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~講義再現 パルスの知識~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 パルス勉強会の集合写真
3月27日のパルス勉強会 集合写真

 

ここ2年で鍼灸師さんに話をする機会が増えました。


昨年12月には東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科2年生に向けて特別授業を担当させていただきました。そのときの授業内容を再現したブログを書いたのですが、評判が良かったです。

 

他にも人知れず講義をしてきたのですが、その内容を残しておくことと公開することが必要だと考えています。


今は情報がオープンになっています。限定しているよりも世に出して人の役に立つかもしれないと、外に出し方が有益でしょう。
絶対に知識や技術の全てをさらけ出すことはできません。限られた情報になるので、勿体ないということもないでしょう。


それよりも知ってもらえる方が後々有効になると思っています。

 

そこで今回は3月27日に行われた「鍼灸師によるパルス勉強会」において、座学パートで私が説明をしたパルスに関することをここで再現していきます。当日話した内容を一部改善、省略してまとめております。

 

 

いわゆるパルスとは
これから話す内容は、主に「鍼通電療法テクニック 運動器系疾患へのアプローチ 医道の日本社」の内容を元に話しています。詳しくはこの本を読んでみるとよいでしょう。


鍼通電療法テクニック 医道の日本社 山口真二郎著
鍼通電療法テクニック 医道の日本社 山口真二郎著

 

まずパルスとは何か。低周波鍼通電療法と言われるもので、通称「パルス通電」とか「パルス」と言われています。体に刺入した鍼に電極クリップを挟んで体内に電流を流す鍼施術法です。


あじさい鍼灸マッサージ治療院 パルスの様子
パルスの様子 装置と電極クリップで鍼に電気を流す


パルスジェネレーターという装置を用います。各メーカーが出しており、各社使用方法が若干異なります。

(なお私の所では下記のものを使用しています。)

 

あじさい鍼灸マッサージ治療院 全医療器 オームパルスジェネレーター
全医療器 オームパルスジェネレーター


電気治療の歴史は古く電気ウナギを用いた治療法もあったと言われています。装置が発明されて今のパルス療法が確立されていきました。

 

日本でパルス療法が広がるきっかけ
東京教育大学附属理療科教員施設(現筑波大学理療科)の芹澤らがパルスジェネレーターを開発しました。1971年に中国で鍼麻酔が行われているという記事が発表され、その内容に日本鍼灸界は衝撃を受けたといいます。そして1972年アメリカ合宿国ニクソン大統領(当時)が中国を訪問し、意識覚醒下の開頭手術を見学しました。その様子にアメリカは大いに驚き世界的に鍼麻酔の研究が盛んになる契機となりました。わが国では1980年代から筑波大学理療科教員養成施設で多数の臨床研究が行われてきました。

 

電気の基礎知識
ここで電気とは何かを説明しましょう。

パルスは電気を用いるので電気の知識が必要ですが、身近な存在である電気。知っているようでよく分かっていないのではないでしょうか。電気の知識があることでパルス療法の機序が理解しやすくなります。どれくらいの出力・周波数が良いのかという質問を事前に受けていますが、ここをしっかり押さえておきましょう。

 

電気の原則は3種類。すなわち電流、電圧、抵抗です。中学の理科で習ったかと思いますが、

オームの法則 E(電圧)=I(電流)×R(抵抗)

の関係があります。

 

電気を水車で例えて見れば、電流Iとは水流量、電圧Eとは高低差、抵抗Rが障害物と考えるとわかりやすいです。電流がたくさん流れるというのはたくさん水が流れているようなもの。水の量が多ければ水車はよく回ります。しかし水がたくさん流れても勢いが無ければ水車はよく回りません。水の勢いを決める高低差が電圧にあたります。


電圧は言い換えると電位差。電位という位置の差が電圧なのです。ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)と言われるものです。ポテンシャルエネルギーが簡単に理解できる例としてはボーリングの球を考えてみてください。置いてある状態では特に危険はありませんが、10m上から落とせば凶器になりますよね。10mという高い位置がエネルギーになり得るということ。


このように位置の差がエネルギー量になるのがポテンシャルエネルギー。電圧も電位といういわば位置の差が生みます。位置を決める際に基準点を定めるのでそこを0v(ボルト)とすればそこよりも下ならば‐(マイナス)になります。電位0Vの基準点をアースといいます。アースとは地面、地球の意味で、地面に電気が流れると拡散して電位は0Vになります。このことから電位を0Vにする、すなわち基準点を作ることをアースといいます。電化製品によってはアースを取ってくださいという注意事項があるものがありますね。

 

直流と交流の違い 
電気の流れ方には直流交流があります。

直流は一方向に同じ向きで電流が流れます。乾電池で豆電球を点ける実験を小学校にしたかと思いますが、あれが直流です。乾電池はプラスとマイナスを間違えると作動しませんよね。極がはっきりと分かれているのが特徴で電圧も一定です。

交流はプラス極とマイナス極が交互に変わります。よって極が定まっていません。常に極が交互に変化しており、電圧も変化しています電圧は正(+)の値から負(-)の値まで変化します。一般的なコンセントは二つ穴があって向きを変えても電気が流れますよね。あれは交流の特徴です。また交流には周波数があることが直流との違いです。1秒間に何回極が入れ替わるかが周波数。1Hz(ヘルツ)ならば1秒間に1回。50Hzなら1秒間に50回変化することになります。

 

一般家庭の電気は交流で届けられています。交流は電圧を変換しやすいため安全だからです。余談ですが送電方法を交流にするか直流するかでかつて論争がありました。交流を推したのが天才科学者ニコラ・テスラ、直流を推したのが世界の発明王トーマス・エジソン
テスラは磁気の単位にもなっており、今でもテスラモーターズらの社名に残る偉人です。エジソンは知らない人はいないくらい幾多の発明をした超有名人。この二人が交流と直流で論争をしましたがテスラの交流が勝つことになりました。エジソンの方が高い知名度ですが、物理学を学ぶ人間にはテスラの方が注目すべき人物ではないでしょうか。日本では関東と関西で交流送電の周波数が異なります。私が子供の頃はコンセントに繋げて使う電気時計が関東と関西で進みが変わるということがありました。これは周波数の違いによるためですね。

 

パルスの基本情報
そろそろ本題です。

そもそも「パルス」とは何でしょうか。パルスとはパルス波のことで日本語では矩形波といいます。一瞬で出力を上げてそのまま短時間それを維持、また一瞬で出力をなくす波形です。パルスジェネレーターによって電流のパルス波を鍼に伝えることがパルス通電療法です。

 

パルス波の波形 鍼通電療法テクニックより
パルス波の波形 鍼通電療法テクニック13頁より

 

生体の細胞膜には静止膜電位といって約-70mVの電位差が常にあります。ナトリウムポンプによって細胞膜と通して細胞内外で電位差を作っているのです。電位なのでマイナス値があります。刺激を受けると活動電位が発生して反応します。この刺激は大雑把に言えば生体が発生する電気刺激によるものです。ですからパルス通電によって外部からの電気刺激でも身体は反応します。筋肉であればパルス波の刺激が閾値を超えると収縮が始まります。

 

鍼を通して電流を体内に流すわけですから電流量が大きすぎれば障害が生じます。マイクロショックという、電流が体表面から入り他の部位へ抜けていく場合に生じる大きな電気ショックがあります。


パルス通電の場合では、
1mA(アンペア、電流の単位)でピリピリ感じる
5mAで痛みを感じる(体が許容できる最大電流量)
10~20mAで持続した筋収縮
50mAで激痛、気絶、激しい疲労、組織損傷、呼吸困難
100mA心室細動、致命的
と言われています。


もちろんこのような大電流を鍼に流すことは無いと思いますが、データとして載っています。補足としてアルント・シュルツの法則というものが知られています。弱刺激では生体が活性化し、強刺激では生体が沈静化し、最強刺激では生体の活動が停止する、というものです。強すぎる刺激は生体にとって害になります。この法則を踏まえるとパルスの出力をどれくらいにすればいいのか目安になるでしょう。

なお、ペースメーカー使用者には行わない方が良いでしょう。ペースメーカーは3mA、3Hzで動作に影響を受けるとされています。ペースメーカー使用者には絶対禁忌と考えてください。その方が安全です。

 

パルスを用いる場合、刺入部位は穴ではなく組織として捉えます。経穴(東洋医学のツボ)ではなく、筋肉、神経、椎間関節といった解剖学的な組織に刺しているという考え方です。このことについては後でまた触れましょう。

 

電流と鍼灸
鍼に電気を流す鍼技術にはパルスの他に「良導絡」というものがあります。

良導絡は直流電流を使います。術者は1点に鍼を刺して鍼に電極を当てて電気を流します。患者は手に装置を握り、アースを取ります。心電図測定もそうですがアースになる個所を決めないといけません。直流電流では電流の方向が一方向のみなので刺す鍼も1本で構いません。

 

パルスの場合必ず2本鍼を刺して2か所クリップで電極を繋ぐ必要があります。パルス波は交流ではないのですが、双方向パルス波といってパルス波を出した直後に電極を入れ替えて反対に電流を流します。交流に近い動きをするのです。


一方向だけのパルス出力を単方向パルス波といいます。

単方向パルス波の場合ですと電気による鍼の腐食(これを電食といいます)が起きやすくなり、鍼が折れる危険性があるからです。難しい説明を省きますが電流を流すことで金属のイオン化により腐食が起きます。水に二つの電極を入れて電気を流すと水素と酸素に電気分解します(中学校で行う理科の実験ですね)。このような機序と同じ作用が生まれます。

 

鍼通電療法テクニック14頁より 電食の模式図
鍼通電療法テクニック14頁より 電食の模式図

 

 

電食を防ぐために双方向パルス波をパルスジェネレーターは作り出力します。そうすることで片側だけにイオン化が進み電食することを防ぐ効果があるのです。その結果、二つの鍼どちらにも刺激が行くようになります。

電食のことを考えてでしょうが、良導絡で用いる鍼はとても太くなっています。

 

 

鍼通電療法テクニック14頁より 双方向パルス波
鍼通電療法テクニック14頁より 双方向パルス波

 

 

単方向パルス波では陰極(マイナス極)の端子側にしか刺激が生じません。双方向パルス波になることで陽極側にも刺激が行くようになるのですが、それでも陰極端子側の方が刺激は大きくなります。クリップの色でどちらが陰極かが分かるので、効かせたい方には陰極を繋げるとよいでしょう。

 

双方向パルス波を作るため、周波数が生まれます。サイクルで電流方向を変えるからです。
この周波数が良導絡との違いにもなります。周波数はリズムと言ってもよいです。人間は1Hz(1秒間に1回)くらいのリズムで心が落ち着きます。これは心拍数と関係しているようで、赤ちゃんは母親の心音と同じリズムを聴くと安心すると言われています。10Hz以上の早いテンポになると気持ちは落ち着かず、むしろ活性化してくるものです。


低周波の定まった定義はないのですが概ね1~10Hzくらいを低周波として、この範囲でパルスを使うことを低周波パルス通電と呼びます。

 

筋肉にパルス波の電気刺激が十分に伝わると単収縮を起こします。ぴくっと意思と関係なしに収縮がおきます。これが20Hzくらいの高い周波数になると、強縮といって筋肉がずっと収縮し続けて筋肉に力が入っているような状態になります。

生理学で習った筋肉の単収縮と強縮をパルスによって実験することができます。

 

●パルスの研究
パルスの臨床研究は日々行われています。ラット(ねずみ)を用いた実験により「量―反応関係」といって、ある程度の電流量がないと効果がでないが、ある量を越えると効果は変わらないということが分かっています。またパルスに効果がある筋肉はほぼ判明していると言います。

 

これから話すことは主に筑波大学理療科の先生の論文からの話です。

パルスにも種類があります。狙う組織によって神経パルス、筋肉パルス、椎間関節パルス、皮下パルスの4種類があります。特に使用されるのは神経パルス筋肉パルスです。神経パルスは骨格筋を対象とし、主に筋肉内循環の促進を目的とします。実験的に低頻度通電(1~10Hz)が有効とされます。筋肉パルスは運動枝を対象とした場合には支配領域の筋肉循環促進を目的とします。

 

パルスをもたらす効果には、鎮痛・循環促進・自律神経反応があります。

循環促進では、筋肉を一定のリズムで収縮と弛緩を繰り返すため筋ポンプ作用が関わると予想されています。1~10Hzが有効との研究結果が出ています。
自律神経反応では、四肢(手足のこと)に対する通電が刺激頻度により交感神経を変化させる、心拍・血圧変動を指標とした実験では1Hz通電後に上昇、高頻度通電後に低下したと報告がされています。
皮膚血流量・深部体温の変化を見た場合、筋パルス・神経パルスともに上昇し、その程度は神経パルスの方が大きかったと報告さています。
心拍数では筋パルス・神経パルスともに変化がない。
深部血液量については筋パルス・神経パルス刺激ともに無刺激群に比べ酸素化ヘモグロビンが上昇し、還元ヘモグロビンは低下しました。

 

●パルスと東洋医学
中国でパルス療法ができた背景には、中医学での鍼を動かし続ける手技の代わりにしたことがあります。鍼麻酔では長時間(数十分間の長さ)鍼を動かし続ける必要があり、人間がするには無理があったたけ電気を流す方法にしたのです。
このことからも出発点は東洋医学であるため伝統的な鍼技術と連携することは可能だと考えられます。私はしたことがありませんが、奇穴治療の配穴でパルス通電をするやり方もあるそうです。


現代派の鍼と決めつけず伝統的な陰陽論に基づいてパルスを活用する余地もあると考えています。伝統鍼灸が好きな方も試してみてはいかがでしょうか。

 

甲野 功

 

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