開院時間

平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)

: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)

 

休み:日曜祝日

電話:070-6529-3668

mail:kouno.teate@gmail.com

住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202

~片手挿管トレンド入り~

Xより
Xより トレンド 片手挿管

 

 

先日X(旧Twitter)で「片手挿管」というワードがトレンド入りしました。

 

片手挿管。この言葉を知っていますか?一般的に知られていないはずです。はり師(鍼師)の業界用語になります。

片手挿管とはどのようなものかを少し説明します。中国が発祥とされる鍼灸。鍼という器具を身体に刺して行う技術が数千年前に生まれました。正確にいつ誕生したのかは文献や史料の発見次第でしょうがとても古くから存在していたのは確かです。陰陽論や五行説といった東洋思想と組み合わさり鍼灸技術が確立していきます。元々は鍼をそのまま身体に刺していたのですが、日本に鍼が伝わり日本で細い管である鍼管に入れて鍼を刺入する管鍼法が誕生しました(※江戸時代に杉山和一という人物が考案したと言われていますが、それ以前にも存在したという資料があるようで今後定説が変わることが予想されます。少なくとも日本で管鍼法を広めたのは杉山和一で異論はないと思われます)。現在、日本のはり師は管鍼法を使用することがスタンダードとなっています。中国では鍼管は用いません(※もちろん使用する人がいるとは思いますが一般論として)。理由は日本の鍼は細いものが多くそのまま刺すのがたわんで難しいから。中国の鍼は太いのでそのまま刺入しやすいのです。鍼の太さが違うのは体質や風土と関係していると言われており、湿度が高い日本では肌がきめ細かくなり刺激に敏感になるため、刺激量が少ない細い鍼が好まれる。対して中国は大陸で骨格も大きく強い刺激を好むから。そのように考えられています。もちろん日本人でも強い刺激を好む人もいますから一概には言えませんが、日本では細い鍼を管鍼法によって刺入するというのがスタンダードな手法になっています

 

管鍼法を行うためには鍼本体を鍼管に入れないといけません。その操作を(鍼の)挿管と言います。両手で挿管するのを両手挿管、片手で行うことを片手挿管というのです。両手挿管は片方に鍼、片方に鍼管を持って入れるので難しいことはありません。片手挿管は利き手で鍼管を持ちながら鍼をそれに入れるのです。両手挿管よりずっと難しい技術です。ちなみに私も鍼灸師国家試験が終了してから必死に練習してものにしたものです。

 

さて本題に戻りますが、ある鍼灸師の方が先輩鍼灸師に向けて「鍼灸学校で一年生に鍼を教える際、片手挿管から始めるべきだと思いますか?」という問いかけとアンケートをXで実施しました。それに対する意見が多数出てきて片手挿管がXのトレンド入りを果たすことになったのです。それだけ多数の意見(書き込み=ポスト)が出された結果なのです。一時的な現象とはいえマニアックな片手挿管というワードがトレンド入りしたことから複数の課題が垣間見えました。

まず投稿主がこの書き込み(ポスト、旧ツイート)を行った背景は母校の鍼実技授業において片手挿管の練習ばかりで肝心の刺鍼操作に進まず満足に技術が習得できず卒業していく生徒がいるという懸念からのようでした。片手挿管にこだわって(固執して、というニュアンスも感じられました)鍼を刺すという根本的な技術が疎かになるのであれば片手挿管の技術は後回しでもいいのではないかという意見。ポイントは実技における学校教育の問題点を考えるものであること。専門学校で技術習得が出てきていないのではないかという懸念、不満がみてとれます。

ここで補足なのですが専門学校の教育カリキュラムは大枠が決まっていますが詳細は各校に委ねられています。最低限これだけの内容の授業を指定時間行い、実技試験や筆記試験等を実施して単位認定をする。その結果、はり師・きゅう師国家試験受験資格を専門学校(大学の場合も)が認定するというシステムになっています。つまるところどれくらい片手挿管習得に時間を費やすかは各学校の采配によります。私の体験談になりますが、私は1年生の早い段階で片手挿管を授業で習いました。ただすぐに刺鍼や取穴(経穴=ツボを探すこと)に実技授業は移行していきます。片手挿管の実技試験はなく在学中はほとんど習得できませんでした。最初に書いた通り、国家試験が終了してから必死に練習してものにしました。それは就職活動をした際に面接時に片手挿管をしてみてと言われ、あまりにできないのでもっと練習しないといけませんね、と先方に注意されてしまったからです。その体験を踏まえると確かに片手挿管の練習は各自練習しておいてもらうことにして次の段階に進むという意見は妥当かと思います。後回しにしてもいいのではないでしょうか。

 

しかし質問の意図が別の方向にいき、片手挿管不要論VS必要論になったのです。そのことが個人的に注目したことなのです。質問は「学校の授業で1年生のはじめに片手挿管を教えるのはいかがなものか?(それに固執して刺鍼技術に進まないのはよろしくないのではないしょうか、という考えのもと)」というテーマだったのに、片手挿管など必要ないもので教えなくていいという不要論が書き込まれます。それに対してやはり片手挿管は必要だから練習すべきだという必要論も書き込まれます。必要か否かということではなく、教える順番の話だったはずが。私がそのタイムラインを眺めていて感じたことは、前提として論点がずれているという点を差し引いても、片手挿管を毛嫌いするような意見を持つ人がいるのだなというもの。毛嫌いというのは言い過ぎかもしれませんが必要ない、使わなくなる技術だ、という強い主張が文字から感じられました。

 

不要論の根拠として今後ディスポーザブルの毫鍼(身体に刺す鍼のこと。当てるだけの鍉鍼というものもあるので毫鍼と敢えて記載しました。以後、鍼というのは毫鍼のこととして書きます。)が主流になり、鍼管と鍼が一体化したディスポーザブル鍼しか使用しなくなるのだから片手挿管どころか挿管そのものが不要になる。だから片手挿管を練習することは無意味という。ディスポーザブルとは使い捨てという意味。昔は滅菌操作をした上で鍼を複数回使いまわしていました。鍼を何回も何日も使うのです。しかし滅菌することにより鍼の強度が低下して折れやすくなること、また何度も使うことで鍼先が鈍ってきてしまうこと、なにより衛生面に問題があるのではないかということでワンユース(単回数使用)の使い捨て鍼が主流になっていきます。これは医療器具全体の流れであります。かつては注射の使いまわしをしていて肝炎が感染してしまったことがありました。ご存じの通り現在は注射針を一回ずつ交換しています。外科用メスも使い捨てが増えてきました。

 

それに対して必要論の意見として、最初は銀鍼で練習するから片手挿管は必要、手首や指の感覚を鍛えるのに有効な技術だからやった方がいいというもの。片手挿管ができた方がいいのは鍼を持たない方の手指で取穴し、その間に鍼を持つ方の手だけで挿管を済ませておき、両手の刺鍼動作にスムーズにつなげるためです。専門学校の鍼実技では最初に柔らかい銀鍼で練習することがあり、銀鍼は使い捨てではないので挿管が必要になります。人に刺す場合もありますが練習台に繰り返し刺して練習するため何度も使います。その際に片手挿管が必要になります。

 

双方の意見は理解できるのですが、考えが偏っていると私は思いました。

 

まずディスポーザブル鍼しか使わないから片手挿管は必要ないという意見。ディスポーザブルの鍼でも片手挿管は必要です。というより片手挿管が必要なディスポーザブル鍼があるのです。不要論を掲げる方はセイリン社製の鍼を使用しているのでしょう。セイリン社の鍼は鍼管の中に鍼が入って個包装されています。プラスチック製の鍼柄(持ち手)と鍼管が固定されており、その固定を外すだけで刺鍼することができます。鍼1本に鍼管1本がセットになっているのです。この鍼を使うならば片手挿管というか挿管操作自体が不要です。しかしディスポーザブル鍼はこのタイプだけではありません。プラスチック製の鍼管に対して複数の鍼がセットになって包装されているものがあります。山正社や日進医療器社のものがそうです。例えば鍼4本に鍼管1本がセットで鍼管の横に鍼が並んで包装されています。この場合、1本ずつ鍼管に鍼を挿管しないといけません。私は普段このタイプのディスポーザブル鍼を利用しています。そのため片手挿管は必須でいちいち両手で挿管などしていられないのです。

鍼灸専門学校ではセイリン社製の鍼を使用することが一般的です。私の母校もそうでした。そうなると授業で片手挿管をする機会は無くなります。だから3年生が終わっても片手挿管が身についていなかったのです。しかし職場が上に挙げた鍼管と鍼が別々になっているディスポーザブル鍼を使用する場合はできないといけなくなります。経営者側からするとセイリン社製の鍼は価格が高いので他社製の鍼を使いたいという本音があります。またプラスチックゴミが多くなるのでSDGsの時代にはそぐわないという見方もできます。ディスポーザブル鍼しか使わないから片手挿管は必要ないという意見に対して、片手挿管が必要なディスポーザブル鍼もあると言えますし、学生のうちは必要なくても臨床現場によっては必要に駆られることもあります、という反論があるのです。実際にそのような意見があがっていました。

 

銀鍼を使うときに片手挿管が必要だから片手挿管は学んだ方がいいという意見。これに対しては銀鍼にこだわるのはちょっと違うと思うのです。銀鍼を鍼管無しで刺鍼する鍼灸師もいます。何よりディスポーザブル鍼でも鍼管を使わない場合もあります。最初に述べたように管鍼法は日本で生まれて広まったもの。中国の人は鍼管を使いません(使う人もいるでしょうが)。そうすると銀鍼、ディスポーザブル鍼と関係なく鍼管を使わない刺鍼法をするならば片手挿管は必要ないのです。実際に私は鍼灸マッサージ教員養成科の実技授業において中医学という中国の鍼実技の授業では鍼管を使いませんでした。また日本人でも敢えて管鍼法を選択しない先生も存在します。ですから鍼の種類で片手挿管は必要かどうかというのは論点が違うような気がします。

 

今回の件で考えたことは、自分の環境がすべてに当てはまると思っていないか?、ということです。初学者に片手挿管を習う順番は最初がいいのでしょうか、という問いに対して必要・不要の方に論点が変わるのは自説を問いたいからではないでしょうか。そしてその必要・不要の論点において自ら行っている技術が誰もが行うことであると考えてはいないでしょうか。自分は鍼管と鍼セットのディスポーザブル鍼しか使わないからみんなそうなるに違いない。銀鍼を使うときは管鍼法しか使わないはず。このような思い込みがあるのではないかと。それらの意見に対して時と場合があるだろう、という意見が飛び交い、多数のポストがされてトレンド入りに至ったのだと思います。Xという文字数が少ない(※料金を支払えば大量の文字数での投稿はできます)SNSツールゆえの弊害もあるかとは思いますが、鍼灸師特有の性質が垣間見えた出来事だったのではないでしょうか。

 

甲野 功

 

★ご予約はこちらへ

電話   :070-6529-3668

メール  :kouno.teate@gmail.com

LINE :@qee9465q

 

ご連絡お待ちしております。

 

こちらもあわせて読みたい

治療院業界について書いたブログはこちら→詳しくはこちらへ