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~2026年第41回教員養成科卒論発表会~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 2026年東京呉竹医療専門学校教員養成科卒論発表会
2026年東京呉竹医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科卒論発表会

 

 

今年も母校の東京呉竹医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科(以下、養成科と表記)の卒業論文発表会(以下、卒論発表会と表記)に参加しました。私が在学していたときは東京医療専門学校という学校名で代々木に校舎がありました。現在は東京呉竹医療専門学校に校名変更し、新しくなった四ツ谷の校舎に移転しております。JR、東京メトロ四ツ谷駅からすぐの東京校舎本館で発表会が行われました。

 

私は養成科30期生。そして今回発表するのが42期生。私自身が代々木校舎で卒業論文発表を行ってから12年。干支が一周しました。教員養成科は2年制で2年生が卒論発表を行い1年生が発表会の手伝いをしつつ公聴します。私も29期生の発表を聴き、そこから1年かけて卒業論文作成まで行いました。養成科を卒業してからも毎年卒論発表会に参加しており、今回で(自身の発表も含めて)14期分の発表を聴いてきました。今年は予定が入り、途中抜けて4演題聴くことができませんでした。それ以外は14期分全ての発表を聴いてきました。私と同じく、そしてより長い間、この卒論発表会に参加していたのが故福島哲也先生でした。福島哲也先生は教員養成科で灸実技の教員を担当していた方で私も在学中に習っていました。卒業後は一緒に外部参加席で発表を聴いていました。数年前に福島哲也先生が急逝され、遺志を継ぐような気持ちで毎年参加しています。

 

東京校地下のKURETAKE HALLで同校校長の村上哲二先生による開会の挨拶から第41回教員養成科卒論発表会が開始しました。今年も演題名とそれぞれに対する私の感想を書いていきます。研究の詳細は敢えて書きません。一部結果を書くこともありますが、研究した学生さんの努力が現れたものですから詳しいことは完成した論文を読んでもらいたいという願いからです。

 

 

1.男子鍼灸学生における月経観と教育ニーズの質的研究 -SCATを用いた自由記述アンケート分析-

 

鍼灸師になると月経困難症の対応に迫れることがあります。婦人科系疾患分野が鍼灸は得意です。私は男性で開業しています。直接月経困難症に対する施術を依頼されたことはありませんが日常的に話を聞くことがあります。月経に伴う体調不良があると。フェムテック、健康経営という用語が生まれ、女性の社会進出が当たり前になった現在、月経随伴症状による経済損失が社会的課題になると研究者は述べます。養成科を卒業して全国の鍼灸専門学校に教員として就職する者がいる中で、男性学生における月経への向き合い方と教育現場に対する提言を研究した内容です。2019年の第34回卒論発表会でも月経随伴症状に関する研究がされていて、研究者は男性でした。あれから7年経過し男性学生に対する月経観という新たな視点です。

事前に抄録を読んでいて気になったのがSCAT(Steps for Coding and Theorization)という研修手法。これは質的研究手法に分類され、アンケート記述を解析して分析する手法です。私の妻もこの手法で論文を書いていて、見覚えがありました。鍼灸専門学校に在籍する男性学生25名から得られたアンケート調査から導き出された結果。とても興味深いものでした。その理由として私の年齢と、娘がいるという状況。また私の母は小学校の教員として年代的には珍しい社会進出していました。男性であるゆえに絶対に理解しきれないが、強いか関りがある研究内容で、その結果と考察。とても考えさせられました。このテーマはまた後日きちんと向き合って論じてみたいと思いました。

 

2.鍼治療における声かけの違いが肩こり症状に及ぼす影響

 

鍼治療は物理刺激療法です。薬物治療の化学刺激療法とは違います。物理刺激でありますが術者の人柄や信頼といった属人的な要素が大きく影響するものでもあります。開業しているからこそ、それを日々痛感していて、最高の鍼技術だけでは上手くいかない。人柄、説明、接遇面を全て含めて“技術”なのです。本研究では声かけという刺鍼技術以外の要素に着目しています。非常に鋭い着眼点です。確かに気になります。本研究がまた秀逸なのが鍼治療未経験の柔道整復科学生を被験者にしていることです。私もそうでしたが実験研究をする際に同じ教員養成科学生や教職員にお願いすることが多く、みんな鍼に慣れています。そして鍼に対してポジティブな感情を持ちます(それは当然ですね)。そうではなく、鍼未経験の学生、それも20歳前後の若い年代。そのような被験者で実験をしているのです。とても貴重な被験者群です。実験研究では被験者を選ぶことも重要な要素。鍼灸学生ではない点を私は凄く評価します。声かけの方法も機械の自動音声のような言い方と、感情を込めて重要なキーワードを入れた文言のものと、現実的なものでした。もしも将来“鍼刺激”がオートメーション化して機械が自動的に鍼を体に刺すようになったらこんな感じになりそうだなと予想させます。逆説的に、人が心を込めた声かけを伴った鍼刺鍼が“鍼治療”になるのではないかと考えてしまいました。実験結果もとても面白いものであり、同業者同士で語り合えると思いました。

 

3.健康成人における Manual Diaphragm Release Technique 単独と鍼刺激併用の即時効果-呼吸・発声関連指標の比較-

 

研究者は歌唱、呼吸、発声に興味があり横隔膜に注目しました。そこから先行研究を調査し、横隔膜に対する手技での研究と鍼刺激によるものを知り、比較しようと考えます。Manual Diaphragm Release Technique(MDRT)という横隔膜に対する手技があります。このMDRTのみの場合と鍼刺激を併用した場合を比較して即自的影響を調べる実験研究をしました。卒論発表会では毎回初めて知る技術、機材、用語などが出てきます。MDRTもそうです。そのような手法があることを今回知りました。これだけでも自分の臨床に役立ちます。養成科の卒業研究にはアナウンサー、歌手である学生もいて発声に対する研究例が過去にいくつかあります。鍼だけでなく徒手療法を入れた発表は初めてでその着眼点が素晴らしいです。測定項目に予測肺活量に対する百分率(%VC)、最大発声時間(MPT)、「呼吸のしやすさ」および「発声しやすさ」に対するVisual Analog Scale(VAS)を採用していて、何で測るかも考慮されていると思いました。

 

4.小田一創案の『霊枢』衛気篇を基にした標本気街治療法の可能性

 

間中喜雄先生が始めた「針灸トポロジー学武会」を引き継ぎ、「針灸気診研究会」を創始した小田一氏が創案した治療体系標本気街治療法。東洋医学の古典『霊枢』衛気篇「標本気街」をもとにしたもの。小田一氏の作成した576穴から成る孔穴表とその手法は難解である。小田一氏の標本気街治療法を分析・整理し補完する新たな解釈を加えて、一般的に臨床で使用できる新たな手法を提示する。この発表は素直に理解できませんでした、古典に疎い私には。人体を天・人・地に3パーツに分ける、脈診と胸鎖乳突筋で状態を把握する、など。発表のあとに研究者に直接聞いたのですがなお一層分かりませんでした。鍼灸には素問、霊枢という2つの篇がある『黄帝内経』というバイブルのような書物があります。他にも『難経』、『傷寒雑病論』、『神農本草経』らも。これらを古典と称します。古典の勉強は教員養成科の授業以外やってこなかったため、概念すらも理解できませんでした。卒論発表会ではだいたい毎年古典の研究があるのですが、今年は群を抜いて分からず。このジャンルを勉強してこなかった自分を顧みました。

 

5.鍼管へのガイド装着が押手垂直圧に及ぼす影響

 

日本の鍼灸師はほぼ管鍼法という技術を用いて鍼施術を行います。これは江戸時代に杉山和一が発見されたとされる技術(※近年の研究で杉山和一以前から技術はあったらしいが)。鍼管という管に毫鍼を入れて人体に刺入する手法です。鍼管を用いることで鍼をスムーズに刺入することができ、細い鍼が好まれる日本ではとくに相性がいいのです。その際に押手といって皮膚の上に鍼管を立てる方の手(通常は利き手ではない方)があり、その押手が皮膚に与える圧を押手垂直圧といいます。この押手垂直圧が狂うと刺した鍼が曲がって入ってしまい、狙ったところに鍼が向かないことが起きます。鍼灸師教育機関で鍼実技を教員が指導するときにどのようにこの押手垂直圧を教えるのかが課題になります。そこでアフォーダンスの概念を応用し、鍼管にガイドとなるゴム製リングを装着することで安定性が保たれるかを研究しました。

この研究が秀逸な点として被験者が鍼灸師45名、鍼灸学生35名の合計80名もいること。研究のサンプル数をn数と呼びますが実験研究でn数が80というのは相当凄いことです。またアマチュアである学生とプロである鍼灸師の双方を被験者としているのです。測定器材も振動を感知する装置を用いて100Hzで計測します。100Hzというのは1秒間に100回圧をサンプリングするということ。精密な計測ができます。その圧変動量の二乗平均平方根(RMS)と標準偏差(SD)を算出し統計的比較しています。鍼技術の研究ですが非常に物理学的な実験で、解析は数学の統計手法を用いています。物理学に寄った研究で画期的だと思いました。特に東京理科大学応用物理学科卒の私は科学的研究であることに好感を持ってしまいます。

 

6.耳介周囲への鍼刺激によるブラキシズム症状への影響について-咀嚼筋、表情筋、唾液アミラーゼ活性値との関連-

 

食いしばり症状であるブラキシズム。顎関節症の主要なリスク因子になります。心因性で生じストレス社会で問題視されています。ブラキシズムに対していわゆる耳鍼といわれる耳介周囲への刺激で緩和できるのかを研究しています。私の養成科同期がブラキシズムに近いTCH(Tooth Contacting Habit:歯列接触癖)に関する研究をしていました。そして私は鍼灸マッサージ科のときに耳鍼によるダイエットを研究しました。既視感のある研究内容。耳介への刺激にはマグレイン(銀粒)を用いていて、これも私がかつて研究した耳鍼ダイエットの実験と同じです。マグレインを取り除いたシールだけの偽鍼を用いたプラセボ群を用意しています。プラセボ群というのは耳にマグレインを貼っていると思っている被験者たちのこと。ブラインドといって被験者は本物のマグレインを耳に貼っているのか偽物なのかが分かりません。どちらも貼っているので、自分はマグレインを付けているという実感を持ちます。

効果を測定する指標として咀嚼筋・表情筋の皮膚温、唾液アミラーゼ活性値(ストレス指標)、ブラキシズムに関する自覚症状としています。遠隔治療の一種で顎関節の症状を耳からの刺激で効果を出そうというもの。近年はBFA(Battlefield Acupuncture)が注目されNHKの番組でも紹介されました。トレンドを踏まえた研究だと思います。

 

7.艾球形状の工夫による灸頭鍼法の安全性の考察(第一報)-燃焼特性と密度の考察-

 

灸頭鍼。体に刺入した毫鍼に艾の塊を付けて点火するやり方。毫鍼の鍼刺激とお灸の温熱刺激を同時に与えられる技術です。好きな術者が多い灸頭鍼なのですが問題もあります。一番は火傷のリスク。鍼柄に艾の塊(艾球)を付けて燃焼させるので、途中で燃えている艾球が落ちて患者の皮膚に接触することがあります。輻射熱という皮膚から距離あるところから熱を与えるくらいの熱源ですから直接触れれば火傷を起こします。火傷に至らなくても熱刺激で反射的に体が動いて鍼が曲がる、ベッドから落ちてしまうといった二次的な障害が生じる可能性があります。その対策として艾球の形状を従来の球型とは別の円錐型を採用する。その円錐型が対策に有効なのかを比較検討しています。なお演題が(第一報)とありますが、同一研究者が(第二報)と別の観点で発表しています。本題は艾球の燃焼特性と密度について実験研究をしています。円錐型の灸頭鍼用艾球は養成科講師の高野耕造先生が考案しました。高野耕造先生にも私は教員養成科時代に習っています。

この実験研究も物理的なものとなっていて装置を用いて燃焼特性(艾球下縁の温度、輻射熱、煙消失時間)、艾球の密度を計測しています。それらを球型と円錐型とで比較しています。密度計算に温度測定。温度の時間経過をプロットして。非常に科学的な(物理的、数学的という意味)実験研究でした。

 

8.艾球形状の工夫による灸頭鍼法の安全性の考察(第二報)-艾球落下頻度の比較検討-

 

前演題と同じテーマです。灸頭鍼で一番の問題となるのが、燃焼している艾球が鍼から落下してしまうことその危険性を球型と円錐型で比較しています。研究者によって均一の艾球を複数作成し振動装置を用いて艾球が落下するのかを計測します。発表では振動発生装置の動画が紹介され、ここまでやるのかと感心しました。機械なので均一の振動を何度も起こせます。また円錐型の艾球を作成するのに慣れた研究者と、その作り方を記したマニュアルを渡して作ってもらった鍼灸師との、円錐型艾球の比較をしています。灸頭鍼においてこの円錐型が有効だと認められても他の鍼灸師が再現できないといけません。その点まで考慮してサブ研究として検証していました。

私は臨床で灸頭鍼をしません。課題となっている火傷のリスクもありますし、煙が多量に出てしまう、臭いがきつくなるというデメリットがあるからです。鍼灸師なら灸頭鍼のメリット・デメリットを理解しています。艾球の作り方を工夫することで灸頭鍼をより使いやすくしようという気持ちが2演題から伝わってきます。

 

9.教員養成科附属施術所の患者動態調査

 

この演題は退席していたので発表を聴いていません。抄録から得られた情報から簡単に紹介します。

教員養成科は附属施術所を持っていて定期的に通院できる患者さんを集めています。教員養成科は「10年の修行を2年で行う」という謳い文句を持ち、臨床力を向上させる場所でもあります。開業するにあたり鍼灸院経営も重要な項目。附属施術所は2年生が共同で運営する形式をとっていて基本的に教職員が運営に手を出しません。売上管理、物品管理、患者情報管理など全て学生が行います。養成科は学生といえど鍼灸師免許を持ったプロ。自主性を重んじます。それが鍼灸科附属施術所との大きな違いです。養成科附属施術所の患者さん状況をチェックすることは大事な仕事。私も代々木校舎で附属施術所相談役という役職に就いていました。40期が代々木から四ツ谷に附属施術所を引っ越す前に患者動態調査を行った発表をしています。それに対して四谷校舎に引っ越してきたのが2024年8月。その後の2024年11月5日から2025年10月31日までの期間で来所した患者の「総患者数」「新規患者数」「居住地」「年齢」「性別」「主訴」「キャンセル理由」等を調査しています。抄録にあるデータを見ると私がいた12年前とはやはり事情が違うようです。立地が変わることは大きい。新型コロナもありました。特に外に発表でない内容(発表しても業界に大きな影響を与えることはない本校内のデータ)ですが、調査しておかないといけないものです。

 

10.オイルマッサージが下腿三頭筋に及ぼす即時的効果 -筋腹部と筋腱移行部の比較-

 

あん摩マッサージ指圧師としてとても聴きたかった研究です。この演題も退席していて発表を聴いていません。これまで養成科の卒論発表会で手技療法の研究がありましたが指圧や按摩が多くオイルマッサージを題材にしたものは29期以降の発表ではありません。ふくらはぎの筋肉、下腿三頭筋。下腿三頭筋は腓腹筋とヒラメ筋の総称でアキレス腱になって踵に付着しています。この下腿三頭筋へのオイルマッサージを行います。さらに筋腹部(MB)と筋腱移行部(MTJ)とピンポイントで部位を決めて、各1分間の母指軽擦法という手技方法も限定しています。それにより足関節背屈可動域(ROM)、主観的つっぱり感(VAS)、筋硬度を計測しています。被験者は20名。この演題は結果を書いてしまいますがどの項目でも非常に効果が認められました(改善する有意差が統計学的に出た)。わずか1分間という時間で効果が出たという報告は当事者としても驚きです。これはきちんと完成した論文を読もうと思いました。

 

11.自己施灸がストレスに与える影響

 

この演題も質疑応答から聴いたので本題は聴いておりません。市販されている「せんねん灸」を自分でする自己施灸。これを2週間、週に3回継続してその効果を測定した研究発表です。セルフケアとして一般の方が自分でお灸を据えるのは江戸時代からありました。焙烙灸といってお寺で暑気払いに行うこともあります。本実験の被験者は養成科学生。つまり全員免許を持った灸師(きゅう師)であります。温灸(せんねん灸)を用いた自己施灸が精神的ストレス、気分状態に及ぼす影響を検討しています。

質疑応答のやり取りでとても興味深いやり取りがありました。ストレスをチェックしているが一般の人には自己施灸が面倒でそれがストレスにならないのか。きゅう師ではなく一般の非きゅう師を被験者にしなかったのはなぜか。そのような質問。研究者の回答がありますがそれは置いておいて。とても芯をついた指摘だと私は思います。継続的に自分で行う手間。自己施灸にはある程度時間を取られるので、きゅう師である私でも習慣化できるか分かりません。また火傷のリスクは付きまといます。そのような懸念に対する意見を研究者は述べていてセルフケアとしての自己施灸が世間に浸透していくのかと考える一助になりました。

 

12.アトピー性皮膚炎による顔面部の痒み抑制へ及ぼす影響 -頭皮の鍼通電による症例集積-

 

顔面部のアトピー性皮膚炎(AD)に対して頭頂部へ100Hz鍼通電が効果はあるのかを検証しています。鍼通電とは体に刺入した毫鍼に装置で通電させるもの。100Hzは1秒間に100回の頻度で通電させること。先行研究によって実験プロトコルを構成しています。対象者は標準治療を受けている中等症以下のAD患者を対象にしています。サブタイトルに症例集積とあるように症例報告の分野になります。症例報告は実験研究とは異なり、実際の患者さんの経過を追っていくもの。この演題では標準治療、すなわち投薬など医療機関での治療を行っている患者さんに対して鍼通電を行い、その結果を各項目で記載して検証するのです。主観的評価として、顔面部および最も痒みを感じる部位のVASを一日単位で毎日記録してもらいます。また皮膚科の評価で用いられる質問評価ADCTスコア、かゆみを5つの側面から評価する5D itch scaleも記録してもらいます。客観的評価として顔面の経穴である陽白部分の水分量と油分量を測定しています。

本研究の大切なところは標準治療を行っている患者さんに鍼通電をしていること。研究者が述べていましたが鍼治療が標準治療を妨げない補完的介入である可能性が示唆されること。鍼灸師の中には鍼灸技術あるいは自身を盲信して、薬をやめろ・病院に行くな・鍼灸をしていれば治る、と標準治療(つまり現代医療)を否定して鍼灸だけに囲い込む者がいます。私はそのような考えに否定的で標準治療が苦手なところ、手の届かないところを補完する(補完できる)のが鍼灸だと思いますから、標準治療にとって代わるものではないと考えます。標準治療の妨げにならない。補完的介入である可能性。共感できますし、理事長が医師である呉竹学園らしい考えだと思います。

 

13.肩こり患者に対する頭低位姿勢による僧帽筋組織血液酸素化動態の変化について

 

ピラティスでシルクサスペンションというエクササイズがあります。宙吊りになるものです。その姿勢を頭低位姿勢といいます。この姿勢を取ることで肩こりの原因の一つである僧帽筋の筋緊張や血流低下が関与するとされ、それを検証しています。実験場所がピラティススタジオで被験者肩こり症状を自覚するシルクサスペンションを経験している女性。3分間の頭低位姿勢を保持してもらいます。その前後に安静時で右僧帽筋の組織血液酸素化動態を近赤外線分光法により、酸素化ヘモグロビン(oxHb)、組織酸素飽和度(St0₂)を測定します。また主観的評価としてNumerical Rating Scale(NRS)を聴取。体液分布変化の指標として下腿周囲径を前後で測定しています。相当特殊な研究だと思います。

鍼灸でもあん摩マッサージ指圧でもなく運動療法として逆さまになる。慣れていない人では頭に血がのぼって体調不良になりそうです。おそらく研究者がピラティスと携わっており、実験施設や被験者を集められる環境にあるのでしょう。これは養成科の卒論発表会らしい研究テーマともいえて研究者個人の特徴を存分に発揮したという。過去には下肢を欠損したした者だけを被験者にした実験研究やA級ライセンスを持つプロボクサーだけが被験者という実験研究がありました。通常は集めることが不可能と思える被験者群での研究。また個人的に検証してみたい内容をきちんと実験プロトコルを組み実験し、計測データを取り、結果を統計処理する。そして考察をして課題や今後の展望を述べる。養成科卒論発表会だからできる演題だと思いました。

 

14.足臨泣(GB41)への円皮鍼刺激が股関節屈曲・内旋可動域に与える影響 ―shamを用いたランダム化比較試験-

 

鍼灸の特徴に遠隔治療というものがあります。これは症状が出ているところそのもの(局所)ではなく、離れた部位に刺激をして治療するというもの。例えば腰痛に手の甲にあるツボ(腰痛点)を使う、下腿の経穴(委中、承筋、承山、崑崙など)を使うといったもの。東洋医学には経絡という気の流れの概念があります。このような局所以外からアプローチするというのは西洋医学にはあまりありません。首が痛いなら首そのものをみます。腕や手首、足首からどうにかしようとは考えないです。鍼灸師はそれらを候補に挙げます(するかどうかは別として)。神経、関連痛、ミオトーム、アナトミートレイン、トリガーポイントなど遠隔治療に近い考えは近年出てきていますがその歴史は東洋医学の方が遥かに長いと考えています。本研究は足の甲にある足臨泣という経穴に円皮鍼を刺して、股関節の屈曲・内旋の関節可動域、動作時の主観的違和感を検証しています。そして円皮鍼で鍼がない偽鍼(sham)を用いています。これはプラセボ効果を検証するためで、鍼刺激はありませんが円皮鍼をしていると思うことで効果が出るのかをみています。そしてダブルブラインドといって、被験者も術者も円皮鍼が本物か偽物か分からない状況で実験をします。また被験者には貼られた円皮鍼が本物なのか偽物なのかを予想してもらいバレていないかも確認しています(正誤結果を統計処理している)。円皮鍼はシール状で棘のような短い鍼(0.6~1.2mmくらい)がついています。貼れるので3日くらい付けたまま生活できます。通常の毫鍼よりも誰が刺しても刺激が均一なり、偽鍼をすることができます。

鍼灸師らしい実験プロトコル。股関節の関節可動域については私の養成科同期も研究していました。その際は小殿筋への鍼通電刺激でした。今回は足の甲にある足臨泣を用います。そして円皮鍼を用いたダブルブラインド。素直かつスマートな手法だと思いました。

 

15.巨刺法の検討 ―内関穴に注目して―

 

巨刺。「こし」と読みます。鍼の古典的な刺鍼法で対側に効かせるものです。例えば右足に痛みがあるなら左足に鍼を刺す。これも遠隔治療の一つで東洋医学特有ではないでしょうか。本実験では内関という手首の経穴を使っています。左内関に毫鍼を刺入し10分間そのままにします(置鍼)。そして左内関(鍼を刺している)と右内関(鍼を刺していない)の酸素化ヘモグロビン(oxHb)、脱酸素化ヘモグロビン(dxHb)、総ヘモグロビン(toHb)、酸素飽和度(StO₂)の値を1秒ごとに測定します。それぞれ刺鍼前5分間、置鍼10分間、抜鍼後10分間、抜鍼後10分~20分間、抜鍼後20分~30分間と5区間計測し平均値で比較します。私の頃にはおそらくなかった非侵襲性の血流量測定器を用いています。巨刺という東洋医学概論で覚える知識ですが、実際に効果があるのか検証しようとは思ったことがありません。症状が片方だとしてもだいたい左右どちらにも鍼を刺しますし、症状が無い健側だけ刺すというのは不安でできません。古典に書いてあるからそうだろう、ではなく、本当にそうなのかと科学的に検証する。素晴らしいと思います。

 

 

今年は14回目にして初めて発表を聴けない演題がありました。少々残念です。むしろよく毎年日程を開けられたと考えます。新型コロナでも距離を保って現地で公聴しました。毎年参加するのはだいたい知り合いが一人はいるからという理由もありますが、やはり新しい知識を得るため。かなりマニアックなテーマが毎年あり、未だに聞いたことすらない用語に出会います。計測方法についても毎年新しい器材が登場します。最先端とも言えるでしょう。

また教員の締めの毎年言葉がためになります。昨今はAIの進化が激しく、AIに疑問を投げかければ良いと思える回答が返ってきます。しかし鍼灸、東洋医学の分野ではデータが少なく、嘘や的外れな回答が出ることが少なくありません。実際に標本気街治療法をAIに聞いたら全然合っていない解説が出てきました。AIの回答が本当なのかファクトチェックが必要である。そのためには1次ソース、すなわち論文をあたらないといけない。面倒だけどやる。自分で前向きにデータを取りに行く。検証する。それをするのが養成科であります。自分の思い込みと事実は解離している。結果は出たけど本当にそれは正しいのか?いい意味で批判的姿勢が科学には必要なのです。そのようなことを座長が述べていました。

 

閉会した後に養成科OBとしてコメントを述べる機会を得ました。今回は隣に32期の後輩である飯塚聡先生(落合鍼灸マッサージらるく治療室)がいました。卒業して干支が一回りしたことを振り返りながら開業者としての心構えを少し話しました。今年で12周年を迎えますが、その間にコロナ禍があり。好奇心旺盛で行動し人に会いに行く。そして情報発信をする。そのようなことを。今年も養成科卒論発表会が終わり、一つ世代が進んだと感じました。養成科2年生の皆様、お疲れ様でした。

 

甲野 功

 

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