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~2019年第34回教員養成科卒論発表会~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 第34回卒論発表会会場と抄録集
教員養成科第34回卒論発表会の会場と抄録集

 

母校である東京医療専門学校教員養成科卒論発表会に参加してきました。

 

正式には
第34回 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ教員養成科 卒業論文発表会
となります。

 

私は30期で、今年発表するのは35期の学生さん。昨年12月に特別授業を受け持った学生達です。

教員養成科は2年制で、発表は35期の2年生が行い、1年生の36期生が聴くことが必修となっています。この場で2年生の研究結果を聴いて3月から自らの研究テーマを決めていく段階になるのです。


私は教員養成科1年生のときに29期の卒論発表を聴いてから、自ら発表した年を含めて7回目の参加となります。毎年、新しい発見があり楽しみにしていました。今年の卒論発表会の様子を残しておこうと思います。

過去の様子はこちら

~2016年第31回教員養成科卒論発表会~

~2017年第32回教員養成科卒論発表会~

~2018年第33回教員養成科卒論発表会~

 

昨年同様、研究テーマを明記して個人的な感想を各々入れていきます。細かい研究結果については触れません。興味があれば論文をご覧になってもらいたいです。
そして最後に全体を通して感じたことを述べてみます。

 

 

アロマテラピーの効果―股関節内外旋可動域に及ぼす影響―

 

アロマテラピーの研究です。日本ではあまり医療関係者が触れていかない分野だと思います。どちらかと言えば個人で楽しむ、もしくはリラクゼーションサロンで受けるようなイメージがあるかもしれません。しかしヨーロッパでは医療分野に入っているようで、「東洋の漢方」・「西洋のアロマテラピー」と比較されるそうです。日本ではリラクゼーショングレードが多いそうですが、セラピーグレードと言われる医療水準の精油もあるそうですね。

 

教員養成科の研究でも過去にアロマテラピーを題材にした研究がありました。しかし本研究の特徴は、運動機能に対する効果を研究している点です。股関節内外旋可動域。これは股関節を外側、内側にどれだけ回せるかを測定してアロマテラピーを嗅ぐことで変化があるのかを検証しています。


この発想がユニークです。股関節内外旋可動域については私の養成科同期が小殿筋に低周波パルス鍼通電を用いて変化があるかを研究しました。それを今回は匂いで、という。結果は左右差が出るというやや不思議なものに。結果に対してどのように検討考察を重ねるかも重要なことでした。

 

 

ストレスによる大人ニキビに対する鍼治療―側頭筋・咬筋への施術による症状緩和を目的とした症例研究―

 

大人ニキビ」。初めて知った用語でした。思春期にできる「思春期ニキビ」と分けて考えるとのこと。好発部位や形状に違いがあるとのこと。大人ニキビには発生要因としてストレスが挙げられ、その指標に歯の喰いしばりがあるとして、噛む動作に使う筋肉にアプローチするという研究。実際に大人ニキビがある被験者3名に対して鍼施術を行い、詳細な観察をした上で検証しています。

 

研究発表では実験をして検証をすることがより質が高いとされ、なるべく多くのn数(被験者)がいる方が精度が上がります。本研究は3名という人数ですが、一名一名にしっかりと経過観察をしてパーソナルデータと照らし合わせた検証を行った症例報告の形に。実験系は結果を数学で統計処理をするのですが、個々の結果が研究結果に見えづらくなる傾向があります。それを各被験者の状況を踏まえて結果と考察を発表したものでした。

 

 

フォトグラファーの作業関連疼痛の調査と鍼治療の効果

 

フォトグラファーに対象を絞った研究発表です。私も写真撮影が趣味なので、プロの方の実態を知るいい機会になりました。フォトグラファー特有の作業関連疼痛は何かをアンケート調査を行い、希望者に鍼施術を行いその結果を報告しています。指標として「CV角(頭蓋脊椎角)」を導入しています。CV角は首がどれくらい前に出ているかを示すもの。初めて知った用語で、社交ダンスで問題になる“ネックが出る”問題を考える上で使えると思いました。

 

ここ2、3年の研究発表では特定の職種に対象を絞ったものが報告されています。後でふれるベーカリー従業員を対象にした研究もそうです。過去には乗馬騎手もありました。東京都鍼灸師会でも企業と連携して鍼灸治療を行う動きがあります。特定職種を対象に研究をして、臨床鍼灸師が活躍する場を掴む足掛かりになるきっかけになるのではないでしょうか。

 

 

Big Fiveと五臓スコアの関連性について

 

Big Five」とは性格を5つに分類する指標だそう。こちらも初耳でした。このBig Fiveと東洋医学ではお馴染みといえる五臓スコアに関連性はないかを調査した研究です。鍼灸専門学生347名にアンケート調査をしました。347名というn数はかなり多く、貴重なデータと言えるでしょう。Big Fiveは文字通り5つの分類。五臓も肝心脾肺腎の5つ。5つの分類同士に相関はあるのだろうか。面白い視点です。五臓と正確に関連性が認められたものもありました。

 

研究結果は書きませんが、調査データでとても興味深いものがありました。研究者の同意を得て結果資料をいただいたので後日改めて触れたいと思います。

 

 

円皮鍼刺激による静的バランスと動的バランスの変化

 

事前に抄録を読んでいて、特に気になっていた研究でした。私は運動パフォーマンスを施術によって向上できないかを研究しましたし、今も追い求めています。本研究は静的バランスの研究はされているが、動的バランスには研究がなされていないことに着目して実験研究を行っています。静的バランスは立位での重心動揺をみて、動的バランスでは歩行時の歩幅の変化をみています。使う経穴(ツボ)は先行研究と同じ場所を用いて円皮鍼という貼る鍼を用いて刺激します。


なおこの実験はダブルブラインドという被験者も研究者も本当に鍼が入っているか否か分からない状態で行いました。メーカーさんが協力して鍼がついていな製品を作ってもらい、よく見ないと分からない偽モノを使うのです。被験者も円皮鍼では刺されている感覚がほぼ無いので、今鍼をされているのかどうか区別がつきません。鍼灸研究で問題になるのが、毎回同じ鍼灸施術ができているのか(同じ刺激量であるのか)、施術者と被験者が鍼灸を受けていることを自覚してしまう(プラセボ効果が入ってくる)ことにあります。薬であればできるのですが、鍼の場合ですと円皮鍼ぐらいしかダブルブラインド方式ができないのです。しかしこの方法はより信憑性が高い研究とされて評価されます。


結果は偽の鍼(sham鍼といいますが)刺激の群の方が静的バランスは有意に改善し、鍼刺激群は変化が無かったという結果になりました。これは先行研究とは異なる結果になり大いに考察することになります。

 

動的バランスをみるために歩行で計測するやり方が素晴らしいと思いました。ただ私がやるならば他の着目点を持つだろうなと質疑応答で質問させていただきました。限られた状況で実験をするため、理想をあげればきりが無いのですが、文句をつけたような形になりちょっと心苦しかったです。結果を聞くだけならばあれこれ言えますし。座長も仰っていましたが動的バランスを計測することはとても難しいことです。そこに敢えて挑戦して頂いたので、別のデータのとり方を模索する出発点になる研究でしょう。結果は研究者が期待していたものではありませんでしたが次に繋がる研究だと思いました。

 

 

月経痛・月経随伴症状と性格との関連性の検討

 

月経に関する鍼灸研究は多数報告されています。今回、月経痛・月経随伴症状と性格が関係するのかを研究したものです。アンケート調査を実施して相関関係を調べています。平たくいうと「性格によって生理の重たさが変わるのでは?」ということを調べているのです。既に挙げたBig Five同様にパーソナルな性格を絡めた研究になっています。

 

研究発表でとても興味深かったことが、研究者3名全員男性だったことです。今まで何件か月経に関する研究発表を聞いてきました。同期も研究していました。今回のように女性が関わっていない研究は初めてです。男性が絶対に経験できない月経について研究することに驚いたのです。


研究テーマを選んだ理由を知りたくて、休み時間に発表者に問いてみました。すると研究者は元々ショップの労務管理をしていて、女性スタッフだけの職場で売り上げが落ちるデータを解析していたところ、行きついたのは生理痛が原因だったと。男性だから分からないでは済まされないと考えてずっと月経困難症について研究しているとおっしゃっていました。
あまりに想定外な答えに面くらいました。企業生産性を鍼灸によって向上させることを視野に入れた実りある研究でした。

 

 

肩こり患者に対する肩甲背神経パルス通電による肩甲挙筋相当部位の筋硬度の変化

 

神経パルスで効果があるかを実験、研究しています。肩甲挙筋という肩こりに重要な筋肉に効果を出すために、筋肉そのものではなく支配神経にアプローチをして(パルス通電をして)効果が出るかを検証しています。

 

私も教員養成科の卒業研究はパルス通電を用いました。私の場合は筋パルスという筋肉にパルス通電させるやり方。本研究では神経にパルス通電をさせます。技術的に(場所にもよりますが)筋パルスよりも神経パルスの方が難易度が高いので、研究者の技術力に驚きます。既に書きましたが、毎実験で同じ刺激量を担保することが最低限のことです。どのような被験者でも神経にあてられる自信がなければできない実験なのです。

 

 

肝の虚実とストレスと青色との関係

 

肝とは東洋医学で用いる五臓の肝。解剖学的な肝臓とちょっとニュアンスが違います。物理的にある臓器ではなく体の機能システムという意味合いが強いといいますか。肝とストレスが大いに関係することは鍼灸師にとって常識。そして五行色体表というベースとなる考え方により、肝と青は対応しています。ここまでは東洋医学(東洋哲学)の話。心理学では青は見ると落ち着く色と言われます。そこで肝の虚実(虚実はタイプ別のような意味で研究しています)と青色の好き嫌い、それにストレスまで関連性があるのか研究しています。

 

東洋医学のタイプと性格は関連しているとされています。そこにピンポイントで青色に対する嗜好を聞く。ストレスもそこに絡める。結構複雑なプロトコルだと思いました。東洋医学を研究する場合、分類方法や解釈の仕方が多岐にわたることが難しいところ。質疑応答で肝の虚実だけで分類するのは大雑把すぎる(肝虚熱証、肝虚寒証、肝気鬱滞など細かい分類がある)という指摘がありました。東洋医学を研究することの難しさをみました。そこに挑戦したことも大切なことです。

 

 

鍼刺激による基礎動作への影響―FMSを用いた検討―

 

この研究も事前にチェックしていた大いに興味がわく研究でした。FMS(ファンクショナル ムーブメント スクリーン)。毎度ながら初めての用語で検索しました。体幹機能、基礎動作を評価する指標だそう。
腹部に鍼施術を行い施術前後のFMSが変化するかをみています。FMSの評価者は専門の第三者を用いて評価するもの。スポーツ鍼灸分野に大いに貢献できる研究発表でした。

 

私も含めて、身体機能パフォーマンスを施術によって変化を出せるのかという研究テーマは、やり方・対象を変えながら養成科に受け継がれています。新たな指標が提示されたことになりました。
実験結果がとても有意に効果が出たこともあり、追研究をする価値があると思います。座長も「シンプルなプロトコルで綺麗な結果が出た」と評価していました。この研究で用いた取穴方法を私も臨床で活用しようと思います。

 

 

知的障がいをもつ成人男性に対するてい鍼刺激―主観的幸福感と生活の質を指標として―

 

知的障がい者に対して施術を行った症例報告。ABA型シングルスケールデザインを用いています。ここでも「ABA型シングルスケールデザイン」を知らなくて調べておきました。知らないことが多々あります。被験者の生活の質やアンケートによる鍼刺激後の心境の変化を調べています。

 

教員養成科の発表を聞いていると、どのように普段はまず出会わないであろう対象者を探してくるのだろうか、と感心することがあります。被験者が全員A級ライセンスを持つプロボクサー。複数名の下肢欠損者を被験者にした研究。公式戦当日の陸上選手への鍼施術。どれも私には接する機会が皆無の方々。そのような対象者に対する研究は視野を拡げることに繋がり知らなかった世界をみせてくれるものです。

 

 

僧帽筋に対する2種類の吸角刺激が筋硬度に及ぼす影響

 

教員養成科の発表では吸角の研究が幾つも報告されています。ですが吸引力の差を検証した研究はありませんでした。そこに着目した研究です。弱刺激吸引と強刺激吸引によって筋硬度と被験者の凝り感に変化があるのかをみています。筋硬度は変化がなく、被験者の凝り感は変化が出ました。

 

吸引力の違いをみる。やりそうで誰もしていなかった実験でした。授業ではしっかり吸引させて外れないようにすることが重要であるため、弱く吸引するという考えがあまり無いのです。弱い吸引力ならどうでしょう、という疑問に着目したのです。吸角の研究は数が少ないと言えます。溢血斑という跡が残ることで被験者への負担があることが理由の一つかもしれません。私も開業当初は吸角を採用していませんでした。それが2年前の教員養成科卒論発表で吸角の効果を知り導入しました。新たな発見があります。

 

 

手掌押圧による握力の影響

 

手のひらをずっと押していると、その直後は物が握りづらくなる。研究者が中高生のときに感じた疑問を本当にそうなのか検証した研究報告。5分間親指で手掌(手のひら)と合谷というツボを押し続けて握力測定をして変化をみています。

 

臨床では片方の手のひらを5分間押し続けることはないので、そうなるのだと思いました。臨床では、患者さんが施術直後にスマートフォンを落とさないように注意しましょう、という話でした。

 

 

ベーカリーにおける疾患の特徴―業務内容との関連性―

 

ベーカリーで働く従業員へのアンケートを行った実態調査。企業連携に役立つ発表でした。ベーカリー、つまりパン屋さん。実際の業務は、仕込み・成形・平窯・石窯・調理・販売・サポートファクトリー・サポートセンター・配送と業務が細分化されている。各部門での業務内容と体の痛みについてなどを調査しています。

 

対象が多店舗経営をしているベーカリーにしている本研究。そのまま経営層への提言できるレベルの資料。企業と鍼灸師(鍼灸院)の連携に繋がる調査研究です。症例報告や実験とは毛色が違う経営に直結する研究も大切です。どのような立ち位置で活動するかを、教員養成科とはいえ学生のうちから考える。

 

 

顔面部への刺さない鍼刺激が水分量・油分量に与える影響―弾入動作を用いて―

 

今話題の美容鍼ジャンルの研究です。これまでに鍉鍼(ていしん:体に刺さない鍼)の研究はありましたが、主に擦る動作のみ。そこに毫鍼(ごうしん:体に刺す鍼)と同様に弾入動作(鍼の頭を叩くこと)を入れた施術方法で効果を検証しています。水分量・油分量の測定とともにタブレットの画像解析アプリで肌年齢を測定しているところも特徴です。画像解析アプリを使用することで臨床でも活用できる測定方法になります。

 

鍉鍼に敢えて弾入を入れる。これは鍼灸師ならばわかると思いますが、なかなか思いつかない発想で面白いです。鍉鍼に敢えて弾入。しかも顔に。私はやろうとも思わなかった技法で実際にやってみようと思いました。

 

 

 

全体を通して感じたこと。


今年も実りある体験ができました。繰り返し書いていますが養成科の研究発表には流れがあります。先輩たちの研究を踏まえて新たなプロトコル(視点)で継承していきます。また誰が新しい着想で研究を始めて、それを後輩が受け継ぐ。そのような線があります。毎年卒論発表を聴くことで流れが分かる。大きな意味があります。
研究者のバックボーン(職歴や経歴、コネなど)を活用した特殊な研究対象も魅力的です。学会では発表されないようなチャレンジ精神溢れた研究に出会うことができます。

 

毎年、卒論発表会を通して新たな着眼点と出会いがあります。臨床鍼灸師としてスキルアップするための重要なイベントです。

 

甲野 功

 

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