開院時間
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私は東京理科大学理学部応用物理学科(※現在は別の学科名になっています)を卒業しているのですが、大学4年時の研究室で青色発光ダイオードの精製方法について研究しました。研究をしたのですが論文にまとめることはなく、研究室内の発表だけでレポートと発表資料を作成するに終わりました。論文を作成せずに学会発表もすることなく、東京理科大学を卒業しました。うちの大学では異例な方でした。その後、あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師になったのちに東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科(※当時の校名。現在は東京呉竹医療専門学校に校名変更されています。)に進学します。2年制の学科で卒業要件として研究発表および論文提出が必須でした。そこで1年間かけて自分でテーマを選定し過去文献を読みこみ、実験をして、論文にまとめました。そして今も毎年出席している鍼灸マッサージ教員養成科卒業論文発表会で発表しました。この経験は非常に大きく研究を最初から最後までやり切ったことが財産になっています。
教員養成科を卒業したあと、地方の医大付属病院で臨時職員として働きました。その際に日本ペインクリニック学会の入会が義務付けられており、同学会に入会しました。そして東京で開催されたときに日本ペインクリニック学会に参加して医師らの発表を聴きました。そのとき演者はみな冒頭部分で『利益相反事項はありません』という一文が記載されていたり、その一文にチェックを入れた表示が見受けられたりしました。当時は医師の発表はこういう作法があるのか、くらいの気持ちで受けて入れていました。もう10年以上前のことです。
それからあん摩マッサージ指圧、鍼灸らの学会に参加するようになりました。近年、鍼灸師の発表でも『利益相反事項はありません』とか『開示すべき利益相反(COI)がありません』とか『COIについて』など、冒頭に断りが入るものが増えてきました。この利益相反とかCOIとは一体どのようなものなのでしょうか。
利益相反(Conflict of Interest:COI)。日本語では利益相反といい略称はCOIとなります。全米医学アカデミーの定義によれば、COIとは「主要な利益に関する専門的な判断や行動が、副次的な利益によって不当に影響されるリスクを生じさせる一連の状況」を指します。文言だけだとなかなか難しいです。これまでの学会発表などからこの発表は一部の恩恵を与えるために行っていませんよ、と釘を刺している感じがします。ステルスマーケティングのようなものではありませんよ。その行為を利益相反(COI)としているような。さらにCOIには経済的COIと学術的COIの2種類があるといいます。そしてその範囲はは個人だけでなく、組織にもあると。
・経済的COI
金銭の授受を伴うもの。例えば、医師が患者にもたらす利益と、医師が第三者からもたらされた利益が衝突する状態。具体例でいうと、ある製薬会社から研究費支援や講演依頼など金銭的な利益を得ている医者が、患者に最適と思われる薬品ではなく、援助をしてくれている製薬会社の薬品を処方する場合。このとき後者の薬品は患者さんにとって最善の選択ではないとします。金銭的な援助を受けている製薬会社の薬品を投与してしまった。これが経済的COI(利益相反)になります。
・学術的COI
自身の立場や経験、これまで力を入れてきたものなどが発言や行動に影響し得ることを学術的COI(または知的COI)といいます。専門分野、専門医等の資格、所属学会・組織、各種委員、従事してきた研究、作成に関与した診療ガイドラインなどが含まれます。聴衆は発表者のバックグラウンドを把握した上で聴くことで、その発表内容に“何かしらの意図のようなもの”が含まれているかを判断する材料になります。
・組織COI
資金援助や人的支援を受けている組織(例えば大学や研究機関)にはCOIが生じます。製薬会社が研究機関に研究資金を提供していたとして、その製薬会社の薬品が有利になるような研究結果を出してしまうかもしれません。経済的COIと本質的には変わりませんが、組織や団体レベルでの忖度が働いてしまうなら組織COIにまで発展するでしょう。
研究発表や論文において以上の利益相反(COI)が存在しているのかをはっきりとしないといけません。無い場合は『なお、本論文に関して、開示すべき利益相反関連事項はございません。』と一文を入れたり、発表では<☑利益相反事項はありません>と敢えてチェックを入れたりします。利益相反となるものが存在する場合は情報を開示しないといけません。例えば『著者は○○(企業名)より報酬を受理している。』とか『本研究は著者が所属する◇◇(企業名)の研究費で実施された。』など。
鍼灸の研究では正直、大きなお金が動いたり社会的に変革が起きたりすることはなかなか考えられません。これが医学や薬品になると話が違います。医薬品の市場はとても大きいですし、健康はもちろん声明に直結することです。製薬会社が自社の薬品を売るために研究結果を改竄するように仕向ける可能性はゼロではないでしょう。実際に過去日本で高血圧症の治療薬において研究の数値を変えるという事件がありました。記憶に新しい新型コロナウィルスによるパンデミック。一体何が正しいのか不安になる有識者による研究発表の数々。言っていることが真っ向から対立したり、陰謀論と感じたりするような発表もありました。それを鵜呑みにして結果的に亡くなったという話も知人の知人でありました。裏に何かしらの思惑があったとしたら。利益相反=COIは身近に関わることです。
論文や学会だけではありません。日常にもCOIを考慮した方がいい場面が多々あります。経済的COIはステルスマーケティングと似ていると考えます。純粋に製品・サービスが良かったから紹介しているように見せかけて裏では金銭を受け取っていた。かつては芸能人・タレントが、今はインフルエンサーが担い。現在は景品表示法違反としてはっきりと規制対象になっています。学術的COIも鍼灸業界は関連が深いと思います。所属する流派の正統性・優位性を示すための発表や講習会が中にはあるのです。それはエビデンスといえるものなのか。私は学生さんにセミナーをする際に最初にいうことが、講師のバックボーンと思想を確認しておきましょう、です。話す人・教える人がどのような背景を持ち、どのような思想(主張)があるのかを分かった上で聞くこと。学会において座長が冒頭で発表者の経歴を読み上げることが常ですが、これは学術的COIの開示にあたり重要な行為なのだといいます。鍼灸業界でも同じです。
学会、論文とはいわなくても、日常に個人や団体の主張が溢れかえっています。SNSというツールがマスメディアに取り上げらなくても広く大衆に主張を届けることができるようになりました。そこに利益相反(COI)の開示は義務付けられていません。それまでの投稿内容やアカウントのプロフィールを読めば分かることもあるでしょうが、ほとんどの人はその投稿だけで判断してしまう。この世の中だからこそCOIという存在を頭に入れて情報と接する心構えが必要だと思います。
甲野 功
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