開院時間
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去る3月27日に低周波鍼通電療法(以下パルス)の勉強会が行われました。私も含めて7名が集まり知識と技術を交流しました。
低周波鍼通電療法は体に刺した鍼に電極を付けて体内に電流(パルス波)を流す鍼技術です。
ことの発端から当日までの経緯と当日の様子を紹介します。
今年の始めに、小柳弐魄(にはく)先生がパルスの勉強をするのに適した書籍がありますか?とTwitter上で問いかけて「低周波鍼通電療法テクニック」を挙げました。
この本を私は教員養成科時代に購入して読んでいたので良本だと勧めたところ、パルスのことがよく分からないという話題に飛び、知り合いの卜部先生も加わって勉強会をしましょうという話になりました。
卜部先生は神楽坂で開業しており、小柳弐魄先生とは親しい間柄。私はその時点で小柳先生とは実際に会ったことがなく、SNS上で知っている程度の関係でした。
私は修業した職場がパルスを頻繁に使うところだったので、鍼師になったルーキー時代からその職場を去るまでの約4年間ほぼパルス通電の鍼をしていました。また教員養成科時代の卒業論文研究はパルスを使ったものだったため経験と知識があるつもりでした。
そう、あるつもりでした。
話の流れで「甲野さんに説明してもらいましょう」となったので、勢いで「やりましょう」と答えたものの、今はあまりパルスを使わない鍼灸スタイルに変わっていることと、小柳先生も卜部先生も一人前の開業臨床家。小柳先生は膨大な量の書籍を読んで研究していることが伺えますし、卜部先生は鍼灸師の家系の3代目。
この二人に教えるには実力不足ではないか?と気づいてしまったのです。
昨年5月の鍼灸学生向け施術見学会の講師を勢いで受けてしまったときと同じ後悔が生まれました。
はたして自分で大丈夫なのか、という不安と恐怖。
そこでついつい予防線を張って「パルスの知識は僕が座学で行い、実技は個々のテクニックを紹介しあうということで」という妥協案を出してしまいました。おそらく今は卜部先生の方が臨床でパルスを使う頻度は高いだろうから、知識面の方だけにしてしまった方がプレッシャーは軽くなるという逃げの姿勢。
それでも、勉強家の小柳先生を前には深い知識を入れておかないと様にならないが電気の話を持っていけば何とかなるだろうという目論見。パルスとは鍼に電極クリップで挟んで電流を流す方法。電気の知識が必須であり、私は大学の物理科を出ていますから、文系の二人よりも電気には詳しい(はず)。そこを発揮すれば格好がつくな、と思いを巡らせるのでした。
鍼灸師に治療をするのは緊張しなくなりましたが、講師をするのは緊張します。まだまだ見栄を張りたい、偉く見せたいという欲がこの方面には残っています。
パルス勉強会の話が出たのが今年の1月。1月11日に開催日を3月27日とし、場所は卜部先生の鍼灸院「はいりんT」と決まりました。開催まで期間があるので準備をしっかりしておこうと思ったことと、更に保険のため知り合いの鍼灸学生に声をかけることにしました。学生さんのレベルに合わせないとね、と予防線を張る始末。我ながら臆病だと思いました。
しかしながらこの臆病さが後々良い結果をもたらしたのでした。
3月末まで時間があります。その間に本業があり、人に会ったり会いに行ったり勉強したり別の勉強会を主催したりと過ごしていました。頭の片隅にずっとパルス勉強会のことがありましたが、準備を始めたのは直前でした。
いざ資料を作成のために書籍や資料、そして過去に行った自らの論文と研究データを読み返してみると、当時は理解が浅くて分かっていなかったことが今は大いに理解できるのでした。これまでの浅はかさを反省しました。
人に教えることで勉強になるとよく言われますが、曖昧だった部分が補完されて自分のレベルが上がった実感があります。
参加メンバーも当初の3名から増えました。
声を掛けていた鍼灸専門学校生たちから1名参加が決まりました。
また本当に偶然なのですが、大阪から春休みで上京していた鍼灸専門学校生さんで、私の治療を受けに来てくれた方がいまして、午前中あじさい鍼灸マッサージ治療院で鍼灸・按摩指圧を受けたあとパルス勉強会に合流することになりました。
たまたま大阪の学生さんのスケジュールが合って参加するとは、運命を感じます。
当然まだ資格を持っていないので鍼灸師との繋がりも薄いですし、まして東京は知り合いがほとんどいません。東京の学生さんも含めて新しい関係を築く機会になります。
更に卜部先生経由で東京都鍼灸師会に所属する野村森太郎先生と千葉の金井友佑先生が前日に参加が決まりました。卜部、野村、金井先生のお三方は鍼灸WEBメディア「ハリトヒト。」の編集部であります。
中堅鍼灸師5名と鍼灸専門学校生2名でパルス勉強会は行われました。
会場には参加者みんながお菓子を持ち寄りお菓子パーティーの様相。私も途中神楽坂でお土産を買う予定でしたが時間がなくて断念してしまいました。勉強会途中のブレイクタイムではお菓子を食べつつ様々な意見交換や交流が生まれてとても良かったです。
さて勉強会の内容。
まず私がパルスに関する座学をレクチャーしました。
低周波鍼通電療法(=パルス)の歴史。どのタイミングで世に広まったのか。世界的事件。日本での歴史。
電流とは何か。電流、電圧、抵抗。オームの法則。直流と交流。
パルスとはそもそも何なのか。禁忌は。どれくらいの電流量で身体に害を生じるのか。
パルスジェネレーター(パルス波を鍼に伝える装置)の説明。取り扱い方法。注意。陰極と陽極。メーカーによって異なる点。
パルスの研究事例。私の垂直跳びの研究。顔面神経麻痺に対するパルス症例。
こういった内容を説明しました。詳しい内容がまた別の機会に書こうと考えています。
(後日まとめました→こちら)
続いて実技へ。
卜部先生の梨状筋へのアプローチ方法。
私の2本の鍼に同時に電極を繋げる方法。
野村先生の干渉波に近い考え方で脊柱を左右から交差させて4点でパルスをする方法。
卜部先生の不妊に対する鍼の仕方。
2つのメーカーによるパルスジェネレーターを比べてみる。
異なった周波数の刺激を近接部位に繋げるとどうなるのかという実験。
このようなざっくばらんな実技を行いました。
そこでは学生さんに臨床鍼灸師がパルスジェネレーターの使用方法を教える。細かい現場のテクニックを各先生が話す。小柳先生による手技療法の歴史。
異なった立場の参加者が交流する場面がみることができました。
技術や知識を得るだけでなく、人と人が関係性を構築する場が生まれたことに、個人的にとても幸せな時間でした。そして鍼灸界の有形文化財と呼んでも過言ではない50年続く鍼灸院「はいりんT」さんの書庫から貴重な書籍がどんどん現れる。その場所で鍼灸師および学生さんが学べたことに感動すら覚えました。
始まる前は色々プレッシャーがありました。準備もそれなりに大変でした。しかし蓋を開けてみれば、私個人の知識を焼き直すことができ、他者の技術を知ることができてとても有意義なものでした。
更にその場にいた7名の参加者で新たな繋がりができたこと。ネットが発達してコミュニケーションが簡単に取れるからこそ、現実に出会ってやり取りをすることの意味が大きくなっています。
充実感と素敵な空間。それがあの日神楽坂の鍼灸院にありました。
甲野 功
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