開院時間

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~現場責任者だった頃、新卒鍼灸師がギックリ腰の鍼をして、上手くいかなかった話~

あじさい鍼灸マッサージ治療院院 腰に鍼を刺す様子
腰に鍼を刺す様子(モデルを用いたもの)

 

もうずいぶん前のことです。当時の私は柔道整復師専門学校に通う学生でした。午前中は学校で勉強、午後から鍼灸整骨院で勤務する鍼灸マッサージ師兼学生。その職場は私が鍼灸マッサージ師になり、新卒で就職したところ。職場年数を重ねて本院の副院長になっていました職場は分院がいくつかあるグループ院で、本院の院長はグループ全体のオーナーであり総院長であったため、本院の現場を任されている形でした。その時点で現場に私より先輩はいなくて、スタッフは全員後輩です。役職上は私が一番上の立場でした。

 

その職場では、ある程度の経験を積むと新規の患者さんを任されることになります
新規の患者さんというのは既存の患者さんと異なり初対面で症状がどのようなものか、どのような性格なのか全く分からない状態で対面します。問診や徒手検査を行って患者さんの状況を把握して、施術方針を決める必要があります。そのため新規患者さんを任せられるというのは相当な力量が求められます。電話で予約して訪れるスタイルではない職場でしたから、前情報なしで現れることがほとんどです。そこをどのように対応するかが求められます。 

個人的な意見ですが、新規患者さんをとれるようになったら新人から中堅にステップアップしたと考えています。何を持って新人、中堅というのかは人それぞれだとは思いますが、全く情報がない初対面の方の状態を把握し、同意を得て、施術し、納得させて帰し、継続して来院してもらえるようになったら、術者のレベルはある程度のものであり新人とは言えないと思います。そして新規患者さんの定着率が高くなってどのような症状でも、どのようなタイプの方でもある程度みられるようになったら独立・開業しても平気な水準かと考えています。

 

その職場であるとき、ギックリ腰で来院された新規患者さんがいましたギックリ腰とは急性腰痛の総称で、急激に腰が痛くなって歩行困難になるくらいの症状が出ます。外でギックリ腰を発症した患者さんは整骨院の看板を目にして来院したのだったと思います(その患者さんが事前に電話で確認していたかどうかは定かではありません。かなり忙しい職場だったのでそこまで私は手が回っていませんでした)。ギックリ腰の新規患者さんを後輩のスタッフがみることになりました。そのスタッフは柔道整復師で臨床に出て数年経っていたでしょうか。新規患者さんをとる段階までいっていました。

 

私は他の患者さんをどんどん施術していく状態で、傍目に観察していました。柔道整復師のスタッフはアイシングをして鍼治療をギックリ腰の新規患者さんに勧めていました患者さんはそれで良くなるならと承諾して、鍼治療を受けることにします。柔道整復師のスタッフは私とは別の鍼灸師スタッフに腰の鍼を依頼します。担当する鍼灸師スタッフはその年に学校を卒業して資格を取った新卒鍼灸師でした私は他の患者さんに手がかかっている状態だったのでほんの少し、鍼を行っているところを眺めただけでした。その時点で少々嫌な予感はしていました。その場で口を出す暇も無かったので、そのままにしてしまいました。

鍼を終えてベッドから立ち上がろうとしたギックリ腰の患者さん。腰が抜けたような感じで立ち上がれなくなってしまいました来院したときは腰が痛いながらも自力で歩いてきたのですが、鍼を受けた後は歩けない状態でベッドに手をついて支えていました。しばしその状態で休んだ後にゆっくり歩いて帰っていかれました。傍目に見ても来院したときよりも症状が悪化していました

 

診療時間が終わってミーティングを毎日行います。その院にいる全スタッフが集まって患者さん情報を共有するものです。その場で私は新卒鍼灸師スタッフに「片手挿管をしてみて」と言いました。片手挿管とは鍼の基本技術で鍼管という細い管に、鍼本体を入れてから体に刺すのですが、片手だけで鍼管に鍼を入れることを片手挿管と言います。両手で行えば両手挿管となります。

 

あじさい鍼灸マッサージ治療院院 片手挿管の手順
片手挿管の手順

 

メーカーによっては鍼管と鍼がセットになったタイプがあるのですが、職場では鍼4本にプラスチック製の鍼管一つがセットになったものを使っています。鍼管と鍼がセットになっているものは最初から鍼管に鍼が入っている状態なので片手挿管は必要ありません。職場で使用している鍼は、そのつど鍼を鍼管に入れないと鍼が刺せないようになっています(なお鍼管を使わないで刺す手法もありますが、日本では鍼管を使うことが一般的です)。

新卒鍼灸師スタッフは片手挿管が満足にできませんでした

その姿を見た私は
「(今日いらしたギックリ腰の患者さんについて)鍼を刺すのに時間がかかり過ぎ。ギックリ腰は長時間同じ姿勢でうつ伏せにしていると悪化することがある。」
と話しました。加えて私が片手挿管をやって見せました。

ギックリ腰の方が長時間うつ伏せに寝ているとその体勢自体が負担になって痛みが増すことがあります。そして鍼をすることで良い意味で筋肉が緩み踏ん張りが効かなくなることがあります。今回の場合、おそらく30分はうつ伏せに寝かせていたと記憶しています。それくらいうつ伏せになっていると、一過性ですが、腰痛が悪化することがあるのです。新卒の後輩スタッフが鍼を刺すときの様子を少しだけ見たのですが、背骨の出っ張り(棘突起といいます)を数えてそこから横に移動した場所にツボをとり、両手で鍼を鍼管に入れて、そして刺していました。学校で習う教科書通りの刺し方なのですが、これでは時間がかかり過ぎるのです。
相手は強烈な腰痛で飛び込んできた患者さんです。悠長にやっている暇はないのですツボの取り方(取穴)、鍼を刺したままにする時間(置鍼時間)、そのあとの固定(テーピングなど)など色々と臨床ポイントがあるのですが、そもそも片手挿管ができないと鍼を刺すのに時間がかかって仕方がありません。片手挿管ができれば利き手でないほうで取穴して(ツボをとって)直ぐに鍼を刺すことができます。複数個所刺すとなると両手がふさがれる時間が積み重なって最終的に時間がかかってしまいます。

 

今でもやや後悔しているのですが、このとき私は新卒鍼灸師のスタッフを晒し者にした形です。他の柔道整復師スタッフや受付スタッフ、更に同じように新規で入職した補助スタッフが見ている前で、新卒鍼灸師スタッフが技術的に劣っているところを周知させたわけです

また同じ鍼灸師同士にしか分からない出身校のこともあります。私の母校は東京医療専門学校といい、鍼灸業界では呉竹(くれたけ)の名前で通っています。新卒鍼灸師スタッフの母校は都内にある伝統校で業界内でも有名な実技に力を入れている学校です。座学よりも臨床、という職人気質の学校です。これだけで分かる人は分かる学校です。私の出た呉竹は当時「鍼灸界の東大」と称され、学力重視の校風でした。勉強をしっかりしろ、それだけのことをうちは教える、臨床の実力は独自でつけろ。そういう感じです。私が学生時代のときのある講師は呉竹出身なのですが、他校出身者に「呉竹は頭はいいかもしれないけど、実力はないよね。片手挿管もろくにできないでしょ。」とバカにされて悔しくて教員養成科に進学して技術を磨いたと話していました。対して新卒鍼灸師スタッフの母校は対照的です。国家試験対策などしない、勉強は自分でできるだろう、実力をつけるための実技が大事だ。こういう感じの学校でした。現在は違うようですが。

 

実技習得に力を入れている学校の卒業生が、学問重視の呉竹卒に片手挿管ができないと注意される。しかも午前中は柔道整復師に学校に通っている二足の草鞋を履く人(私)に。いくら先輩で役職が上だとしても相当嫌なことだったと思います。これは同じ技術を糧にしている鍼灸師同士だから、特にそう推測しています。極めつけは新卒と言っても私より年上で、他の社会経験がある方でした。年下にあんなことをされるのはきつかっただろうな、と今でも思い返します。

 

断っておきますが、この新卒鍼灸師スタッフに鍼灸技術が無かったわけではありません灸術において艾(もぐさ)を捻るやり方があるのですが、私では足元にも及ばないくらい上手でした。むしろその当時に初めてみる技法を用いており、私の方がそのようなやり方があるのか、と感心しました。鍼においても接触鍼という鍼先を皮膚に当てるだけで刺さない技法があるのですが、その技術もとても高かったです。おそらく慢性疾患、内臓疾患の臨床技術を中心に学んできたのでしょう。
また個人的にこのスタッフが嫌いだったわけでもありません。職場外で食事に行ったり、私が個人的に企画した(つまり職場主催ではなく任意の)旅行にも二度行ったりしました。皆の前で恥をかかせてやろうという気持ちは微塵もなかったです。

 

今の私だったら個別に注意するかもしれません。

鍼をするのに時間がかかったことが問題

ギックリ腰は長時間うつ伏せにしておかない方が好ましい

このように他のスタッフが見ていないところでやったかもしれません。
ですが、新卒鍼灸師スタッフに相当なダメージを与えることを分かった上で全体ミーティングにおいて、敢えてできないことを分かったうえで片手挿管をさせたことには意図があります

 

まずは技術が劣ることで患者さんに不利益を与えたことを肝に銘じてもらいたかったこと鍼にせよ、灸にせよ、基本は侵害刺激といって体に害のあることをします。それ以上に効果があると判断されているから特別に許されている施術方法です。人に鍼灸を行うために最低3年間学校で学び、厚生労働省の試験をパスする必要があるのです。痛くて苦しんできた患者さんに鍼をして、悪化させて(好転反応といって一過性に悪化することがあります。その後急激に良くなることがあると予想できるにしても)しまうことはあってはならないことです。まして料金を頂いているプロですから。鍼を刺すのに時間がかかる、その原因に片手挿管があるのだから、そこはきちんとやってもらうというよ、ということ。ミーティング時に全員の前で見せることで、もう学生ではない、現場に出ているのだよ、という気持ちを持ってもらう目的がありました。

 

次に買いかぶりを無くすため、情報共有のため
別のエピソードになりますが、今回のギックリ腰の新規患者さんをとった柔道整復師スタッフがまだその職場に入ったばかりの頃。同じようにギックリ腰の新規患者さんが来たことがありました。そのときは私が対応し、初診から鍼、テーピングまで行いました。大柄な男性が脂汗を垂らしながらやってきて、処置が終わった後は少し楽になったかもといって帰路につきました。翌日、その患者さんはスタスタと歩いて来院し、随分よくなりましたよ、と語りました。その様子をみた柔道整復師スタッフは「鍼ってこんなに効果が出せるんだ」と驚いていました。このエピソードは単なる私の自慢であると同時に、鍼灸のことがよく分からない新卒柔道整復師に「鍼灸師の神秘性」を植え付けてしまったことでもあるのです。
柔道整復師が学ぶ常識や知識に、患部に細い鍼を刺すと治癒能力が上がる、などというものは一切ありません。RICE処置が基本です。外傷の知識を深く学びますが、施術に関しては整復と固定がほとんどです。その人にっとては鍼施術が魔法のように見えたかもしれません。そこで今回も柔道整復師スタッフは「ギックリ腰には鍼で良くなる」と意識に埋め込まれた可能性が高く、鍼のことをよく知らないまま「ギックリ腰だから鍼を(経験があるかどうかは関係なく鍼灸師に)お願いすればいいだろう」となったのかもしれません。


当たり前のことですが、国家資格を取ったから何でもこなせることなどありません。私もこれまでに何度もギックリ腰の症例をみてきたからこそできるわけです。新卒の頃はまだ現場に出ていた院長や先輩鍼灸師のやり方を見て、教わって習得したものです。柔道整復師から見たら同じ免許を持っている鍼灸師かもしれませんが、実務経験の差があるのです

 これが反対に柔道整復師になったから、骨折・脱臼なんでもできると鍼灸師側が思ってしまうのも危険です。鍼灸師は外傷の知識が柔道整復師に比べれば疎いため、急性外傷がきたら柔道整復師に任せてしまうという感じが職場にありました。とうの私がそう考えていて、新卒の頃に外傷は全部柔道整復師に任せていたところを「もう少し自分で考えろ」と院長に言われ、柔道整復師専門学校に通うきっかけの一つになったものです。

 

このように専門外のことはその専門家に任せればいいというのは間違っていないのですが、必ずしもできるとは限らないことを全員に周知してもらいたかったのです。受付スタッフは医療系の知識はほとんどありませんから、先生方が全てやってくれるだろうと思っています。鍼灸師に対する柔道整復師の気持ちも、柔道整復師に対する鍼灸師の気持ちも同じでしょう。しかし個々の差があるので万能ではない。認識不足が患者さんに不利益を被らせることになるよ、と知ってもらいたかったのです。それは私自身もそうです。新卒鍼灸師スタッフはあの学校を出ているのだから臨床能力は高いはず、という思い込みがありました。実際に艾を捻るとか接触鍼の技術は私より上だろうと思ったので任せても安心だろうと考えていました。
ギックリ腰の対処法を事前に教えておかないお前が悪いだろう、という気持ちがスタッフにはあったと思います。新卒鍼灸師スタッフの技術が拙いと分かった時点で止めてお前が代わりにすれば良かったのでしょう、と反論したかったスタッフもいたかもしれません。じゃんけんの後出しのように、終わったあとで見せしめのように注意するのはずるいことかもしれません。まさにその通りであり、私も認識が甘かったです


何でも口出ししてしまうと経験が積めないという気持ちもあったのですが、ギックリ腰に対応できるか確認しなかったことは問題です。片手挿管についても。同じ職場のスタッフ同士で認識が甘いことで患者さんに悪いことをしてしまったと反省しました。

 

最後に大切なことは責任が分散することの懸念です
ギックリ腰の新規患者さんを担当したのは柔道整復師スタッフです。職場の方針上、全権がこのスタッフにあります。新卒鍼灸師スタッフは依頼されて鍼をしました。この場合、柔道整復師スタッフには鍼を依頼しただけで実際に鍼を刺していないため当事者意識が軽減されます。鍼をした新卒鍼灸師スタッフは頼まれてやったわけで、責任は柔道整復師スタッフにあると思いがちです。更にその現場の責任者は私でした。そこでのトラブル全般は私に責任があるのですが、ギックリ腰の新規患者さんとはほとんど接していません。他の患者さんで手一杯でした。

もう、誰が悪いのかという話ではないのですが、当事者としてしっかりと患者さんに最善を尽くせたのか?という問いが希薄なると思いました。チームワークはいいのですが、責任を他人に転嫁してしまうと良くないと。全員で共有しておきたかったのです。柔道整復師スタッフと新卒鍼灸師スタッフは仲が良かったです。少ならからずミーティングで新卒鍼灸師スタッフが片手挿管ができないと白日の下に晒されている姿にはいい気持ちはしなかったことでしょう。恥をかかせてしまったなと思ったのではないでしょうか。あのことから互いに意見交換をしてどこまで任せられるか話し合ってくれればいいなと私は思っていました。もう10年近く前の出来事ですが印象深く残っています。

 

後日談ですが、その後新卒鍼灸師スタッフは凄く練習していると受付スタッフから報告を受けました。もともと実技を徹底的にやる学校出身ですから腐らずに努力をしていたようです。平日の午前中は現場にいなかったので受付スタッフからの報告に安心しました。柔道整復師スタッフはその後鍼灸専門学校に通い卒業。柔道整復師に加えて鍼灸師にもなっています。

 

私は人を育てることは自身が成長することよりも遥かに難しいと感じ、一人治療院を開業することを選択し、今に至ります。私自身にも大きな学びの出来事でした。当時30代前半。若かったなと思い返します。

 

甲野 功

 

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