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~「競技ダンス」へようこそ~

紳士と淑女のコロシアム「社交ダンス」へようこそ 新潮社 二宮敦人著
紳士と淑女のコロシアム「社交ダンス」へようこそ 新潮社 二宮敦人著

 

最近は外出できないくて、子どもが横で遊んでいるのをしり目にこの本を読みました。

 

『紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ』
二宮敦人著 新潮社

 

本作は『最後の秘境 東京藝大』でベストセラー作家になった二宮敦人氏によるもの。


実はこの方、ALL一橋大学競技ダンス部出身でした

競技ダンス部とは大学生が社交ダンスを競技で行う部であります。他には舞踏研究部とか社交ダンス部などの名称があります。


以前、私の母から『最後の秘境 東京藝大』という本が面白いから読んでみて、と言われて著者の存在を知りました。その時点では作家さんが私と同じく大学時代に競技ダンスをしていた人とは知りませんでした。『東京藝大』が有名になり、あの作者は一橋出身の学連選手だったという噂を耳にするようになったのです。


学連とは「全日本学生競技ダンス連盟」の略称です。本作『「競技ダンス」へようこそ』でも重要な意味を持つ言葉なのです。

 

その二宮敦人氏が『「競技ダンス」へようこそ』という本を出したと知り、本屋に行って購入しました。読む前は『東京藝大』のような取材を重ねてルポ作品なのかと思っていたのですが、本書『「競技ダンス」へようこそ』はその予想を大いに裏切りとても胸を打たれる作品だったのです。

 

 

『「競技ダンス」へようこそ』では作者、二宮敦人氏の分身とされる大船一太郎、通称ワンタローが主人公の小説です。

 

「ワンタロー」というのは一橋大学入学直後、競技ダンス部の先輩につけられたあだ名。ワンタローは大学卒業後に作家になっており、編集者に大学時代のことを書かないかと言われます。その提案に嫌々ながらも大学時代の記憶を呼び起こし、かつての同期・先輩・後輩たちと会話をして大学4年間の競技ダンス部のことを振り返る形で話が進みます。


時系列が2つあり、大学1年生から4年生まで過去パートと卒業後10年が経過してかつての仲間たちと出会った話をする現代パートが交互に出てくるのです。

 

一応、小説という形をとったフィクションだと言っていますが、あまりにリアルな内容でほとんど実際にあった出来事なのだろうな、と私は思いました。
私も経験した学連という世界。恐ろしいほどに正確で忠実に描かれていて、ドキュメンタリーとしか考えられないほどでした。
そうそうこういうことあったという懐古。

一橋大学のシステムはこうだったんだという興味。

そしてリアル過ぎる内容。

途中から胸が苦しくなってしまいました

 

 

私の感想を書く前に同じく学連出身のロペスこと岸氏の感想も紹介しておきましょう。

岸氏は千葉大学卒の元学連選手です。


4年最後の全日本戦で準優勝を飾り、学連を引退。大学院進学後に一般企業に就職するも芸人になる夢を求めて脱サラ。芸人としての人生を歩み始めます。社交ダンスの能力を買われて人気バラエティ番組「金スマ」の社交ダンス企画出演を果たします。

番組内で司会に「おまえ(野球選手の)ロペスに似ているな」と言われて、ロペスと言われるようになります。
その後同じく関西外国語大学卒の元学連選手だった芸人キンタロー。とペアを組み、日本代表として社交ダンス世界選手権シニアⅠ部門(WDSF主催)に二度出場します。現在はフィギアスケーターの村主章枝さんと組んで日本代表を狙っています。テレビ番組で知っている方も多いのではないでしょうか。

 

岸氏は二宮敦人氏の1学年後輩で当時から仲が良かったということで、岸氏のYouTubeチャンネルで対談をしています。

ロペス社交ダンスチャンネル 競技ダンスへようこそ出版記念!二宮敦人×ロペス対談【前編】

 

YouTube ロペス社交ダンスチャンネルより
YouTube ロペス社交ダンスチャンネルより

 

 

そこで作品制作の裏話や大学生当時のエピソード、社交ダンスについて話をしています。そこで語られる岸氏のコメントが


「読んでいて心臓がバクバクしてきて」


「あと、伝わらないんですよ 苦労したことだったりが 世界観を知らないと」


などが印象的でした。これらには私も心底頷くほかありませんでした。

 

 

YouTube ロペス社交ダンスチャンネルより
YouTube ロペス社交ダンスチャンネルより
YouTube ロペス社交ダンスチャンネルより
YouTube ロペス社交ダンスチャンネルより

 

 

それだけ小説の内容があまりに生々しいということです。取材をしたのではなく、実体験をベースに書いているからでしょう。卒業10年後に再開する仲間たちとの会話もほぼ実話だと私はみています。

 

まず主人公のワンタローの学連時代の成績。とても細かく書いています。
例を挙げると

 

冬国公 タンゴ9位
東部ジュニア スロー3位
モダ新 タンゴ2位
東部Ⅰ部戦 クイック3位

 

設定しにしてはあまりに細かいのではないでしょうか。

学連の大会成績を見直すと全く同じ成績を残した一橋大学の選手が出てきて、ああこの選手が二宮敦人氏なのだなと分かります。というよりも全く隠す気がないのでしょう。正確に自分自身の大会成績を小説に載せています。

 

加えて一橋大学の先輩、同期、下級生、そして他大学の選手たち。小説の中に出てくる登場人物はおそらく実在の人物で名前を変えているのでしょう。
特に有名だった選手はすぐに誰だか分かってしまいます。ワンタローの同期で最後の冬全チャチャチャ部門を優勝した獨協大学のペア。同じくワルツ部門で優勝した東京大学の選手。名前を変えていても所属大学と大会成績は事実に基づいているので、分かる人には簡単にわかるでしょう。

またワンタローが入部した時の4年生にあたる絶対的エースで全日本チャンピオンのフジカツ先輩というのも実際にあの選手だとすぐに分かります。当時圧倒的な成績を残していましたから。

 

なお私が知る限り一人、本名で登場する人物がいました。その方とは少しだけ面識があり、名前も素性も完全に一致してとても驚きました。その人がワンタローに語る自身のエピソードにも。

 

細かいところは実際の大会成績と異なっている部分があるようですが、かなり実体験そのままを小説にしているように思いました。というのもネタバレになるので細かくは書きませんが、フィクションならば主人公ワンタローをもっとハッピーに学連生活を終えさせると思うからです。


入部当初はとんでもない特殊な世界(=競技ダンス部、学連)に入ってしまった!という驚きとおかしさが出ているのですが、すぐに部や学連特有の厳しい現実に直面します。ワンタローの大学生活の大半は苦悩の連続である描き方なのです。


選手も最高学年の4年生時に成績が出ず、気持ちよく競技ダンス部を卒部するようには書かれていません。色々な心の傷を負ったワンタローが大学を卒業して10年の期間をおいて、あのとき(競技ダンス部)を振り返り再考するという話なのです。爽快感のあるストーリーとは言えないと思います。

 

特にワンタローの苦悩は、多かれ少なかれ学連という世界を過ごした人間には必ず直面したであろう内容です。

 

部員の退部。
シャドーと固定。
先輩への失望。
後輩からの突き上げ。
組んだ相手との衝突。
競技会の成績が振るわない。
部の運営。

 

経験した者ならばそれだよ!と叫びたくなるような困難に主人公ワンタローは遭遇します。小説内であったワンタローの悩みをほぼ全て体験した私は読んでいて苦しくなりました。ああ、まさに自分もそうだった、と。

 

またほとんど掘り下げることのない登場人物がいます。名前だけ出てきて、退部しました、〇〇という成績を残しました、といった感じ。小説として本編に関係がないと思われる人物が出てくるのですが、おそらく実際にいた部員を書いているのでしょう。同じ部にいた皆さんの存在を忘れていませんよ、という作者の気持ちなのでは。だからこそリアリティがあるといいましょうか。

 

競技ダンス部、学連の楽しさや遣り甲斐につていても多数触れています。

 

大会で入賞したこと。
フォーメーション競技で優勝したこと。
団体成績で好成績を出したこと。
部員で厳しい夏合宿を乗り越えたこと。
大学と飛び越えた交流があったこと。

 

そういった良い面もあるのですが、圧倒的にワンタローへの苦悩に比重が多く描かれています。もしかしたら経験者だから私がそう感じてしまうのかもしれません。特にワンタローが連盟委員となりステマネ斑に入るエピソードは、私も連盟委員を務めていたので、そうそう、と懐かしくなりました。
学連世界を知らない人が読んだらまた印象が違うのかもしれませんが。

 

本作には学連特有の用語が多数出てきます。

 

パツる
親代・子代
連盟委員
ステマネ
冬全・夏全
モダン人・ラテン人
背番号(せばん)
などなど。


ほとんどの人、ましてアマチュアで競技ダンスをしている方々にも通じない学連用語の数々。新潮社という有名出版社から出された本にこのような単語が載るとは。活字として見た時に感動を覚えました。よくこのような企画が通ったものだと。

 

 

読み終えて当時の大会成績と見比べながらワンタローの過ごした時代、二宮敦人氏が選手としていた頃を確認してみました。

 

すると私も接点があったことに気が付いたのです。

 

主人公ワンタローの残した成績、モダ新タンゴ2位。これは「モダン新人戦」(略してモダ新)という大会の4種目あるモダン(現在はスタンダードという)のタンゴ部門で2位を取ったことになります。現在はモダ新という競技会はなく後期新人戦に統合されています。今の学生では知らない大会です。

 

その年のモダ新ですが、私は審査員として会場にいたました。


現在の後期新人戦はプロの先生が審査を行いますが、当時のモダ新は学連OBOGでジャッジ資格を得た人間が競技会の審査を行っていました。その会場でワンタローこと二宮敦人氏のダンスを審査していたことになります。残念ながら選手としての印象は残っていません。優勝した筑波大学の選手が圧倒的に上手だったことは覚えているのですが。2位になった一橋大学の選手は記憶に残っていませんでした。
なお私は決勝で5位を入れていました。最終結果が2位ということで私の見る目がなかったかもしれません(順位は負数の審査員の結果を総合して出します)。優勝した筑波大学の選手にはきちんと1位をつけましたが。
最初の読了後に気が付きました。

 

そして本をもう一度読んだときに、また気が付きました。


主人公ワンタローが引退となる4年生の冬全(冬に行われる全日本戦のこと。この大会は全国から学生が集まり、学生日本一を決める。この大会が学連最後の公式戦となることがほとんど)の描写を読んだときでした。

 

あれ?ひょっとして?

 

私が鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師免許を取得して東京都北区十条の鍼灸整骨院で働いているときでした。十条と聞けば関東圏で競技ダンスをしている人には察しがつくでしょうが、有名な社交ダンスの練習場があり聖地と言える土地です。敢えて十条を職場に選び競技ダンス選手と接点を作ろうとしていた頃です。


本当に偶然、現役の学連選手が職場に来ました。私が新規患者として対応したのではありませんが、立ち振る舞いや話している内容からすぐに学連選手だと分かりました。聞くと一橋大学の4年生だといいます。最後の冬全に向けて体の不調があるので練習場に行くついでに目について入ったというのでした。

事情が事情なのですぐに私の方に話がきて、その選手のパートナーも含めて冬全に向けてみていきましょうということになりました。


そしてその年の12月最初の日曜日。私は土曜日に職場の忘年会を終えてビジネスホテルに泊まり、朝からその一橋大学の選手をサポートするために冬全の会場に行きました。選手が最高のパフォーマンスを出せるように会場でテーピングなどを行いました。
記録を見直すと、そのサポートに出向いた選手は二宮敦人氏の同期だったのでした。


そのことに気付いて二度目の驚きです。小説に出てきた最後の冬全の会場に、当時の私もいたのだと。10数年も前のことになりますが、記憶がよみがえってきました。
何という奇遇だろうかと。作者がみた風景を一部共有していたのだから、余計に話に引き込まれたのでしょう。

 

 

本作は『「競技ダンス」へようこそ』というタイトルです。おそらく大ヒット漫画(およびアニメ)『ボールルームへようこそ』(こちらも作者は学連選手だった)にちなんだのと、所属した「ALL一橋大学学競技ダンス部」からつけたのだと推測しています。


しかし内容は『「学連」へようこそ』というタイトルが相応しいと思います。


特に学連特有の問題、固定・シャドーについて大きくページを割いています。固定・シャドーについてはここでは説明しないのでぜひ本を読んでもらいたいのですが、学連にしかない制度です(参考までにシャドー制度についたブログがこちら)。同じく競技ダンスをしていても、プロやアマチュアの世界にはない学連独特なものです。
小説でワンタローは固定・シャドーのために先輩が辞めていき、自らが決めらえるときに悩み、今度は下級生の固定・シャドーを決めるときに更に悩み苦しみます。10年後社会人となった同期ともまだそのことについて話しています。それほど大きな出来事だったのでしょう。
このことにつてい私も実体験として大いに悩んだものでした。

 

売れっ子作家となった二宮敦人氏が書きたかった、伝えたかったこと。そこを胸が苦しくなるくらい感じ取りました。学連に関わった人は読んでもらいたい作品です。

 

甲野 功

 

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