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~シャクティ治療事件~

裁判所ホームページ 最高裁判例特集 平成15(あ)1468
裁判所ホームページ 最高裁判例特集 平成15(あ)1468 より

 

 

世の中には医師免許がないのに人を治せると思わせて健康被害を起してしまう者がいます。

医療はお金になる。医療ができると人から信頼される。

この事実から古くから医療あるいは治療行為は利用されてきました。宗教を布教する際に高度な医療を利用する。反対に人を治す能力を使って宗教化して患者を信者に仕立て上げる。医者の原型は巫術、つまりまじないや祈祷を用いて病魔と闘った人とも言われます。科学、医学が発展しても一般的な医学あるいは真っ当な医者を信じずに独自の解釈・理屈で医療もどきの行為をする者がいます

 

最近では新型コロナウィルスに対するスタンスがそうでしょう。新型コロナウィルスは単なる風邪、大したことはないと主張する人々。単なる風邪が世界中で猛威を振るいました。単なる風邪だからワクチン接種も感染予防も必要ないと主張し、とうの本人が死亡したケースがありました。また新型コロナウィルスのワクチンは猛毒で害悪であると信じる者もいます。接種すると磁力を帯びて皮膚に鉄がくっつく、接種後は酷い副作用がある、死に至るなどと。世界中の人間がワクチン接種をすれば母数が膨大になるのでその直後に体調を崩す、不具合が出る、はたまた死亡するという人間が出てくるのは確率的にあるわけです。

 

新型コロナウィルス以前にも、栃木県で自称祈祷師による一型糖尿病男児を祈祷で治せると保護者を信じ込ませて適切な医療を受けさせないことで男児が死亡するという事件、通称「栃木県糖尿病男児殺人事件」がありました。有罪判決となった被告は一型糖尿病というインスリン注射をしなければ死に至る病気だと知りながら。他にも新潟県で「ズンズン運動死亡事件」と呼ばれる、幼児の首を捻り死に至らしめた事件があります。医療知識もマッサージ技術もない者が独自で考案したという首を捻る施術をしたところ4歳児の呼吸が止まり死亡したのでした。親は良かれと思って子どもにやらせたのに。いわば“ただの素人”に我が子の身をあずけてしまった。どちらの事件も医学知識が無い素人が行った事件で、むしろ素人だからその危険性を理解しないがために起こしたといえます。

 

この他にも特徴的な事件として通称「シャクティ治療事件」あるいは「成田ミイラ化遺体事件」というものがあります。これは平成11年(1999年)に起きた千葉県成田市のホテルで発生した殺人・保護責任者遺棄致死事件です。ある自己啓発セミナー団体の被告は、頭部を手で軽く叩く「シャクティパット」と呼ぶ方法で病気を癒すことができると謳っていました。このことを信じた者が高齢の家族を病院から連れ出し、成田市のホテルで被告による方法で治療を試みるもそのまま死亡します。ところが被告は死亡した家族はまだ生きていると主張します。連れてきた者や周囲もこの生きているという主張を信じました。その後、ホテルから「4ヶ月以上も宿泊している不審な客がいる」と通報を受けた成田警察署が、部屋でミイラ化した遺体を発見し事件が発覚します。

 

当然起訴されて裁判となります。被告は上告を繰り返し最高裁判所まで争われましたが、最高裁判所は上告を棄却し懲役7年の判決が言い渡されます。

 

最高裁判決文

事件番号:平成15(あ)1468

事件名:殺人被告事件

裁判年月日:平成17年7月4日

法廷名:最高裁判所第二小法廷

裁判種別:決定

結果:棄却

判例集等巻・号・頁:刑集第59巻6号403頁

 

原審裁判所名:東京高等裁判所

原審事件番号:平成14(う)1215

原審裁判年月日:平成15年6月26日

 

判示事項:重篤な患者の親族から患者に対する「シャクティ治療」(判文参照)を依頼された者が入院中の患者を病院から運び出させた上必要な医療措置を受けさせないまま放置して死亡させた場合につき未必的殺意に基づく不作為による殺人罪が成立するとされた事例

 

裁判要旨:重篤な患者の親族から患者に対する「シャクティ治療」(判文参照)を依頼された者が、入院中の患者を病院から運び出させた上、未必的な殺意をもって、患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせないまま放置して死亡させたなど判示の事実関係の下では、不作為による殺人罪が成立する。

参照法条:刑法199条

 

判決全文から事件がどうような状況であったかをみていきましょう。

 

(1)被告人は、手の平で患者の患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるという「シャクティパット」と称する独自の治療(以下「シャクティ治療」という。)を施す特別の能力を持つなどとして信奉者を集めていた。

被告は手掌(手のひら)で患部を叩くことで自己治癒力を高めるなど医学的には考えられないことを「シャクティ治療」という特殊能力として信奉者を集めていました。一般的に信じがたいことだからこそ信奉者が集まるとも考えらます。

 

(2)Aは、被告人の信奉者であったが、脳内出血で倒れて兵庫県内の病院に入院し、意識障害のため痰の除去や水分の点滴等を要する状態にあり、生命に危険はないものの、数週間の治療を要し、回復後も後遺症が見込まれた。Aの息子Bは、やはり被告人の信奉者であったが、後遺症を残さずに回復できることを期待して、Aに対するシャクティ治療を被告人に依頼した。

死亡したA、その息子Bも被告の信奉者でありました。息子Bがシャクティ治療を依頼していますが当人のAも信奉者であったことがポイントだと思います。「栃木県糖尿病男児殺人事件」も新潟県「ズンズン運動事件」も被害者の保護者が信じていました。子どもに判断できる、あるいは親の指示を拒否できる状況ではありませんでした。この事件では死亡したAは元々被告を信奉していました。

 

(3)被告人は、脳内出血等の重篤な患者につきシャクティ治療を施したことはなかったが、Bの依頼を受け、滞在中の千葉県内のホテルで同治療を行うとして、Aを退院させることはしばらく無理であるとする主治医の警告や、その許可を得てからAを被告人の下に運ぼうとするBら家族の意図を知りながら、「点滴治療は危険である。今日、明日が山場である。明日中にAを連れてくるように。」などとBらに指示して、なお点滴等の医療措置が必要な状態にあるAを入院中の病院から運び出させ、その生命に具体的な危険を生じさせた。

被告は現代医療(標準治療)を否定し、点滴は危険だと主張し、主治医の警告を無視して息子Bに指示してAを病院から運び出させています。大きな問題は真っ当な医療を否定すること。医学は害悪なると主張する。これは標準的な医療を否定することで、いわば逆張りをすることで、自身のカリスマ性を際立たせる意図があるのではないでしょうか。

 

(4)被告人は、前記ホテルまで運び込まれたAに対するシャクティ治療をBらからゆだねられ、Aの容態を見て、そのままでは死亡する危険があることを認識したが、上記(3)の指示の誤りが露呈することを避ける必要などから、シャクティ治療をAに施すにとどまり、未必的な殺意をもって、痰の除去や水分の点滴等Aの生命維持のために必要な医療措置を受けさせないままAを約1日の間放置し、痰による気道閉塞に基づく窒息によりAを死亡させた。

いざ運び出されたAを前にした被告はその重篤な容態を認識します。たちが悪いことに危険を承知の上で自分の指示が間違っていることを認めたくなくてシャクティ治療をするだけで適切な医療を受けさせませんでした。気道閉塞による窒息でAは死亡します。ここでプライドを捨てて病院にAを戻しておけば死亡するという結末は防げたことでしょう。

 

2【要旨】以上の事実関係によれば、被告人は、自己の責めに帰すべき事由により患者の生命に具体的な危険を生じさせた上、患者が運び込まれたホテルにおいて、被告人を信奉する患者の親族から、重篤な患者に対する手当てを全面的にゆだねられた立場にあったものと認められる。その際、被告人は、患者の重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず、未必的な殺意をもって、上記医療措置を受けさせないまま放置して患者を死亡させた被告人には、不作為による殺人罪が成立し、殺意のない患者の親族との間では保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となると解するのが相当である。

以上と同旨の原判断は正当である。

裁判所の判断として、直接殺害したわけではないがAの重篤な症状を認識していたにも関わらず適切な医療処置を受けさせず放置したことで、不作為による殺人罪が成立するとしています。妥当な判決だと思います。なおこの事件は“不真正不作為犯”に関して刑法学上有名な判例だそうです。また被告は記者会見を開きその発言が荒唐無稽だったことで注目を集めました。

 

Wikipedia 成田ミイラ化遺体事件

 

シャクティ治療事件は信奉者を集めるために無知な治療行為を広く宣伝し引き返せなくなったものと見られます。しかし一歩間違えると私もそのような状況に陥る可能性があるわけです。医者からみれば、気だ、経絡だ、脈診だ、と客観性のない(数値化できない)理論や技術に頼ったペテン師だとみることもあるでしょう。実際にそのような投稿をする“自称”医師アカウントもありました。国家資格であるゆえに鍼灸師は、養成施設で東洋医学を学ぶ以上の単位数を現代医療、西洋医学に費やし、解剖学・生理学・病理学・リハビリテーション医学などの問題が過半数を占める国家試験を合格して免許をとります。標準治療を踏まえたうえでの東洋医学であり、鍼灸である。そして按摩・指圧・マッサージ。その意識をいつも持っていなければいけないと考えています。冒頭に書いた通り、重篤な症状に対して処置ができるのは医師と医療機関です。大災害に見舞われた、戦時中といった緊急事態ならまだしも。そのことを改めて考えさせられる事件です。

 

甲野 功

 

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