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~巨人投手施術ミス報道~

今月10日に上記のような記事が出ました。
プロ野球巨人軍、澤村拓一投手の不調は長胸神経麻痺によるもので、原因は鍼治療の可能性があるというもの。そこで巨人軍幹部が澤村選手に謝罪したというものです。各媒体で若干表現が異なりますが大筋はどれも同じです。

スポーツ報知が配信した記事を文字におこしたものが以下の通りです。

 

↓以下記事文面 始まり

【巨人】球団が沢村に謝罪…施術ミスで神経麻痺

9/10(日) 9:19配信 スポーツ報知
【巨人】球団が沢村に謝罪…施術ミスで神経麻痺
巨人・沢村
右肩のコンディション不良で2軍調整中の巨人・沢村拓一投手(29)について9日、球団トレーナーの施術ミスだった可能性が高まり、同日午前、石井球団社長と鹿取GM、当該のトレーナーがG球場で沢村に謝罪した。
関係者によると、沢村は2月の沖縄キャンプ中に右肩に異変を感じ、同27日に球団トレーナーのはり治療を受けた。
長期間症状が改善しないため球団が調査した結果、この日までに複数の医師から「長胸(ちょうきょう)神経麻痺(まひ)」と診断され、「外的要因によるもので、はり治療によって長胸神経麻痺となり、前鋸(ぜんきょ)筋機能障害を引き起こした可能性が考えられる」との所見を得たという。
3月4日のオープン戦、日本ハム戦(札幌D)で危険球退場。以来、精神的要因で制球できなくなる「イップス」と指摘する声もあったが、実際は日常生活の動作でも右肩に違和感が出る神経麻痺だったようだ。
8月に実戦復帰して2軍戦で7登板。9月1日に今季初めて1軍昇格したが、登板なしで4日に登録を抹消された。
患部は改善に向かっており、G球場でキャッチボールを行いながら実戦登板を模索中。
沢村は謝罪を受け入れ、球団は一日も早い復帰に向けたサポートを約束したという。

 

↑以上記事文面 終わり

 

この記事に対して、鍼灸師業界から大きな反発がありました。多くの鍼灸師が反論を示し、鍼灸師以外の人からも、本当に鍼治療が原因なのか?と疑問を呈する声が出ています。
各方面の意見を簡単にまとめました。
※あくまでネット上に出ている意見であり、甲野功個人の見解ではございません。甲野の見解は別の項で書いております。

 

↓以下ネット上の意見 始まり

●鍼治療で長胸神経麻痺は起きない
・日本の細い鍼では神経麻痺を起こすことは不可能、やれと言われてもできない
・できるとしても激烈な痛みを伴うので麻痺を起こす前に気付く
●これだから鍼は危険
・医療でもない民間治療などするからこういうことになる
・鍼をして悪くなった例はたくさんある
・医療根拠のないもの
●澤村投手に問題あるのでは
・ハードな筋トレを繰り返して小胸筋症候群を起こして、その結果では
・ピッチング動作と無茶な筋トレが原因では
●本当に鍼治療のせいなのか
・鍼治療を受ける前から違和感があったというのなら鍼治療は関係ないでしょう
・危険球投げられるくらいならその時は麻痺など起きていないのでは
●巨人軍はこれだから
・昔も鍼で問題あったよね(江川、槇原選手の件)
・チームとしてどうなっているのか
・巨人は一生澤村投手の面倒をみるべき
●鍼治療でも長胸神経麻痺は起きる
・炎症が起きれば麻痺は起こり得る

などなど。

↑以上ネット上の意見 終わり

 

何にでも批判するスタンスのコメントや、専門知識のない知ったかぶりの意見も散見されます。
ここで重要なのはどれも憶測で意見を書いており、更には持論を展開することになっているパターンが見受けられます。野球は詳しくないのですが、どうもこの澤村投手はアンチが多いようで、本件とあまり関係のない誹謗中傷でしかない意見もあります。東京スポーツが出した9月12日の記事では澤村投手がチームメートから総スカンをくらっているというものもありました。

 

記事が一人歩きして、憶測で様々な意見を出し、あまつさえ持論を主張するという状況になっています。
鍼灸師の立場として私は、本当に鍼治療で長胸神経麻痺が起きたのか、が重要なのです。この記事を読んだ私の見解と感想を述べます。

 

↓以下甲野功個人の考え 始まり

まず、この記事を読み、本当に鍼治療が原因で長胸神経麻痺が起きたのか疑問であるということ。日本で使われる一般的な和鍼は直径0.20mm程度。これで神経を刺しても曲がって避けてしまうではないか。多くの鍼灸師が指摘していることですが、神経麻痺を起こす方が難しい、というのが経験上の意見です。ただし、太い中国鍼で深く刺してぐいぐい動かせばできなくもないと思います。しかしその場合電撃様の激痛が走ると予想されます。これは実際に自身の坐骨神経にされた経験則からです。更にプロスポーツ選手の体はとても繊細で強い刺激ではすぐに過剰反応が起きます。巨人の一軍に入るほどの選手に太い鍼を使うのは疑問があります。

 

記事で厄介なところは、「針治療」、「はり治療」と表記していること。新聞記事のルールで常用漢字を使用することが一般的であるため、「鍼治療」と表記しないのでしょう。それは、実際には澤村という名前ですが、記事では沢村という表記になっていることからもうかがえます。そうなると針、すなわち注射針のイメージが一般読者にはついてしまし、太い針を刺すなど危険に決まっているだろう!、という印象を与えかねません。私は絶対に鍼治療のことを針治療やはり治療と記載することはありません。針(注射針、裁縫の針などひっくるめて)と鍼(鍼灸師が用いる治療道具)ははっきりと分けて考えていますので。新聞記事のルールで更に印象が悪く方に傾いたように感じます。

 

背景が分からないのですが、幹部が謝罪するくらいの問題に発展したというのならばトレーナーの実名や資格を公表しないのは何故なのでしょうか。万一鍼資格を持っていないトレーナーがしたものだったら問題点は変わります。医師免許を持っていれば鍼資格は必要ありませんが、本当に手術用の針を使った治療ならばこれも話が変わってきます。施術を行ったトレーナーの情報が出てこないことには判断がつきません。
そしてこの報道をすることの意図は何なのでしょうか。巨人軍としては言わば身内の恥を晒した形です。そうまでして澤村投手を守る特別な理由があるのだろうか。どうも評判が良くない選手のようであるし。

 

↑以上甲野功個人の考え 終わり

 

このように、とにかく「情報」が足りないためただただ頭の中の「推測」でしか書けないわけです。推測で書いては良くないので、この記事が出たときは静観していました。以前、鍼治療は似非科学と決めつけた記事が出たときには、長々と反論しましたが、今回はやめておきました。

ところが、鍼灸業界団体が動いたことで状況が変わりました。巨人軍に対して質問状を出したのです。

↓以下 医道の日本社ニュースより

 

プロ野球選手への施術ミス報道を受けて業団が連名で巨人に質問状を送付 [2017.09.21]
9月10日、読売ジャイアンツの澤村拓一投手が、「球団トレーナーによる鍼治療のミスで長胸神経麻痺が生じた可能性がある」との報道がなされた。この問題に対し、公益社団法人 全日本鍼灸学会、日本伝統鍼灸学会、公益社団法人 日本鍼灸師会、公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師会、公益社団法人 日本あん摩マッサージ指圧師会、公益社団法人 全国病院理学療法協会、社会福祉法人 日本盲人会連合、公益社団法人 東洋療法学校協会、日本理療科教員連盟が本日、読売巨人軍に公開質問状を送付した。詳細は医道の日本11月号に掲載予定。

 

質問状は下記の通り。

 

株式会社 読売巨人軍
代表取締役社長 久保 博 殿

はり治療による長胸神経麻痺に関する報道についての照会

謹啓
秋涼の候 貴社におかれましては益々ご清祥のこととお慶び申し上げます

 

公益社団法人 全日本鍼灸学会、日本伝統鍼灸学会、公益社団法人 日本鍼灸師会、公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師会、公益社団法人 日本あん摩マッサージ指圧師会、公益社団法人 全国病院理学療法協会、社会福祉法人 日本盲人会連合、公益社団法人 東洋療法学校協会、日本理療科教員連盟は、国家資格である「はり師」と「きゅう師」いわゆる鍼灸師が所属する団体であり、鍼灸学術の振興ひいては国民に安全で安心な治療を提供することを目的とするものであります。
去る9月10日(日)に、貴社所属のトレーナーの医療過誤に関する記事が複数の新聞社によって伝えられました。記事では、はり治療によって長胸神経麻痺が発生したとのことですが、業界全体が大変な驚きをもって報道を受け止めているところであります。また、鍼灸師のみならず、一般の患者ならびにマスメディアからも多数の問合せが届いており、その多くは一般的なはり治療でそのような医療事故は起こりえるのか、また、今後の事故を防止するためにも施術内容ならびに診断に至った経緯を明らかにして欲しいというものであります。
本報道は、現在、はり治療を受けておられる患者とそのご家族、これから治療を受けようと考えている方、治療にあたっている鍼灸師ならびに関係者に大きな不安を与えております。我々鍼灸関連団体としましては、事件の詳細を明らかにすることによって、上記問い合わせに対して可能な限り正確な説明を行い、鍼灸師により適切な安全対策を講じさせ、今回の報道で生じたはり治療に対する国民の不安を軽減したいと考えております。
つきましては、施術から診断に至るまでの詳細な経緯について別添の質問状(2枚)にご回答いただきますようお願い申し上げます。また、可能でありましたら担当医師、鍼灸師に直接お話が伺えればと考えております。ご多用のところ大変恐縮ですが、本照会の主旨をご理解いただきご協力を賜りますよう心よりお願い申し上げます。なお、本照会状は、報道各機関にも公開させて頂くことを申し添えます。
末筆ながら、貴社の益々のご発展を祈念いたします。
謹白

 

公益社団法人 全日本鍼灸学会 会長 久光 正
日本伝統鍼灸学会 会長 形井 秀一
公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師会 会長 伊藤 久夫
公益社団法人 全国病院理学療法協会 会長 平野 五十男
公益社団法人 東洋療法学校協会 会長 坂本 歩
公益社団法人 日本鍼灸師会 会長 仲野 弥和
公益社団法人 日本あん摩マッサージ指圧師会 会長 安田 和正
社会福祉法人 日本盲人会連合 会長 竹下 義樹
日本理療科教員連盟 会長 栗原 勝美

 

連絡先 〒151-0053 渋谷区代々木1-55-10学園ビル10階 1001号室 
公益社団法人 全日本鍼灸学会 事務局
tel: 03-6276-6751  fax: 03-6276-6752 e-mail: honbu@jsam.jp

 

平成29年9月21日
質問状①

本件におきまして、診察ならびに診断されました医師の先生にお聞き致します。

Q1. 報道によれば長胸神経麻痺とありますが、本件の正確な診断名とその理由(所見)をお聞かせください。
Q2. 報道によれば、はり治療が長胸神経麻痺の原因とありますが、これは事実でしょうか?もしも事実であるならば、はり治療を原因とした理由(因果関係)と他の原因を除外した理由をお聞かせください。また、はり治療前から長胸神経麻痺を疑う所見がなかったかお教えください。
Q3. 患者の転帰についてお聞かせ下さい。
Q4. もしもはり治療が長胸神経麻痺の原因であると考えであるならば、どのような安全対策を施せば、今回の事故を避けることができたとお考えでしょうか?ご意見をお聞かせ下さい。
Q5. 上記に加えて、本件に対するご意見ご感想をお聞かせ下さい。

 

平成29年9月21日
質問状②
本件におきまして、はり治療を行われたトレーナーの先生にお聞き致します。

Q1. 本件に関するはり治療の詳細(主訴と治療の目的、使用鍼のサイズ、刺鍼部位・方向・深度・強度、等)についてお教え下さい。
Q2. 報道によれば、はり治療が長胸神経麻痺の原因とありましたが、刺鍼時あるいは刺鍼後に神経を傷害したことを示唆する現象(強い鍼響、痛み、シビレ、筋の単収縮、等)はございましたか?
Q3. 上記の質問を踏まえて、はり治療が今回の事故の原因とお考えでしょうか?
もしもそうであるならば、どのような施術行為が原因であったか、どうすればこれを防ぐことができたとお考えでしょうか?ご意見をお聞かせください。
Q4. 上記に加えて、本件に対するご意見ご感想をお聞かせ下さい。

 

↑以上 医道の日本社ニュース 終わり

 

この質問状には、結構驚きました。
質問状には鍼灸師会(臨床)、学術会(研究)、学校協会(教育)の3分野すべての連名であり、代表の氏名も明記しています。そして送り先も読売巨人軍代表取締役とはっきりと名指しです。

質問状には必要な情報開示を求めた内容になっております。
本当に鍼治療により長胸神経麻痺が起きたのか。

その根拠は。

診断理由、施術方法、症状、など。

鍼治療によるものならば再発防止のために、発生機序を研究し、臨床現場にフィードバックし、今後学生や鍼灸師に教育していく必要があります。団体を越えて真摯に取り組む姿勢が見てとれます。と同時に、このようにはっきりと質問状を出し、マスコミに公表したことで全面的にやる、という覚悟が感じられます。

 

今は記事が一人歩きしているような状況。今後の動きに注目しています。

 

甲野 功

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