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昨日は今年初めの学連OBOG練習会モダンに参加しました。
学生競技ダンス連盟、通称“学連”。大学生が社交ダンスを競技として行う競技ダンスの組織です。競技ダンスにはスタンダード(ボールルーム)とラテン(ラテンアメリカン)の2部門あり、学連では2年生以降に専攻を決めていずれかの競技に専念します。現在大ヒットしているNetflix映画『10DANCE』はボールルームとラテンアメリカンの選手が互いに専門種目を教えて両部門で競う10ダンスへの出場を目指す話。ボールルーム5種目、ラテンアメリカン5種目の合計10種が競技ダンスの種目になるのです。
私は1996年に東京理科大学に入学し学連の世界を知りました。この頃はスタンダード(ボールルーム)のことをモダンと呼んでいました。その名残で学連OBOG練習会ではスタンダードあるいはボールルームとは呼ばずモダンというようにしています。私は学連時代にモダン専攻の選手でした。学連OBOG練習会モダンの講師は武蔵野美術大学OBの本池淳先生。学連では1学年上の方で当時からよく交流していました。本池淳先生は大学卒業後にプロ選手となり、今は競技を引退し、講師やデモンストレーターとして活躍しています。
学連という世界は社交ダンス界では異質で大学4年間という期限が決まっている世界。そして最初から最後まで競技志向です。一般の方はだいたい社交ダンスとして始めて、だんだん上達してきて競技会に参加するという流れ。学連の場合はすぐに競技で勝ための練習になります。社交ダンスとしてパーティーステップをするのは本当に最初だけ。競技であり、かつ4年間という時間的制約により短期間で上達するための工夫というか伝統というかしきたりがあります。部歴の上下関係が厳しい、基礎練習をしっかりやる。いわゆる体育会系で昭和とは言いませんが平成レトロな世界でした。大概のことは根性と気合でどうにかするという。令和の今は時代に合ったものに変容しているようですが根っこの部分は変わりません。学連を経験した者が参加し、学連経験者が教える学連OBOG練習会。あの頃のような無茶はしないが学連のやり方は受け継がれています。
学連OBOG練習会は毎回事前にテーマが発表されます。今回のテーマは「スタンダードのウォーク」。モダンとは言わないのかい、という話もありますがスタンダード(モダン)種目によるウォークがテーマです。ラテンのウォークとは違います。ウォーク。直訳すれば歩行。歩く動作です。社交ダンスを競技として行う競技ダンス。競技ダンスというのは突き詰めると立つことと歩くことを究極まで追求することかもしれません。この仕事に就くにあたり専門学校で解剖学やリハビリテーション学、運動学を学んだことで余計にそう考えます。今回の練習会ではまずホールドといってモダンの基本的な構えをします。冒頭に紹介したNetflix映画『10DANCE』では俳優の町田啓太さんが劇中に見せるホールドが美しくて関係者はみんな驚きました。あのホールドはそう簡単にできるものではないことを経験者は知っているからです。ホールドを構えて静止し、数分。非常に地味で大変な基礎練習を学連OBOG練習会でします。一般の人では30秒くらいできつくなります。更にライズといって踵を上げてつま先立ちになってホールドをします。このような地味な基礎練習をするのです。そこでホールドとポイズという立ち姿の練習をします。その後ボックスという単純なステップを延々と繰り返します。学連の練習で絶対に行うボックス。トラウマになる者もいる練習会のど定番。横で見ている人はホールドをしてライズで待機。学連らしい練習内容。モダンの基礎となる動作を確認します。
本題のウォークに入る前に。本池淳先生が音楽について説明します。社交ダンスで用いられる専用のCD等の音源の多くは原曲があり、それを一定のテンポになるよう編曲しているといいます。最初から最後までリズムは一緒でテンポも一定。これが通常の演奏曲ではテンポが変わることがあります。流れている音楽をよく聴きながら踊りましょうと。ボックスでは敢えて途中でテンポが変わる曲を流していました。メトロノームのように正確に同じテンポで動いていると途中でずれてしまう。曲のリズムに合わせて動くならば、ここではぐっと溜めていかないといけない。その罠にまんまと私ははまりました。
そして曲は4小節が基本で4小節、8小節、16小節、32小節、64小節と倍々で構成されている。3拍子のワルツで言えば1,2,3、2,2,3、3,2,3、4,2,3というのが基本。3拍子が4つの4小節。またクエスチョン&アンサーというものがあり、最初に問いかけ・次に回答という構成があること。童謡『ぞうさん』を例に出すと“ぞうさん”、“ぞうさん”とどんな像なのか問い、“お鼻が”、“長いのね”と答える。次に“そおよ”、“母さんも”と問い、“なーが”、“いのね”と答える。4小節、4小節です。そしてクエスチョンとアンサーがポジティブとネガティブになります。ポジティブは強くネガティブは弱く。”ぞうさん、ぞうさん”はポジティブで”お鼻がながいのね”はネガティブ。
また基本の4小節にもポジティブとネガティブがあり、ポジティブ(明るい、力強い)がきてネガティブ(冷静、繊細な)がくる。基本となる4小節のうち最初の2小節がポジティブ、次の2小節がネガティブ。モダンのワルツにすると一般的なベーシックステップでは最初の1小節がナチュラルターン、次がスピンターン、その次がリバースターン、そしてホイスク(ウィスク)です。映画『10DANCE』でも町田啓太さんが一人(シャドー)で踊っていました。社交ダンスにはナチュラル回転とリバース回転という2つの回転方向があります。ナチュラル回転は左腕が前に進む回転方向でリバース回転はその逆。男性と女性が互いの右側にずれて組むモダンではナチュラル回転は前に相手がいないので強く大きく進めます。反対にリバース回転では回転方向に相手がいるので進みづらいのです。そういったことからもナチュラル回転は音のポジティブ、リバース回転はネガティブにあたります。ワルツのステップではナチュラルターン、スピンターンはナチュラル回転(スピンターンの後半で回転方向が変わる)でリバースターン、ホイスクはリバース回転です(ホイスクの後半は変わる)。まさにワルツでも曲の基本と合致します。
音楽、曲、ダンスのステップにはネガティブとポジティブの2面がある。そして演説や商談など人と話すときも優れた人は自然とこれを組み合わせている。最初から最後まで力強く押し切るような話をすると聞いている方は疲れてしまい耳を遠ざけるようになる。このような説明をします。
更にポジティブの中にもポジティブとネガティブがあり、ネガティブの中にもポジティブとネガティブがあると言います。曲の最初2小節がポジティブだが、その中でも初めの1小節がポジティブで次がネガティブ。3小節目と4小節目がポジティブであるが、3小節はその中でもポジティブで4小節はネガティブ。このようになっている。
ここまでの話で私は、これは陰陽論だ!、と思いました。陰陽論とは東洋医学の基本中の基本で東洋思想というものでしょうか。万物は陰陽に分けることができるという考え。男女、南北、左右など。全ての事象を陰と陽に分けていく。陰陽論には陰陽転化といって陰から陽、陽から陰へと属性が変わると考えます。また陰中の陽、陽中の陰というように陰の中にも陽の要素があり、その逆もそう。陰陽論では完全な陰、完全な陽は存在せず相対的で逆転しうるとしています。曲からステップの話でポジティブとネガティブという比較はそのまま陰陽論に通じます。私はこれまで競技ダンスと陰陽論を論じてきたのですが(~競技ダンスに陰陽論を~、~補足・競技ダンスに陰陽論を 男女の役割~)、新たな発見になりました。
本題のウォークです。平たく言えば歩くことなのですがその中にもポジティブとネガティブが存在するといいます。中間バランスという用語が社交ダンスにあります。左右の足を開いてどちらにも均等に体重を乗せる状態です。前後に足を出した状態をキープする中間バランスの練習をします。前脚はつま先を上げて、膝を伸ばす。後ろ脚は踵を上げて膝を曲げる。幅を広げ過ぎないようにして太ももの付け根がギュッと閉じて締まっている状態。これで静止します。足を前に出すことがポジティブ。出した足に寄せてくるのがネガティブ。力強く出して、コントロールして後ろ足に寄せてくるのがネガティブ。これも陰陽論の概念と合致します。
中間バランスの注意点で前足のつま先は強く上げること。ヒール、トーといってステップで踵から着くのかつま先で着くのかは非常に重要なのです。見方を変えると、私はヒールとは踵から着いていればいいでしょうと思っていたのですが、つま先を能動的に上げていけということでした。もっとつま先を上げなさいと指導されて気付きました。
このつま先を上げることが今回の練習会で2つ目のキモでした。
足首(足関節)について専門的な話をします。つま先を上げる動作を足関節背屈といい、つま先を下げる動作を足関節底屈といいます。足関節背屈をするために使う主な筋肉が前脛骨筋。足関節底屈で使う主な筋肉が下腿三頭筋(腓腹筋とヒラメ筋)。足関節底屈の方が足関節背屈よりも可動域が大きく力も強いです。普段の生活で理解できるはずです。前脛骨筋をしっかり使わないと足関節背屈はできず、可動域と力の面においても、足関節底屈よりも大変です。前脛骨筋と下腿三頭筋は拮抗作用となっていて、下腿三頭筋の方が前脛骨筋の数倍力があります。前脛骨筋は日常生活であまり使わないので加齢による衰えが目立ち、高齢者がつまずいて転倒してしまうのは前脛骨筋の筋力低下によりつま先が上がらなくなり引っ掛かってしまうから。
この関係もポジティブとネガティブであり、前脛骨筋がネガティブで下腿三頭筋がポジティブと考えられます。動作に対して使用する筋肉が逆の属性になっています。これも陰陽論に通じると感じています。
ステップの中で前進でヒールから着く場合、意図的につま先を上げて膝を伸ばすこと。これが大事になります。学連経験者は基礎筋力があり推進力があります。ブレーキを掛けるように前脚を使うことでコントロールする。上半身がスムーズに動くからといって足首(足関節)も滑らかに動く必要はない。むしろギュッとつま先を上げてガッと踵をフロアーに突き刺す。そのような意識を持つこと。これまで考えたことがありませんでした。今年の春で競技ダンス歴30年になるのですが初めて知った知識です。そう言われてみると本池淳先生の足関節は結構分かりやすくつま先が上がっていて足関節背屈動作が目立っていました。これには前脛骨筋を使い足首を鍛えていないとできません。ワルツはゆっくりと優雅に見せるのですがつま先の動きは激しかった。それを踏まえて踊ってみると確かに動きが良くなります。特にスローフォックストロットのスリーステップ。これはずっと苦手であまり使いたくないベーシックステップなのですが、つま先をグッと上げていくとスムーズに前進できて苦手感を克服できました。いつも前に進めないなと感じていたのに。
上半身を大きく動かしたいから足で止める。止めることができるから、動きをコントロールできるため、大きく動くことができる。上半身が滑らかに動くが足関節は滑らかに動かない。ここに冒頭に紹介した曲、音楽のポジティブとネガティブが加えて表現する。いたるところに陰陽論があります。
まだまだ気付いたことがありますが今回はこれくらいで。ウォークを通して未知の発見があり、陰陽論という競技ダンスとは一見関係のない東洋医学的観点が応用できると考えました。非常に奥が深い練習会でした。
甲野 功
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