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~「部位転がし」~

厚生労働省資料 いわゆる「部位転がし」に関する調査について 表紙
厚生労働省資料 いわゆる「部位転がし」に関する調査について 表紙

 

 

ゴールデンウイーク中といえる令和8年4月30日に社会保障審議会医療保険部会が開催されました。ここでの配布資料によると柔道整復療養費が上がる方向です。

 

第35回社会保障審議会医療保険部会 柔道整復療養費検討専門委員会配布資料

 

これは柔道整復師にとって吉報なのですが、同時に会議で配布された資料には「部位転がし」に関する調査資料がありました。

 

いわゆる「部位転がし」に関する調査について

 

この資料、というより資料タイトルを目にしたとき、私はとても驚きこんな時代が来たかと思い知りました

 

国民皆保険制度の日本では原則として国民全員が何かしらの保険証を持っています。保険を扱う団体を「保険者」といい保険証を持つ者を「被保険者」といいます。病院に行って保険証を提示すれば多くの人が3割負担で済みます。これは実費としてかかった治療費のうち、7割を「保険者」が支払い、残りの3割分を「被保険者」たる患者さんが窓口で支払うというもの。更に私が住む東京都新宿区の場合、中学生までの自己負担3割分も新宿区が支払ってくれます。うちの子ども達は個人の保険証に加えてマル子医療証(義務教育就学児医療費助成)が交付されています。保険証自体はマイナンバーカードに統合されていきますが、今のところマル子医療証は残っています。

 

柔道整復師の開設する施術所(接骨院)で急性外傷の治療を受けた場合は、療養費を柔道整復師が患者の代わりに「保険者」に請求する(受領委任払い)か、患者さん本人が7割の自己負担額を後で「保険者」に請求して支払ってもらう(償還払い)ことができます。かつては圧倒的に受領委任払いが多く、整骨院に行って保険証を出せば3割、あるいは高齢者は1割で施術してもらえるのが一般的でした。そのため整骨院を病院と同じところだと勘違いしている方も少なくなかったでしょう。

もちろん病院(医療機関:医師による治療を行う施設。病院、クリニック、診療所を指す。)と整骨院(施術所:この場合は柔道整復師が施術を行う施設。接骨院、整骨院、骨接ぎ陰などを指す。)は違います。医療法柔道整復師法という異なった法律で管理されています。柔道整復師の施術は急性外傷の施術限定で療養費が支給されるというのが本来のこと。柔道整復師が療養費を使えるのではありません。この場合の療養費というのは保険負担分のことで、現役世代だと施術費の7割分です。本来は窓口で患者さんが全額支払って、そのうち7割分の療養費を患者さん自らが入っている「保険者」に請求して、後で返金されるもの。

 

この支払方法を「償還払い」といいます。例えば1万円の施術費がかかったとして、患者さんは接骨院に1万円支払います。そして患者さんが書類を作成し、自分の保険証を運営する「保険者」に請求をします。請求を受けた「保険者」は審査の上、後日「被保険者」である患者さんに7000円を支払うのです。この「償還払い」は患者さんの負担が大きいわけです。一過性とはいえ満額接骨院に支払わないといけない上に、請求書類を作成して「保険者」(例えば勤めている企業の担当部署)に提出して審査を待ちます。すぐに支給されればいいのですが、だいたい数か月かかると言われています。その間にお金が戻ってこないのです。そもそも怪我をして接骨院に行ったのに。

 

これは大変だろうということで柔道整復師が患者さんのために代理で療養費を請求できる「受領委任払い」が特例で柔道整復師に認められてきました。前の例でいうと、患者さんは接骨院に自己負担分3割の3000円を接骨院に窓口支払いをするだけ。請求書類を作る必要はありません。代わりに柔道整復師の方が患者さんの「保険者」に7割分の療養費を請求します。請求業務をするのは柔道整復師で、患者さんが支払ううちの7割を肩代わりしているということ。患者さんにとってはとても助かるシステムです。

 

しかしこの「受領委任払い」制度は柔道整復師の不正請求がとてもしやすいという面を持ちます。患者さんにとっては保険証を提示して、代わりに保険請求をしてもらう旨のサイン(署名)をレセプトと言われる申請書類にします。それから先はどのようなことになっているのか分かりません。ここで柔道整復師が不正な療養費請求をしていたとしても分からないのです。現実に柔道整復師による療養費不正請求は数多く発覚しています。表沙汰になっていないだけで実際には遥かに多くあることでしょう。私は柔道整復専門学校学生時代から言われていたことですから軽く15年前からあります。不正請求に関しても過去に多数事件化したものを紹介してきました。逮捕者もたくさん出ています。そして現在も逮捕されたという報道が各地で出ています。

 

このような背景を踏まえた上で、本題の厚生労働省が調査資料としてまとめた『いわゆる「部位転がし」に関する調査について』がいかに衝撃的だったかを述べます。まずタイトルの「部位転がし」。この意味が分かる人は柔道整復師に近い位置にいるはずです。一般的にこんな言葉を聞くことはありません。はっきり言えば業界の隠語の類。分かる人には分かるという。柔術をしている人はオモプラッタといえば、はいはいとなります。社交ダンス界隈ならクカラチャと聞いてゴキブリ?とは思いません。「部位転がし」というのはそれくらい業界外には知られていない用語です。これは不正請求のテクニックなのです

 

柔道整復師が療養費として請求できるのは急性外傷の処置に限ります。具体的には骨折、脱臼、捻挫、打撲、挫傷。骨折と脱臼に関して応急処置であれば医師の指示なしに行えますが(緊急性を考慮して)、継続的な後療法などの処置は医師の同意が必要です。ちなみ私はあん摩マッサージ指圧師でもありますが、骨折・脱臼の処置(具体的には整復操作)を医師の指示なしに行うと違法行為になります。医師の同意を得なくて療養費を請求でき野は捻挫、打撲、挫傷になります。外傷しか請求できないのでケガをした箇所、すなわち部位名で請求をします。例えば「右肩関節捻挫」というように。「部位転がし」の部位は外傷を負った部位ということ。柔道整復師における療養費不正請求のベースは外傷を捏造することにあります。追っていない怪我を作り出して、その外傷処置をしたましよ、という書類を作成して「保険者」に請求するのです。

 

そして長期間、何度も療養費の請求をすると。ケガが治らないのは不自然です。捻挫が6ヵ月も治らないでしょうか。確かに酷い捻挫はあります。その場合、整骨院ではなく医療機関に移すことが賢明でしょう。不正請求する場合、ある程度請求を重ねたら、また別の個所(部位)を怪我したということにして、別の負傷部位を捏造するのです。最初の負傷部位に加えることも、一度治癒と報告してからまた別の所を怪我したというようにすることもあります。このような捏造行為を「部位転がし」と裏で呼んでいました。裏で呼んでいたと書いたのは不正請求であるわけですから大ぴらに外部に話すことはありません。ただ共通言語としてやり方を示す用語(隠語)としてありました。それが厚生労働省の調査報告書でタイトルに入るとは。“いわゆる”という修飾がついて断定していないという言い訳を入れつつも「部位転がし」について真正面から調査をしている。私が整骨院で働いていた十数年前には考えられないことです。

 

この調査から、もちろん以前から知っていた「部位転がし」というやり方を公的な認識に引き上げるという姿勢を感じます。厚生労働省のホームページに掲載されている資料で誰でも閲覧できる状態。柔道整復師のことをよく知らない人にも「部位転がし」というやり方(一種の不正請求方法)があることを周知させることになります。そして今後これは「部位転がし」だと認定しますよ、ということになるでしょう。言葉ができれば概念が定着します。この請求内容は「部位転がし」だ。これは必ずしも「部位転がし」とはいえない。そのようなことになるのです。

私はもちろん不正請求はしていません。療養費の請求自体をしていません。柔道整復師のものだけなくあん摩マッサージ指圧師でも鍼灸師でも。しかし柔道整復師でありますし、整骨院での勤務経験もありますから当事者であります。当事者からみて、今回の堂々と「部位転がし」という用語が出たことは驚異です。ここまで時代が進んだのかと思います。そしてここまで本腰入れて調査するところまで来てしまったのかと。「部位転がし」以外にも「泣き・半泣き」、「スライド」など別の隠語もあります。十分に知っていましたがそれをブログに書くことはしてきませんでした。当事者、すなわち同じ業界の柔道整復師のことで報道されていないことは明かすことは余計なことだと考えていました。「部位転がし」という用語はこれまでも厚生労働省の資料には文中に登場したことはありました。厚生労働省以外の業界関係者がネットで解説したものもありました。それが今回は、調査の本筋として「部位転がし」が登場したのです。本当に驚きました。

 

次回はこの資料からどのように、いわゆる「部位転がし」を調査したのかを見ていきます。

 

甲野 功

 

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