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「鬼滅の刃」を知っているでしょうか。令和最初の大ヒットと言われるコンテンツです。
「鬼滅の刃」は少年ジャンプ誌上で連載、今年人気絶頂のまま完結した少年マンガ。あまりのコミックの売れ行きで瞬間的にはあの「ワンピース」を超えたそうです。コミック売上ランキングで上位1位から19位まで全て「鬼滅の刃」が独占したという事件が起きたそうです。当初はそこまで人気があったわけではないそうで、アニメ化されてアニメを見て虜になったファンが急増したといいます。そのアニメも地上波ではなくネット配信であったため、テレビ放送と異なりいつでも自由に視聴することができ事で忙しい現代人に合ったようです。しかもこれから面白くなるという段階でアニメが終了してしまったため、続きを知りたいという人がこぞってコミックを買い、原作がまた面白いということで、大ヒットに繋がったそうです。アニメの続きはこれから映画で公開されるのでまだまだ注目を浴びることでしょう。
「鬼滅の刃」はこれまでにたくさんのヒット作を出してきた少年ジャンプにおいても過去に例のない売れ方をしているそうで、令和という時代に合致した作品となるようです。かつてはいわゆる<引き伸ばし>と言われる、連載終了するはずが編集部の意向で作品を続けることになることが多々ありました。少年ジャンプは人気が無ければだいたい10週で打ち切る人気至上主義で有名な雑誌ですが、過去には人気作品を無理に引き伸ばしてしまった例があります。有名なところではドラゴンボール。作者の鳥山明先生はもっと早い段階で連載終了させたかったそうですが、編集部が許さず、延々と連載が続いたと言います。読む側としても明らかに引き伸ばしているなと感じ取ったものです。それでも作品を面白くするのは鳥山明先生と編集部の力量なのですが。この「鬼滅の刃」はとてつもない人気があるのにきっぱりと連載が終了しました。コミックも23巻で終了とされています(現在21巻まで発売)。これだけのドル箱コンテンツを終わらせるというのは私が子どもの頃には考えられないことです。それも令和の現代に合ったことなのでしょう。
今年に入って娘が「鬼滅の刃」のことばかり話すようになりました。
ねづこちゃん、かなおちゃん、ぜんいつ、たんじろう。
何を言っているのか分からないのですが色々と解説してくれます。世間の注目度も高いので、これは買って読んでおこうと決意しました。かつては興味がないものは排除する考えでしたが、鍼灸マッサージ師として臨床に立つようになってからは世間で注目されている内容はおさえておかないといけないと考えを改めました。ミーハーになるようにしたのです。大人になってから「ワンピース」も「NARUTO」も読みました。AKB48や嵐も知るようにしました。「キングダム」も「進撃の巨人」も買って読んでいます。
「鬼滅の刃」を読んでみると、なるほどと納得することがいくつもありました。どう見ても「ジョジョの奇妙な冒険」(1部~3部)をモチーフにしていることは確かで、「ジョジョの奇妙な冒険」をリアルタイムで読んでいた私には懐かしく思いました。他にも多数指摘されていることですが「るろうに剣心」も入っているなと。またメイン級の人気があるキャラがバタバタ死んで行くのは「進撃の巨人」に代表される今の流れなのだろうと。「ワンピース」はまずメインキャラクターが死ぬことは無いのですが、「鬼滅の刃」はどんどんいなくなります。
そしてこの年齢になったからこそ感じることは「鬼滅の刃」は現代社会を風刺している部分があるということ。少年マンガといえど子どもは少なくなっているのでメインの読者は大人だと言います。今は大人にも楽しめる作品にしないとヒットしません。「ワンピース」ですら世界に蔓延する社会的な矛盾や理不尽を描いています。「鬼滅の刃」は特に現代の日本社会の問題を突いているように感じました。この点は誰もが同じように感じるようで、作品における最大の敵、鬼舞辻無残(きぶつじむざん)のパワハラ社長っぷりはとても有名です。あまりにも言動が自分勝手で理不尽なのですが、ブラック企業のワンマンパワハラ社長と驚くほど一致する言動をするのです。ここでは深く触れませんが「鬼滅の刃 パワハラ会議」で検索するとたくさん情報が出てきます。バトル物の少年マンガでは現実離れした行動をするキャラクターはいくらでもいますが、ここまで“実際にあるある”と思わせるのは凄いことだと思いました。作者は絶対にパワハラ上司の下で働いていただろ、と思うほど。
それとは別に、第一話から感銘を受けたセリフが鬼滅の刃には出てきました。それが
「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」
です。かなり有名なセリフなのでご存知の方も多いかもしれません。「鬼滅の刃」とは、主人公の竈門炭治郎(かまどたんじろう)が外出した際に、突然家族が鬼に襲われて一家を惨殺されます。唯一生き残るも鬼となった妹、禰豆子(ねづこ)を人間に戻すために戦いの旅に出る話です。作品には人を食う鬼が存在し、また鬼を倒す集団「鬼殺隊」も存在します。鬼と化した禰豆子を処分しようと現れるのが鬼殺隊の冨岡義勇(とみおかぎゆう)。圧倒的な武力を誇る冨岡義勇に対して炭治郎は土下座して妹の命乞いをします。その際に冨岡義勇が放ったセリフがこれなのです。
「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」
状況を少し説明します。突然鬼に襲われて家族を惨殺され、生き残った妹も鬼にされた上に人間の敵として駆除されそうになっている炭治郎。その悲惨な状況においても自ら行動して結果をとりに行かないといけないよ、という冨岡義勇の戒めになります。冨岡義勇のセリフはこう続きます。
「惨めったらしくうずくまるのはやめろ!!」
「そんなことが通用するならお前の家族は殺されてない!!」
敵を前にして土下座して事が穏便に済むのならば、そもそも家族が殺されていないわけです。鬼側はあまりにも無情に人を殺し食べる存在です。炭治郎が禰豆子を人間に戻してまた平穏な暮らしに戻りたいと願うのならば、強い意志を持って行動せよと続きます。
「妹を治す方法は鬼なら知っているかもしれない だが!」
「鬼共がお前の意志や願いを尊重してくれると思うなよ!」
現実は厳しいと鬼狩りを続ける冨岡義勇は知っています。心の奥では
「怒れ 許せないという強く純粋な怒りは 手足を動かすための揺るぎない原動力になる」
「脆弱な覚悟では 妹を守ることも 治すことも 家族の敵を討つことも できない!!」
と奮起させる狙いがありました。第一話のエピソードです。
作品の世界は大正時代に人を食う鬼がいるというファンタジーの設定。しかし本質は現代社会に通じるように感じるのです。現実には直接襲ってくるような鬼はいませんが、誰かに「生殺与奪の権」を握られている状況は至る所にあるのではないでしょうか。下請け企業が大口顧客に依存している。上司にパワハラをされていても生活のために健康を害しながらも我慢をする。社会的に生きるか死ぬかを誰かに依存してしまう。あるいは大きな相手に委ねている。場合によっては社会的ではなく生命そのものも影響してしまう。
新型コロナウィルスの流行により外国人観光客を相手にしていた観光業は大打撃を受けています。修学旅行生を相手にしていて旅行会社も同様でしょう。「鬼滅の刃」1巻が描かれたときは当然新型コロナウィルスの存在などありませんでしたが、今読むと凄く胸に突き刺さります。知り合いの旦那さんが定年退職をするにあたり家庭の先行きが不透明だと聞きました。退職すると住宅手当が支給されなくなるので今の家を出ないと生活できなくなる。しかし旦那さんは就職活動をしたり起業を計画したりと、新しいステージを探そうとしていないと。誰かがまた雇ってくれるだろうと考えているのだといいます。退職金を貰えても、年金が入ってくるとしても、定年退職後の人生はとても長いです。間違いなく生活を変えないとやって行けなくなるのにきちんと考えていないようだというのです。
会社や他人の評価で老後が左右されるのは“生殺与奪の権を他人に握られている”状況に感じます。私は個人事業主の立場なので余計にそう感じます。長く続く不況に加えて新型コロナウィルス。どのような状況でも<生殺与奪の権を他人に握らせることなく>自分の力で動けと「鬼滅の刃」は語っているように思います。土下座をしたところで敵(あるいは社会環境、情勢)が態度を変えることは無い(そうであるならば状況が悪化していない)。そのようなメッセージを、この年齢と今の状況で、感じ取ったように思います。
娘たちはキャラクターが可愛い、カッコイイと言っているだけですが、親の私は身につまされる気持ちになりました。令和最初の大ヒットコンテンツと称される「鬼滅の刃」。奥が深いなと。
甲野 功
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