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~かつて医業類似行為にあはき柔整は入っていなかった~

独立行政法人国民生活センター 手技による医業類似行為の危害 より
独立行政法人国民生活センター 手技による医業類似行為の危害 より

 

 

最近「赤ちゃん整体」なるものがSNS上で物議を醸しています。一部の理学療法士や鍼灸師が医学的根拠に乏しいと思われる理論を投稿しています。中には赤ちゃんの首を捻じったり頭蓋骨を調整したりするなどの手技を投稿しており、医師であるというアカウントが警鐘を鳴らしたり注意喚起をしたりしています。二人の子供を育てた親として遺志をはっきりと言葉で表すことのできない乳幼児に施術することは危険極まりないと思います。そしてあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師であるプロの立場からみても危険なやり方、理論だと断言できます。直接的に健康被害を及ぼす可能性がまずあります。過去に新潟で起きた通称ズンズン運動と言われる施術で死亡事故が起きています。過去に死亡例が出ていることをすること自体危険極まりないでしょう。これを積極的被害とします。そして小児科医でもない者が乳幼児に施術をすることで小児科を受診しなければならないケースを見過ごす可能性があります。過去に栃木県祈祷師殺人事件と言われる、一型糖尿病の男児をいわゆる霊能力で治療できると保護者に信じ込ませて医療機関の受診を妨げた者が、結果的に男児を死亡させることになった事件がありました。これは直接的な危害を加えたわけではありませんが、適切な医療を受けないようにさせたことで死亡したもので(積極的被害と対になる意味で)消極的被害と言えます。前述の投稿が問題なのは積極的被害と消極的被害の両方から危険があるのです。

 

医師の立場からすると医師免許のない者があたかも医師のように医療行為を行っていることが許せないことでしょう。重篤な状態に陥ったとしたら最終的に対応するのは医師です。現代高度医療に頼ったときにできるのは医師しかいません。医師による医療行為を医行為といい、医行為を業とする(一般的に仕として行うという意味)ことを医業といいます。医業をすることができるのは医師免許を持った医師のみ。これは医師法第17条で明確に提示されていることです。医師からみれば医師が行う医行為とそれ以外という分類になることでしょう。医師免許を持ってない、いわば素人が、医療行為のようなことをするな、という気持ちがあるでしょう。医行為ではない治療のようなものを医業類似行為といいます。読んで字のごとく、医業に類似した行為、というもの。そこには医業に非ずという意味合いが含まれています。医師からみればあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師も非医師という意味では同じように見えるのではないでしょうか。例え国家資格の免許であっても医師とは違う。それは当然のことで免許を取るために費やす時間、勉強量、技術習得に雲泥の差があります。医師になるには現在最低6年間かかります。医師国家試験に合格し研修医経験を経る。そこから専門医の研修を積むのが一般的です。3年間の勉強で国家試験に合格すれば免許が得られるあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師とは難度が違います。また医師には応酬義務というものがあり、基本的に医行為を拒めません。求められれば行わないといけないのです。社会的責任も違うのです。

 

ここまでは一般常識として分かると思います。医者など嘘つきばかり、病気になっても医者になどかからない!、という思想であるならば仕方ありませんが。中にはワクチンは絶対に受けないという人もいるわけですし。それとは別に鍼灸や柔道整復は医業類似行為ではないと主張する人もいます。その根拠があん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師に関わる法律(通称、「あはき法」)の第1条と第12条です。第1条は『医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。』という医師を除いてあはき業をするには免許が必要であるということを示しています。そして第12条で『何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。ただし、柔道整復を業とする場合については、柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)の定めるところによる。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師(以下、あはき柔整と表記)を除いて医業類似行為を業とすることを禁止するとしています。第12条をそのまま読むとあはき柔整も医業類似行為に分類されているように感じます。ただこれだと第1条と内容が一緒のようです。第12条でいう医業類似行為とはそもそも誰においてもやってはいけない禁止行為であったということなのです。もちろん医業類似行為にはあはき柔整は含まれておりません。それが医業類似行為にあはき柔整は含まれないという主張の根拠です。また証拠としていわゆるHS式無熱高周波療法事件において仙台高等裁判所が昭和29年(1934年)6月29日での判決であはき柔整は含まれないとしているからだとしています。この裁判は「昭28(う)第275号」と裁判名が判明しているのですが裁判所ホームページで検索しても出てきません。私の探し方が悪いのか原本を読むことができないのです。この仙台高等裁判所の判決結果があるから医業類似行為にあはき柔整は含まれないのであると主張します。

 

ところが法律の解釈は時代が進むにつれて変化し、現在ではあはき柔整は医業類似行為に含まれます。更に医療系国家資格を持たない行為も医業類似行為に該当し、あはき柔整を狭義の医業類似行為、それ以外を広義の医業類似行為だと行政は解釈しています。これらの裏事情を元厚生教官で現横浜医療専門学校学術顧問の芦野純夫氏は説明しています。

 

ハリトヒト。 インタビュー 鍼灸師よ、誇りを失うな【特別講義編】/鍼灸師:芦野 純夫

 

芦野氏の主張によれば今もあはき柔整は医業類似行為に該当しないということになります。ところが厚生労働省はそうは考えておらず医業類似行為に含まれるとしています。紹介した仙台高等裁判所判決について厚生労働省が触れている文章があります。

 

手技による医業類似行為の危害-整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も-

 

平成24年(2012年)8月2日に独立行政法人国民生活センターが出した文書ですが厚生労働省のホームページにあります。その中で以下の文言があります。

健康保持や疾病の予防・治療の目的で、マッサージ、指圧、整体、カイロプラクティックなど、施術者の手技による医業類似行為(注1)が広く利用されている。

 

 

注1)過去の判例では、「医業類似行為とは『疾病の治療又は保健の目的を以て光熱器械、器具その他の物を使用し若しくは応用し又は四肢若しくは精神作用を利用して施術する行為であって他の法令において認められた資格を有する者が、その範囲内でなす診療又は施術でないもの、』換言すれば『疾病の治療又は保健の目的でする行為であつて医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゅう師又は柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者が、その業務としてする行為でないもの』」とされている。(仙台高裁 昭和29年6月29日判決 昭 28(う)第275号)

仙台高等裁判所の判例を紹介するもあはき柔整は医業類似行為であるとしています。そのまま読むと、注意として過去の裁判で医業類似行為にあはき柔整は含まれないと判決が出たが現在は含まれますよ、と捉えられます。その後の文章にもはっきりと『日本で行われている、器具を使用しない施術者の手技による医業類似行為は、以下のように、法的(注5、6)な資格制度があるあん摩マッサージ指圧、柔道整復とその他の施術の2つに大別される。』とあり、少なくともこの文章ではあん摩マッサージ指圧と柔道整復は医業類似行為に分類するとしています。昭和29年(1934年)の判決を紹介しつつも平成24年(2012年)ではそのように判断しています。すなわちあはき法および判決の解釈を変えたといえます。

更に近年になり令和元年(2019年)5月23日に国会参議院であはき法に関する質問が出されています。

 

第198回国会(常会)

質問主意書

質問第六二号

あはき法に関する質問主意書

 

一 あはき法における医業類似行為の定義について

 

1 「医業類似行為」は、一般的に、法的な資格制度がある「あん摩マッサージ指圧」、「はり」、「きゅう」といった施術と、法的な資格制度のないカイロプラクティック治療、タイ式マッサージといった施術という二つに大別された施術を含む用語と理解されているが、そのように理解されていることを政府は認識しているか。

 

2 「医業類似行為」には、広義の医業類似行為と狭義の医業類似行為とがあり、広義の医業類似行為は、狭義の医業類似行為に、あん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅう、柔道整復など法律により公認されたものをあわせた概念であると理解されているが、本理解について政府の認識を示されたい。

 

3 あはき法第十二条は「何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。」と定めている。同条の「医業類似行為」の定義については、仙台高等裁判所が昭和二十九年六月二十九日の判決において、「「疾病の治療又は保健の目的を以て光熱器械、器具その他の物を使用し若しくは応用し又は四肢若しくは精神作用を利用して施術する行為であつて他の法令において認められた資格を有する者が、その範囲内でなす診療又は施術でないもの」換言すれば「疾病の治療又は保健の目的でする行為であつて医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゆう師又は柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者が、その業務としてする行為でないもの」」と認定している。

この判決によれば、あはき法第十二条における「医業類似行為」には、あはき師等が資格の範囲内で行う施術は該当せず、無資格者が行う施術のみが含まれるものであると考えられるが、政府の見解を明確に示されたい。

最初の質問で医業類似行為の定義を確認しています。一の1ではあはきという法的な資格制度(国家資格免許)のあるものとそうでないものが医業類似行為にあると政府は認識しているかを。一の2では広義と狭義の医業類似行為についての認識。一の3はあはき法第12条は(紹介した)仙台高等裁判所判決によりあはきは該当せず(あはき柔整の免許を持たない)無資格者が行う行為だけが医業類似行為に該当すると考えられるが、それについてはどうか。このような質問です。それに対する政府側の回答です。

 

第198回国会(常会)

答弁書

答弁書第六二号

 

一の1及び2について

 

御指摘の「一般的に・・・二つに大別された施術を含む用語と理解されている」及び「広義・・・と狭義の医業類似行為」の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。なお、厚生労働省としては、「医業類似行為」とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある「医行為」ではないが、一定の資格を有する者が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為であると解しており、それには、あん摩、マッサージ及び指圧、はり、きゅう並びに柔道整復のほか、これら以外の手技、温熱等による療術行為であって人体に危害を及ぼすおそれのあるものが含まれると考えているところである。

 

一の3から5まで、7及び8について

 

 御指摘の「あはき法第十二条における「医業類似行為」には・・・無資格者が行う施術のみが含まれる」、「あはき法第十二条における医業類似行為には・・・該当しないという認識は共通のものである」、「一般的な解釈」及び「国民の「医業類似行為」の理解に食い違いが生じる」の意味するところが必ずしも明らかではないが、厚生労働省としては、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号。以下「あはき法」という。)第一条の規定において「医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない」とされていること、あはき法第十二条の規定において「何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない」とされていること、あはき法第十二条の二第一項の規定において「第一条に掲げるもの以外の医業類似行為」とされていること等から、これらの規定に規定されているものを含めたあはき法における「医業類似行為」自体には、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許を持つ者が行うあん摩、マッサージ若しくは指圧、はり又はきゅうが含まれると解しているところである。また、一の1及び2についてで述べたとおり、同省としては、「医業類似行為」は、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある「医行為」ではないが、一定の資格を有する者が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為であると解しているところであり、それはお尋ねの「平成三年六月二十八日付の厚生省健康政策局医事課長通知「医業類似行為に対する取扱いについて」(医事第五八号)」における「医業類似行為」においても同様である。

一の1、2に関しては質問の意味がよく分からないとしながら、医業類似行為とは医行為ではなく一定の資格を有する者が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為と理解しているとしています。もちろんあはき柔整も医業類似行為に含まれるあはき柔整以外の療術行為であって人体に危害を及ぼすおそれのあるものが医業類似行為に含まれると考えているとしています。一の3についても質問の意味が明らかではないとしつつ、あはき法第12条でいう医業類似行為にはあはきが含まれると理解していると回答しています。令和に入った解釈でもあはき柔整は医業類似行為に含まれるという認識を政府がしていることが伺えます。あはき柔整は国家資格。つまり国家が認定した資格免許の上で活動を行っております。その国家たる政府、厚生労働省があはき柔整は医業類似行為に含まれると判断する以上、過去(昭和時代)には違ったが現在(少なくとも令和)ではそうではないと納得するのが正しいと私は考えています。ですからこのブログのタイトルを過去形にしています。

 

ところが司法は行政から独立している(三権分立)、法律の解釈は変わらないという意見もあります。個人的には法律がそうでも運営する行政が解釈や判断を変えたらそれに従うしかないのではないかと考えています。そして司法の判断が絶対だというとなると平成20年(2008年)に出た東京高等裁判所の判決はどうでしょうか。

 

裁判所ホームページ

行政事件 裁判例集

事件番号:平成20(行コ)331

事件名:所得税更正処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成19年(行ウ)第502号)

 

裁判要旨:

1 柔道整復師がした租税特別措置法26条1項に定める社会保険診療報酬の所得計算の特例を適用して同項所定の率の必要経費を控除した所得税の申告について、柔道整復師は同項に規定する「医業又は歯科医業を営む個人」に当たらないとして、税務署長がした所得税の更正につき、医師法17条、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律12条及び12条の2との関係上、柔道整復は、医行為としての医業でなく、医業類似行為として位置付けられ、その主体である柔道整復師も、医業類似行為を行う者というべきであり、租税特別措置法26条1項の立法趣旨からしても、柔道整復師は、同項にいう「医業又は歯科医業を営む個人」に当たらないとして、前記更正を適法とした事例

 

これは柔道整復師が柔道整復は医業であるから医師と同様の税控除が適応させるとした裁判です。一審で敗訴し控訴した裁判です。控訴審でも東京校裁判所は医師法17条、あはき法第12条及び12条の2との関係から柔道整復は医業でなく医業類似行為として位置付けられ、柔道整復師も医業類似行為を行う者というべきという判決をしています。高等裁判所が法律を踏まえた上で柔道整復は医業類似行為であると判決を出しています。これをみれば司法においても少なくとも柔道整復は医業類似行為であると判断していることが伺えます。

 

政府判断においても裁判所の判決においても、かつてはそうではなかったが、やはりあはき柔整は医業類似行為になると判断するのが妥当ではないでしょうか。あはき柔整は医業類似行為に含まれないという主張はそのままあはき柔整が医業(の一部)に該当するという主張に移ります。医師法第17条の解釈はどうなるのかという争点になっていきます。いつかあはき師も柔道整復師のように裁判を起こして司法の判断に委ねることになるのかもしれません。

 

甲野 功

 

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