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~全日本鍼灸学会雑誌掲載論文「医業類似行為とは何か」①~

全日本鍼灸学会雑誌74巻2号 医業類似行為とは何か
全日本鍼灸学会雑誌74巻2号 医業類似行為とは何か

 

 

今年に入り私の業界、すなわちあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師(総称して“あはき柔整”と呼ばれます)の状況に大きな変化が起きつつあります。発端はやはり今年2月に発出された「あはき・柔整広告ガイドライン」と言われるあはき柔整等における広告内容におけるガイドライン。6年の歳月をかけて有識者会議を繰り返した結果、完成しました。このガイドラインが完成した結果、これまで保健所職員が対応に苦慮していたことにマニュアルができて対応しやすくなると考えられます。最近、当院の管轄である東京都の新宿区保健所にこの件で電話した際に担当者が述べていました。

また全日本鍼灸マッサージ師会の東京支部にあたる東京都はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会が開催した「あはき・柔整広告ガイドライン」に関するセミナー。全日本鍼灸マッサージ師会の法政委員長の先生が登壇したのですが、後半は広告ガイドラインに関連して「医業類似行為とは何か」というテーマで話をしました。正確には「あはき(あん摩マッサージ指圧、鍼灸)は医業類似行為なのか」、そして「あはきは医業なのか」ということ。あはき・柔整広告ガイドラインには医業類似行為という文言は登場しないのですが非常に関わりのあることなので東京都はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会から全日本鍼灸マッサージ師会に依頼して解説してもらったのです。その際に講師が挙げた資料が全日本鍼灸学会雑誌に掲載された論文『医業類似行為とは何か』というものです。その内容を紹介していきます。

 

J-STAGEトップ/全日本鍼灸学会雑誌/74 巻 (2024) 2 号/書誌 その他(論考)

医業類似行為とは何か

 

まず全日本鍼灸学会とは。正式には公益社団法人全日本鍼灸学会といい公益社団法人、つまり公的な団体です。国内の鍼灸系学術団体の中で最大規模の組織で鍼灸に関する様々な研究・論文発表事業などを実施していま昭和23年(1948年)に日本鍼灸学会として設立され、幾度かの名称変更や団体東郷などを経て昭和55年(1980年)に現在の形になります。業界最大の学術団体です。この全日本鍼灸学会雑誌に掲載されるには、学会なら当然ある、査読という内容の審査が入った上でのもの。誰でも彼でも応募すれば掲載されるわけではありません。またこの投稿のように甲野個人のいち意見というものでもありません。公益社団法人ですから公的な研究発表であり社会的責任が生じます。

 

本論文の著者は順天堂大学大学院医学研究科柴田泰治氏と東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科谷口博志氏です。受理日が令和6年(2024年)5月21日ですからつい最近のもの。最新研究の一つといえるわけです。

そしてタイトルにもある「医業類似行為」。この用語は一般の人が耳にすることはまずないのではないでしょうか。私も意識したのはあじさい鍼灸マッサージ治療院を開業してから数年経ってから。鍼灸師になったあとも教員養成科で勉強していた時も気に留めていなかったです。ところが開業してみると非常に重要かつ難解な存在で何年も研究しているのです。一方、最近NHK(Eテレ、きょうの健康)で件の「あはき・柔整広告ガイドライン」の特集がされてテレビの映像からこの医業類似行為という言葉がテロップ付きで紹介されたのです。そこで初めてこの言葉を目にしたという一般の方がいたのではないでしょうか。「医業類似行為」という文言は『あん摩、マツサージ、指圧、はり師、きゅう師等に関する法律』(略して“あはき等法”)の第12条に登場します。法律に登場する医業類似行為とはいったい何か。そしてあん摩、マッサージ、指圧、鍼、灸(まとめて“あはき”)は果たして医業に含まれるのか。そのことをテーマにしています。

①医業類似行為は何か

②あはきは医業に含まれるのか

この2点に関連があるのか?と思われるかもしれませんが、ここが業界内では争点になっています。私もこれまで何度も2点について考えてきましたし文章にしてきました。改めて説明します。

まず医師でしか行うことができない医療行為(※具体的には診断、投薬、手術、薬の処方など)を医行為といいます。医行為を業とすることを医業といいます。業というのは、反復継続の意志をもって行うこと、と解釈されていて、早い話医師でなければ医業ができません。医行為もダメでしょう?と思わるかもしれませんが、医行為そのものを医師以外に禁止してしまうと医学生は練習ができません。継続的な業務として行わないならそれを認めないといつまでも医師としての技術が身につかないわけです。医師免許を取ってからが真の研修とも言えますが。一方、医業類似行為はその時の通り医業に類似した行為であり医業とは違います。医業≠医業類似行為であることは誰にも異論はありません。問題は①の医業類似行為の定義は何かということ。私が解釈する限り、令和7年5月現在、あはきは医業類似行為に分類され医業ではないと考えています。ところがあはきは医業であり、医業類似行為ではないという意見があります。医師免許がなければできないのが医業であるだから、医師免許を持たない者が行うあはき(つまりあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師免許しかなく医師免許を持たない私が日常行っている施術方法)が医業のはずがないと思われます。しかしあはきはⅰ医業の一部であり(「医業の限定解除」という表現を用いられることが多いです)、ⅱ医業類似行為ではない、という意見です。ここで整理すると

ⅰあはきは医業(の一部)である

ⅱあはきは医業類似行為ではない

の2点が論点になります。

②あはきは医業に含まれるのかⅰ医業である

①医業類似行為は何か→ⅱあはきは含まれないもの

という対応になるという主張があります。そのことについて本論文は検討しています。

 

先に本論の結論を紹介しましょう。

【対象と方法】

まず議論の前提となる医業を明らかにした。次に同法条文の文言解釈を行った。さらに文献・厚生省通達・判例を整理し、医業類似行為の輪郭を描写した。最後に医療制度における医業類似行為の位置付けを、医師法との関係、医業との比較から検証を行った。

文献、通達、判例、医師法などから考察しました。

 

【結果】

医業について、通達や判例等から現在では「医療関連性のある行為」であることを前提に「医師が行うのでなければ保健衛生上の危害が生ずるおそれ」があるものと定義できた。同法条文の文言解釈から、あん摩、マッサージ、指圧、鍼、灸は医業類似行為に含まれるという解釈が自然であると結論付けられた。文献・通達・判例を整理し、医業類似行為の理解、解釈は、時間とともに内容が明確化、精緻化され、最新の通達、判例から、現在、あん摩、マッサージ、指圧、鍼、灸は医業類似行為として法運用が行われていることが確認できた。医師法との関係、医業との比較から医業類似行為を検証し、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の施術は基本的に医業類似行為として分類されると結論付けた。

色々と調査した結果、あはきは“基本的に”医業類似行為に分類されるとしています。

 

【考察】

以上の整理、分析から、あん摩、マッサージ、指圧、鍼、灸施術を含む医業類似行為は、いわゆる医療の一分野であるが、医師の行う治療と比べて極めて限定的で、条文解釈上も、また厚生省の見解や判例からも、医業とは異なる特別なカテゴリーとして医業と住み分けがなされている。高度化した医療の一翼を担うためにも「医業」の進歩に歩調を合わせ、「医業類似行為」者として進歩と深い医学的な見識が求められる。

あはきという医業類似行為はいわゆる“医療”の一分野である。しかし“医業”とは異なる。あはき師は「医業類似行為」者として医学的な見識が求められると述べています。

本論では“基本的に”と含みを持たせていますが

Ⅰあはきは医業類似行為に分類される

Ⅱあはきは医業ではない

という結論です。ここに関しては私より研究している学者の意見ですから素直に従うのが合理的でしょう。

 

ただ内容を鵜吞みするのは良くないので本論に登場する関連法令などを整理してみました。

 

医療の定義:病からの回復、病の回避、また健康の増進などを意図する観念と行為一般

→あはきが医療

 

あはき等法第12条:「何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない

→この法律が制定当時(昭和22年)には存在しなかった様々な療法が出現しているので注意。

 

医師法17条:「医師でなければ、医業を為してはならない

→医師でないあはき師は医業を為すことはできず、法律上あはきを医業と解する余地はない。

 

厚生労働省による医業の定義:「当該行為を行うにあたり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害の及ぼす恐れのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うこと

 

タトゥー施術の医師法違反について争われた裁判の判決による医行為の説明:「医師法17条の『医行為』というためには、①社会通念上、医療関連性のある行為で、②医師が行うのでなければ保健衛生上の危害が生ずるおそれのある行為であることが必要である。」

→「医療関連性のある行為」であることを前提に「医師が行うのでなければ保健衛生上の危害が生ずるおそれ」があるか否かが、裁判において医業か否かを判断する指標。判例上もあはきは医業とはいえない。

 

あはき等法1条:「医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゅうを業としようとするものは、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許またはきゅう師免許を受けなければならない

→この文言からあはきが医業類似行為かそれ以外なのかは当然には導き出せず。

 

※あはき等法第12条にも触れていますが、ここの解釈は煩雑なので別の機会に整理します

 

あん摩、はり、きゅう、柔道整復等営業法の解説(※昭和23年(1948年)発行の旧厚生省行政官による「あん摩、はり、きゅう、柔道整復等営業法」の解説書。当時は営業法であり現在の身分法ではなかった。)

「医業とは医の行為、すなわち、人体の疾病治療などを業とすることと解釈すれば、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復などの行為が、人体の疾病の治療を目的とする行為である以上、やはり医の行為でありこれを業とすることは医業に属することになる」

→あはき(柔道整復も)広義の医業を人体の疾病治療などを業とすることととらえ、“あはき業を医業に属する”と述べている。

 

国民医療法(昭和17年2月25日法律第70号; 昭和23年7月廃止 同年医師法、歯科医師法等が制定された)第8条:『医師に非ざれば医業をなすことを得ず

→当時のあはき等法第1条は国民医療法第8条に対する例外法、あるいは特別法として、あはき師が、その限られた業務の範囲においてであるが、医業の一部をなし得ることを規定しているとし、医業の一部をなし得るとしている。

ここで本論では戦後の時代背景を考慮した推察を行っている。それはあはきより効果のないと考えられるあはき外の療術全般を規制するために政府があはき法を積極的に運用したのではないかと。今でいう無資格者の術者をあはき等法に組み込みあはき師と同様に規制しようとしたのであろうと。ただ昭和20年代前半の戦後と現在(令和時代)ではかなり異なった状況であるので当時の方針・解釈を今も当てはめるのは無理があるのであはきを医業とする根拠にはならないと述べています。

 

あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法12条違反事件(別名、HS式無熱高周波療法事件)

※この事件と昭和35年に出した最高裁の破棄差戻し判決については過去に何度も甲野個人で触れているので内容は割愛します。

結論として、本論では最高裁は医業類似行為について、あはきは医業類似行為の例示と解釈しうると示しており、あはきは医業類似行為であると明確に指摘していると述べています。

 

厚生省1960年通知

上のHS式無熱高周波療法事件の昭和35年(1960年)に出された最高裁判決(破棄差戻)についての通知。内容は当時の最高裁は医業類似行為は手技、温熱、電気、光線、刺戟等の療術行為と広く認識していること。そしてあはき師について特に判断されたわけではないことを確認すること。つまりあはきを含む医業類似行為全般についての見解ではないことを確認する通達であると本論で解説しています。

 

厚生省1991年通知『医業類似行為に対する取扱いについて』

平成3年(1991年)に旧厚生省(現厚生労働省)が出した通知。この中で「医業類似行為のうち、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔道整復については」とあり、あはきは医業類似行為の一部であることが明確に述べられている。ただしこれは行政解釈であり最終的な司法判断ではないと注意。しかし、少なくとも現在の法執行においてあはきは医業類似行為として扱われることを意味している、と本論で述べています。

 

医師法違反事件(いわゆるタトゥー裁判)

タトゥー施術が「医業」の内容となる医行為に当たるかが争われた。この判例で医業類似行為について言及されており、「医行為とは、人の疾病の治療を目的とし医学の専門的知識を基礎とする経験と技能とを用いて、診断、薬剤の処方又は外科的手術を行うことを内容とするものを指称し、等しく人の疾病の治療を目的とするものであって、たとえば按摩、鍼、灸等の如き療術は医業類似行為の範疇に属し、あん摩、はり、きゅう、柔道整復等営業法による取締の対象となるが医行為とはならない」とあり、本事件の判例ではあはきは医行為ではなく医業類似行為であること指摘される。

 

これらの事例から、あはきは医業類似行為であり医業ではない、という結論に本論では達しました。ではそもそもタイトルの“医業類似行為とは何か”という問いはどうなのでしょう。医業類似行為の解釈が時代と共に変化したことを本論の後半では解説しています。かなり長くなっているのでそのことについては別の機会にします。

 

まとめると、国内最大規模の学術団体の学会誌に掲載された最新の研究において、あはき(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が業として行う各施術)は医業類似行為に該当し、医業(医師が行う医行為を業とすること)には基本的に当てはまらないという結論が出ている、ということになります。

 

甲野 功

 

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