW(どうやって)が最重要な感じがしますがそうではない。誰に向けるのかを明確にする意志。
重心は物理学の用語にありますが、森岡毅氏はあらゆる局面において目的を達成するために戦略的に集中すべき1点を「重心」と呼んでいます。ビジネスにおいて生き残れるかどうかは、目的に対応するただ1つの「重心」を発見できるかどうかに懸かると述べます。なお物理学での重心は重さ(質量)の中心であり、点です。そして1点で、重心は複数ありません。ただし物体の状態が変わると重心は移動します。人間の重心も体勢で変化します。経営戦略での「重心」も1つしかありません。しかし条件を変えれば「重心」が変わることになります(むしろ変えないといけない)。
そして森岡毅氏は「ブランド戦略の重心」を、“ブランドが生き残る確率を高める構造的に有利な「ブランド・ポジショニング」のこと”だと説明します。「ブランド・ポジショニング」というまた新しい横文字が出てきてしまい、最初から「ブランド・ポジショニング」といえばいいだろう、という気にもなりますが。これはWHO・WHAT・HOWの組み合わせで結果的に決まり、消費者に他ブランドと相対的に比較されることで認識されるそのブランドの意味や価値のことです。何だか分かりにくいのですが経営戦略においてポジショニングというものが非常に重要です。相対する用語としてケイパビリティというものがあります。大雑把にいうと製品の質で勝負するのがケイパビリティで、どの市場でどのような立ち位置で勝負するのかがポジショニングです。これは経営戦略史において2大勢力として競い合ったそうです。大切なことは“良いモノであれば売れる(ケイパビリティ)とは限らない”ということ。素晴らしいブランドだとしてもポジショニングを誤ってはいけないのです。
「ブランド・ポジショニング」について森岡毅氏は詳しく説明しています。「ブランド・ポジショニング」は他との比較によって相対的に決まります。絶対的ではない。自社ブランドが選ばれる確率がより高くなる有利なポジショニングに近づけ、そこから競合たちをできるだけ遠ざけるのが重要。そして「ブランド戦略」を考える上で、最も重要なものは消費者理解であること。消費者理解からWHO(誰に)、WHAT(何を)が設定されます。消費者理解から競合他社ではなく自社ブランドが第一に想起される確率を高めることがブランディング。ブランディングの結果、消費者に競合に対する自社ブランドの相対的な意味付けが「ブランド・ポジショニング」なのです。
自分に置き換えると、鍼灸を受けたいという市場においてあじさい鍼灸マッサージ治療院あるいは甲野功を選ぶ確率を上げることが「ブランド・ポジショニング」。あじさい鍼灸マッサージ治療院や甲野功個人が自社ブランドにあたります。しかし“鍼灸を受けたいという市場”では範囲が広すぎるので、もっとWHO(誰に)を細かく設定しないといけませんし、その先にWHAT(何を)も決まります。私の場合は、一例として、WHOを“社交ダンス関係者”にします。そうするとWHATは鍼灸、マッサージではなく“社交ダンスが上手くなる方法”と設定します。そしてHOW(どのように)の中に“鍼灸やマッサージ、ストレッチ、運動指導を用いて”という設定がされます。
話を元に戻して「ブランド戦略の重心」(ブランド・ポジショニング)はどのように定めればいいのか。これについて森岡毅氏は3つの条件を同時に満たすものが「重心」となるとしています。その条件は強い「Consumer Value(消費者価値)」、強い「Company Edge(自社の強み)」、強い「Competitive Defense(競合防御)」で、これらを同時に満たす、重なる部分を考えることで「重心」が見つかるのです。強いという形容詞は当然ですので省略し、英語も分かりにくいので日本語で表記します。
・「消費者価値」:消費者の根源的な本能に刺さるほど強い根源的欲求。深い消費者理解に根差したWHOとWHATの組み合わせから見つけられる。最も重要。
・「自社の強み」:自社の特徴を武器に変えること。目的のために自社の持つ様々な特徴をいかに最大限プラスとなるように活用できるか。
・「競合防御」:競合ブランドが反撃や追随をしにくい理由。
「消費者価値」については先に触れました。WHOとWHATから見つけ出す最も重要な項目です。
「自社の強み」というのはケイパビリティにあたるもので他にはない、あるいは他ではできない有利な部分。一見不利と思う特徴も武器に変えることも必要です。私の場合は4つの国家資格や複数の職場での経験があたります。またあじさい鍼灸マッサージ治療院は住宅地で人通りが少なく見つけにくいという欠点がありますが、コロナ禍ではステイホームにより有利になりました。
「競合防御」は守りの部分です。余談ですが私が森岡毅氏同様学びの対象としてきた西野亮廣氏も、経営はアクセルよりもブレーキが大事で、攻めよりも防御を重視します。当院に置き換えると立地条件が不利なようで、こんなところ(住宅街)に鍼灸院を置くようなことを他はしません。これが「競合防御」になり得るのです。
森岡毅氏は「消費者価値」と「競合防御」の要素が結果的に同じになる場合があるとしています。また、「自社の強み」と「競合防御」がそれぞれ複数ある場合もあります。しかし「重心」は1つになります。
3つの条件が重なるところに何かあるはずだと意識して診てみると「重心」の存在が見えてきて、そうやって見えてきた「重心」の仮説をもとにブランド戦略を進めていきます。森岡毅氏が低迷していたUSJを再建するときの「ブランド戦略の重心」はどうだったのか。振り返っています。
「消費者価値」は、“レジャーにおける失敗しない選択肢だと消費者の深層心理において認識されること”でした。テーマパークの価値として、他に比べて“楽に、失敗なく楽しめる”がある。とにかくガッカリしたくない。面倒なことを回避できて、向こうから楽しませてくれて、きっと自分も皆も楽しめるに違いないと思える。そのような安心できるレジャーの選択肢が求められていう。
「自社の強み」は世界レベルのハイクオリティなエンターテイメントを創り出すノウハウ。USJの技術力は当時からピカイチでした。
大事なのは「競合防御」で、仮想敵としての競合設定を関西地区のテーマパークや遊園地施設にしました。関東のTDS(東京ディズニーリゾート)と比較されていましたが、関東と関西には3万の川が流れていて(行き来するのに3万円の出費がかかる)、実質競合にはならないと森岡毅氏は考えました。TDSを相手にするのではなく同じ関西圏の施設がライバルになる。その切り替えが躍進の肝でした。「競合防御」としては関西では比類のない圧倒的なスケールとクオリティを持つ。それを活用して、消費者が求めている“USJに行けば失敗しない安心感”を、主に近隣の競合たちに対して強固にする戦略を立てました。
「重心」はレジャーとしてUSJを選択すれば「楽で、失敗しない」と思わせるポジショニングでした。
私の「ブランド戦略の重心」は何か。フレームワークで考えたときにやはり一番難しいのが「Consumer Value(消費者価値)」。消費者(利用者、患者さん)に提供する価値は何なのか。単純に鍼灸施術、マッサージ施術ではないでしょう。受けることで得られる効果。本当にそうなのか。私の調査で、新宿区には現代時点で564ヵ所も鍼灸マッサージ関連の施術所があります。これは保健所に登録されている場所。リラクゼーション、エステなどを含めればこの数倍あると予想できます。その中で当院を選ぶ価値は施術体験やその効果だけではないと思われます。うち以外にも嫌というほど消費者には選択肢があるのです。それを見極めるのが困難です。WHO(誰に)をより細かく定めないといけないようです。また「Company Edge(自社の強み)」も私の能力が向上することで今まで無かった項目が増えますし、加齢や施設の経年劣化などにより既存の強みが失われていくことも考えられます。繰り返し設定し直す必要を感じます。
また業界全体のブランド戦略においてもそうです。あん摩マッサージ指圧師業界の、鍼灸師業界の。個々人がそれぞれやればいい、という考えから業界全体で考える段階にあると私個人が少し変わりました。鍼灸師は以前から常日頃考えてきたと思いますが、あん摩マッサージ指圧師はこれからという感じ。そして業界全体としては特に「Competitive Defense(競合防御)」が重要になります。これに関しては法的なこと、コンプライアンスの点からずっと調べてきました。裁判の判例でここが大きく変わることがあります。
ブランド戦略の重心。抽象的でありますが経営を担う上でずっと必要なもの。私は考え続けないといけまん。
甲野 功
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