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~国家試験のプレッシャー~

あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師国家試験 出題基準
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師国家試験 出題基準

 

 

来週、

・あん摩マッサージ指圧師

・はり師

・きゅう師

・柔道整復師

の4つの国家試験合格発表がされます。私はこの国家資格を持っていることもあり、毎年その合格率、受験者数の推移を観察しています。詳細が出たら例年同様、4月に入ってからでしょうが、レポートすることでしょう。

 

私は国家試験の結果については詳細に調査をしますが試験内容には触れないようにしています。ほぼ解くことはしません。少し問題をみるくらいです。学生さんのサポートをあれこれしますが国家試験対策はやりません。専門学校(大学、視覚支援学校も)に本職の先生がいますし、フリーで国家試験対策を行っている先生方も知っています。私がやることではないと考えています。そして試験問題に対する感想もしません。今と私が受けた頃の試験は別物といえるくらい内容が違いますし。

私があはき(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師)国家試験を受けたのが2007年2月。柔整(柔道整復師)国家試験を受けたのが2011年3月。どちらも15年以上前に。その間に大幅な改正がありました。試験問題数が増えて出題範囲も広がりました。柔整国家試験では必修問題という8割正答しないと合格できない問題が冒頭にあるのですがそれが30問から50問に増えました。過去に合格しているから今でも合格できるとは限りません。おそらく何の準備もなく受験したら落ちると思います。

 

出題基準となる情報は公開されています。

 

あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師国家試験出題基準 2026年版(報告書)

 

これを読むと私が受験したときには無かった項目が多々あります。例えば覚えておく用語に「JICA」があります。何の意味か分かりますか?これは「Japan International Cooperation Agency」の略。「国際協力機構」です。あん摩マッサージ指圧師になるための国家試験でJICAを知らないといけないのです。WHO(World Health Organization)が「世界保健機関」は納得できますが。したり顔で国家試験の内容を語るのはまずいと思っています。

一方でSNSには国家試験内容についての意見が多数みられます。受験した当事者が感想を述べるのは理解できます。それは当然でしょう。しかし受験生ではない人もあれこれ語っている。個人の自由だから別にいいのですが、大事なことが抜けているな、と感じます。それは“国家試験のプレッシャー”。これが抜け落ちているなと。

 

私は学生さんに対して国家試験対策はしませんが、学校の定期試験対策や勉強方法のサポートはします。学習方法は伝えられますし、教えておきたいと願います。それは国家試験対策とは別のものだと考えています。そして個人的な意見として、早期の国家試験対策はあまり良くないと考えています。国家試験対策は重要で必要。それは間違いありません。ただ2年生や1年生から始めるのはあまり良いことではないという考えです。問題が難しくなっているので国家試験対策は前倒しになっていくのは仕方ないことです。しかし1、2年生で国家試験を解く、過去問検討をするというのはどうなのでしょう、という意見。現行の国家試験は4問択一の文章問題だけです。柔整国家試験はまた別のものもありますが、基本は4択問題です。どれかの選択肢を選べばいいのです。そもそも国家試験とは3年間で学習する膨大な知識を修得できているかを効率よく確認するためのもの。筆記問題にするよりも広い範囲がカバーできます。ですから国家試験は究極、選べばいいのです。当てずっぽうなら正答確率25%。それは国家試験対策は、1つは確実に選択肢から弾いて3択にする(正答確率33%)、2つに選択肢を絞れる(正答確率50%)というようなことをします。4つの設問を解くのではなく選択する作業になります。

これは学習することと似ているようで、また異なるテクニックが使えてしまいます。教科書を読んで物事を理解するという段階(主に低学年)で4択問題を解く方向に目が向くとどうなのかという懸念です。もちろん先に国家試験問題を知って、ここは国家試験に出るから頑張って覚えないと!と気合を入れるのはいいでしょう。学校の先生も「ここは国家試験に出るからな!」と授業中に集中するように奮起させることでしょう。ただ国家試験の過去問題にあるか否かで学習意欲が上下するのは危険だと思っています。

 

個人的な経験ではありますが、あはき学生と柔整学生時代を振り返ると早い段階から国家試験対策・過去問検討に精を出していた同級生で、卒業後に臨床で活躍している人を知りません。何だかんだで狭い業界ですから評判は耳に入ってくるもの。噂も。

 

本題を“国家試験のプレッシャー”に戻します。プレッシャーを考慮しないことで問題が起きるのです。

国家試験本番。これは想像以上に心理的ストレスがかかります。それに伴い体力も削られます。私はあん摩マッサージ指圧師国家試験、はり師・きゅう師国家試験、柔道整復師国家試験の3日間受けた経験があります。あん摩マッサージ指圧師が土曜日ではり師・きゅう師が日曜日。2007年のときは二日連続です。柔道整復師国家試験は日曜日だけですが、最初の30問が必修問題でこの30問のうち7問間違ったらそこで不合格となります。各種国家試験は3年間の学習をして養成施設(専門学校・大学・視覚支援学校)で受験資格を得ないと受験できません。試験は年に一度だけ浪人すると合格率は大幅に下がります3年間の努力、学費、生活費がかかった一発勝負。絶対に失敗できないプレッシャーがあるのです。このプレッシャーが正常な判断、普段なら起きない精神状態をもたらします。

 

私の体験談です。あん摩マッサージ指圧師国家試験問題でBMIを計算するものがありました。BMIは身長と体重を掛け算・割り算をすれば出ます。実質小学校の算数です。これが計算できなかったのです。計算した値が選択肢にない。焦りました。東京理科大学を卒業して人より数字に向き合ってきたはずなのに。そもそも常識的なBMIの範囲は頭に入っていて5とか80といった数字にはなりようがないのです。それでも計算ができなくて回答を選ぶことができませんでした。ひとまず問題を飛ばして気持ちを落ち着かせようと判断して次の問題に向かいました。はり師・きゅう師国家試験も出題傾向が変わり難しくて焦りました。2日連続の国家試験ということもありました。柔道整復師国家試験では必修問題が難しくて大丈夫かと不安になりながら午前中の問題を解いていきます。絶対合っていると思えない問題が疑心暗鬼になります。80%は合っているだろうが20%の懸念がある。1問分からないとそれがずっと尾を引いてくる。更にマークシートがずれていないか、出した回答通りにマークできているか、と不安になる。マークミスは今まで一度もしたことがないのに。会場は大学の教室。周りは知らない受験生。生年月日で並ぶので誕生日が近い同級生は同じ会場に。声に出さない緊張感が周囲から伝わってくる。変な動きをしてカンニングを疑われたらまずい。早く解けたからなのか諦めたのかは分からないが早々に退出する知らない受験生。本当にこれで大丈夫なのか?と自問自答する数時間。

 

このようなプレッシャーを受けます。結果をみればあん摩マッサージ指圧師国家試験は9割、はり師・きゅう師は8割以上、柔道整復師も8割以上の正答率で余裕の合格です。合格基準は6割以上の正答。合格率をみれば落とすための試験ではないことは明白です。ただしこれは“終わってみれば”という話で受験当事者の精神的なストレスは甚大です。それを考慮していないことは危険なのです。

 

自宅でのんびりと国家試験問題を眺めてざっと回答しました。6割以上解けていました。今年の問題は簡単じゃないか。そういう意見は意味がないのです。バッティングセンターで150kmのボールを打ち返してホームランを出せます。同じコース、同じ球速ですが、メージャーリーグの試合で大谷翔平投手のボールを打ち返せますかということです。練習と本番は別物。本番で力を発揮するために練習するわけですが。大事な本番で実力通りのことが出せたら苦労はしません。同じ国家試験問題をどのような状況で解くかでその精神的難易度は大きくぶれます。もう試験に合格して他人事になっている私が、何点だろうが関係ないと4択問題を選んだところで、実のある意見にはなりません。毎年問題を研究して本気で対策をしている専門学校の教員やフリーの先生とは違います。

 

これは学生さんにも言えることです。受験間近の3年生の1月くらいにする国家試験の過去問題と1、2年生の時にする今年の問題は緊張度が比べ物になりません。プレッシャーの無い状態で解くことをしっかり認識していればいいのですが、この程度の問題なら楽勝などと思うことは危険です。繰り返しになりますが国家試験は4択なのでどれかを選べばいいのです。それが3分の1、2分の1まで狭めることができれば正答率は上がります。だから本番も大丈夫にはなりません。受験直前に初めて過去問題をする、それも一度に全部最初から最後まで。このときのプレッシャーはかなり国家試験本番に近くなっています。これが1、2年生からやっていると前に見たことがある、解いたことがあるので条件反射のように選択できてしまいます。何がまずいかというとバイアスがかかります。過去問題をたくさん解いて、プレッシャーが実感できる試験直前でも問題がスラスラとけると、自分はできているという感情になります。国家試験本番という強いプレッシャーを前に正常性バイアスといえる楽観視がでてきます。精神を保つために。

 

そして本番も過去問題通りに出るはずという妙な期待。私も直前はそうでした。学校の先生もそう言っていました。過去問題をやっておけば大丈夫だからと。しかしそのようなことは出題条件には書いていません。契約ではありません。今までと違う問い方、出たことのない分野が本番に登場したときに、受験者は猛烈に焦ってしまいます。それは当事者だからです。不合格には絶対になりたくない。受験しない人なら、今年は傾向が変わったのか、で済みますが、会場で本当に受けている人はそれどころではない。嘘つき聞いていないずるいこんなはずじゃなかった。そんな理不尽な反論が頭をよぎるのです。私もそうでした。1問分からないとそれが頭に残って不安になります。実際には余裕で合格できる点数を取っているのに、その時は不安で不安で。当たり前にできることができなくなるのです。小学校の算数ができなくなるように。

 

国家試験本番のプレッシャーは経験しないと分かりません。私の場合は前日にあん摩マッサージ指圧師国家試験があったので翌日のはり師・きゅう師国家試験で心の準備ができました。柔道整復師国家試験は4年前の経験がやはり大きかったです。同じ問題でも、あの状況で、解くことは話が違います。条件が違う。そのことが抜け落ちていると危ないのです。

 

甲野 功

 

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