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~柔道整復師免許取消処分に対する取消請求裁判~

裁判所ホームページより 免許取消処分取消請求控訴事件 平成23(行コ)262
裁判所ホームページより 免許取消処分取消請求控訴事件 平成23(行コ)262

 

 

昨年発覚した柔道整復師国家試験漏洩事件。実行犯が逮捕されて起訴執行猶予付き有罪判決が下されました。その後、行われた第31回柔道整復師国家試験は過去最低の合格率となり、これまで全国の学校に問題が漏洩していたのではないかと疑念が生まれました。そして先月、厚生労働省は被告2名に対して3年間の柔道整復師業務停止処分を下しました。免許剝奪といかないまでも3年間の業務停止というのは60代という年齢を考えると厳しいものではないでしょうか。それだけ国家資格免許の信用を貶めたということは罪が重いということでしょう。

 

さて過去には犯罪を犯したせいで、業務停止ではなく柔道整復師免許取消処分を受けたケースがあります。そしてその処分を不服として取消処分を取り消すように請求した裁判がありました。一審で認められず更に控訴するも認められませんでした。この判決から柔道整復師免許の社会的意義などがみえてきます。その裁判を紹介します。

 

(柔道整復師)免許取消処分取消請求控訴事件

 

事件番号:平成23(行コ)262

事件名:免許取消処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成22年(行ウ)第286号)

裁判年月日:平成24年1月18日

裁判所名:東京高等裁判所

 

判示事項:

1 柔道整復師法4条3号所定の「罰金以上の刑に処せられた者」に該当するに至ったことを理由として同法8条1項に基づいてされた柔道整復師免許取消処分に、処分基準が作成されていないという手続上の瑕疵があるとしてした前記取消処分の取消請求が、棄却された事例

 

2 柔道整復師法4条3号所定の「罰金以上の刑に処せられた者」に該当するに至ったことを理由として同法8条1項に基づいてされた柔道整復師免許取消処分に、同処分通知書の理由付記が不十分であるという手続上の瑕疵があるとしてした前記処分の取消請求が、棄却された事例

 

3 柔道整復師法4条3号所定の「罰金以上の刑に処せられた者」に該当するに至ったことを理由として同法8条1項に基づいてされた柔道整復師免許取消処分に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとしてした同処分の取消請求が、棄却された事例

 

裁判要旨:

1 柔道整復師法4条3号所定の「罰金以上の刑に処せられた者」に該当するに至ったことを理由として同法8条1項に基づいてされた柔道整復師免許取消処分に、処分基準が作成されていないという手続上の瑕疵があるとしてした前記取消処分の取消請求につき、行政手続法12条1項が、不利益処分における処分基準の策定を努力義務とした趣旨からすれば、不利益処分について処分基準が定められていないとしても、特段の事情がない限り、処分の瑕疵をもたらすものではないとした上で、柔道整復師法4条3号の定める要件自体は一義的に明確であり、その適用基準を設ける要はなく、他方、同法8条1項に基づく処分は、柔道整復師が同法4条各号のいずれかの事由に該当するときにされるものであり、処分が行われる事由は広範にわたっていることからすれば、あらかじめ処分基準を策定しておくことが必ずしも適切ではないと考えられ、また、同種の職業である医師等についても処分基準は策定されておらず、行政処分に際して意見聴取を受ける医道審議会において、その意見を述べるに当たっての考え方を取りまとめたものが存在するにとどまり、しかも、その内容は考え方に幅を持たせた抽象的なものであることにも照らせば、同法8条1項に基づく行政処分について処分基準が作成されていないことにつき、前記特段の事情があるとはいい難いことから、同処分に手続上の瑕疵はないとして、前記請求を棄却した事例

 

2 柔道整復師法4条3号所定の「罰金以上の刑に処せられた者」に該当するに至ったことを理由として同法8条1項に基づいてされた柔道整復師免許取消処分に、同処分通知書の理由付記が不十分であるという手続上の瑕疵があるとしてした前記処分の取消請求につき、同法4条3号の定める要件は明確であるし、この要件に該当したときに免許の取消し又は期間を定めた業務の停止のどの処分を行うかについては、処分行政庁の裁量に委ねられているところ、前記処分には、処分の原因となった事実及びそれに適用されるべき法令の条項を明確に特定できる理由が付されているのであり、免許の取消しから一定期間の業務停止までの比較的広い範囲を有する予定される処分から免許の取消しの処分が選択された理由についての記載はないものの、柔道整復師法8条1項に基づく行政処分については処分基準は定められておらず、医師等に関する処分について医道審議会が取りまとめている考え方も抽象的なものにとどまることを考慮すれば、前記処分に付された理由が、行政手続法14条1項本文の趣旨に照らし、同項本文の要求する理由付記として十分でないとまではいえず、同処分に瑕疵があるとまでいえるものではないとして、前記請求を棄却した事例

 

3 柔道整復師法4条3号所定の「罰金以上の刑に処せられた者」に該当するに至ったことを理由として同法8条1項に基づいてされた柔道整復師免許取消処分に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとしてした同処分の取消請求につき、柔道整復師が柔道整復師法4条3号の規定に該当する場合に、免許を取り消し、又は柔道整復師としての業務の停止を命ずるかどうか、柔道整復師としての業務の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは、当該刑事罰の対象となった行為の種類、性質、違法性の程度、動機、目的、影響のほか、当該柔道整復師の性格、処分歴、反省の程度等、諸般の事情を考慮し、同法8条1項の趣旨に照らして判断すべきものであるところ、その判断は柔道整復師免許の免許権者である処分行政庁の合理的な裁量に委ねており、免許を取り消す処分は、それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきであるところ、刑事罰の対象となった事件は実際には行っていない柔道整復施術を行ったものと装い,自動車保険会社から柔道整復施術療養費を詐取した事案であり、柔道整復師という立場を利用して行ったものである上、懲役1年8月の実刑に処せられていることからすると、刑事処分の軽重の観点からしても、免許取消しの処分がされたことは、他の処分と比較して不当に重いとはいえず、前記処分が裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用してされたものとはいえないとして、前記請求を棄却した事例

 

この文章ではよく分からないと思いますので、元となった原審となる裁判、平成22年(行ウ)第286号)(東京地方裁判所)を見ていきましょう。

 

(柔道整復師)免許取消処分取消請求事件

 

事件番号:平成22(行ウ)286

事件名:免許取消処分取消請求事件

 

この判決文からどのようなことが起きたのかをかいつまんで説明します。

 

まず詐欺事件について。この事件は昭和59年(1984年)4月に柔道整復師免許を取得し、接骨院や病院等での勤務を経て、平成2年(1990年)10月頃から接骨院を開業した者がいました。平成13年(2001年)頃から接骨院の患者数が減少するなど債務が増加していきます。平成16年(2004年)頃、暴力団員から持ち掛けられ、当該暴力団員等と共謀の上、実際には行っていない柔道整復施術を行ったと装い、自動車保険会社から柔道整復施術療養費を詐取したのです。その後、暴力団員等から金銭を要求されるようになったことなどから、この者は平成17年(2005年)8月頃、接骨院の経営を辞め派遣社員として働きました。そして平成19年(2007年)に詐欺事件として逮捕されます。

さいたま地方裁判所

①暴力団員が交通事故の被害車両に乗車していたことを利用する詐欺を企て、損害保険会社から交通事故による柔道整復施術療養費名下に約47万円を詐取

②暴力団員と共謀して、損害保険会社から交通事故による柔道整復施術療養費名下に約147万円を詐取

したという事実を認定し、懲役1年8月の実刑判決を言い渡します。被告は控訴するも東京高等裁判所は控訴を棄却する判決を出し言い渡し刑が確定しました。なお被告の兄は被害弁償に充てるための資金として20万円を用意し、弁護人を通して被害者である保険会社のうちの1社に支払っています。

被告は刑務所に服役し、平成20年(2008年)に仮釈放されます。仮釈放後は兄が営む接骨院の手伝いをしていました。埼玉県保健医療部医療整備課長は平成20年12月1日付けで厚生労働省医政局医事課長に対し、被告に係る行政処分対象事案の情報提供を行います。平成21年(2009年)1月20日で被告の刑執行が終了します。そして被告は平成21年5月にある会社に雇用され、特定施設入所者生活介護を行う老人ホームの機能訓練指導員として働きはじめました。なお機能訓練指導員となるには、柔道整復師の資格を有する者であることが必要となります。

被告は生活保護を受給している身体の不自由な75歳の母親と共に生活していました。平成21年12月21日にさいたま地方裁判所から破産手続開始決定を受けます。

厚生労働省は平成22年(2010年)2月4日、この者に対して、予定される処分の内容を柔道整復師業務停止又は免許取消しとするとして聴聞を行う旨を通知、聴聞手続を行います。そして平成22年5月20日、この者に同年6月3日をもって柔道整復師免許を取り消す処分を行いました。対して処分を下された者は同年5月27日、柔道整復師免許取消処分に対する取消訴訟を行います。

 

このように発端は柔道整復師療養費詐欺を起したこと。それも暴力団と共謀。自賠責保険ですので自動車保険会社とのやり取りがあるため発覚しやすかったのかもしれませんし、暴力団対策の捜査で発覚したのかもしれません。経営が苦しくなり犯罪に手を染めてしまったことが大きな過ちでした。初犯で執行猶予が付かない実刑判決(懲役刑)はそれだけ社会的に問題があったということでしょう。間接的に反社会的勢力の資金源になったわけですから。控訴するも刑が確定。ここまでは詐欺事件の裁判です。

それとは別に柔道整復師には柔道整復師法という法律が課せられます。柔道整復師法の関連部分を抜粋します。

(欠格事由)

第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。

一 心身の障害により柔道整復師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者

三 罰金以上の刑に処せられた者

四 前号に該当する者を除くほか、柔道整復の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者

 

(免許の取消し等)

第八条 柔道整復師が、第四条各号のいずれかに該当するに至つたときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消し、又は期間を定めてその業務の停止を命ずることができる。

欠格事由とは免許を与えない条件です。その条件三番目に『罰金以上の刑に処された者』とあります。懲役刑は罰金以上の刑に該当します。そして柔道整復師法第八条に、これら欠格事由に該当することになった場合は厚生労働大臣が柔道整復師免許を取り消すか期間を定めて業務停止にすることができる、とあります。柔道整復師免許は免許である以上、本来やってはいけないことを国(この場合は厚生労働省)が特別に許可するというものであります。管轄する厚生労働省が柔道整復師免許の認可を決めています。最初に挙げた柔道整復師業務取消処分はこの第八条(免許の取消し等)に由来するもの。裁判所の判決とは別なのです

そして詐欺事件の被告は懲役刑とは別に免許取消処分を厚生労働省から受けたのです。療養費詐欺事件については刑が確定し刑期も終えています。刑期終了後に更に下された柔道整復師免許取消処分に対して異議申し立てをしたことが、今回注目する裁判の内容です。

 

以後、免許取消処分を受けた被告を申立人と書いていきます。

 

申立人は破産するほど生活が苦しく、更に柔道整復師免許取消となれば機能訓練指導員の職を失います。柔道整復師資格があるから機能訓練指導員として働けたわけです。それすらも失う。ただでさえ前科がついていてほぼ柔道整復師の仕事しかしたことがない申立人が再就職する道は非常に厳しい。また実刑判決が出た時点で免許取消処分を出していれば出所後の身の振り方を考えられたものの、仮出所して柔道整復師として再び働き始めてから1年以上経過しての処分は不条理である。業務停止なのか免許取消なのかを処分する判断条件もはっきりしていない。これらの理由から免許取消処分を取り消すよう請求するのでした。※実際の異議申し立て内容と置かれている状況はもっと細かいので判決文を読んでください。

 

その申し立てに対して、東京地裁も東京高裁も申し立てを棄却しました。つまり柔道整復師免許取消処分は覆らないという判決なのです。その理由を逐一判決文では説明しており、主張内容に合理性がないとしています。ここも詳しくは判決文全文を参照していただければと思います。私が注目したのは反論部分です。長いですが抜粋します。

免許の取消し等を定める柔道整復師法8条1項の規定は、柔道整復師として職業倫理を欠き人格的に適格性を有しないものと認められる場合には柔道整復師の資格をはく奪することにより、柔道整復師としての業務から排除し、そうまでいえないとしても、柔道整復師の職業倫理に違背したものと認められる場合には一定期間業務の停止を命じて反省を促すべきものとし、当該柔道整復師に制裁を科すことで他の柔道整復師による犯罪、不正、柔道整復師として職業倫理に反するような行為等の再発を防止し、これによって柔道整復師の信頼を確保するとともに柔道整復師の業務が適正に行われることを期するものである。そのような柔道整復師に対する行政処分の効力が安易に停止されると、本来、柔道整復師としての適格性を欠く者が、柔道整復師としての業務を継続し、同種の犯罪、不正等が再び行われるおそれが否定できず、国民の安全な生活の維持及び確保、他の柔道整復師による犯罪等の再発の防止並びに柔道整復師に対する国民の信頼の維持という柔道整復師免許制度の趣旨に反する状態を招来し、ひいては、公共の利益を害する結果を生じさせるおそれがある。

柔道整復師免許を剥奪するあるいは業務停止させるのは、他の柔道整復師が犯罪・不正・職業倫理に反するような行為を再発防止し、信頼を確保するとともに業務が適正におこなわれることを期待するため。簡単に出された行政処分が停止されると本来適格性を欠く者が柔道整復業務を継続し犯罪・不正等が行われるおそれがある。それは柔道整復師免許制度の趣旨に反する状態を招き、公共の利益を害するおそれがある。このような(申し立てに対する)反対理由が述べられています。柔道整復師という資格、免許、そして業務に対して高いレベルを期待していると感じます国民の安全な生活の維持及び確保、という表現は大げさにも見えますが、それが医療系国家資格であることの裏返しなのでしょう。その期待に応えていくのが国家資格であり、それに反すれば裁判所の判決とはまた別の厚生労働省からの処分が加わるということ。それはあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師ほか、他の医療職種も同様でしょう。柔道整復師として肝に銘じる裁判でありました。

 

甲野 功

 

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