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~柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会報告書~

公益財団法人柔道整復研修試験財団の柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会報告書
公益財団法人柔道整復研修試験財団の柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会報告書

 

 

6月29日付で公益財団法人「柔道整復研修試験財団」から<柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会による報告書について>という文章が発表されました。

 

柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会による報告書について

 

 先般の柔道整復師国家試験問題漏洩事犯を受け、財団では、弁護士を委員長とする第三者による柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会を令和5年3月13日に設置し、再発防止策を徹底的にご議論頂き、この度、報告書が取り纏められました。

 財団におきましては、報告書で示されました再発防止策を着実に実施していくことにより、柔道整復師及び本試験制度の信頼回復を図ってまいります。

 国家試験委員につきましては、欠員の補充に当たって、一般公募を行い、第三者で構成する国家試験委員選定委員会により3名の国家試験委員を選定いただきました。

 また、財団内に国家試験に関する通報窓口を設置すること等、再発防止策を確実に実施することにより、公平・公正な国家試験事務の運営に努めて参ります。

 

 柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会報告書

 

 令和5年6月29日

公益財団法人柔道整復研修試験財団

 

この文面は昨年10月に起きた第30回柔道整復師国家試験(2022年3月実施)の問題が事前に漏洩していたという事件が起きたことに対して、柔道整復研修試験財団が対応した結果になります。既に公判は終了し、被告2名に有罪判決が出されています

しかし、事件発覚当初から専門学校側の関与が言われていました。とうの昔に柔道整復師免許を取得している被告にとって試験問題を事前に知るメリットはありません。一番その情報を得たいのは受験生であり、専門学校・大学の養成施設です。

そして今年3月に行われた第31回柔道整復師国家試験では合格率が昨年30回に比べて大きく下落し全国的に問題が漏洩していたのではないかと報道させる結果になりました。昨年の捜査で第30回柔道整復師国家試験問題情報を得ていたのは4校と判明しました。しかし、その4校以外にも広く情報が出回っていた。当然ながら今年第31回の柔道整復師国家試験では事前に問題が漏洩しないように徹底的に管理されたはずです。そのため、問題情報が得られなかった学校の受験生は合格することができなかったという“疑い”です。

この疑いも含めて再発防止委員会を発足させて調査をしてきました。

そしてその報告書がこちらです。

 

公益財団法人柔道整復研修試験財団の柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会 委員会報告書

 

15ページに及ぶ報告書です。テーマごとに抜粋して見ていきましょう。

 

まず第三者による「柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会」(以後、再発防止委員会)について。今年2023年3月13日に発足。メンバーは

委員長:大谷隼夫(東京エクセル法律事務所、弁護士

委員:石井淳子(公益財団法人全日本柔道連盟副会長)

委員:菅本一臣(大阪大学大学院工学研究科招聘教授、整形外科医師

の3名。委員会は3月22日、5月11日、6月13日に行われました。弁護士と整形外科医がメンバーに入っているところが注目です。

 

報告書にはまず『漏洩事件発覚の経緯』が詳細に記載されております。これまでの報道では不明瞭だった内容が時系列に記載されております。

事の発端は昨年2022年3月23日に柔道整復研修試験財団代表理事に新宿医療専門学校校長から問題漏洩を疑う事象が発見されたと連絡があります。なお個人名も記載されておりますが、この文章では省略します。研修試験財団は厚生労働省に報告。3月24日に研修試験財団は新宿医療専門学校に事情聴取を行います。そこから日本柔道整復師会の者が第29と第30回のそれぞれの試験問題情報を漏洩させていたことが判明します。問題内容は必修問題の柔道整復理論でした。

 

※柔道整復師国家試験では必修問題といって8割正当しないと合格できない基本的な内容を問うとされる50問があります。この必修問題をクリアできないために不合格になる受験者が少なくないのです。一般問題は問題数が多いので間違えても構わない数が多いのですが、必修問題は問題数が少ないために誤答できる問題数が少なく合格を困難にしているといえます。

 

実は第30回だけでなく第29回においても新宿医療専門学校に試験問題が漏洩していたのでした。一般の報道では出てこなかった情報で驚きました。そもそも第29回の時点で漏洩の事実があったのであるからここで発覚していればという気持ちになります。

 

報告書には新宿医療専門学校柔道整復研修試験財団への調査履歴が時系列で並ばれており、実名が多数登場します。当初は事情聴取側に本事件の被告がいたことがわかります。6月17日に厚生労働省が被害届を提出し、警視庁刑事部捜査二課の捜査が開始します。7月~9月に柔道整復研修試験財団職員への捜査が行われます。そして2023年10月5日に柔道整復師法違反容疑で2名が逮捕されます。同日に柔道整復研修財団も家宅捜索を受けます。10月26日には2名が再逮捕。11月16日に東京地方検察庁が柔道整復師法違反で起訴。2023年1月12日東京地方裁判所第一回公判で即日結審。2月1日に判決、懲役1年(執行猶予3年)、懲役10月(執行猶予3年)がそれぞれ言い渡されます。

 

続いて『漏洩事件の概要』についての記載です。第30回柔道整復師国家試験出題問題最終決定会議にスマートフォンを持ち込んで内容を録音した被告は、その音声データを東京柔道整復専門学校の職員に送信しました。この行為が直接的な犯行になります。職員はその音声データから国家試験全出題予定問題250問を文字起こしして印刷します。これを被告、同校校長、国家試験対策室、教務部長に配布します。そして被告は元国家試験委員の前任者で同校の元教員に要求され配布しました。

報告書には元国家試験委員に“要求され”という文言が記載されております。なお報告書には関係した職員の氏名が記載されております。

 

もう一人の被告は、東京柔道整復専門学校の国家試験合格率が極めて高いのは試験委員である被告が試験問題を学校側に漏らしているためではないかと思い、自身が勤める仙台医健・スポーツ専門学校の柔道整復師国家試験合格率を上げるために、情報提供をするようになります。これに応える形で被告は国家試験前の2022年2月に入った頃、要点となるキーワードを電子メールで送信します。情報得たもう一人の被告は仙台医健・スポーツ専門学校柔道整復科学科長へ送信します。また自身が経営する接骨院の従業員を使い、キーワードをもとに出題予定問題と類似した内容の問題を作成させ、この問題も同校柔道整復科学科長に送信しています。

 

こちらの漏洩事件でも専門学校の人間が関与していることが報告されています。少なくとも専門学校の教員が漏洩された試験情報のことを告発していればもっと早く、あるいは未然にこの事件は防げたと思われます。報告書の『(2)各事犯の背景事情』という項でも『前記各犯行は氷山の一角で、同種事犯が長年に繰り返されてきたとも言われている。』と断定はしていないが敢えて問題漏洩は長年繰り返されてきたことを匂わせています。弁護士が関わっている報告書でこのような推量する表現は珍しいと感じます。

また国家試験問題をめぐる疑問は以前から取りざたされていたにも関わらず、放置されていたと考えられ、『実態は深刻である。』という言葉が報告書にあります。それは両被告の犯行は『その前任者からの引継ぎの色合いが濃いもので犯罪捜査としては証拠の、時間的制約等から遡らなったものの、現実は長年にわたり悪弊が続いていたとみられ』という状況から紡ぎ出されたもの。

 

そして問題が漏洩した第30回と漏洩していないはずの第31回合格率の数字を比較した結果、問題が難しくなったことの影響は合格率低下率20%未満の35枚程度ではないかと思われ、『全養成校の半数近くの受験生らに試験問題漏洩情報が拡散されていた可能性は否定し難いところであった』と相当数の受験生に問題情報が漏洩していたのではないかとしています。疑わしいが立証できないというところでしょう。

 

報告書では、犯行の動機として金銭目的よりも所属する専門学校の国家試験合格率を上げるため、としています。状況背景として、合格率が高いほど進学希望者にとって魅力的に映り学校経営が安定化する、合格させた教員も感謝され評価されるこことが期待される、という点を指摘しています。学校側の事情がこの漏洩事件が起こる原因になるという報告。私もまさにその通りだと考えます。

 

報告書は今後漏洩が起きないような対策が述べられています。現実的な方法が挙げられております。一つ私が気になったのは試験委員氏名の公表について。これまでは誰が国家試験の問題を作成しているのかは一般に知られていませんでした(もちろん関係者は知っているのでしょうが)。それを今後が試験委員氏名を公表してはどうかという提言がありました。過去に看護師国家試験でも漏洩問題があり、氏名公表の上、対策を取っている事例を紹介しています。私個人の感想としては、試験作成をしている人が分かるとその人の好みや出題傾向が調査されてしまうのではないかという懸念があります。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師では誰が問題を作成しているか噂すら聞きません。業界状況から予測はできますが、実名を耳にしたことは一切ありません。反対にここまでの事件になった以上、敢えて国家試験問題作成者を公表して動向をチェックする必要に迫られる方が効果的なのかもしれません。

 

報告書の結語として『今回の事犯を機に柔道整復師業界全体の意識や行動が変わり、業界全体の発展につながることを祈るものである。』と、最後を締めています。

 

昨年発覚してからずっと気になっていた専門学校側の関与。このことがはっきりした報告書でした。かの“福岡裁判”以降、柔道整復師養成施設は大いに増加しました。その結果、生徒集めと学校経営が困難になり、柔道整復師の質を低下させたと言われています。それは入り口である養成施設の質と直結するものです。合格率が良ければ人気が出る。鍼灸、あん摩マッサージ指圧よりも学校毎の特色を出すことが難しい柔道整復師。それは技術体系が統一されており、整形外科医の領域と直結するためとも言えます。専門学校側が襟を正すことが最優先課題でしょう。

 

 

以下にテキストに起こした全文を記載しておきます。

 

令和5年6月27日

公益財団法人柔道整復研修試驗財団

代表理事 今別府敏雄殿

 

公益財団法人柔道整復研修試験財団の柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会

委員長 大谷隼夫

委員 石井律子

委員 菅本一臣

 

委員会報告書

 

当委員会は、柔道整復師国家試験再発防止に向け、令和2年度第29回柔道整復師国家試験事記及び令和3年度第30回柔道整復師国家試験漏洩事犯(以下「漏洩事犯」という。)の原因究明及び再発防止をとりまとめたので、これを下記のとおり報告する。

 

 

第一 漏洩事件の経過の確認及び原因究明

 

1 洩事の経過の確認

 

(1)漏洩事件発覚の経緯

①令和4年3月23日公益財団法人柔道整復研修団(以下「財団」という。)福島統代表理事に学校法人小倉学園新宿医療専門学校(以下「新宿医療専門学校」という。)の永野修校長から柔道整復師国家試験(以下「国家試験」という。)問題の漏洩を疑う事象が発見されたと連絡があり、財団はこれを同日のうちに厚生労働省(以下「本省」という。)の試験免許室に報告した。

②財団は、翌24日学校側に事情聴取し、その結果を同日のうちに本省試験免許室に報告した。

24日の学校に対する事情聴取の結果、公益社団法人日本柔道整復師会(以下「整復師会」という。)主事米田守(以下「米田」という。)が令和2年度の第29回国家試験日前と令和3年度の第30回同試験日前の2度にわたり、新宿医療専門学校の教員に、それぞれの回の試験問題に酷似した問題集の写真映像をLINEで送り、これをその都度教員がパソコンを使用して文書化した上、同校の柔道整復師学科長がこれを試験前の生徒に対する補修教材として使用したこと、送付された問題は、内容が国家試験の必修の柔道整復理論の問題集と似ているばかりでなく、順番もほぼ一致していること、などが判明し、試験問題漏洩事犯が行われた嫌疑が濃厚となり、以下のように公益社団法人全国柔道整復学校協会(以下「学校協会」という。)、整復師会及び財団による調査が開始された。

③同年4月22日、学校協会三澤圭吾教育部会長から米田に電話で事実関係聴取。

④同年5月6日、整復師会三橋裕之(財団業務執行理事・以下「三橋」という。)長尾淳彦両副会長が米田から事情聴取。

⑤同月16日、財団は、

(ア)前記載の内容をメールで受理。

(イ)新宿医療専門学校から学校協会を通して、メールで、5月13日付「今回の漏洩について」と題する書面を受理。

⑥同月19日、財団は、前④項記載の聴取内容を書面で受理。

⑦同月20日、財団福島統代表理事が本省に呼ばれ善後策を協議。

⑧同月26日、財団中澤敏和事務局長、藤井孝義総務部長、山口登試験部主任が同学校の永野修校長から事情聴取。

⑨同年6月17日、かねて本省が相談していた警視庁刑事部捜査二課において本省の試験免許室3名と法務室4名、財団3名、捜査二課3名によりこれまでの捜査結果を踏まえての協議が行われ、財団から国家試験をめぐる偽計業務妨害の被害届を提出し、事件として立件し捜査を進めることとなった。

⑩同年7月から9月にかけて警視庁捜査員による財団職員に対する事情聴取、供述調書作成がなされ、9月からは柔道整復理論の各試験委員に対しても事情聴取、供述調書作成。

⑪同年8月30日、財団から警視庁に偽計業務妨害容疑の被害届提出。

⑫同月31日、警視庁が三橋の自宅等に一斉捜索。

⑬同年9月2日、整復師会岡田安正事務局長、財団安野豊総務部長が、三橋から事情聴取。

⑭同年10月5日、警視庁が財団から国家試験の委員に選任されていた黒田剛生(以下「黒田」という。)及び財団業務執行理事の三橋柔道整復師法(以下「」という。)違反(柔道整復師国家試験問題漏洩)容疑で逮捕。

⑮同日、警視庁が財団事務所を捜索。

⑯同月26日、黒田三橋を再逮捕。

⑰同年11月16日東京地方検察庁黒田三橋を同違反で起訴。

⑱同月17日、財団は、黒田を試験委員から、三橋を同月29日、業務執行理事から、いずれも解任。

⑲令和5年1月12日東京地方裁判所第一回公判で黒田及び三橋は罪を認め、即日結審。

⑳同年2月1日判決(黒田に懲役1年、執行猶予3年 三橋に懲役10月、執行猶予3年)。

 

2 発覚した事犯とその背景事情

 

(1)有罪判決に至った事犯の概要

①令和3年9月30日、黒田は、第30回国家試験(令和和4年3月6日実施)出題問題最終決定会議の場に、 私物のスマートフォンを持込んで、会議内容を全て録音し、その場で読み上げられた出題予定問題を録音した音声データを同年10月1日、自身の勤務先である学校法人杏文学園東京柔道整復専門学校(以下「東京柔道整復専門学校」という。)の校長補佐麓康次郎(以下「」という。)のスマートフォンに送信して教示し、もって試験事務に関して知り得た秘密を漏らした。

これが判決文に示された黒田単独による犯行である。

は国家試験全出題予定問題250問を文字起こしして印刷し、これを黒田のほか、同校の校長有賀薫、国家試験対策室長川上智志、教務部長荒井一彦に配布し、黒田は元国家試験委員の前任者であり同校の元教員でもある深井伸之に予定問題を要求され配布した。

三橋は、かつて東京都柔道整復師会総務部に勤務中の仲間で親しくしていた黒田が所属する東京柔道整復専門学校国家試験合格率が極めて高いのは試験委員である黒田が試験問題を学校側に漏らしているためではないかと思い、自身が勤める学校法人滋慶学園仙台医健・スポーツ専門学校(以下「仙台医健・スポーツ専門学校」という。)の国家試験合格率を上げるべく、黒田に対し繰り返し出題予定試験問題を示して欲しいと依頼するようになった。第30回国家試験を前に令和4年2月に入った頃、三橋黒田に同様の依頼をし、黒田はこれに応えて出題予定問題の要点となる幾つもの文言(キーワード)を電子メールで三橋のパソコンに送信した。

三橋は、同年2月10日、都内において、上記専門学校の柔道整復科学科長川村一之に対し、パソコンで同人のアドレス宛にこの文書を送信して教示した。さらに三橋は、自身が経営する三橋接骨院の従業員をして、この文言を基に国家試験の出題予定問題と類似した内容の問題を作成させ、これも上記川村一之のアドレス宛に送信して教示し、もって、試験事務に関して知り得た秘密を漏らした。

これが判決文に示された黒田と三橋の共謀による犯行である。

 

(2)各事犯の背景事情

①上記黒田三橋らの犯行によって漏洩された秘密情報がその後どのように受験生にされ、合否にどの程度影響したかは犯罪成立の要件ではないため裁判では明らかにされていない。

しかし、前記各犯行は氷山の一角で、同種事犯が長年に繰り返されてきたとも言われている。

②ではどの程度試験情報が拡散し、合否に影響を与えていたのであろうか。

そこで今回有罪判決の対象となった秘密漏洩事犯が発生した第30回(令和3年度)国家試験と事犯発覚により漏洩防止策が計られた第31回(令和4年度)国家試験における、事犯発生校の合格率と受験生養成校全校の合格率を比較してみた。

 

表1 受験生養成校別 新卒合格率の比較 ※省略

 

この表から明らかなとおり、東京柔道整復専門学校仙台医健・スポーツ専門学校ともに事件発覚後編洩防止策が講じられた第31回国家試験の合格率は前年の合格率に比較して3~4割も下落している。

これに対し、全校平均も2割近く合格率が下落している。

この点については、国家試験問題の漏洩が疑われたため、試験委員が急きょ改変されて選任された試験委員で試験問題の差し替えの作業を行ったことにより、一部では全体的に設問が例年よりかなり難しかったことも一因といわれている。しかし、全校の合格率平均が2割近くも下落したということは、上記2校以外の受験生にまで試験問題漏洩情報がかなり拡散していたのではないかと疑わざるを得ないのであった。

このため、第31回国家試験における新卒合格率の下落率別受験生養成校数を下落幅によって区分してみると表2のようになった。

 

表2 第31回国家試験における全受験生養成校104枚のうちの合格率下落区分 ※省略

 

受験生養成校全104校中82枚が下落しており、「下落」が認められなかったのは22校であった。

このうち1校は第31回国家試験が初回のため比較対象から外したが、他の21枚のうち変化がないのは1校で、残り20校は上昇していたのである。この表で見る限り、難問であったとはいえ、合格率上昇校が20校もあったことにみると、難問が影響して合格率が下がったとすることが認められるのは、せいぜい下率20%未満の35枚程度ではないかと思われ、全養成校の半数近くの受験生らに試験問題漏洩情報が拡散されていた可能性は否定し難いところであった。

③如上のとおり、捜査機関による捜査、財団等による調査を踏まえると、柔道整復師業界においては、国家試験問題をめぐる疑惑がかなり以前から取りざたされていたにもかかわらず、放置されていたことが強く推認される。黒田三橋らの犯行もその前任者からの引継ぎの色合いが濃いもので犯罪捜査としては証拠の、時間的制約等から遡らなったものの、現実は長年にわたり悪弊が続いていたとみられ、実態は深刻である。

 

3 漏洩事犯発生の原因

 

(1)漏洩事犯発生の原因を究明することは、今後の改善策を策定するため不可欠である。

①今回の捜査、裁判、財団による調査において供述した多くの関係者は、金銭目的よりも関係者が所属する柔道整復師養成学校の国家試験合格率を高める目的が動機であった旨述べている。

合格率が高い学校ほど受験生にとっては良い教育指導が受けられる魅力的な学校となり、学校側にとっては受験者、入学者が増えて収益の増加、経営の安定化に繋がり、学校間競争にうち勝つことができるのである。

②そして情報を利用して試験前特訓をした教員も教え子が合格すれば感謝され、学校内での評価が高まることを期待して漏洩情報に走っていた状況が窺知される。

③供述者の中には、合格率100%の教員には10万円が支給されると述べた者もあるが、黒田三橋はじめ漏洩行為に直接加担した者がその対価として金員を取得していた具体的事実は警察の捜査等によるも認められるまでに至っていない。

 

(2)如何に学校のため、生徒のためといっても公正であるべき受験のルールを破った不正は許されないのであり、漏洩に走る者の規範意識の欠如は否定できない。

国家試験事務に携わる者は、すべからく、試験問題漏洩が受験生から公平な受験の機会を奪うばかりでなく、本来合格水準に達しない者を合格させることによって国民が適切な治療を受ける機会を危うくする極めて悪質な行為であって、ひいては柔道整復師業界に対する信頼を低下させ、それは柔道整復師にとって大きな痛手となることを肝に銘ずべきであった。このような規範意識の著しい欠如も漏洩事犯多発の大きな原因となっていたといえよう。

 

第二 再発防止策の提言

以上の事実経過と発生原因の認定を基に、再発防止策について検討し提言する。

 

1 漏洩動機関係

(1)兼職制限条項の明記

試験問題漏洩に関わった者の多くが、その所属する学校の試験合格率を高める目的が動機となったことを述べている。

試験委員が柔道整復師養成の学校と関わりがない者であれば、そのような動機は形成されないであろう。

しかし、試験委員に選任されるのは、柔道整復師業の理論と実務に精通する有能な者であるはずで、ほとんどの場合、柔道整復師養成学校で教鞭を執っており、これは如何ともし難いところである。

そこで、現実的解決としては、第一に試験委員に対する強い自覚を促すことは勿論として、職務分掌的には学校の受験指導カリキュラム作成や受験する生徒に対する教育指導には携わらせないようにすることである。

このことについて、現時点では「試験委員が遵守すべき事項」と題する配布書面の中に

「5 試験委員として就任中は、柔道整復師の学校及び養成施設の3年生の講義等を担当してはならない。

6 試験問題のヒントになるようなことについては、1年生、2年生に対してもご遠慮願いたい。」

と記載され、内規中の秘密保持規定の例示として掲げられてはいるが、それに止まらず柔道整復師国家試験事務規程第4章試験委員の章の中に試験委員の兼職制限条項として明記し、徹底を図るべきである。

 

(2)試験委員公募制の導入

試験委員は、厚生労働省令や上記事務規定等に基づく一定の手続を経て選任されるが、優れた人材を選任すべく、これまでは大学教員を除くと、全国の柔道整復師養成学校の中でも学校協会に所属する教員から選任されていた。その任期は2年で内規により連続4期(8年)を上限としているが、問題作成事務に習熟するまでには時間がかかるということで通常は連続3期6年務め、その後同一人が1、2期空けてまた3期6年務める場合もあり、2期ごとに3分の1ずつ入れ替え選任される仕組みであった。

このように学校教員の試験委員は、限られた学校から選出され、かつ、在職期間も長くなれば、自ずと人脈が生まれ、気脈を通じることとなって試験問題漏洩やその慫慂、黙秘、協力へと向かう可能性は否定できない。

その打開策の1つとして、今後は学校協会所属校にとらわれず、全国の柔道整復師養成学校の教員らに応募を呼びかける公募制を導入することを提言する。

 

(3)任期上の短縮

多くの試験問題を毎年公正、適切に誤りなく作成することは容易でなく、任期2年では未だ作成要領をやっと覚えた段階であろうから、再任はあってよいとしても、長期にわたることは学校側との癒着が危惧されることになる。2期ごとに3分の1程度を入れ替え、経験者を残存させつつ性を保持していることも考慮すると、再任の上限は連続3期(6年)限りで、間を空けて再任は無しとすべきである。

 

(4)試験委員の氏名公表について

試験委員の氏名について、非公表とすることにより周囲からの働きかけのリスクを低下させるということも考えられるが、この点については逆に試験委員であることを明らかにすることにより、受験する生徒指導に対する教育指導に携わらない等秘密保持規定に記載された事項の徹底を図りやすい等のメリットも考えられる。平成21年春に実施された看護師国家試験の漏洩を受けた対応策では、試験委員の官報公告による公表後は、学内関係者に試験委員であることを周知するよう依頼し、組織として協力してもらうことが提言されている。

財団においても同様に対応するのが適切と考える。

 

(5)漏洩等不正事犯のあった学校からの試験委員選出排除

漏洩事犯を起こした試験委員が所属していた柔道整復師養成学校等から試験委員の選出を排除することは、規範意識の低い学校からの委員選出による漏洩の危険防止のためばかりでなく、制裁措置の意味もあり、必要である。しかしながら、将来にわたって無期限に排除することは、有能な試験委員確保などから問題も生ずるので、3期 (6年)程度の排除が妥当ではないかと考える。

 

2 深洩防止措置関係

 

(1)設問の作成委員と選定委員の分離等

これ迄の間作成過程について詳らかではないが、試験委員全員が設問の最終決定段階までにその全てを知ることができたことが大きな問題であると考えられる。

この点の解決策の一つとして、特定出題範囲に複数の出題担当試験委員を割当て、各試験委員には現状の設問作成数より多目の設問を作成させた上、これらを別の選定担当試験委員が検討して最終的に股間を決定することが有効と考えられる。

 

(2)試験委員会における録音禁止等秘密漏洩防止策

試験委員会において、全員で設問と回答の最終チェックをすることは必要であるとしても、その状況が外部に流れることは厳禁である。

従来は、会議の場で出題予定の全設問を読上げていたため、これを密かに録音することができたそうであるが、 そもそも全設問を読上げる必要はないと思われる。

配布された資料による設問、回答を各試験委員が黙読、精査した上で討論すればよいことである。

財団の事務局において記録のため録音する以外は、録音禁止を明確に示し、試験委員が持参してきたスマホ、携帯レコーダーは会議室に入る前に特定の箱に入れさせて預かるなどの方策を探るべきである。

また、試験委員会において、書き込んだメモ用紙や資料については会議室からの持出しを禁じ、全問を印刷し、試験委員番号を付した資料も会議終了後回収すべきである。

 

3 漏洩情報通報制度創設

財団役職員、試験委員らに対する秘密保持義務や不正行為禁止義務に関する規定は法並びに柔道整復師国家試験事務規定及び試験に関する財団の内部規定に明記されているが、試験に関わる秘密情報が漏洩したときに、これに対応して拡散防止をはかるための体制は規定化されていない。

そこで、財団の柔道整復師国家試験事務規程に誰でも試験問題など試験に関わる秘密情報の漏洩が疑われる事案を知ったときにはこれを財団に通報できる制度を設けることを提言する。

特に学校側が試験漏洩情報を知り得たときは、速やかにこれを財団に通報することを義務化させ、これを怠った場合は一定の制裁措置を設けるのが適切と考える。

また、黒田三橋らの犯行発覚の端緒は、新宿医療専門学校永野修校長から財団への通報にあった一方、調査の結果同学校内でも漏洩情報が受験生指導に使われていたことも判明した。

同学校側が得た漏洩情報は、黒田三橋が直接流したものではないので、犯罪構成要件の一部とはならなかったが、仮に一部となった場合であっても、発覚前に財団に通報すれば、刑事罰は別として、行政的な制裁措置を免れ得ることも通報制度の有効策として検討されたい。

 

4 制裁措置の運用の厳格化

(1)試験問題漏洩は、先述のとおり、試験の公正、公平を損なうばかりではなく、国民の適切な医療行為を危うくし、柔道整復師業界に対する社会からの信頼を著しく低下させるものである。

今後試験問題漏洩に関与した者に対しては、刑事処罰を受けた者に限らず、その関与の程度に応じて法に基づき柔道整復師業界の公的業務からの追放はもとよりとして、柔道整復師の免許の効力、開業期間にも関わる従来より厳しい行政処分が適用されるべきである。

 

(2)また、不正行為により試験に臨んだ受験生についても法に基づき厳格な制裁がされる必要がある。13条では不正行為に関係ある者について厚生労働大臣は受験停止や試験の無効及び期間を定めて試験を受けることができないものとすることができると定めている。ただし、今回発覚した事犯は受験生が主体的に試験情報を入手しようとしたのではなく、合格率を上げたい学校側が主体となって試験情報を漏洩したものであり、このように漏洩情報を受動的に聞知しただけの受験生には慎重に対応すべきである。

もっとも、試験問題に係る不正という事態を受験生の側から招くことを防ぐためにも今後は上記規定の厳格な運用が必要であり、その周知を図るべきであると考える。

 

5 事犯発生校の公表、改善報告の義務化

財団及び学校協会は、試験漏洩事犯を発生させた試験委員の所属校及び漏洩された試験情報を受験生らに教示した学校について、その学校名及び事案概要を公表し、一定期間を定めて改善報告書の提出を要請し、これらを取りまとめた上、学校監督所管庁へ報告するとともに改善報告書等を今後の監督指導の資料として提出されたい。

 

6 コンプライアンス研修等

試験問題漏洩は絶対に再発させてはならない。このためには柔道整復関係者全員の規範意識の水準を高めることが極めて重要である。

これまで財団で実施されてきたコンプライアンス研修の内容やその実施対象、実施方法を洗い直し、今回の事案を踏まえて更なる充実した研修教育を実施すべきである。また、柔道整復師養成学校に対して、生徒を対象とするコンプライアンス研修を実施することや「3」の漏洩情報通報制度を生徒に対しても周知するよう要請することも必要と考える。

なお、財団においては、柔道整復師養成学校における研修の状況を確認し、必要に応じて改善を求めるとともに、引き続き試験の合格率の状況をフォローし、不自然な動きがないか監視をすることが必要と考える。

 

第三 結語

 

終わりにあたり、さらに2つのことを述べておきたい。

既にこの報告書において何度も指摘してきたが、この度の試験問題漏洩事犯は、手術をしないで人間の持つ治癒力を最大限に発揮させる、柔道整復という日本固有の素晴らしい施術を業とする柔道整復師及び国家試験に対して、その信用を著しく損ねるものであったということを改めて認識する必要があるということである。犯したのは一部の者であったとしても、これが与える影響ははかり知れず、その重大さについて柔道整復師養成学校に限らず、整復師会も含めた業界全体で深刻に受け止めるべきと考える。まずはこの点がしっかり押さえられているかどうかが今後の信頼回復の成否を担っていると考える。

その上で、不正を防止する仕組みやルールの強化以上に重要なのが関係者のコンプライアンスの強化、意識の醸成である。そのための取組みを業界が自発的に推進することこそが信頼回復に向けた姿勢を示すものとなるであろう。 例えば学校協会で不正再発防止に向けた決意や申し合わせをすること、財団がこうした動きをとるよう要請する等の働きかけを行うことなどが考えられる。

要は信頼回復に向けてどこまでの覚悟があり、行動に結びついているかであり、そのことが世の間に正しく伝わるということも重要と考える。

今回の事犯を機に柔道整復師業界全体の意識や行動が変わり、業界全体の発展につながることを祈るものである。

 

以上

 

柔道整復師国家試験漏洩再発防止委員会名簿

 

○委員長 大谷隼夫(おおたに はやお) 東京エクセル法律事務所 弁護士

〇委員 石井淳子(いしい あつこ) 公益財団法人全日本柔道連盟 副会長

〇委員 菅本一臣(すがもと かずおみ) 大阪大学大学院工学研究科 招聘教授 整形外科医師

 

委員会の日程

第1回委員会 令和5年3月22日(水)15:30~

第2回委員会 令和5年5月11日(木)13:30~

第3回委員会 令和5年6月13日(火)16:00~

 

 

甲野 功

 

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