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~按摩の話 肘圧~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 肘圧
殿部に使用している肘圧を使用している様子

 

 

吉田流あん摩術という技術があります。これは江戸時代(幕末)から続く按摩の技術で杉山真伝流と並び古法按摩に数えられます。開祖を吉田久庵とし現代も東京医療福祉専門学校がその技術を伝えています。

 

吉田流あん摩術の特徴として筋肉を弦楽器の弦弾くように弾く「線状揉み」と肘を使って揉む「肘揉み」が有名です。(※揉みと表記していますが、按摩技法の名称は揉捏といいます。)

吉田流の線状揉み(線状揉捏)は私の母校である東京医療専門学校の按摩とやり方が異なります。東京医療専門学校では通称「MP揉み」と言われる揉捏です。東京医療福祉専門学校の学生さんに見せてもらったときに認識しました。吉田流あん摩術のもう一つの大きな特徴として肘揉みが有名です。これはまさに肘で揉捏をする方法です。

 

肘は指よりも丈夫で力を入れやすいのですが感覚が鈍く、圧を入れ過ぎて相手の体を傷めやすいのです。そのため非常に扱いが難しく、肋骨骨折の危険性が指での揉捏よりも増します。そのため私が東京医療専門学校在学時には肘を使った手技を按摩授業で習うことはありませんでした。

 

肘、肘周辺の前腕部(前腕とは肘から手首までの橈骨と尺骨の部分をいいます)で押すことを便宜上「肘圧」とよびます。扱いが難しいのですが臨床において使い方次第で有用です。私は按摩施術をするときはほぼ必ず使用します。肘圧について書いていきます。

 

まず肘を使うとはどういうことか格闘技を例に説明します。

 

肘は人体の中でとても頑丈な部位で攻撃力は凄まじく、格闘技では危険であるため使用禁止にする種目が少なくありません。立ち技格闘技においては、日本で有名なK-1では肘打ちを禁止しています。対してタイの国技であるムエタイ、ミャンマーのラウェイでは使用可。日本のキックボクシングでは団体によってルールが異なります。寝技ありの総合格闘技になると、アメリカのUFCは肘打ちありで日本は団体や場合によってそれぞれとなります。

 

“肘ありルール”になると戦い方が大きく変わります。それくらい肘での攻撃は殺傷力が高いのです。ムエタイやキックボクシングでは相手の目の上あたりに肘打ちをして皮膚を切る(カットさせる)ことがあります。現在腕による打撃格闘技でグローブを付けないで行う競技はミャンマーのラウェイを除いてほぼ無いはずです。ラウェイですらグローブを着用しませんがバンテージを拳に巻きます。それほど拳での打撃は自身の体を傷めやすいのです。素手での喧嘩でも顔面を殴ると自分の指や甲が折れるので喧嘩慣れしている人は気を付けるといいます。しかし肘にサポーターやパットをして戦う選手は肘ありルールの種目でもほぼ見ません。アマチュア大会は別としてプロ選手は格闘技で肘を守ることをしません。それくらい頑丈とも言えるのです。

 

もう一つの特徴として拳よりも胴体から近い位置にあること。

拳は大雑把に肩、肘、手首の3つ関節を経ています。対して肘打ちは肩の関節しかありません。何が言いたいかというと、近接した状況でも攻撃可能ということです。密着するとパンチ(拳による攻撃)は威力が大いに落ちます。ある程度距離がないと最大限の力を発揮できません。肘打ち禁止のボクシングでは攻撃を避けるために相手に抱き着くクリンチがありますが、肘打ちありのムエタイでは近い距離でも肘打ちで致命傷を与えることができます。

そして近いから攻撃動作が制限されます。パンチは腕部分だけでも肩、肘、手首を使って様々な打ち方ができます。そこに体の捻りや下半身を用いた踏み込みが加わります。対して肘打ちは基本的に肩関節くらいしか使えません。実戦では振りかぶる、突っ込んでいく大振りの肘打ちが当たることはまずないからです。

 

格闘技における肘を使った攻撃は、拳を使った攻撃に比べて攻撃力が非常に高いが技術的に難しい、と一般的に言えるでしょう。このことを踏まえると按摩における肘圧も説明しやすくなります。

 

肘はとても頑丈なので強い圧を入れやすいのです。

強く押すことを強圧といったり強揉みといったりすることがありますが、それを可能とするのは力が強いだけの話ではないのです。力の強さもある程度必要ですが、押す・揉む部分が耐えられないとできません。親指で押す母指圧の場合、強く押したかったらそれの圧に親指が耐えられないといけないのです。力云々の前に指の耐久性を高めないとできません。

ちなみに力の弱い人でも木の棒を使って押せば相当な強圧をすることができます。随分前に職場で一緒になったベテランの女性指圧師がどうしてもというときは形を加工した消しゴムで押すという話をしてくれました。背中ならこれでもばれないからと。私は試したことがありませんが。

つまり強く押すには耐久力があることが前提で、そのためにあん摩マッサージ指圧師はある程度指を鍛える必要に迫らせます。指立て伏せをさせるところもあるとか。

 

肘は指よりも遥かに頑丈なので強く圧を入れても影響がほぼありません。そのため容易に強圧を入れることができるというメリットがあります。それがデメリットにもなるのですが。これについては後で述べます。

 

肘圧を使う際には手首、肘関節を使うことができません。厳密には肘関節も利用するのですが母指圧ほど繊細な動きは難しくなります。母指圧ではMP関節、CM関節、手関節、肘関節、肩関節(肩甲胸郭関節)といった大小多くの関節を利用することができます。更に下半身や体幹の動きが加わります。肘圧の場合は肩関節と体幹の動きが主な動作になります。そのため細かい動きは母指や指に比べて難しいのです。それに加えて指より遥かに頑丈です。

強い圧を入れやすいのにコントロールしづらいわけですから指よりも危険を伴います。背中、特に肋骨が押して傷めやすい部位です(肋骨骨折を含む)。そのため肘で背中を押すことはとても注意が必要です。

 

もう一つ怪我を負わせやすい理由が指に比べて触覚が鈍いことにあります。指先というのは人体で最も感覚が鋭い部分の一つです。情報を受け取るセンサーとしても細かい作業をする装置としても。肘には指ほどの高い感覚はないので筋肉の状態を触知することが難しくなります。手探りという言葉がありますが肘探りという言葉はないわけで。肘で圧を入れる際に筋肉ではなく骨をダイレクトに押してしまうと相手を傷める可能性が高くなります。単純に相手は痛いですし。

 

このような事情を踏まえると吉田流あん摩術の肘揉みがいかに高度なものか分かります。肘で揉捏をするとなると基礎がしっかりできていないと(解剖学、体の使い方、技術、諸々のことが分かっていないと)使いこなせないでしょう。

 

では私が肘圧を用いるのはどのような場面かというと、殿部から大腿後面にかけてです。殿部とはお尻。大殿筋という大きな筋肉ありその下に中殿筋、小殿筋と筋肉が連なっています。その下には骨はありませんから仙骨、腸骨に気を付ければかなり安全に使えます。大腿とは太もものことで大腿後面とは太ももの裏側です。ハムストリングスと言われる大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋という筋肉に覆われてその下は太い大腿骨。ここも比較的肘圧を入れても安全な場所です。

場合によっても背中、腰に肘圧を使う場合があります。そのときはかなり注意をします。肘の構造を理解しないといけません。

 

肘圧に利用する部位について細かくみていきましょう。

肘の先、もっとも鋭い部分が肘頭です。尺骨という骨の先になります。鋭い形をしていて最初の方に挙げたムエタイのカットは主にここを使っています。アブドーラ・ザ・ブッチャーの毒針エルボーで当てる部位ですね(分かりづらい説明ですみません)。

圧力というのは“単位面積当たりの力”ですから例え力が弱くても面積が狭い、つまり尖っていればそれだけ圧力が高まります。縫い針はお年寄りの力でも布を貫通できます。それは先端の面積を小さくしているからです。肘圧にしても肘頭を使って押すと驚くほど鋭く強い圧を入れることができます。また頑丈なので耐久力があり、すなわち強く長く押していられます。瞬間的に強く押すだけでなく持続して圧を入れることが必要なのですが親指では耐えられない長い時間も肘であれば容易になります。だから危険でもあるのですが。

 

次に肘というより前腕部。肘頭から手首に近い部分です。三沢光晴のエルボー・スイシーダで当てる部分ですね(ブッチャーに続いて分かりづらい例え)。この部分は尺骨の体部で棒のようなもの。肘頭が点であるのに対しここは線の圧になります。圧力で考えれば表面積が広いので同じ力でも圧は柔らかくなります。押す面が広いので受けると安定感があります。受ける相手は手のひらとも異なる独特な感触になります。

 

肘圧は肘頭と(近位)前腕部を使い分けて行います

 

もう一つ肘圧で重要なことは肘関節の形状です。

肘関節は上腕骨橈骨尺骨の3つの骨で構成されます。非所の曲げ伸ばしは上腕骨と尺骨の関節が主に行うのですが、前腕部にある橈骨と尺骨の関節により(手関節の)回内・回外という動きができます。これは手首を返す動作で前腕部に骨が2本あることで可能となります。回内・回外ができるおかげでより複雑な手の動きが実現できます。肘圧ではこの回外動作(手のひらを上に向ける動作)を利用することで前腕部を回して圧を入れることができます。肘のローリングと言ったりします。タイ古式マッサージにも同じ使い方をするものがあります。

 

私は臨床で殿部(大殿筋)に肘のローリングを使います。広い前腕部で回転させます。同性でもそうですが初診の異性患者さんの場合、殿部を手のひらや親指で触るのは少々抵抗があるので肘を使うことが多いです。

 

最後に患者さんに対して肘圧を用いる部位について。

これまでに書いてきたように容易に強い圧を入れられる反面、触覚が指よりも鈍く繊細な動作がしづらいわけです。どこにでも使えるとは言えません。特に背骨や肋骨の上は危険度が上がります。基本的に頑丈な広い面がよくて、殿部(おしり)、大腿後面(太ももの後ろ側)、足底(足の裏)が好ましいです。腰部や背中はしっかりと肘の場所を固定しないと事故に繋がります。私は普段はこれらの場所には使いません。

かつてはあまりに固い相手に頭や肩に思いっきり肘を入れている様子を目の当たりにしたことがありますが、あまり良いことだとは思いません。滑って変なところに肘を入れると危険だと考えるからです。

 

あまり使用頻度は高くないのですが肘圧というものは使えると便利です。かつて指を作っている時期に親指が痛くてどうしようもないときに一切親指で押さないで全身を施術できるか練習したことがありました。その際に肘圧はとても有用でした。手技のレパートリーに温存しています。相手の状態を見極め技術的にやや難しいのですが、できると便利なものです。

 

甲野 功

 

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